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雑誌目次

雑誌文献

病院68巻5号

2009年05月発行

雑誌目次

特集 産業は病院市場をどう見るか

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.369 - P.369

 時代の潮目が変わってきた.莫大なエネルギーとそれによって稼働する機械力を投入し,そして日々怠ることのないカイゼンの努力の結果で労働生産性を向上させてきた製造業は,それによって生産した内需をはるかに凌駕する大量の物品を外国に販売して利益を得てきた.自動車しかり,薄型テレビしかりである.その外需のバブルがしぼんだ時,その高い生産性を維持するためには工場を閉鎖し,雇用を切り捨てざるを得ない状況に陥っているのである.

 これに対して「生産性が低い」と言われてきたサービス産業,その中でも最も労働集約型とも言えるわが医療や介護・福祉の分野……日本人による日本人への内需サービスであり,しかも莫大なエネルギーや機械力を使用しない,極めて環境効率性のよい分野だったのかもしれない.外需から内需,労働生産性から環境効率性へと,これからパラダイムシフトがわが国,いや世界に起こりつつあるようである.

近年における病院業の見方―国内有数の事業規模となった病院業とそれを取り巻く産業

著者: 西田在賢

ページ範囲:P.370 - P.373

 このたびの特集の巻頭で,産業は病院市場をどう見るかという,たいへん漠とした表現で病院に関わる産業についての概説を求められた.

 一概に病院の関連産業や周辺産業といっても様々であり,サービス業もあれば製造業もあり,それらの幾つかを取り上げて,病院事業との関わりを述べたところで総括とはならい.また,経済学で研究される産業連関表(Input Output Table)を用いた分析は,素材産業に始まり,どの産業からどれだけ原料等を入手し,賃金等を払っているか,そしてどの産業に向けて製品を販売しているかといった,投入と産出の壮大な関わりを説明するものであるが,その関連研究を紹介してもおおよそ本誌のテーマへの説明にはならず,正直,頭を抱えた.

医療機器産業の現状と経済産業省の医療機器産業政策

著者: 増永明

ページ範囲:P.374 - P.377

 高齢化が進むわが国において,医療機器産業は国民の医療や健康を支える重要な役割を担っているとともに,今後の日本の成長を支えるリーディング産業として,経済の牽引役となることが期待されている.本稿では,この医療機器産業の現状および経済産業省が取り組む医療機器産業施策の概要を紹介する.

医療関連産業の経営状況

著者: 遠藤邦夫

ページ範囲:P.378 - P.384

 今,多くの病院は経営状態が悪化の一途をたどっている.それは,度重なる診療報酬のマイナス改定,医療制度改革,国の地方自治体への財政支援見直しなどの影響を受け,疲弊の度合いが高まっているからである.さらに,このような状況下にあって病院間の経営格差が拡大している.早い段階に自院の進むべき方向性を決め,基礎的基盤整備の努力を行ってきたところは,赤字経営に陥る病院とは対象的に一定の収益を確保できる体制を持続している.

 また,厚生労働省は数年前から診療報酬改定時に「医療の質の向上」ということを掲げるようになった.医療の場合,「医療の質の向上」ということは新たに費用が発生することがあり,潤沢な資金を持ち合わせていない病院にとって,頭の痛い問題となっている.特にIT化の波は病院にも押し寄せており,経営状態が厳しい状況下でのIT投資は病院経営者にとって頭の痛い問題である.しかもこの投資は,「医療の質の向上」に結びつく面も多々あることから,いつまでも投資を控えることができにくい状況となっている.

医療情報産業の現状と今後

著者: 西原栄太郎

ページ範囲:P.385 - P.389

 少子高齢化社会を迎え,医療費の膨張を抑えながら,質が高く効率的な医療を,しかも地域によらず提供できる医療サービス体制が必要になっている.将来にわたり,その医療サービスを持続するには,医療従事者,医療施設,予算などの医療資源の有効活用を図り「プロセスの効率化」を行うこと,また国民が自らの健康状態を知り,管理するための「情報の透明性」が重要であり,情報技術(IT)はその達成のための重要な手段と考えられている.

 一方,「経済財政改革 基本方針2008(いわゆる骨太方針)」の中では,医療情報システム産業は「成長力の強化」のための生活直結型産業とされ,日本経済の牽引を期待されており,現在のような,金融危機,経済危機の状況ではさらに期待が大きくなっている.

病院の資金調達の課題と多様化の必要性

著者: 村山浩

ページ範囲:P.390 - P.393

■急拡大する病院の資金需要

 病院の7~8割が赤字であるといわれるが,高齢化の進展と医療技術の進歩等によって現在34兆円の医療市場と7兆円の介護市場は今後も拡大を続け,高齢化のピークを迎える2025年には合わせて100兆円になるとも言われている.医療や介護は病棟,施設,医療機器等大がかりな設備投資が不可欠なため,今後市場の拡大に合わせて資金需要も拡大していくことは確実である.ただし,これからは経営状態が良く,財務内容の開示と将来の事業計画の健全性が示せる病院のみが資金調達ができるという状況になるであろう.

 急性期の病院はDPCの導入と平均在院日数の短縮を図り,平均入院単価と患者数は増加するが,患者ニーズに合った治療行為を提供できない病院は現状の診療報酬では採算が合わずに淘汰される側に入る可能性がある.これから数年は所謂「勝ち組」と「負け組」がはっきりとし,病院の統廃合が加速,約9,000の病院は6,000程度まで減少し,勝ち組となった病院にはさらに多くの医師が集まり,先進医療機器への投資や病棟拡張といった拡大のための資金需要が出てくる.さらには地域の中小病院や公的な病院を救済合併するM&Aのための資金調達も必要になると予想される.一方,急性期病院の旗を降ろし後方病院として療養型か介護施設への転換を果たす病院も一定数増加し,食堂,入浴設備,リハビリ機能の充実といった設備の増改築に対する資金ニーズも増加すると思われる.

医療紛争を巡る状況と損害保険

著者: 松尾佑樹

ページ範囲:P.394 - P.396

 損害保険とは,偶然な事故によって生じた損害を塡補する商品である.病院を取り巻くリスクとこれに対応する損害保険として,火災などによる病院建物の滅失を塡補する「火災保険」,医療機械の滅失を塡補する「機械保険」などがあるが,対象とするリスクの性質からして病院に関する損害保険を論ずるうえで中でも重要なのが,病院が第三者に対して賠償責任を負担することによって被る損害を塡補する「病院賠償責任保険」である.

 「病院賠償責任保険」とは,医療業務により発生した患者の身体障害について負担する賠償責任を対象とする「医師賠償責任保険」と,医療業務以外の業務や建物・設備の管理の不備などにより発生した他人の身体障害・財物損壊について負担する賠償責任を対象とする「医療施設賠償責任保険」から構成される.このうち病院固有のリスクを塡補する前者について,対象とするリスクの状況・性質,商品の内容を解説することとしたい.

【事例―拡がる医療関連産業】

医療機器の保守アウトソーシング事業

著者: 北浦克俊

ページ範囲:P.397 - P.399

 医療機器の保守事業というと,一般的には個別の高額機器について当該メーカーが病院と保守契約を締結する事例を指すことが多い.またME機器を中央管理し,保守点検・修理業務を行うMEセンターの外部委託もビジネスとして存在している.しかし病院側では医療機器の保守および修理費用総額(以下,維持管理費用という)が経営を圧迫している点に大きな問題点を抱えている.本稿では,維持管理費用面で課題を持つ病院へのソリューション提供というビジネスに関し,現状,事業機会とリスク,市場性等について述べる.

人材確保への情報発信―医師確保のためのブランディング支援

著者: 神谷健一

ページ範囲:P.400 - P.401

 単なる人数の確保ではなく,「病院の経営戦略に沿った医師を選ぶ」こと,これが本来のあるべき姿である.しかし現実には,補充するだけでも精一杯の状況だ.

 筆者は人材確保に主眼を置いた医療機関の「ブランディング」支援を2007年10月より開始し,目覚しい成果を上げている.本稿ではその考え方を一部紹介する.

熱量削減コンサルタント(ESCO)事業

著者: 増田貴司

ページ範囲:P.402 - P.404

■ESCO事業とは

 病院関係者の方で,最近ESCO事業ということばを聞いた方も多いと思われる.ESCO事業は,通常の省エネルギー設備・機器の販売,設計・施工とは異なり,省エネルギーに関する包括的なサービスを提供し,顧客の利益と地球環境の保全に貢献するビジネスで,省エネルギー効果の保証等により,顧客の省エネルギー効果の一部を報酬として受け取るものである.ESCO事業者の提供するサービスは,以下のサービスの組み合わせで構成される.
①エネルギー診断に基づく省エネルギー提案
②提案実施のための省エネルギー設計および施工
③導入設備の保守・運転管理
④エネルギー供給に関するサービス
⑤事業資金のアレンジ
⑥省エネルギー効果の保証
⑦省エネルギー効果の計測と徹底した検証
⑧計測・検証に基づく改善提案

 ESCO事業は,1970年代米国で登場し,わが国では1990年代後半に開始された.特に,京都議定書で定められたわが国の温室効果ガス削減目標達成に向けて,ESCO事業は,業務部門,産業部門における省エネルギー対策の推進手段として注目されている新しい事業形態である.

グラフ

病院の地震対策に向けて―E-ディフェンスを用いた震動実験

ページ範囲:P.357 - P.360

大地震が起きた時,病院は機能を保持できるか? 2008年12月と2009年1月,病院を模した4階建て鉄筋コンクリート造りの試験体に地震動を加える実験が行われた.


 兵庫県三木市の(独)防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センターにある世界最大の実大三次元震動破壊実験施設,通称「E-ディフェンス」を用いた実験.文部科学省が2007年度から5か年計画で始めた「首都直下地震防災・減災特別プロジェクト」の一環だ.防災科学技術研究所が中心となり,国立保健医療科学院,東京農工大学と連携し,医療機関,建設関連会社,医療・情報通信機器メーカー等の協力を得て研究を進めている.

連載 ロボット技術と医療・介護・福祉・4

食事支援ロボット「マイスプーン」

著者: 石井純夫

ページ範囲:P.362 - P.363

食事支援ロボットとは

 2002年4月より,セコムでは日本初の食事支援ロボットの発売を開始した.使用者のジョイスティック操作に従って,ロボットのアームが食卓上の食物を口元へ運ぶ作業を行う.操作の原理は,ゲームセンターのクレーンゲームに近く,初めての人でも親しみを持って使っていただいている.このロボットにより,好きな時間に自分のペースで食事をすることが可能になる.その機能をよく表す名前として「マイスプーン」と名付けた.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・33

発達障害児支援におけるMSWの働き

著者: 平原成美

ページ範囲:P.412 - P.416

 当院では発達障害を専門とする小児科医が非常勤で診察を行っている.そのため,近隣地域から多くの子どもが受診に訪れ,それに連動してリハビリテーション科(以下,リハビリ)では小児リハビリ専門のスタッフを配置し,発達障害の子どもなどに対する支援に取り組んでいる.医療ソーシャルワーカー(MSW)への介入依頼は作業療法士(OT)から寄せられることが多く,制度の紹介や環境調整がその主たる内容である.その支援は,子どもへの直接支援ではなく,親への支援や療育環境の調整が中心となっている.

図説 日本の社会保障 医療・年金・生活保護・5

国民医療費の現況

著者: 泉孝英

ページ範囲:P.418 - P.419

■医療費と国民医療費

 わが国で「医療費」問題が議論される際の医療費は,多くの場合「国民医療費」としての金額である.しかし,この数字は公的保険制度や公費医療制度が給付する傷病の治療費(自己負担を含む)だけの金額である.簡単に言えば,診療報酬として医療関係機関に支払われる金額だけの数字である.

病院管理フォーラム ■医療安全:Try Top Management First!・2

トップマネジメントの苦情・クレーム戦略―発生後の対応から未然防止対応へ

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.420 - P.422

 医療機関の管理者にとって苦情・クレームは,その対応を誤れば大きなダメージを受ける可能性があり,適切な対応が求められている.本稿では病院の戦略マネジメントの一環として,発生した苦情・クレームへの対応から“苦情・クレーム未然防止対応”への転換と,そこでトップマネジメントが発揮すべきリーダーシップに関して言及する.

■患者満足

患者のチカラを引き出す五感ホスピタリティー

著者: 池田吉成

ページ範囲:P.423 - P.425

●患者満足の2つの効用

 医療においても患者満足(CS)が必要だと考える医療機関は多い.医療はサービス業である,という言葉も聞かれるほどである.このような考え方は,半ば常識的ともなっているが,ここであえて基本的な問いをしてみたい.皆さんは,なぜ患者満足が必要と思われるのであろうか.

 私の答えは,組織へのロイヤルティ(忠誠心)と自分自身へのモチベーションという2つの要素を上げるため,というものである.わかりやすい事例として,職員満足(ES)を使って考えてみよう.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・20

「ファミリークリニック」って何?~表記による市民の混乱~

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.426 - P.427

カルチャーショック

 本屋さんで1冊の雑誌を買った.その雑誌は「家庭医」について特集を組んでおり,本屋さんの店頭に山のように積み上げられていた.「何だろうか」と野次馬的に手にとった.単純な話である.そしてページをめくったら,知り合いのお医者さんが写真入りで載っていた.「アッ,あの先生が記事になっている」と衝動買い.これまた,単純な話である.

 しかし,単純だったのはそこまで.読むほどに,家庭医とはなんなのかがわからなくなる.というのは,そこに紹介されている「家庭医リスト」をめくるなり,「○○産婦人科クリニック」という名前が目に入ったからだ.「なんで産婦人科医が家庭医?」.そもそもそこが,混乱の始まり.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第172回

北海道立子ども総合医療・療育センター

著者: 福田昭一

ページ範囲:P.430 - P.434

 北海道は,小児医療や障害児療育を総合的に進めるため,「道立小児総合保健センター」と「道立札幌肢体不自由児総合療育センター」を一体的に統合整備し,全道域を対象とした高度で専門的な「小児医療機能」と道央・道南地域の「小児療育機能」の充実を図るとともに,「こども」たちの成長・発達および回復を家族も含めて支えることができる環境づくりを求めて,「北海道立子ども総合医療・療育センター」を構想した.私たちはこの構想を受け,以下の基本理念および基本方針を基に,施設設計を行った.

リレーエッセイ 医療の現場から

趣味の世界,初代から2代目,そして難関の3代目へ

著者: 安田朗雄

ページ範囲:P.435 - P.435

 私は昆虫採集を趣味としています.親子2代で同じ趣味の方は見かけますが,3代目となると稀のようです.

 私の父は函館生まれで,中学の頃に昆虫採集に目覚め,高等学校ではアルプスでの虫採りをもくろみ,松本高等学校に行こうとしましたが,「山で死なれては困る」と親に反対されたため「山のない静岡に行く」と偽って,静岡高等学校へと進学しました.山岳部に入ってアルプスで昆虫採集を楽しみ,戦時中に名古屋大学医学部へ進学しました.しかし,熱帯での昆虫採集の夢が膨らみ,南方戦線志願で海軍に入隊したものの,内地勤務で終戦を迎えました.

研究と報告【投稿】

『努力-報酬不均衡モデル』を用いた地方自治体病院における医師と看護師の職業性ストレス評価

著者: 山田茂樹 ,   柴野昌子 ,   宮下孝子 ,   吉田博子 ,   小田裕美子 ,   曽村利子 ,   林めぐみ ,   村田昌弥 ,   沼波輝 ,   寺島剛 ,   武田晋作

ページ範囲:P.406 - P.411

要旨 病院の労働環境を評価・改善するため,『日本語版 努力-報酬不均衡モデル職業性ストレス調査票』を参考にアンケート調査を実施した.当院の全職員706人にアンケートを配布し,632人から回答を得た(回収率:92%).努力-報酬不均衡モデルによる日本人労働者約2万人の集計結果を基準に「仕事ストレス」=1.7×(努力・報酬得点比-0.56)+1.0を設定した.正職員504人(仕事ストレス=1.44)とパートタイム職員121人(仕事ストレス=0.99)の間には明らかな差が認められた.正職員では看護師の仕事ストレスが1.61と突出して高く,特に36歳以上の看護師で1.70と高いストレスを示した.36歳以上の看護師は,本来の業務と異なる余分な仕事が多くなり,過去数年で仕事の負担が増えてきたことでストレスを感じる割合が高く,看護業務の見直しを行うことでストレスが軽減される可能性が示唆された.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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