icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院68巻6号

2009年06月発行

雑誌目次

特集 医療IT化の行方

巻頭言

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.449 - P.449

 医療分野におけるIT化については,もう何年も議論されてきた.電子カルテ,社会保障カード,オンラインレセプト,DPCデータ等々,様々な場面でその必要性が認められている.

 本来,医療分野のIT化は,保健・福祉分野など社会保障全体と連動することで大きな力を発揮するはずである.しかし,安全なデータ管理や統一コード・排出形式の設定がなければ,一元化は困難である.このためには,社会保障における国家的戦略として推し進める以外に方法はない.現状は政策が細切れなため,全体的なIT化の柱が見えないのは,私だけであろうか.

医療IT化 世界の潮流と日本の現状

著者: 長谷川英重

ページ範囲:P.450 - P.454

 少子高齢化社会を迎えた日本において,GDPの1.5倍以上で増加している医療費(OECD発表)を調整し,より安全で質の高い医療サービスを提供することが課題となっている.特に最近は,100年に1度とも言われる経済危機への対応などを背景に大変厳しい状況にあり,慎重かつ大胆な変革が求められ,医療サービス提供の経営管理に携わる人の重要性は増している.

 こうした事態を解決するために,医療分野へのインターネットをベースとしたITの本格的な適用,すなわち医療IT化に多くの期待が寄せられている.しかし,この10年の結果を見ると,医療情報を本格的に利活用するには医療提供者の努力のみでは限界があり,国のリードや多くの関係者による協働が必要であることが明らかになってきた.

レセプトオンライン化の現状と課題

著者: 開原成允

ページ範囲:P.455 - P.459

 本稿は,レセプトオンライン化について述べるものであるが,それを理解するためには,レセプトオンライン化の周辺問題についても触れる必要がある.周辺の問題とは,次のようなものである.

 第一に,レセプトオンライン化は医療機関の問題として捉えられることが多いが,これは「診療報酬請求システム」に関わる問題である.

社会保障カードと国民電子私書箱構想

著者: 大山永昭

ページ範囲:P.460 - P.465

 社会保障カードは,平成19年7月に出された政府・与党合意により公表された構想において,年金手帳,健康保険証,介護保険証を兼ねるカードとして,平成23年度を目途に発行するとされている.これを受けて厚生労働省は,平成19年8月に社会保障カード室を新設し,平成19年9月から社会保障カード(仮称)検討会を開催して,その実現手段等に関する検討を開始した.そしてこの検討会は,平成20年1月と10月に中間報告1,2)を公表し,社会保障カードの基本的な考え方と様々な仮定を設けたうえでの運用案等を示した.現在は,第3回目の中間とりまとめ作業を引き続き行っている.

 一方,内閣官房では,機微な個人情報を電子的に本人に提供し,本人の意思で利活用できる仕掛けとなる電子私書箱と,引越し手続き等をワンストップで実現する次世代電子行政サービスの実現方策等を検討している.これらの取り組みは,社会保障カードの実用システムの最適化に大きく影響することが予想されるため,従来から相互に連携を図って推進することが肝要とされてきた.そのため,社会保障サービスでの利用を想定してきた電子私書箱(仮称)の利用を,次世代電子行政サービスに拡張することとなり,名前も国民電子私書箱(仮称)に変更された.

DPCからみた医療IT化

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.467 - P.471

 日本は医療のIT化が遅れていると批判されて久しい.そして,これを解決するために「電子カルテの一般化が必要である」と主張され,実行されてきた.これは正しい主張であったのだろうか.何のために情報が必要なのかと言えば,業務の効率化,情報の後利用によるマネジメントや医療の質の改善のためである.わが国の現在の電子カルテの状況はこの視点から見た時に,本当に望ましい形になっているだろうか.

 個々の医療機関において,電子カルテ化に大きな効果があったことは筆者も認めている.医療職間で患者記録が電子的に共有されることで,業務の効率性と安全性は飛躍的に向上した.しかしながら,異なる施設間の情報の共有という点ではどうであろうか.標準仕様がない状態で,それぞれの病院がそれぞれのベンダーとの関係の中で独自のシステムを作ってしまったために,社会全体で見るとコストが高く,そして互換性のない情報システムが日本中に広まってしまったのではないだろうか.社会の情報インフラという視点が,わが国の電子カルテ事業には決定的に欠けている注)

診療情報管理士からみた医療IT化

著者: 阿南誠

ページ範囲:P.472 - P.476

 当初,医療のIT化は,診療報酬請求業務を主体とした事務的作業の負担軽減を目的として導入された.筆者は25年ほど前から複数の病院で病院情報システムの導入に関わってきたが,ここでは「診療情報管理士」の視点から,医療のIT化について述べてみたい.

 医療におけるIT化は遅れていると言われて久しいが,その指摘の多くは,他の産業のある一面との比較であり,医療の特性や患者という存在を忘れたものであることが多いと感じている.

診療情報IT化の可能性

著者: 神野正博

ページ範囲:P.478 - P.481

■はじめに―潮目は変わった

 日本の産業は極めて生産性が高かった.それゆえ,豊富なエネルギーを利用し,少ない人数で高品質なものを大量に生産可能であった.その生産性は内需を凌駕し,余剰に生産された物品は安い価格で国際市場へ流出していった.この外需に依存した日本の産業構造は,アメリカなどでバブルが萎んだことにより,たちまちその市場を失った.市場が少なくなれば,生産調整が必要となり,「派遣切り」という言葉で代表される雇用不安を生んだのであった.

 一方,サービスの生産性が低いとされてきた医療・介護産業は,人が人に手をかけるといった極めて労働生産性の低い産業であったのだ.しかし,日本人が日本人にサービスを提供して収入を得るといった内需中心であり,かつまた膨大なエネルギーを消費しない,環境にやさしい産業でもあったのである.

 国は外需重視の姿勢から,雇用の創出と同時に国民生活の安心・安全にかかわる健康長寿を成長戦略の重要な部門の位置づけようとしている1).従来,国にとってコストであった医療・介護などの健康分野を産業として振興させようという潮流が生まれつつあるのである.

 ならば,この機こそ医療・介護のサービス提供体制そのもの,そしてその周辺分野で新しいイノベーションを起こすチャンスが到来したと心得たい.世界一の速さで未曾有の高齢化が進む日本だからこそ,われわれは新しい仕組みを作って内需を刺激するという気概を持ちたいものである.そこでは,新薬・新医療機器研究開発,生活支援機器(介護ロボットなど)開発・実用化などとともに,IT技術の新たな可能性を探っていく必要性があるのである.

ORCA(日医標準レセプトソフト)の現状と今後

著者: 秋元宏

ページ範囲:P.482 - P.484

■ORCAプロジェクト

 これまで,各種ビジネス業界におけるIT化の深耕は,顧客情報を管理するデータベース化とともに進んできた.医療機関においては,レセプトを作成するためのコンピュータ(以下,レセコン)へ患者氏名・連絡先などのデータベースの根幹となるデータを必須条件として入力している.このレセコンを中心として,さらにデータベース機およびネットワーク端末化することでIT化を進めることが得策であり,今後は,病診・診診・介護との連携,予約・受付・管理機能,保険確認,電子請求,電子決済,院内他の機器との接続等々,医療現場のあらゆる場面で押し寄せてくるIT化の波に,レセプトを作成するために入力したデータを可能な限り活用して対応するべきであろう.

 このような背景の下,日本医師会(以下,日医)では2001年に「日医IT化宣言」を発し,ORCAプロジェクトを日本医師会総合政策研究機構(以下,日医総研)で立ち上げ,公開ソフトウェア(オープンソース)方式のレセコン用ソフト「日医標準レセプトソフト(以下,日レセ)」を,2002年より開発・公開してきた.ORCAとは,Online Receipt Computer Advantage(進化型オンラインレセプトコンピュータ)の略であり,日医による日医会員のためのレセコンソフトを指向したものである.日医からの提供は,データベース機能およびネットワーク化へ対応しているレセコンソフトのみである.PCやプリンタなどの機器の調達を含めた導入サポートおよび保守・メンテナンスは,ORCA販売をビジネスとする「日医IT認定サポート事業所」を中心に行われており,日医としては推薦業者を選定する認定制度を運営している.2002年当初はまだ生まれたての状態で使い勝手に難があるレベルであったが,「要望」という指摘受付制度で常に会員ユーザの様々な声を反映し,プログラムの修正,機能の追加,地域の医療費助成制度への対応,など進化が続けられてきた.その結果,開発・サポートサイドともに短期間のうちに能力アップを実現し,現在ではメーカー製のレセコンに引けをとらない仕様となっている.

病院情報システム構築の現状と問題点

著者: 飯田修平

ページ範囲:P.485 - P.487

 情報技術(IT)の進歩により,産業構造,社会構造が変わりつつある.ITの有効活用が競争に生き残る重要な要素である.医療においても,適切な病院情報システム(Hospital Information System : HIS)を構築することにより,医療情報の電子化,医療の成果測定,質確保,経営の効率化が期待される.しかし,情報およびITを活用するというよりも,「情報に踊らされ」,あるいは「情報機器に使われている」のが実態である.病院における情報システム構築は,必ずしも満足できる状況にはない.

韓国医療ITの今

著者: ファン

ページ範囲:P.488 - P.491

■slip-lessからfilm-less,そしてpaper-lessへ

 1980年代末から1990年代前半にかけてパソコンの使用が一般化し,パソコンを利用した情報化が産業界で“加速度”的に広まった.病院の場合も例外ではなく,会計と保険請求の分野で情報化がなされた.その後,1994年マイクロソフト社のウィンドウズ出現で使用環境が革新的に改善し,インターネットがポピュラーとなり,ネットワークの概念が新たに成立した.このようなITの発展を通し,サービス産業の情報化プロセスにさらなる拍車がかかった.病院においては,会計と医療保険分野の情報化によって処方箋の情報化が進み,病院の処方箋を無くす,すなわち「slip-less」の時代が始まった.

 それから,本格的な病院情報システム(Hospital Information System, HIS)の時代が到来した.その中で,政府は1999年11月に,放射線検査画像フィルムのデジタル化へのインセンティブとなるエポックメーキングな政策誘導を実施した.それはFULL PACS(医用画像管理システム,Picture Achieving and Communication System)の保険点数請求の承認である.病院のフィルムシステムを“全て”PACSに変えた場合,フィルムの場合よりも保険点数が高く設定され,病院のPACS化へのインセンティブとなった.これにより大部分の病院でPACS導入が加速化し,「slip-less」に引き続き「film-less」の時代に進展した.PACSの導入は病院情報システムにとって「slip-less」と並ぶ重要な柱となり,情報化による利便性と有効性について,経営者はもちろん現場の医療従事者も切実に認識するきっかけともなった.

グラフ

情報システム統合で緊密な医療ネットワークを構築―THE CATHOLIC UNIVERSITY OF KOREA Seoul St. Mary's Hospital 韓国 カトリック大学校ソウル聖母病院

ページ範囲:P.437 - P.441

 1936年にソウルで医療スタッフ15人,24床の聖母病院から始まったカトリック中央医療院(CMC)は,現在では,カトリック大学校医科大学・看護大学をはじめ8つの付属病院,6つの研究院を持つ.

 その中核を担う江南聖母病院(828床)が,地上22階・地下6階の巨大な新病院「ソウル聖母病院」(1,200床)として生まれ変わった.がん・心臓・眼・臓器移植等を中心とする11の専門診療センターと43の診療科を持ち,最先端の医療を提供する.新病院は大学校に隣接し,同敷地内の旧病院建物をリフォーム後には,2,000床規模の診療・教育・研究・産学協力等を行うメディカルサイエンスコンプレックスとなる予定である.

連載 ロボット技術と医療・介護・福祉・5

受付ロボット「フレア」,案内ロボット「ニコット」「ナビィー」

著者: 株式会社テムザック

ページ範囲:P.442 - P.443

 当社は「人に役立つロボット」をコンセプトに,レスキューロボット,警備ロボット,留守番ロボットなど様々なロボットを開発・製造・販売しているロボット専業メーカーである.

 2006年4月,当社に,福島県の財団法人温知会会津中央病院より「病院内に受付・案内ロボットの導入を検討している」との問い合わせがあった.そこから会津中央病院オリジナルロボットの開発が始まった.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・34

地域連携でのMSWの役割

著者: 加来克幸

ページ範囲:P.493 - P.497

 医療連携の体制には,普遍化できる部分と地域の事情,連携する互いの組織や機関・職種の要望などにより異なる部分があるが,熊本では,2006年より大腿骨頸部骨折の地域連携パス,2007年より脳卒中地域連携パスが運用されている.医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)も,急性期病院,回復期,維持期を担う医療連携や在宅・施設サービス機関などシームレスな連携体制への構築に携わってきており,患者・家族が主体的にサービスや療養の場を選択し,支援できるように関わるべきである.そこで,熊本における地域完結型診療体制の経緯を,筆者の所属する医療法人内でのMSWの役割やその関わりを通して報告する.

広がる院内助産所・助産師外来・1【新連載】

助産師外来・院内助産所の普及に向けて

著者: 厚生労働省 医政局 看護課

ページ範囲:P.499 - P.502

 近年,医師不足,特に産科医師や小児科医師の不足の問題や,分娩施設の減少が大きな社会問題となっている.これを受けて,厚生労働省(以下,厚労省)では医師不足対策や医師の負担軽減策を行っており,その流れの中で,助産師本来の役割を改めて見直し,助産師が持つ能力を活用することが,安全・安心なお産の場の確保につながるのではないかとの考えから,いくつかの先駆的施設で行われていた助産師外来や院内助産所の取り組みに着目した.

 平成20年度からは,助産師外来や院内助産所の開設促進を目的とした「院内助産所・助産師外来施設・設備整備事業」および,これらの開設をしようとする医療関係者に対する研修を行う「院内助産所・助産師外来開設のための助産師等研修事業」を創設したところである.

図説 日本の社会保障 医療・年金・生活保護・6

医療費の増加状況とその要因

著者: 泉孝英

ページ範囲:P.504 - P.505

■医療費の増加状況

 国民皆保険実施(1961年4月)前の1960年度から2006年度までの46年間の国民医療費,国民1人当たりの国民医療費の年次推移(増加状況)を図1,図2に示した.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・21

パンツとシャツは履かせてね―病院では常識でも世間では非常識

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.506 - P.507

病院の常識

 例えば,図1は医療関係者にはおなじみのボディチャートだが…

 なぜ患者は裸なのだろう.そのうえ髪の毛まで剃られて,ハゲ頭.

 発疹だらけなのは,複写に複写を重ねて使われた結果,汚れが各所について発疹のように見えるからだが,そのまま使われている.まぁそれはよいとして,なぜ患者の身体に衣服がないのだろう.

病院管理フォーラム ■医療安全:Try Top Management First!・3

トップマネジメントに期待されるメンタルヘルス対策―人材確保・育成に影響する課題

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.509 - P.511

 人材確保・育成は,トップマネジメントのリーダーシップ発揮が求められる重要課題である.これに影響するメンタルヘルスは休職・退職の原因となり,医療の安全・質にも波及するため,早急な対応が望まれる.本稿では,メンタルヘルスの課題と展望に関して,特にトップマネジメントに望まれる戦略の観点から検討した.

■DPCを軸とした病院の経営管理・1【新連載】

DPCとは何か―DPCの3つの顔

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.512 - P.513

 本誌2007年度の連載(66巻8号~67巻3号)ではDPCを制度面から解説し,2008年度の連載(67巻6号~68巻3号)では問題を解きながらDPCの仕組みを解説した.本号より始まる連載では主に病院経営管理の側面よりDPCを論じていく.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第173回

浜松赤十字病院

著者: 杉浦光彦

ページ範囲:P.514 - P.519

 1938年に開設された浜松赤十字病院は,建物の老朽化・狭隘化により医療需要の多様化・高度化への対応が困難であった.加えて地域住民による総合病院の設置要望により,浜松市中区高林から浜北区小林地区への移転新築計画になったものである.移転により医療環境が変わる中で,新施設を地域中核病院として位置づけ,地域連携の強化,情報拠点としての役割など「地域完結型の医療」の推進を目標とした.

 安全性を高め,災害時には地域の防災拠点としての役割を担う計画とし,免振構造とライフラインの多重化による安全性を確保した.敷地内地上にはドクターヘリに対応した飛行場外離着陸場も備え,防災拠点性を高めている.

リレーエッセイ 医療の現場から

「環境にやさしい病院」を目指して

著者: 藤原寛明

ページ範囲:P.523 - P.523

 最近は環境問題に関する報道を目にしない日がないほど,温室効果ガスの排出量削減は国をあげての重要な課題となっている.その具体的な取り組みは業種別に見ると,相当の差が生じているようである.日本におけるCO2排出量は「京都議定書」の基準年(1990年)に対し,2006年は+0.8億万t(+6.3%)となっており,産業部門は-5.6%と減少しているのに対し,病院・学校・商業ビルなどの業務その他部門では+41.7%と大幅に増加している.そのうち病院が+12%を占めている現状は,医業に従事する者として,肩身の狭さを感じさせられる.

 病院の療養環境は24時間,365日快適さを保つことが必須であり,さらに近年は高度医療機器の導入やOA化の進展に伴い電力消費量などが増える傾向にあることが,総量としてのCO2削減が進まない要因と考えられる.しかしながら,人の健康を守ることが使命である病院が,何の対策も行わずに環境を悪化させていることは許されない.各病院団体から「病院における地球温暖化対策自主行動計画」が発表され,日本医療機能評価機構による病院機能評価でも,2009年7月からエネルギーの消費抑制努力を評価する項目が新設されるなどの流れは,業界全体として環境問題に取り組んでいかざるを得ない時期にきていることの表れであろう.さらに来年4月に施行される改正省エネルギー法で,燃料・熱・ガス・電気といったエネルギーの使用状況が開設者全体で管理されるなどの規制が強化される.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?