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雑誌目次

雑誌文献

病院68巻7号

2009年07月発行

雑誌目次

特集 社会保障改革と病院の将来

巻頭言

著者: 広井良典

ページ範囲:P.537 - P.537

 本号の特集テーマは「社会保障改革と病院の将来」である.“医療崩壊”“医療再生”といったテーマが連日のようにメディアで取り上げられ,医療や病院をめぐる課題は今や社会全体のあり方と深く関わるものとなっている.この場合,それは今後の「社会保障」をどうするかという話題と不可分のものであり,また,これからの日本社会をどのようなものにしていくかという基本的なビジョンと深く関わるという意味で,「政治」と表裏一体のものともなっている.

 本号が刊行される時期は,おそらく総選挙も間近と呼べる時期であることが予想されるが,5月に民主党の新代表が選ばれたこと等も含め,政治の動向は予断を許さないものである.しかし本特集では,そうした“政局”的な動きを注視するというよりは,むしろ中長期的かつ公共的な視点に立って,(国の将来像を骨太に論ずるという)本来の意味での政治との関連を含めた社会保障改革と病院のこれからについて幅広い角度から光をあててみたい.

私の社会保障ビジョン

著者: 大村秀章 ,   後藤田正純 ,   鈴木寛 ,   福島豊 ,   山井和則 ,   広井良典

ページ範囲:P.538 - P.544

 社会保障や医療は現在大きな曲がり角に立っているが,望ましい改革を実現していくにあたって最も大きな鍵となるのは「政治」である.そこで,これからの社会保障改革や望ましい医療,病院像について,この分野で活躍中の若手政治家5人にお考えをうかがった.

 各執筆者には,下記の質問項目を提示し,それぞれご自身の考えを簡潔にまとめていただいた.その際,政党・組織としての意見というより,個人としての考えを自由に示していただくようにお願いした.

 次ページより各執筆者のビジョンを提示し,最後に本特集の企画者である広井良典教授によるまとめを掲載する.

医療・介護サービスの改革の展望と費用シミュレーション

著者: 香取照幸

ページ範囲:P.546 - P.551

 昨年(2008年)11月にとりまとめられた社会保障国民会議報告は,今後の社会保障政策の基本方向として,これまでの「制度の持続可能性の維持」から「国民の安心確保のために必要なサービスの確保=社会保障の機能強化」への転換を提示し,所得保障・サービス保障・少子化対策など社会保障の主要分野における機能強化のための具体的改革の方向性とそのための安定財源の確保の必要性について,具体的な提起を行った(図1).

 以下本稿では,社会保障国民会議報告に沿って,医療介護サービス改革の今後の方向性について概説するが,紙幅の関係もあり詳細な解説を行うことができない.是非,会議報告(特に中間報告及びサービス保障分科会中間とりまとめ)そのものに直接お目を通されることをお勧めするものである注)

社会保障と税の一体改革に向けて

著者: 森信茂樹

ページ範囲:P.560 - P.564

■税と社会保障を一体的に考えることの意義

 私自身が,税と社会保障を一体的に考えることの必要性を強く認識したのは,小泉改革における「歳入・歳出一体改革」(2006年7月閣議決定)の議論であった.周知のようにこの閣議決定の内容は,「2011年度に国・地方の基礎的財政収支を黒字化するために必要となる対応額(歳出削減または歳入増が必要な額)は,16.5兆円程度で,そのうち11.4兆円から14.3兆円を歳出削減によって対応する」こととなっている.対応額(不足額)について,基本的に歳出削減でまかなうという考え方は納得できるものであるが,そこに至る議論で「歳出削減は善で,増税は悪」と単純に色分けし,対応額の7~9割を歳出削減で確保するとした思考方法は問題がある.

 例えば次のようなことである.歳出削減を実行していく過程で,医療費の国庫負担の削減を図ればそれは,患者の個人負担を増加させることになる.年金の国庫負担を抑えようと思えば,基礎年金支給開始年齢(現行65歳)を引き上げざるをえないということになる.国の介護費用を削減しようとすれば,介護保険料の引き上げか,現在40歳以上となっている負担開始年齢の引き下げを行うことにつながる.現に医療費の自己負担割合は引き上げられ,生活保護の老齢加算や母子加算は削減され,2008年4月から75歳以上の老人医療保険制度も始まっている.

【日本経団連の提言】

国民全体で支えあう持続可能な社会保障制度を目指して―安心・安全な未来と負担の設計

著者: 齊藤正憲

ページ範囲:P.552 - P.555

 社会保障制度は国民生活の安心と安全を支え,経済社会の安定を果たす最も重要な社会基盤である.同時に,安心で信頼できる社会保障制度を構築し,その制度基盤を充実させることは,国民生活の向上に大きく寄与するものであり,経済活力の源泉である.少子高齢化が急速に進展するわが国においては,信頼でき,中長期的に持続可能な社会保障制度を早期に確立することが急務である.そのためには,社会保障制度が経済活力を高め,経済成長が社会保障制度の安定と持続可能性を高めるという好循環の形成に向けた取り組みが重要である.

 しかしながら,現状では,国民年金における未納・未加入の問題,年金記録問題,医師や診療科の偏在,介護従事者の不足など,いたるところで綻びが目立っており,国民の信頼を喪失しているのが実情である.今こそ,国民が安心・安全でいきいきとした暮らしができる社会の実現を目指して,安定的な財源確保のあり方を含め,社会保障制度の抜本的な再構築に取り組むことが強く求められる.

【連合の提言】

安心と信頼の医療制度改革の実現を目指して

著者: 篠原淳子

ページ範囲:P.557 - P.559

■医療を取り巻く現況と課題

 この数年,医療を取り巻く環境はますます厳しさを増している.

 病院の勤務医や看護師は,慢性的な人手不足に陥っており,特に産科,小児科,外科,麻酔科等の医師不足は,妊産婦や小児の救急時における受入れ拒否や,医師の疲弊による事故,診療科の閉鎖等の深刻な問題を引き起こす要因の1つにもなっている.

グラフ

笑顔で職場に戻りたい―今求められている“復職支援” 医療法人社団 雄仁会 メディカルケア虎ノ門

ページ範囲:P.525 - P.528

 2008年3月,「うつ病リワーク研究会」が設立された.働く人のメンタルヘルスが問題となっている現在,うつ病で休職している人に対して,従来の「通院治療」と「自宅療養」というアプローチだけでは職場復帰が難しいとの考えから,復職支援に取り組む病院・診療所が中心となって活動している.代表世話人を務めるのは,都内にある診療所「メディカルケア虎ノ門」の五十嵐良雄院長.ここでは2005年に復職支援を始めて以来,400人以上が再び仕事に就いている.

連載 ロボット技術と医療・介護・福祉・6

「ホーム介護ロボット百合菜」® 介護支援ロボット「レジーナJⅡ」

著者: 森川淳夫

ページ範囲:P.530 - P.531

 介護支援ロボットの開発を始めてから,もう13年になる.今日の急速な高齢化や医療介護現場での人手不足,作業環境の悪化は当時から十分予測できていた.開発当初は移乗介護におけるロボット化の可能性として,作業者装着型を含め様々な形態を模索したが,安全性と機能性から,独立したロボット形式を採用した.数々の試作機を経て最初に実用化したのが,介護支援ロボット「レジーナ」である.

 このレジーナは多くの施設や病院を回ってデモとテストを重ね,現場での貴重な意見や要望をいただくことができた.このデータを基に,小型軽量化を目的として開発したのが「レジーナJⅡ」である.

広がる院内助産所・助産師外来・2

湘南鎌倉総合病院産婦人科での助産師外来と院内助産―これまでの道とこれからの道

著者: 井上裕美

ページ範囲:P.570 - P.575

 「医療崩壊」や「産科医療の危機」など,ここ数年間,産科医療の現場は混乱を来している.産科医療でのクレームや訴訟問題に端を発したかのように見えた産科医不足,そしてそれによって生じた産科施設の閉鎖,さらに産科救急を受け入れられない状況は「救急患者のたらい回し」といった報道へとエスカレートしていった.そしてこの問題は産科医の産科手当を含む診療報酬の引き上げとなり,病院内での診療報酬の格差を生み出しながら,国を挙げて,各施設は躍起になって産科医を増やそうとしている.

 しかし,もっと冷静に振り返ってほしい.「産科医療でのクレームや訴訟問題に端を発したかのように見えた」と言ったが,本当はその前に,この問題を起こす原因があったのではないだろうか.「お産」の本質を理解せず,病根を治さず対症療法を行うのでは,とても日本の産科医療を救えるとは思えない.もちろん産科医がいないから,そしてお産施設が減少したから助産師がその代わりを行うといった発想も,はなはだ疑問である.そして今回のテーマである「助産師外来や院内助産」の病院でのあり方を探りながら,この混乱した産科医療を検討したいと思う.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・35

多職種協業によるリハビリテーションの実践とソーシャルワーク

著者: 積山和加子

ページ範囲:P.576 - P.579

 当院では多職種協業による包括的リハビリテーション(以下,リハ)の実践のために,患者の問題点によって主軸となるチームリーダーを決定している.その中でMSWが担う役割は大きく,チーム内のメディエーターやファシリテーターとしての役割を常に果たしている.また,リハ部内に地域医療連携室を設置することで,MSWが日常業務の中でリハ医療について学び,他の専門職と生きた情報交換を自然と行える体制を整えている.

図説 日本の社会保障 医療・年金・生活保護・7

医療費の財源

著者: 泉孝英

ページ範囲:P.580 - P.581

■医療費の財源

 わが国の国民医療費33兆1,276億円(2006年度)の財源別医療費・構成割合(2006年度)を表1に,財源別国民医療費の構成割合の年次推移を図に示した.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・22

患者を分類する~いい子 悪い子 ふつうの子~

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.582 - P.583

ショックの捉え方 そのずれ

 妻が亡くなるまでに,3回告知を受けた.病名告知,再発告知,最後の告知.そのショックたるや想像を超えたもので,身体が自分ではないような反応を起こし,自分がわからなくなった.僕ですらそうなのだから,患者本人はどんなショックだったか? 想像できない.

 ショックはもう1つあった.それは,病院のショックの捉え方と実際とが違うことだ.僕が主催する遺族会で聞いてみると,同じ指摘をする人が多い.どうも僕だけの問題ではないようなのだ.

病院管理フォーラム ■経営品質・1【新連載】

医療における問題点と今なぜ経営品質か(前編)

著者: 真野俊樹

ページ範囲:P.584 - P.587

●医療と効率化

 聖域とされてきた医療界にも最近,「効率化」といったいわゆる経営改善の動きが必要になってきた.その中で,必ずと言ってもいいほど議論になるのは,「医療は特殊である」あるいは「医療には一般企業の経営ツールは使えないのではないか」といった議論である.

 この問題は神学論争のようなもので,おそらく答えは出ないであろう.「医療は特殊である」という人は,命の重さは地球より重く,それを扱う医療を企業と一緒に論じるなと言うであろうし,一方では「医療と言えども経済と無縁ではない」と主張する人もいるであろう.

■DPCを軸とした病院の経営管理・2

レセプト情報を経営管理に利用―そのツールとしてのDPC

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.588 - P.589

 先月号ではDPC病院の経営管理を行うには,自分なりのDPC観(≒「DPCとは,何ですか」という問いに対する自分なりの答え)を持つことの重要性を述べ,その中で①患者の視点から眺めるか,②経営管理の視点から眺めるか,③医療制度改革の視点から眺めるかにより,DPCはその見え方が大きく異なることを説明した.

 本連載では,特に②の「経営管理の視点」から眺めたDPCに焦点を当てるが,今月号では,DPCが始まると,病院の経営管理がどのように変わっていくのかを説明する.

■医療安全:Try Top Management First!・4

臨床研修における医療安全教育の課題と展望―トップマネジメントの支援

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.590 - P.592

 医療安全推進と医療の質向上は医療機関における最優先課題である.この一環として,卒前教育における医療安全教育の充実は必須であり1,2),卒後臨床研修における医療安全教育も含めた検討が求められている.「研修医に対する安全管理体制について」は,国立大学医学部附属病院長会議の提言が示されている3).日本医療機能評価機構の集計では,インシデント・アクシデント事例の当事者として,部署配属年数1年以内の医療者が最も多いことが指摘されている4).研修医が当事者となるインシデント・アクシデント事例の発生も少なくないと考えられることから,卒前のみならず,卒後臨床研修における医療安全教育の充実も極めて重要な課題である.

 平成16年度より開始された新医師臨床研修の到達目標における行動目標には,医療人として必要な基本姿勢・態度として安全管理が挙げられており,1)医療を行う際の安全確認の考え方を理解し,実施できる,2)医療事故防止及び事故後の対処について,マニュアルなどに沿って行動できる,3)院内感染対策(Standard Precautionを含む)を理解し,実施できる,の3点が明記されており,現行の臨床研修カリキュラムの中で,どのように実施していくかについての検討が求められる.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第174回 中小病院二題

遠賀中間医師会おんが病院

著者: 安東洋希

ページ範囲:P.593 - P.596

■地域に根ざした医師会病院として

 遠賀中間医師会おんが病院は,急性期から慢性期まで継ぎ目のない医療を提供するため,2006年に竣工した別敷地の遠賀中間医師会おかがき病院(療養病院)の急性期病院(100床)として,2008年4月に開院した.この施設は1市4町(中間市,遠賀町,岡垣町,水巻町,芦屋町)の地域中核病院としての役割も担う.設計にあたっては,病院としての基本的な視点(経営,患者・外来者,医師・看護師・コメディカル)に立ちながら,地域に安心な医療を提供する医師会病院として次のコンセプトを基に計画を行った.

武蔵野陽和会病院

著者: 渡部和生

ページ範囲:P.596 - P.599

 武蔵野陽和会病院は,JR三鷹駅の北約1.5km,武蔵野市役所にほど近い,美しい桜並木の中央通りに面した103床の病院である.敷地は都市部では多く見られる,間口が短く,奥行きの長い形状で,建築法規の厳しい中でいかに豊かな建築を計画するかが課題であった.

リレーエッセイ 医療の現場から

一枚の写真

著者: 渡辺正雄

ページ範囲:P.603 - P.603

 ホスピスの妻の枕元で『風立ちぬ』と『和解』を読んだ.心の準備が出来上がっていなかった私は,ふたりの作家が愛するものの死にどう向き合ったかを改めて考えてみたくなったのである.

 半世紀近く前に美しく読んだ節子の物語には,抒情に過ぎて肩すかしを喰った気がしたが,生きようとして尽きた幼子の詳細な描写は心に沁みこんだ.私は,妻が発するどんな信号をも見落とさず聞き漏らすまいと心に決めた.

レポート【投稿】

民事再生による医療法人再建の可能性―ケース・スタディを中心として

著者: 岩崎保道

ページ範囲:P.566 - P.568

要旨 本稿は,民事再生による医療法人再建の可能性を考察するものである.その検討手段として,3件のケース・スタディを行った.以上の検討を通じ,医療法人再建の要件として,「スポンサーの必要性」「従業員の理解」「有能な代理人への選任」などを挙げ,それらが民事再生における医療法人再建の可能性を高めるという結論に至った.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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