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雑誌目次

雑誌文献

病院68巻8号

2009年08月発行

雑誌目次

特集 医療・介護ニューディール

巻頭言

著者: 河北博文

ページ範囲:P.617 - P.617

 米国の金融危機に端を発した経済不況が地球規模に拡大した.各国は個別の政策と同時に,国際的連携を深めながら経済政策を競っている.このような経済危機で最も積極的に対応しなければいけない課題が,雇用である.グローバル化した産業だけではなく,地域産業においても派遣労働や期間労働の人員が極端に削減され,そして,人員整理は正規社員にも及んでいる.既存の雇用のみならず,若い人たちの社会への希望の芽も摘み取りかねない.

 わが国は戦後一貫して経済成長を主体に社会システムを構築してきたが,その間,輸出産業の強化とともに行政セクターの増大が図られた.その後のバブル経済を経て,成熟経済,少子高齢社会,人口減少など社会が変化した.それに伴って,政策も社会保障政策の充実とともに環境保全へと移らざるを得ない時期であった.

【対談】今日の経済不況と雇用を考える

著者: 中谷巌 ,   河北博文

ページ範囲:P.618 - P.623

■負担と給付のバランスをどう保つか

河北 本号の特集は「医療・介護ニューディール」をテーマとして掲げておりますが,今日は中谷先生に,現在の経済状況や雇用状況をどう分析されているか,また今後の日本の社会の姿を伺うとともに,それを医療や病院にどのように関連づけて考えればよいか,いろいろとご示唆をいただければと思います.

 昨年末に出版された『資本主義はなぜ自壊したのか』(集英社インターナショナル)は,いわゆる新自由主義を進めてこられたことへの自戒の書として,非常に話題となっていますので,まずはこのたびの金融危機から始まった経済不況について,どのようにお考えかをお話しいただきたいと思います.

雇用とセーフティネットの相関

著者: 藤井英彦

ページ範囲:P.624 - P.627

■わが国の雇用情勢

 雇用情勢が一段と悪化している.本年4月の完全失業者数は346万人に達した.過去最悪となった2003年4月の385万人まで,残りわずか39万人である.さらに求人動向を見ると,現下の情勢が未曾有の深刻な事態であることが鮮明に現れ始めている.まず有効求職者数を有効求人数で割った有効求人倍率は,本年4月,0.46倍と過去最低となった.さらに注目すべきは,パート労働の分野である.従来,正規雇用から非正規雇用への転換が進む中,雇用調整期でもパート労働の求人は多く,過去30年間にわたりパート労働で求人倍率が1倍を下回った月はない.しかし今回は,本年2月に0.93倍と1倍を割り込んだ後,3月0.85倍,4月0.78倍と,パート労働の求人倍率も月を追って急速に悪化している.

 こうした深刻な事態を受け,政府は本年4月,追加の経済対策となる経済危機対策を発表し,その中で雇用対策を,景気底割れを回避するための短期的な危機回避策として経済対策の第一の柱と位置付けた.

介護・医療・福祉分野の労働市場の課題と可能性

著者: 駒村康平

ページ範囲:P.629 - P.633

 100年に1度とも言われている深刻な景気は底打ち感もあるが,今後はいわゆるL字の動き,すなわちしばらく停滞が続くことが予想される.また,雇用への悪影響はこれからが本格的になり,失業率は5.5%を超えてくるという予測もある.実質経済成長と失業率の関係を示す「オークン法則」に基づく予測だと,年度後半には失業率6%に接近するという見方もあり,企業も何とか雇用調整助成金等でしのいでいる状況である.

 このように,雇用に過剰感があるものの,依然として人手不足の分野もある.特に,高齢化の進展と介護保険の定着により介護サービスの需要が伸び,それに伴い介護労働者が不足している.

病院職員数と病院機能の国際比較

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.635 - P.640

 病院職員構造の国際比較は,実は比較の前に慎重に検討すべき課題が存在する.データの標準化と精度の問題である.すなわち,①各国の医療システムが異なっているため,それを構成する医療施設や職種の期待される役割や機能も国によって異なっている.②したがって職種の定義も異なり,特にデータの主体が異なるとその定義や収集過程にばらつきがある.③統計データの収集システムの完成度によってデータの正確度にばらつきがある.

 現存の国際的情報源としては「各国の統計(政府やその他の団体)」,「WHO(世界保健機関)」そして「OECD(経済開発協力機構)」が主なものである.WHOデータは,対象国は多いが発展途上国中心でデータ精度に問題があり,情報の種類も限られている.特に病院職員のデータはほとんど存在しない.OECDデータは先進国を対象にし,情報源となる各国の政府機関の情報収集システムの完成度が高く,精度も高い.またかつての担当者(ジャン・ポール・プーリエ氏)など個人の努力があり,定義の調整が一定になされており,これまで汎用されてきた.「各国データ」では各種の多数の変数が存在するという利点がある一方,定義が国ごとに異なる可能性がある.

 本論文では,医療システムやパフォーマンスなど各国の違いを浮き上がらせ,主としてOECDデータを用い,詳細には各国政府のデータを慎重に検討し,比較を試みた.

介護マンパワーの国際比較

著者: 小山秀夫

ページ範囲:P.641 - P.645

■介護職員の量的不足

 高齢者の医療・ケア政策については,国際的に大きな変革が求められている一方で,認知症高齢者の増加等の要因から,社会的な介護を求める声が年々大きくなり,介護労働力の確保が大きな課題となりつつある.

 社会保障のあるべき姿について,国民にわかりやすく議論を行うことを目的として閣議決定により設置された「社会保障国民会議」は,2008年10月23日に「医療・介護費用のシミュレーション結果」を公表した.この中で,2007年の介護職員を117.2万人とし2025年の各種推計必要人数を示している.結果は,最低211.7万人~最高255.2万人であり,看護職員の169.6万人~206.4万人より多くなることを示している.

【人員配置と経営収支】

聖路加国際病院

著者: 渡辺明良

ページ範囲:P.646 - P.649

 2009年4月1日に聖路加国際病院(以下,当院)に就職した職員は,196人である.正規従業員や臨床研修医,期間の定めのある雇用契約に基づく職員など,その雇用形態は多様である.2007年4月には216人,2008年4月には208人を採用しており,ここ数年,当院では積極的な職員採用の傾向にある.

 その結果,従業員の数は年々増加しており,2005年4月時点では1,292人の従業員数だったのが,2009年4月には1,537人と,この4年間で約19%の増加となった.

初台リハビリテーション病院

著者: 石川誠

ページ範囲:P.650 - P.652

■回復期リハビリテーション病棟の使命

 OECD Health Data2007のG7諸国における病床当たり職員数を見ると,日本の人口1,000人当たりの病床数は,アメリカの4.7倍,イギリスの3.5倍,ドイツの1.5倍であり,日本の病床数が極端に多いことがわかる(表1).一方,100床当たりの医師数はイタリアの7分の1,アメリカの5分の1,ドイツの3分の1,看護職員数ではアメリカの4分の1,ドイツの2分の1,常勤換算の病院職員数はアメリカの5分の1,イタリアの3分の1であり,日本は病床当たりの職員数が極端に少ないことがわかる.また,急性期における在院日数は,アメリカ,カナダ,イタリア,イギリス,フランスの3倍である.このことから,日本は少ない医療従事者で多数の病床を受け持ち,結果的に在院日数の長期化を招いていることがうかがえる.

 筆者はリハビリテーション(以下,リハ)医療サービスを提供する立場から,少ない職員で多数の病床を受け持つことが,いかに患者の自立を妨げるか問題視してきた.2000年に診療報酬の特定入院料で創設された回復期リハ病棟は,急性期病院から回復期リハの適応のある患者を迅速に受け入れ,ADLを向上させ,可能な限り在宅復帰を目的とすることを使命としているが,入院患者の大部分がADL要介助で手のかかる患者であり,ADL上は急性期病院より重度例が多いことが特徴となっている.こうした患者の自立支援には,第一に医学的全身管理,意欲向上等の心理的支援,廃用症候群の予防の3点が重要であり,そのうえで機能障害の改善,ADLの向上,さらに在宅復帰に関する専門的アプローチが必要となる.

青梅慶友病院・よみうりランド慶友病院

著者: 大塚宣夫

ページ範囲:P.654 - P.657

■自分の親を預けられる施設

 筆者が青梅慶友病院を開院したのは1980年,その後,2005年によみうりランド慶友病院を開院した.一貫して目指してきたのは「自分の親を安心して預けられる施設」であり,寝たきりや認知症があっても,最晩年の3~4年間を豊かに暮らし,安心して人生を終えられる場所を提供したいという思いである.その実現のために,名前は「病院」であっても従来の「病院」という形にはこだわらず,普通の病院では行わないようなことにも積極的に取り組んできた.

 発想の転換の第1は,生活の場をしっかりつくることである.「病院」では,まず医療ありきで,そこに介護が付随し,その次に生活環境という順になる.しかし筆者は,人生の最晩年といえども人生の一時期と捉えて,まず生活の場をつくることを優先した.そのうえで,安心して苦痛のできるだけ少ない形で暮らすために必要なものとして,医療や介護を入れていく.これは簡単なようで,当時はもとより,現在でも医療界ではかなり特異なことである.

美原記念病院

著者: 美原盤 ,   宮田晋一 ,   内田智久

ページ範囲:P.658 - P.662

 新臨床研修医制度に伴う医師不足,7対1入院基本料に伴う看護師不足など,医療制度の変更に伴う人材配置バランスの変化は,「医療崩壊」という言葉で表現されるように,わが国の医療に深刻な影響を及ぼしている.人材確保は医療提供の基盤であり,医療機関に人材が適切に確保されないことは,単にその医療機関の経営というレベルに留まらず,地域社会にも多大な影響を及ぼす.市民病院休止の是非を問うた千葉県銚子市長リコールの住民投票などはその最たる例と言えるだろう.

 一方,人材を確保するだけで安定した医療提供を実現できるかと言うと,必ずしもそうではない.今日の医療政策は,診療報酬のマイナス改定に代表されるように「効率化」という名目で明らかな収入抑制を進めながら,同時に「医療の質向上」として手厚い看護配置や電子カルテ化などの院内体制の整備を求めている.すなわち,抑制される収入の中で,支出増加を伴う病院運営が求められているのである.このような経営環境下で組織を維持・発展させるためには,明確なビジョンに基づいた運営戦略が極めて重要となる.本稿では,脳・神経疾患の専門病院としての当院の運営実態を,人事戦略を中心に紹介すると共に,そこから示唆される今日の医療制度における問題点について論じてみたい.

介護老人保健施設シーダ・ウォーク

著者: 山本弘

ページ範囲:P.663 - P.666

 急速に進行する高齢化社会に対応するため2000年4月に発足した介護保険制度に遅れること4年半,2004年10月に人口52万人の杉並区3番目の老健として,われわれの施設は産声を上げた.以来4年半,経営的には2007年度より黒字に転じ,2008年度には黒字幅がわずかに拡大した.

 この間,われわれがどのような老人保健施設サービスの提供を指向し,どのような経営戦略を立てたか,そしてその結果,経営収支はどうであったかを紹介する.志を同じくして老健経営に当たる方々に,わずかでも益することがあれば幸いである.

グラフ

全職員で新人を育てる―研修・再教育の充実とUターン就職で人材確保 鳥取赤十字病院

ページ範囲:P.605 - P.608

 人口約20万人の鳥取市の中心部に,県庁や市役所と並んで建つ鳥取赤十字病院は,大正4年の開設以来という長い歴史の中で地元の中核病院,急性期病院として古くから地域に溶け込んできた.また,赤十字の精神のもと災害救護活動にも精力的に貢献し,広く住民の信頼を獲得している.

 近年の少子高齢化,不景気,医師不足といった厳しい社会情勢にもかかわらず,当院では,A認定(マンモグラフィー検診精度管理中央委員会による認定)の評価を得ている乳癌検診のスタッフを全員女性としたり,消化器内視鏡検査にカプセル内視鏡を導入したりと,必ずしも利益には直結しないようなサービスを患者の視点に立って提供してきた.福島明院長は「経済状況や政治に左右されず,きちんと診療することが大切.きちんとした医療を提供するためにはある程度のムダは止むを得ないと思うが,現在の診療報酬ではそうやってきちんと診療を行うと赤字になってしまう.そういう日本の医療の問題点についても患者さんと話しながら,日々の診療を続けている」と語る.

連載 ロボット技術と医療・介護・福祉・7

世界に認められた最先端の義肢「C-Leg」「MYOBOCK」

著者: 深谷香奈

ページ範囲:P.610 - P.611

 オットーボック社は1919年,第一次世界大戦後のドイツで誕生した.大戦で傷ついた多くの兵士に義肢を供給するため,義肢をパーツごとに製作する方法を開発し,パーツの既製品化に大きく寄与した.また,パーツ同士の接続にピラミッドシステムを開発・採用し,このシステムは現在でも,ほとんどの義肢パーツに用いられている.創業90周年にあたる今日まで,義肢パーツのパイオニアとして,世界のトップシェアを維持し続けている.

 創設者であるオットーボック(1888~1953)の「身体的に障がいをもった人々が,それを忘れてしまうほど優れた義肢を開発し,人生に再び意義を感じられるように手助けをする」という意思を会社の理念とし,使用者それぞれのニーズに適合できるよう,数多くの製品を取り揃えている.その中でも,最先端の技術を駆使した義肢パーツとして「C-Leg」と「MYOBOCK」を紹介する.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・36

MSWによる転院支援の有効性

著者: 立石昌子

ページ範囲:P.668 - P.671

 医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)の役割は,各医療機関,各地域により様々である.本連載は県立広島大学・村上須賀子教授(元MSW)の監修の下,MSWの働きを検証するために企画した.

 今日の医療では,急性期病院,回復期リハビリテーション病院(以下,回復期リハビリ病院),療養型病院,在宅療養支援診療所など,医療の機能が分化しそれぞれの機関が連携しながら医療を提供しているため,患者が状況に適した治療・療養の場に移動しながらサービス提供を受けている.このような医療のあり方をここでは「移動型医療」と呼ぶことにする.東邦大学医療センター大橋病院(以下,当院)でも,急性期の役割を果たすために「移動型医療」を行っており,回復期リハビリ病院,療養型病院,在宅医療機関等との連携を欠かすことができない.

 病院の機能分化による「移動型医療」が定着し,病病連携が急性期病院にとり必須のものになっているために,様々な形の病病連携が行われている.病病連携のあり方には,特定の連携病院とのルーティン化されたような,どちらかというと事務部門が主導で構築しているもの,医師が転院先を探し決定していくもの,そしてMSWが支援していくものなどに大きく分かれている.院内のリスクマネジャーからMSWが関わった転院支援について,患者・家族(以下,利用者)からのクレームがないことのフィードバックを受け,MSWが行う転院支援の利点を認識した.病病連携のどのタイプも一長一短があると考えられるが,本稿では医療ソーシャルワークのあり方と課題について考察する.

広がる院内助産所・助産師外来・3

地域の中核病院における助産師外来の取り組み

著者: 葛西圭子

ページ範囲:P.672 - P.677

 助産師の専門性とは何か,独自性の発揮とはどのようなものか.保健師助産師看護師法は「この法律において『助産師』とは,厚生労働大臣の免許を受けて,助産又は妊婦,じょく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう.」と定義し,異常があると認めた場合には医師の診療を求めなくてはならない1).また,助産所の開業については医療法で規定されている.妊娠期での助産師の役割は正常・異常の経過診断と妊婦の保健行動を高める指導・相談が中心となる.本人と家族がどのような出産を望み,子どもを含めた家族生活をどのようにスタートさせるかの意志決定支援の役割は特に重要である.広がりつつある助産師外来は,単に現在の産科医療危機の主な原因である産科医師不足の窮余の一策ではないはずであり,助産師の本来の役割を取り戻す契機となるのである.ここではNTT東日本関東病院(以下,当院)で実施している助産師外来の開設経緯と現状,今後の課題について紹介する.

図説 日本の社会保障 医療・年金・生活保護・8

わが国の医療制度をめぐる問題点

著者: 泉孝英

ページ範囲:P.678 - P.679

 わが国において「医療崩壊」論議が始まって,数年以上が経過した.有効な打開策は示されないまま,事態はより深刻化している.「医療崩壊」を招いた,わが国の医療体制をめぐる基本的問題点を指摘したい.

 「医療制度のあるべき姿」は,以下の3条件に集約される.

1.医療機関(病院・診療所)/医師を含めた医療従事者の適正な地域的配置

2.適切な受診・適切な(標準的)医療

3.妥当な医療費

 この3条件は,いずれの地域,時代の医療においても要求されることであるが,わが国のように医療が社会保障の一貫として位置づけられている「国民皆保険」の国々では,より厳しく要求されることである.

 わが国の医療の検証を試みたい.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・23

病院から吹き出る風

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.680 - P.681

AED講習会に参加して

 2009年3月,AED心肺蘇生法,「PUSHプロジェクト」の体験講習会に参加した.以前からAEDには興味があり,参加したいと思いながらできないでいたので,とても楽しみな講習会だった.僕の申込受付番号は2番.受付開始から時間が経っているのに2番なので,人々の関心は薄いと思っていた.しかし行ってみると,なんのことはない.会場はびっしり一杯.300人は超えていたと思う.定員オーバーで申し込みを断ったそうだ.体験講習のため,実習に使う人形や道具の数に制限があるからだ.

 僕がAEDに興味を持ったのは,2004年秋に大阪で開催された日本蘇生学会に発題させてもらったことがきっかけ.僕のセッションは,救急救命センターで働く医師,消防隊員,医療ライター,そして遺族としての僕が体験談を語り,DNR(Do Not Resuscitate)オーダーの現状と問題点を考える糸口を探ろうと企画されていた.初めて参加させてもらった大きな学会だったが,なんともはや,眠たくてけだるい時間であったことか….

病院管理フォーラム ■医療安全:Try Top Management First!・5

地域連携による医療安全ネットワーク構築―トップマネジメントの戦略的支援

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.683 - P.685

 本稿では,平成19年4月より,一般診療所,歯科診療所,助産所に義務化された医療安全管理体制の構築を含めた,地域単位での医療安全管理体制整備の推進の必要性と,それを実現するための地域連携による医療安全ネットワーク構築,およびトップマネジメントの戦略的支援に関して述べる.

■DPCを軸とした病院の経営管理・3

DPC病院進化論①―病院経営管理におけるDPCデータの活用レベル

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.686 - P.687

 7月号では,DPCが始まると,病院の経営管理がどのように変わっていくのかについて述べた.今月号から10月号では3回にわたり,DPC病院がどのようなプロセスを経て病院経営管理におけるDPCデータの活用レベルを上げていくかについて述べる.

 筆者はこれまで多くのDPC病院において,DPCデータの活用事例を見学してきたが,既に病院間でDPCデータの活用状況に大きな差が出てきているのを目の当たりにしている.これらの経験を通し,DPC病院のDPCデータの活用状況は,表1に示す3つのレベルに区分できると考えるようになった.

■経営品質・2

医療における問題点と今なぜ経営品質か(後編)

著者: 真野俊樹

ページ範囲:P.689 - P.691

●NCQA

 MB(マルコム・ボルドリッジ)賞は米国から始まっているので,前回でも軽く触れたが,もう少し米国における医療に対する評価や指標を詳しく見てみよう.米国の特徴の1つは,医療費の払い手である保険者に対しての評価が多くなされ,それらが間接的に医療機関を評価している点である.

 米国では,民間医療保険が発達していると言うより,一般国民の医療保険は民間が担っている.民間非営利組織のNCQA(National Committee for Quality Assurance)は1991年にマネジドケアの認定を開始している.この認定には5つの基本となる評価基準がある.

1)Access and Service(アクセスとサービス)

2)Qualified Providers(医療サービス側の質)

3)Staying Healthy(予防)

4)Getting better(回復)

5)Living with illness(慢性疾患の管理)

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第175回

フロイデ彦島

著者: 大野秀敏

ページ範囲:P.693 - P.698

 フロイデ彦島は,老人保健施設の区分で言えば,グループホーム(36室4ユニット)とケア付き老人ホーム(個室28室4ユニット,内2室が夫婦対応)が複合した施設です.

 建物の空間構成は,大きいほうの武蔵棟(巌流島に近いことから工事中の2基のクレーンに,建設会社が「武蔵」と「小次郎」とニックネームを付け,それが,そのまま棟の名前として残りました)の1階に,施設全体の共用諸室(玄関,食堂,居間)と地域施設(デイケア施設,地域交流スペースなど)が置かれ,その上の2層がグループホーム2ユニットを含む居室に充てられています.武蔵棟とラウンジを兼ねる渡り廊下で結ばれている小次郎棟は3層とも居室になっています.この2つが,小さな入り江を囲むようにL字型に配されています.

リレーエッセイ 医療の現場から

こどもが主役の医療を求めて―チャイルド・ライフ・スペシャリストの理論と実践

著者: 藤井あけみ

ページ範囲:P.699 - P.699

 チャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下,CLS)とは,1950年代にアメリカで始まり,北米を中心に普及してきた小児医療専門職です.日本での活動は1998年に開始され,現在は約20人が大学病院やこども病院で働いています.CLSになるための教育はアメリカまたはカナダの大学,大学院で受けることができ,Child Life Council(CLC)という団体が資格認定試験を実施しています.受験資格はチャイルド・ライフ論,乳幼児発達学,青年心理学,家族関係論,基礎医学,医療社会学などの10以上の関連科目を習得し,認定CLSの下で480時間以上の病院実習を行うこととなっています.

 CLSの理念は,「こどもは力のある存在である」という考え方です.こどもは無力な存在,からっぽの器ではなく,宝物がいっぱいつまった玉手箱のような存在です.こどもに元々備わっている,感じる力,考える力,困難を乗り越える力が十分発揮できるように手助けするのがCLSの役割なのです.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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