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雑誌目次

雑誌文献

病院68巻9号

2009年09月発行

雑誌目次

特集 外科医を支援する

巻頭言

著者: 池上直己

ページ範囲:P.713 - P.713

 医師の不足は外科系において顕著であり,その1つの解決方法は手術室における業務を可能な限り関連職種に委譲し,業務の効率化と外科医の負担の軽減を図ることである.本特集では,業務範囲が資格で規定された中で,どのような対応が可能であるか,また併せて麻酔科医の不足に対する対応策についても展望した.

 まず,田林晄一氏は外科医が成果を上げてきたにも拘らず,種々の構造的な要因により逃散が起きており,こうした状態を改善するために,臨床工学技士・看護師のより積極的な活用などを提言している.また,川渕孝一氏は打開策として「医行為」の範囲を適正に見直し,臨床工学技士の拡充と同時に,供給過剰の歯科医の有効活用についてケンタッキー大学の具体例を通じて提示している.さらに,遠藤玲奈氏らはアメリカにおけるPhysician Assistantを詳細に分析し,医師との分業は,一律の規定によってではなく,現場における双方の話合により行われていると報告している.

外科医を支援する外科医がいなくなる!?―外科医の果たしてきた成果と外科医の逃散および再生

著者: 田林晄一

ページ範囲:P.714 - P.717

 わが国の医療環境は慢性疾患の増加,医療の高度先進化,医療費削減による病院経営の逼迫等により大きく変化してきている.これらの変化を患者側から見ると従来からの健康に対する要望に加え,インフォームドコンセントやカルテの開示要求,医療関係者への不信感,また疾病に対する考え方も生活の質(quality of life, QOL)の観点から考えることが加味されてきている.一方,医療関係者側では専門分化による臨床工学技士,言語聴覚士等の新しい職種の誕生,患者の権利主張の増加に伴う過重な負担と医療訴訟の増加,激務に対して低い待遇,高度先進医療機器への対応,また医療関係者のQOLの観点から考える人の増加等の種々の対応すべき課題が出てきている.いわゆる従来の医療行為の労働集約型から労働倹約型への変化に伴う医療の合理化に対する対応を考える必要がある.

 これらの変化に対して特に外科,産婦人科,小児科および麻酔科の医師は十分な対応をしてこなかった経緯があり,このことが現在大きな問題となっている背景のように思われる.

外科医不足の打開策―臨床工学技士や歯科医師等の活用における法的課題と海外の事例

著者: 川渕孝一

ページ範囲:P.718 - P.721

 喫緊の医療問題は何と言っても医師不足である.医師がいなければ医療は成立しないし,病院経営などあったものではない.

 それにしても,どうして突然,医師不足は起こったのだろうか.確かに人口10万人当たり150人という必要医師数の設定に問題があり,そもそも医師は足りなかったという説もある.しかし,急に医師不足が生まれたことを考えると,やはり2004年度にスタートした新臨床研修制度が引き金になったことは否めない.特に,インターネットが普及したことで「外科は労多くして益なし」といった風評が瞬時に走る.その結果,これまで大学の医局に医師の配給を依存してきた公立病院は路頭に迷っている.これは教授の言うことを聞いて離島・山村やへき地の地域医療に従事していた医師がドライになり,リスクをとらなくなったからだ.この医師のモラルの低下こそが医療問題をより複雑にしている.

米国におけるPhysician Assistantの役割と日本における外科医療の分業化

著者: 遠藤玲奈 ,   髙木安雄 ,   池上直己

ページ範囲:P.722 - P.727

 外科手術件数は年々増加し1),また医療技術の進歩で手術の難易度も高まっている.一方,第一線で外科医療を支える40代後半から50代の医師(全体の4割を占める2))は10年後には引退し,若い世代の医師は専門領域を自由に選択できる状況下で,訴訟リスクが高く労働条件の厳しい外科を希望する者が減少している.今後外科医の不足は急速に深刻化し,医学部の定員増だけでは効果的な対策とはならないであろう.

 筆者(遠藤)は患者として日米で手術を受け,外科医療を体験した.そのうえで行った米国および日本の医療現場の取材を通して,日本の外科医不足には苛酷な労働環境と専門外の業務負担が多いこと,一方米国にはそれを支援する分業体制と外科医を補佐する多くの専門職が存在し,彼等が重要な役割を果たしていることがわかった.中でもPhysician Assistant(以下,PA)は医師の監督下で医療行為を行い,入院から手術,集中治療・病棟管理,外来診察までを一貫して担うことで,外科医を支援する職種として不可欠な存在であった.本稿では現地調査をもとに,PAと医師の業務分担,代替・補完関係について述べ,日本における外科医療の分業化について考察する.

臨床工学技士の職務範囲とその現状

著者: 林裕樹

ページ範囲:P.728 - P.730

 臨床工学技士は医師の指示の下に,生命維持管理装置の操作及び保守点検を行うことを業とする,医学と工学の両面を兼ね備えた医療機器の専門医療職種である.その誕生は,医療機器の高度化・複雑化が一層進む中,医療機器の専門医療職が定められていなかったことが背景にある.特に血液浄化,人工心肺,高気圧酸素といった高度な生命維持管理装置を操作する国家資格の必要性が高まり1987年5月に制定された.現在では2万5,000人を上回る有資格者が存在し,医師をはじめ,看護師などと共にチーム医療の一員として医療機器を通し安全確保の担い手として貢献している.

 具体的な業務部署は,生命維持管理装置の操作に携る手術室,人工透析室,集中治療室,高気圧酸素治療室,医療機器保守管理室などがある.

外科医・麻酔科医不足に対する周術期管理チームの有用性―外科医の負担減を麻酔科医の立場から考える

著者: 古家仁

ページ範囲:P.731 - P.735

 本特集のテーマが,外科医を支援するということで,外科医不足が叫ばれる中,どのようにして外科医の負担を軽減できるか,という観点を麻酔科医の立場から論じる.

 昨今わが国で産科医,小児科医の不足が声高に叫ばれマスコミでも取り上げられている.しかし医師不足は,産科,小児科だけでなく救急科,麻酔科でも深刻で,マスコミが大きく取り上げない結果騒ぎになっていないだけである.同様に外科医に関しても不足が指摘されているが,外科医については現在より将来的な不足が問題となると思われる.

看護職の立場から周手術期を考える

著者: 草間朋子

ページ範囲:P.736 - P.739

 医師不足,あるいは,地域・診療科による医師の偏在等が大きな社会問題となり,その解決策の1つとして医療従事者間の役割・業務分担の見直しの必要性が行政サイドからも提言されている.日本外科学会等からは,アメリカで活躍している麻酔業務の一部を分担できる麻酔看護師やPhysician Assistant(PA)の日本での養成の必要性が提案されている.

 現在,著者らが所属する大分県立看護科学大学をはじめ日本の看護系大学の大学院修士課程において,養成教育が開始あるいは準備が進められているナースプラクティショナー(NP:診療看護師)は,看護職のさらなる自律を目指し,看護師の現在の裁量範囲(療養上の世話,および,診療の補助行為)を拡大することを目指した看護職である.

医療機器の知識・保守点検を総括できる人材の育成

著者: 酒井順哉

ページ範囲:P.753 - P.756

■医療機器の安全管理に求められる人材確保

 厚生労働省は2005年4月1日施行の薬事法改正において,医療機器を人体などに及ぼす危険度により「高度管理医療機器」「管理医療機器」「一般医療機器」に大きく分類するとともに,これらの医療機器を縦断するように「特定保守管理医療機器」「生物由来製品・特定生物由来製品」に分類した1)

 しかし,薬事法の医療機器分類とは異なり,医療機関における医療機器の管理区分は,従来より医療機器(放射線装置,ME機器,検査機器など),医療材料(特定保険医療材料,一般衛生材料など),医療器械(手術・処置用鋼製器具など)に大別され,放射線装置は放射線部門が,ME機器は臨床工学部門が,検査機器は検査部門が,医療材料は材料部門やSPD部門が,医療器械は手術部門や材料部門が管理している2).このため,医療機器は各部門で保有する種別とともに,薬事法上の「高度管理医療機器」「管理医療機器」「一般医療機器」「特定保守管理医療機器」「生物由来製品」「特定生物由来製品」の解釈を考慮して保守管理体制を整える必要があり,かなり複雑な管理運営体制が余儀なくされている.

【事例】

体外循環における協働―医師の立場から

著者: 安達秀雄

ページ範囲:P.740 - P.743

 心臓血管外科医の主要な役割は心臓,血管の病気で生命の危機に瀕した患者を手術治療によって救うことである.心臓は血液を駆出しているポンプであり,血管は血液を全身に送る配管の役割をしている.これらに不具合が発生すると循環が滞り,生命が危険にさらされる.心臓は収縮と拡張を繰り返し,血管は新陳代謝しながら様々なホルモンやサイトカインを分泌し,両者は協働して全身に血液を安定的に供給している.心臓血管外科医は不具合を来したこのシステムを手術治療によって修復しようとするのであるが,そのためには一時的にポンプ機能や循環を停止する必要がある.この停止中の機能を代行する装置が人工心肺を主体とする体外循環装置である.臨床工学技士の重要な業務の1つは,医師の指示の下にこの体外循環装置の操作と保守点検を行うこととされる.

 本稿では日常行われている心臓血管外科診療における外科医と臨床工学技士との協働作業の実際について,筆者の施設の現状を述べ,今後の課題についても触れたい.

体外循環における協働―臨床工学技士の立場から

著者: 又吉徹

ページ範囲:P.744 - P.747

 大学病院での心臓血管外科医の仕事は,診断・治療から教育・事務処理まで多岐に及んでいる.この忙しい外科医に患者との時間を作るため,臨床工学技士としてできることは協力すべきである.臨床工学技士の主な業務は機器の操作と保守点検である.その1つに,心臓手術での体外循環がある.安全で確実な体外循環を行えれば,外科医はスムーズに手術でき,術後の管理も楽になり,患者との時間ができる.本稿では,今までに当施設で外科医と臨床工学技士が協働して,体外循環の改善を行ったことに関して解説する.

急性期病院における臨床工学チームの進化

著者: 深田和生

ページ範囲:P.749 - P.752

■近森病院の概要

 近森病院は近森会グループ(職員総数1,500人)の中核病院として,急性期医療を積極的に行い,病床数338床,平均在院日数15日,年間救急搬入数5,000件を超える高知市の中心部に位置する地域医療支援病院である.高知市は人口約34万人で県人口(約78万人)の半数近くが集中し,高齢化率(65歳以上の人口の割合)22%の一極集中状態の中核市である.

グラフ

活躍する臨床工学技士―県西部浜松医療センター

ページ範囲:P.701 - P.704

 医療の高度化,専門化に伴い,医療機器は常に進歩し続けてきた.特に現在,手術現場では多種多様な医療機器が用いられ,欠かすことのできない存在となっている.これら医療機器の管理・使用に関して,近年,大きな影響を与えた出来事が2つあった.

 1つは2007年4月,医療法の改正により各医療機関に設置が義務づけられた「医療機器安全管理責任者」,もう1つは翌2008年4月から始まった,いわゆる「立会い規制」である.

 こうした背景から,医学と工学を学んだ専門職,臨床工学技士のさらなる活躍が期待されている.また,日本医療機器学会は,医療機器の安全管理に携わる資格として,2008年に医療機器情報コミュニケータ(MDIC)認定制度を発足させた.そこで今回,医療機器安全管理責任者と臨床工学技士の計2人がMDICを取得した,県西部浜松医療センターを取材した.

連載 ロボット技術と医療・介護・福祉・8

注射薬払出ロボットシステム

著者: 毛利直彦

ページ範囲:P.706 - P.707

 パナソニック四国エレクトロニクス株式会社(以下,弊社)は,市場の要望に応え,近年バイオテクノロジー技術,レーザー技術,超音波技術などを用いたヘルスケア関連商品への展開を図り,より健康で快適な生活に欠かせない医療機器を開発・販売している.そのミッションは,①病院業務に従事する医師・薬剤師等の身体的負担を軽減するとともに,病院運用システムの効率化,業務内容の改善と提案を通じて,病院経営の健全化に貢献し,患者様に満足したサービスを提供できる院内環境を提供する,②病院内業務支援ソリューションの提供を通じて,患者様への安心・安全・快適な病院サービスを提供する,の2つである.今回はそうした医療機器の中から,「注射薬払出ロボットシステム」について紹介する.

図説 日本の社会保障 医療・年金・生活保護・9

年金制度の歴史と現況

著者: 泉孝英

ページ範囲:P.762 - P.763

■年金,年金制度の歴史

 年金とは,生計維持者が就労困難など様々の理由で収入の減少あるいは無収入となり,生計を維持できなくなった場合(老齢,障害),あるいは生計維持者が死亡した場合の家族(遺族)などに対する金銭の定期的給付を意味することである.

 年金には,国あるいは代わるべき機関が法律に基づいて行う公的年金と,民間が任意に行う私的年金とがある.私的年金には,企業が退職給与の一種として従業員に支給する企業年金と,保険会社などが個人を対象として行う個人年金がある.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・24

病院にエンジェルは必要か

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.764 - P.765

素人には退屈な講演と言われ

 2008年8月,「在宅における胃瘻の管理」と題する講演会に参加した.医療者向けの講演会であり,サブタイトルには「各科の専門領域からみたケアのヒント」とあり,素人の僕が参加する場ではなかった.

 胃瘻をつけて療養している人は多く,そんな患者さん家族からの相談も受ける.だから,一度この目で見たいと思っていたのだが,偶然,無料の講演会があると知り参加を決めた.それを聞いたある医師が「専門的で素人には退屈だと思う.覚悟を決めて参加したほうがよい」と言う.アドバイスなのか,素人の出しゃばりと思われての言葉なのか,わからない.

広がる院内助産所・助産師外来・4

長野県における助産師支援研修会事業

著者: 竹前敦子

ページ範囲:P.766 - P.770

 少子化が進行する中,産科医療を取り巻く状況は厳しくなっているうえに,山間へき地を多く抱える長野県においては,平成13年には68か所あった分娩施設が,平成19年には50か所,平成21年4月現在は46か所と減少し,安全・安心なお産ができる体制の整備は,喫緊の課題となっている(図).

 現在,産科医療提供体制の再構築において,助産師が果たす役割に期待が高まっている.本県では,医師と助産師の適切な役割分担と連携方法を検討するとともに,助産師がその職能を十分に発揮し,医師との協働により,安全で安心なお産を提供する助産師外来の開設を支援するために,平成19年度より助産師活用促進事業として,助産師支援検討会および助産師支援研修会を実施したので報告する.

 なお,平成21年4月現在の本県の助産師外来・院内助産所の開設状況は表1のとおりである.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・37

病院におけるMSWの役割とポジショニング

著者: 藤平輝明

ページ範囲:P.771 - P.774

 医療崩壊・介護崩壊が社会問題化し,そこに世界的な経済危機の深化が追い討ちをかけている.政策的には追加予算がセーフティーネット作りに当てられたが,根本的には日本の医療・福祉政策は変わっていない.これらのことは今日のMSWの業務のあり方に色濃く反映している.「医療ソーシャルワーカー業務指針」が平成14年に改定され,昨年(2008年)4月から退院支援の業務が診療報酬に評価されて一年が経過した.MSWは,国民・患者のニーズにどう応えて役割を果たすべきなのか,病院内での役割とポジショニングを考察する中で明らかにしたい.

病院管理フォーラム ■経営品質・3

経営学の流れと医療経営

著者: 真野俊樹

ページ範囲:P.776 - P.779

●経済学の考え方

 連載第3回の今回は,少し抽象的になるが,経営品質のルーツを探る意味で,経済学や経営学の考え方を眺めたうえで,本題である経営品質の考え方に迫ってみよう.

 経済学の考え方というと,皆さんは何を想像されるだろうか?

■DPCを軸とした病院の経営管理・4

DPC病院進化論②―第1レベルから第2レベルになるための必要条件

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.780 - P.781

 前号では,病院のDPCデータ活用の状況は,表に示す3つのレベルに区分できることを説明した.今月号では,第1レベルの病院(図1)が,第2レベルの病院(図2)になるために必要な条件を考える.

■医療安全:Try Top Management First!・6【最終回】

今,求められている医療安全管理―医師主導のシステム構築

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.782 - P.784

 医療安全に関する様々な政策の実施により,医療安全管理者の配置や医療安全教育の充実など,医療機関独自の取り組みが進められ,これまでの量を確保する取り組みから,質を確保する取り組みが問われる時期にきている.本稿では,これからの医療安全管理体制の推進・維持のために,必須と考える医師主導によるシステム構築に関して述べる.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第176回 医療施設二題

とやまPET画像診断センター

著者: 清谷英広

ページ範囲:P.786 - P.788

■官民共同での取り組み

 とやまPET画像診断センターは,富山県全域の医療機関が,がんの診療や健康診断においてPET/CTを共同利用することを目的に開設された.施設の設立には多額の費用を要するため,富山県・各市町村・地元企業の官民共同出資による整備という,全国でも初めての取り組みとなった.

 敷地は,県中央部にある富山県健康増進センターの隣接地である.県内全域からのアクセスのよさから,この地が選定された.周囲には田園が広がり,のどかな雰囲気が残されている.

あんしんクリニック

著者: 河﨑邦生

ページ範囲:P.789 - P.791

 あんしんクリニックは,スポーツ医学,人工関節の最新医療を提供する専門特化型の新時代のクリニックである.

 明確な経営戦略の下,立地,建物プラン,運営に至るまで一貫したコンセプトが貫かれており,欧米で見られるような,日帰り治療センターや専門性の高い特殊医療機関という趣のクリニックである.

リレーエッセイ 医療の現場から

死の準備教育と看取りの文化

著者: 新村拓

ページ範囲:P.795 - P.795

 よく訓練された看護師の力と病院内の環境改善によって,入院患者の死亡率を著しく低下させることに成功したナイチンゲールも,病人は病院ではなく,家庭で看護されることがもっともよいと述べている.その彼女が亡くなる前年の1909年,日本では大日本看護婦人矯風会の大関和(おおぜき ちか)が東京の神田に派出看護婦会を開設しているが,これは患家と雇用関係を結んで,教育の行き届いた看護婦(師)を入院先や自宅に派遣する組織であった.戦前までの上中流家庭では,かかりつけの医師による往診と雇用した派出看護婦によって,家で病人を看取ることのほうが,入院よりもはるかに多かったのである.大した治療法のない時代においては,家庭での安静が有効な処置でもあった.

 戦後になると,抗生剤・抗結核剤が生まれ,また外科手術の安全性や技術的な向上もあって,人々の目は病院に向き始める.政府は戦災で失われた病院の復興を民間に任せるため,医療法人制度の創設(1950年)をはじめ,医師優遇税制(1954年),医療金融公庫の発足(1960年),公的病院の増床規制(1963年)などといった措置をとった.それにより,診療所から病院への建て替えが進み,病院に派出看護婦が吸収され,彼女らのかつての職場は,無資格の家政婦らに取って代わられることになった.

レポート

手術に関わる医療安全推進のNew Wave―WHOが提唱する“Surgical Safety Checklist”

著者: 石川雅彦

ページ範囲:P.758 - P.760

要旨 手術に関する医療安全の推進は世界共通の喫緊の課題である.手術関連のエラーや合併症の減少を目指し,2008年にWHOが“Surgical Safety Checklist”を発表した.これは,1)麻酔導入前(Sign in),2)執刀直前(Time out),3)患者退室前(Sign out)の3段階で構成され,各段階で手術チームのメンバーが確認すべき複数の項目を具体的に示した手術における安全確保のためのツールである.医療レベルなどの環境に左右されない普遍的でシンプルな基準として,また,実施コストがほとんどかからないという点からも,世界中の医療機関で適用することが可能な内容で,その活用が期待される.今回,“Surgical Safety Checklist”の概要とその実施効果,および国際的な取り組みや本邦への導入を含めた今後の展望について述べる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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