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雑誌目次

雑誌文献

病院69巻1号

2010年01月発行

雑誌目次

特集 拡大する医療・介護需要

巻頭言

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.13 - P.13

 新年,明けましておめでとうございます.

 激動の政権交代が行われた昨年から,新たな年を迎えたわけです.本年はどのような1年になるのか,国民1人ひとりが固唾を呑んで見守っていることと思います.

 

 さて,増え続ける高齢者とともに,医療・介護の需要は増すばかりであり,提供側であるわれわれにとって,事業規模の拡大・新規事業の創設など,大きなチャンスと捉えることができる.もちろん,その根底には社会保障費の増大という大問題が横たわっているが,増加する高齢者とともに,どのような街作り,国作りをすればより豊かな国になるのか,という視点から執筆を依頼した.

超高齢社会における医療の展望

著者: 辻哲夫

ページ範囲:P.14 - P.17

■超高齢社会の到来と医療

 日本においては世界に例のない高齢化が進んでいる.現在約20%の高齢化率が2030年には約30%,2050年には約40%となると見込まれている.この場合,高齢者が増える要素により高齢化率が増えるのはこの20年程度であり,増加するのは75歳以上の高齢者である(図1).しかもその大部分は都市部で増加する.

 どのような社会になるのであろうか.死亡場所についてみると,終戦直後は医療機関死亡率が10数%であったものが一直線で増加し現在80%台となっている.死亡者数でみると,現在100万人強の年間死亡者数は今後30年余りで170万弱に増える.死亡者数に占める後期高齢者の割合は1965年には3分の1であったのが,現在は3分の2,20年後には4分の3となる(図2).

地域包括ケア―地域における医療・介護・福祉の一体的提供

著者: 田中滋

ページ範囲:P.18 - P.21

■上位概念の大切さ

 政策・制度には,具体的目標を超えた上位概念,すなわち理念を伴うケースと,極めて実務的な側面だけでできあがっているケースの双方が存在する.

 次に述べるように,少しずつ,またパッチワーク的に成立した年金や医療では,成立過程を貫く関係者共有の理念は指摘できない.一方,介護については,他分野の歴史から学べる後発の政策分野だったせいもあって,成立過程においても介護保険法に明確な理念をもたせるところから始めようとの強い意志が存在した.「自立支援」という四文字には,高齢者の尊厳ある自立を社会が重層的に連帯して支援するという上位概念が込められている.介護分野の発展を考えるにあたっては,常にこの理念に立ち戻って論を立てなくてはならない.

亜急性入院医療とは―「地域連携病院」の概念

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.22 - P.25

 日本は今後高齢化が進み,高齢者が増加し続ける.そして,医療・介護の需要が増大することは明らかである.もちろん,医療・介護を含む社会保障費の増加という大問題があり,また少子化による医療関係者・介護職等の不足に対する手当ても考えなければならない.

 平成20年11月に発表された「社会保障国民会議・最終報告書」には,このことが明示されており,医療・介護費用のシミュレーションが行われている.代表的な2025年におけるB2シナリオを見ると,表1のごとく,急性期は67万床(平均病床稼働率70%で約47万人/日),そして亜急性期・回復期44万床(平均病床稼働率90%で約40万人/日)とされ,ここまでが急性期に分類されている.ここまでが急性期病床とされている.

在宅医療の本質と未来―病院との連携の重要性

著者: 太田秀樹

ページ範囲:P.26 - P.30

 人口が減少するなかで進展する少子高齢社会は,医療・介護・福祉の需要をさらに増大させ,同時に費用は高騰する.そこで,病院中心医療から在宅医療へ大きく舵が切られたが,財政論から在宅医療が推進されるとすれば残念なことである.必要な医療を過不足なく提供するという地域医療のあるべき姿を求めると,医療が提供される場所を問うものではないはずだ.キュアからケアへ,医療のパラダイムが大きくシフトし,医療が介入した妥当性の尺度をQOLに求めるようになると,入院せずして,あるいは居宅型高齢者施設で行われる在宅医療はより意義深いものとなってくる.

 確かに,国民は病院での入院医療をありがたく受け入れ,病院医師も在宅で治療を継続する選択肢を持たないことが多いが,在宅医療を実践している医師たちは,在宅医療の質が病院医療に引けをとるものではないと信じている.例えば,認知症を合併するなど虚弱な要介護状態の高齢者にとって,あるいは,人工呼吸器を装着し経管栄養管理の重症小児らにとって,在宅医療と病院医療の質を単純に比較することはできない.

介護保険施設の一元化は可能か―この8年の介護費用の推移から考える

著者: 髙木安雄

ページ範囲:P.31 - P.33

■はじめに―介護保険施設一元化をめぐる課題

 「介護の社会化」を目標に平成12(2000)年4月にスタートした介護保険制度も今年度末で10年を経過しようとしている.高齢化のスピードの速さを横目に,“走りながら考える”ことで展開してきた新しい制度であるが,この介護保険施設の一元化の問題については,医療保険,老人保健,老人福祉各制度の歴史と既得権益の狭間で海図なき航海を続けてきたと言える.

 例えば,老人保健施設は老人保健制度の下で,医療と福祉,施設と在宅の「中間施設」として昭和63(1988)年から整備されたが,当時の厚生省が期待した老人病院からの転換は進まなかった.その原因は,老人保健施設の施設療養費が低いこと,施設の設備・構造設備基準が病院にとって厳しい内容であることにあった.平成12(2000)年4月からの介護保険制度は施設の一元化の検討の時間もなく,医療,保健,福祉の各施設をそのまま介護保険の対象施設としてスタートし,平成18(2006年)の医療構造改革でようやく(唐突に)介護療養病床の平成23(2011)年度末までの廃止の方針が打ち出されたに過ぎない.その結果,転換型老人保健施設が政策誘導されるが,それに応える介護療養医療施設は少なく,10年前と同じ姿を露呈している.「歴史は繰り返す.一度は悲劇として,二度目は喜劇として」という言葉があるが,介護保険施設の一元化はその様相を示しており,この先どのように展開するのか,この平成12(2000)年度から直近の平成19(2007)年度までの8年間の介護費用の推移をもとに考えてみる.

【事例】急性期医療機関と在宅医療―都心の脳卒中医療の問題

著者: 鈴木一郎 ,   岡本薫 ,   原幸枝

ページ範囲:P.34 - P.37

 日本は現在急速な高齢化に直面し,4人に1人が65歳以上という高齢社会を迎えようとしており,今後20年間に75歳以上の後期高齢者が約1,000万人増加するものと推定されている.また,近年人口が大都市に集中する傾向が加速し,核家族化や住宅の狭小化などと相俟って,大都市での高齢者夫婦のみの単独世帯や高齢者の独居世帯などが増加している.さらに,大都市は,地価の高騰,地域コミュニティーの希薄化,隣人同士の相互支援や見守り機能の低下など多くの問題を抱えており,大都市での高齢者の在宅療養は困難を増してきている.

 平成19年施行の第5次改正医療法では,がん,脳卒中,急性心筋梗塞および糖尿病の4疾病と救急医療,災害時における医療,へき地の医療,周産期医療および小児医療の5事業について,地域の医療連携体制を構築することを求めている.中でも脳卒中は,死亡原因の第3位,総患者数の第4位,寝たきりの原因の約4割を占め,さらに要介護原因の第1位,高齢者医療費の使用額第1位,などの数字が示すように,早急な対策が求められている.

 ここでは,東京・都心の急性期医療機関である当院の脳卒中医療の実情を事例として取り上げ,都心における地域医療連携の現状と問題点について述べる.

【事例】医療介護複合体事業の展望

著者: 鉾之原大助

ページ範囲:P.38 - P.41

 この原稿を執筆している時に,アメリカでは,新型インフルエンザによる死者が1,000人を超えたほか,感染者は数百万人に上っており,ワクチンの製造は当初の予定より遅れている.このため,オバマ大統領が平成21(2009)年10月23日,「国家非常事態」を宣言する等のニュースが入ってきた.

 新型インフルエンザの話題はひっきりなしである.それに影を潜めているようであるが,社会保障全体の見通しは不透明なままである.

 特に,先の衆議院総選挙にて,政権交代が実現したものの,平成23(2011)年度末における介護療養病床廃止については,凍結という記事もでてきているが,このままいくと平成23年度末の介護療養病床の廃止は避けられない状況にある.つまり,私どもグループのみならず,多くの医療関係者にとって厳しい現実がそこにある訳だが,悲観ばかりもしておられない.状況が変わらないのであれば,それを受け入れ,そのような混迷する時代を駆け抜けるために何が必要なのかを模索する必要がある.

 そこで参考になればと思い,長年,施設,在宅を問わず医療介護を実践してきた当グループの医療介護複合体事業(表)の経緯と課題を紹介する.

グラフ

高齢者の生活を支える医療ケア―公益社団法人地域医療振興協会 台東区立台東病院

ページ範囲:P.1 - P.4

 台東区立台東病院――2009年4月,東京23区初の区立病院が誕生した.台東区が開設し,指定管者理制度により地域医療振興協会が管理運営する.1996年3月に休止した都立台東病院の跡地に,その病床を都から区が継承する形で開設された.すぐ近くには,「おとりさま」として地元で親しまれている鷲神社,日本橋から移ってきた吉原遊廓の歴史とも重なる吉原神社がある.11月には酉の市,年の初めは浅草名所七福神参りで賑わう.

 こうした下町の情緒が今も残る地域で,高齢者が安心して暮らせるように,在宅医療を支える慢性期型拠点病院として,当院の機能は整備された.

 当院の管理者・病院長に就任したのは,自治医科大学出身で長年地域医療に従事してきた山田隆司医師.地域医療振興協会常務理事・地域医療研究所所長を兼任し,日本家庭医療学会代表理事を務めている.

連載 デザインの力・1【新連載】

デザインの力

著者: 山本百合子

ページ範囲:P.6 - P.7

 デザインというと,何かをきれいに,快適にするものというイメージがあるかもしれない.

しかし,デザインには力がある.単に美しくするというだけでなく,確固たる力.ここでは,連載1年間のスケジュールでそれをご紹介したい.

より良い高齢者終末期ケア体制の構築に向けて・1【新連載】

欧米諸国における高齢者終末期ケアの動向

著者: 岡村世里奈

ページ範囲:P.44 - P.47

 近年,わが国では,高齢者に対する終末期ケアのあり方が重要な課題となっているが,これは決して日本だけの問題ではない.他の多くの先進諸国においても,日本と同様,人口の高齢化に伴う死亡者数の増加や,死亡原因となる疾患の多様化,終末期医療に対する国民意識の変化等を背景として,どのように効率的で質の高い終末期ケアを提供するかが重要な課題の1つとなっている.そして,日本では,その重要性が強く認識されながらも,必ずしも明確な施策や方向性が打ち出されず,足踏み状態が続いているのに対して,近年,欧米を中心とした先進国の多くでは,効率的で質の高い終末期ケアを提供していくために,既存制度の見直しや新たな法制度の整備が急ピッチで進められている.

 そこで,本連載では,これらの取り組みについて詳しく紹介してゆく.第1回目の今回は,欧米諸国において現在,高齢者に対する終末期ケア体制の整備が急速に進んでいる理由とその方向性について紹介していきたいと思う.

病院ファイナンス・その後

シンジケートローン―病院の大型設備投資にフィットした資金調達方法

著者: 福永肇

ページ範囲:P.48 - P.52

 本誌2004年9月号から2007年3月号にて「病院ファイナンスの現状」を連載し,病院資金調達の考え方や調達手法・金融商品を紹介しました.またそれらに加筆整理して資金調達のテキスト『病院ファイナンス』を2007年3月に発刊しています1).その後3年間での病院資金調達のトピックスは,①シンジケートローンの組成急増,②公募債(社会医療法人債)の登場,③リーマン・ショック後の銀行の貸付慎重化の3項目と言えます.

 本稿ではシンジケートローンを病院スタッフに向けて解説します.病院にとってシンジケートローンの最大のメリットは,巨額な中長期設備資金への調達を比較的低利で可能にしたことです.主取引銀行だけでは支援が難しいと推測される大型設備投資も,シンジケートの銀行団による融資で実現が可能になるかもしれません.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・41

MSWコーディネート機能の入退院モデル分析―ケースミックス平均在院日数分析,病床利用率分析,入院収益分析,入院収益貢献度分析

著者: 関田康慶

ページ範囲:P.54 - P.61

 本稿ではMSW連携入退院モデルについて4つの分析を行っている.第1の分析では,入退院患者で退院支援が必要なケースとそうでないケースの2種類に分類したケースミックス患者について,平均在院日数が,MSWコーディネート機能の介入によりどのように異なるかを分析した.第2の分析では,病床利用率がケースミックス入退院患者に対するMSWコーディネート機能の介入により,どのように影響されるかについて分析した.第3の分析では,ケースミックスに対するMSWコーディネート機能の介入が,平均在院日数を変化させ,入院収益にどのような影響を及ぼすかについて分析した.第4の分析では,入院収益増分に対するMSW機能投入資源の貢献度分析を行った.これらの分析により次のことが判明した.①ケースミックスの場合でも,MSW機能の充実により,平均在院日数の短縮が可能となるが,日数の短縮につれて,追加的MSWの増員が必要になる.このためMSWの機能充実がなければ,平均在院日数の短縮は困難になる.②MSWの支援が必要な患者数割合pのみが大きくなる場合,ケースミックス平均在院日数は短くなる.③MSWコーディネート機能を充実するだけでは,病床利用率が低下することもあるので,平均在院日数と病床利用率を目標水準にコントロールすることが重要になる.④MSWコーディネート機能は,平均在院日数と病床利用率に影響するので入院収益に関与する.⑤MSWコーディネート機能の入院収益増加分への貢献程度の測定可能なモデルが導出できた.⑥ケースミックス平均在院日数分析は,DPCの疾患の種類としても扱うことが可能であり,DPCへのMSWの役割・貢献も期待できる.また多種類のクリティカルパスのバリアンスを回避するためにMSWコーディネート機能の役割が期待できる.

病院管理フォーラム ■DPCを軸とした病院の経営管理・8

コストを含めたDPC分析①―なぜ日本の病院でこれまでコスト分析が進まなかったか

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.62 - P.63

 昨年は,DPCのデータ活用について述べてきた.DPCデータ活用に関しては病院ごとに大きな差があり,データをほとんど活用していない第1レベル,分析はしているが現場でほとんど反映されていない第2レベル,分析結果が現場で反映されている第3レベルと,データ活用状況で病院を分類できるのではないかというような私見を述べてきた.また第1レベルの病院が第2レベルに,第2レベルが第3レベルになるために必要な条件を検討してきた.これらの話は,EVE(イブ),girasol(ヒラソル),Medi-Arrows(メディアロウズ)などのいわゆる「DPC分析ソフト」の活用に焦点を当てたものとも言える.

 今月号から3月号にかけて,「コストを含めたDPC分析」と題し,DPCと関連したコスト分析ソフトに焦点を当てながらコストを意識した経営について述べる.本稿は,昨年の『病院』10月号の特集,「医療費の配分を問う」の中において筆者が担当した「疾病間の医療費配分は適正か」という小論をベースに執筆している.この小論において,今回紹介するDPCと関連したコスト分析ソフトを用いて,現在の診療報酬における診療科間や疾病間での有利不利の有無を検討することにより,現在の診療報酬の妥当性を検討した.興味のある方は,ぜひ参照していただきたい.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・28

―男の料理教室 ちょっくらつまみ食い(1)―患者がおいしいと言ってくれる料理が作りたい

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.64 - P.65

 妻との死別から10年.自分の介護体験が元になり,「男の料理教室」を始めた.

その原点

 1997年に妻が突然体調を崩し入院.その日から家事全部を背負うことになる.主夫の仕事である.普段からやっていれば別だろうが,キャンプで作るカレーや焼き肉しか作れない.しかし,毎日そんなものばかり食べてはいられない.おまけに食べ盛りの息子が2人いて,毎日の食卓が恐怖だった.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第180回

恩賜財団 大阪府済生会千里病院

著者: 寺岡宏治 ,   東園浩文 ,   中原岳夫

ページ範囲:P.67 - P.73

■「心のこもった医療」を目指した病院づくり

 済生会千里病院の基本理念は「心のこもった医療」である.われわれはこの理念を展開できる建物として,「シンプルでわかりやすい機能的な病院」「患者の安心と安全を守り信頼される病院」「スタッフにとって快適で働きやすい病院」の3つを基本方針とし,現地建て替えという限られた敷地環境での整備を行った.

【復刻版】眼でみる病院の設備とはたらき・1【新連載】

入院患者の寝具

ページ範囲:P.74 - P.75

 『病院』誌では,1954年3月~1955年1月(Vol.10 No.3~Vol.12 No.1,当時は半年分6冊で1巻)にかけて,当時の聖路加国際病院長・橋本寛敏氏(本誌編集幹事)ならびに同院気管食道科・瀧野賢一氏による,「眼でみる病院の設備とはたらき」という連載を掲載していた.50年以上前の病院の姿を伝える貴重な資料として,本連載ではそこから一部を抜粋・要約し,全12回にわたり紹介してゆく.

リレーエッセイ 医療の現場から

本州最北端,ドクターヘリの現場から

著者: 昆祐理

ページ範囲:P.79 - P.79

 青森県ドクターヘリは,全国18番目の配備です.2009年3月26日より運行開始となり,10月26日までの7か月間で134件の出動がありました.スタッフは医師7名,看護師7名で,他に医師2名と看護師2名が現在訓練中です.

 青森県には2つの半島があり,八戸から最も遠いのは,下北半島大間町,津軽半島竜飛岬,そして日本海に面した深浦町です.当センターからはいずれもヘリで35~40分の距離です.広い青森県の中で,青森県ドクターヘリは近隣の現場救急から遠く離れた過疎地での高エネルギー事故,高次医療機関への病院間転送など様々な形で活躍しています.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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