icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院69巻12号

2010年12月発行

雑誌目次

特集 検証 平成22年度診療報酬改定

巻頭言

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.933 - P.933

 平成22年度診療報酬改定は,史上初の本格的な政権交代の下,民主党の公約,首相所信表明演説,厚生労働大臣の発言などにある,「OECD諸国並みの対GDP医療費比率」「地域医療を守る医療の報酬増」などを背景として行われた.中医協のあり方・構成メンバーなどの決定も大いに揉めたようである.

 結果としては,僅かながら医療本体は10年ぶりの増額改定となった.その結果から見えてくるものはどのようなものか,また今後の医療提供体制にどのような影響を与えるのであろうか.

平成22年度診療報酬改定が目指したもの

著者: 佐藤敏信

ページ範囲:P.942 - P.945

■はじめに―診療報酬改定と中医協

1.診療報酬点数表

 現行の診療報酬体系(診療報酬点数表)は,中央社会保険医療協議会(以下,中医協)への諮問・答申を経て,厚生労働大臣が告示する.

 告示される区分数,品目数は次のとおりである.

平成22年度診療報酬改定を振り返って―政権交代の影響を受けた改定

著者: 安達秀樹

ページ範囲:P.946 - P.949

 平成22年度の診療報酬改定は,その中間年において本格的な政権交代が起こるというかつて経験したことのない新しい事態の下で行われた.

 その具体的な影響は,まず,基本政策として,新しく政権を担うことになった民主党の政権公約の中で,従来の社会保障費の伸びの年2,200億円削減の方針が完全に撤廃されたこと,総医療費の引き上げが明記されたこと,などに規定されるものになるということであった.

平成22年度診療報酬改定で行った要望と今後の活動方針―日本病院団体協議会

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.950 - P.952

 日本病院団体協議会は,平成18年度診療報酬改定を迎える前に政府の決定による中医協改革が行われ,中医協に病院代表を送り込むことを目的に設立された協議会である.したがって,設立は平成17年であり,11の病院団体が参加している.

 その後,中医協には2名の病院代表が選ばれ,また病院協会としての要望を纏めるため,実務者会議が作られた.この会議の初代委員長は齊藤寿一氏(前社会保険中央総合病院院長)であり,平成20年度診療報酬改定の後,私が委員長を引き継いだ.

【インタビュー】

民主党の医療政策と平成22年度診療報酬改定

著者: 足立信也 ,   猪口雄二

ページ範囲:P.934 - P.940

猪口 今日は『病院』誌の編集委員としてインタビューに参りましたが,私は,全日本病院協会,四病院団体協議会の診療報酬担当として,何度か足立先生のところへ要望に伺ったことがあります.大変な政務官を1年務められていかがでしたか.

足立 全国の1人区で選挙をしたのは(本年7月参議院選),大臣,副大臣,政務官で,私1人ですからね.土日は選挙に集中.電話連絡はありますが,政務官としての仕事は月~金で完結するしかない.そして選挙活動も土日だけでできるかというと実際できません.それはもう覚悟のうえで,政権交代最初の極めて大事な時期だからと,当時の官房長官,参議院議員会長と相談して政務官を受けたわけです.しかし結果としては,両方やりきったという感じではないですね.

【平成22年度改定による収入の変化】

私立医科大学病院での影響―自治医科大学附属病院

著者: 小平喜之

ページ範囲:P.954 - P.957

 本稿では,平成22年度改定に関し,地方の一大学病院における収入の変化を報告する.なお,全病院の総病床数約160万床の中の病床数1,130床規模の一医療機関の状況報告であることを前置きしておく.以下に示す全ての財務データは,キャッシュフローの額を使用しており,損益勘定や資本取引額は含めていないことを予めご承知願いたい.

全国自治体病院協議会 診療報酬改定影響率調査結果(平成22年4~6月分)

著者: 佐藤裕俊 ,   邉見公雄 ,   今村知明

ページ範囲:P.959 - P.963

 今年度の診療報酬改定は10年ぶりのネット+0.19%改定であった.診療報酬(本体部分)は+1.55%,医科は+1.74%で,入院+3.03%(約4,400億円),外来+0.31%(約400億円)で入院医療に重点が置かれた改定であった.厚生労働省(厚労省)も崩壊しつつある急性期病院医療,特に救急医療,産科,小児科,外科を再建の重点課題とした.

 (社)全国自治体病院協議会では従来から診療報酬対策委員会が中心となり,診療報酬改定が行われる都度,病院収入に与える影響について調査・検証を実施してきた.今回も平成22年度診療報酬改定結果が病院収入に与える影響について,会員病院のご協力を得て4~6月の3か月分の収入について改定前年同月と対比しその増減率を比較検討した.会員病院947病院のうち604病院から回答があり,回答率は64%であった.このうち,診療体制の変化による収入への影響が大きい病院を除外した542病院を対象とし,以下の方法で解析したので報告する.

全日本病院協会「病院経営調査報告」から見える影響

著者: 西本育夫

ページ範囲:P.964 - P.969

 全日本病院協会では毎年「病院経営調査」を実施している.平成22年度診療報酬改定では医科で+1.74%(約4,800億円増),全体改定率も+0.19%(約700億円増)と10年ぶりにネットプラスとなった.この10年間,全日本病院協会の病院経営調査上,改定年は経営が悪化し翌年には調査協力病院の経営努力により辛うじて経営が改善する傾向が見られた.

 本稿では今回(平成22年度)の改定が調査協力病院にどのような変化を与えたかを報告するとともに改定の影響を考察する.

精神科での影響―一般科との比較も含めて

著者: 平川淳一

ページ範囲:P.970 - P.973

■精神科領域における診療報酬改定の流れ

 平成21年9月に民主党が政権をとり,診療報酬については一律20%のアップを公約としていたが,実際の改定率は+0.19%という低いものだった.重点課題としては,前回の改定同様,「救急,産科,小児,外科等の医療の再建」,「病院勤務医の負担軽減」の2点が掲げられ,ここにほとんどすべての財源が投入されたため,精神科領域においては,新たな財源はつかず,財政中立の枠の中で再配分が行われた.

 再配分の基本的な考えとして,平成21年9月にまとめられた「精神保健福祉のあり方検討会の報告書」の趣旨である「総合病院の精神科の活用を重視した精神科医療」を前提として改定作業が進められた.その結果,13対1の入院基本料の新設や,これまで総合病院においては認められなかった急性期治療病棟の運営が可能になるような施設基準の緩和,さらに総合病院に最も求められる合併症加算の引き上げが主要な項目となった.

療養病床での影響―日本慢性期医療協会

著者: 武久洋三

ページ範囲:P.975 - P.980

 診療報酬改定の療養病床での影響について,本年9月末現在での私の知りうる限りのことを報告したいと思う.

連載 【復刻版】眼でみる病院の設備とはたらき・12【最終回】

病院管理の徹底

ページ範囲:P.921 - P.924

 本連載では,『病院』誌において1954年に連載された「眼でみる病院の設備とはたらき」(執筆者は当時の聖路加国際病院長・橋本寛敏氏:本誌編集幹事ならびに同院気管食道科・瀧野賢一氏)をテーマごとに再編集・抜粋して紹介してきた.最終回となる今回は,今も昔も変わらず大切な,病院管理の基本「物・金・人」を取り上げ,連載のまとめとしたい.(本誌編集室)

デザインの力・12【最終回】

デザインに何ができるか?

著者: 山本百合子

ページ範囲:P.926 - P.927

 1年にわたる連載,デザインの力,今回が最終回となりました.

 単なる世の中にあるデザインの紹介ではなく,医療にたずさわる方々が,現場で使えるかもしれないデザインのエッセンスをご紹介したく書いてまいりました.いかがでしたでしょうか? 何かご不明なこと,ご感想など,下記,筆者のメールアドレスにお寄せいただけましたら幸いです.

より良い高齢者終末期ケア体制の構築に向けて・12【最終回】

より良い高齢者終末期ケア体制構築のために求められる条件―諸外国の取り組みを通して

著者: 岡村世里奈

ページ範囲:P.985 - P.987

 今年7月,英誌「エコノミスト」の調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(Economist Intelligence Unit: EIU)」が,OECD加盟国30か国とその他の10か国を対象とした「良質な死―世界の終末期ケアランキング」を発表した1)(表).この終末期ケアランキングは,「基礎的な医療環境(20%)」「終末期ケアの利用可能性(25%)」「費用負担(15%)」「質(40%)」の4つの項目について,それぞれの国の状況を24の定量的・定性的指標を用いて点数化し,その総合点によって順位付けを行ったものである.

 1位は英国で,日本は23位となっている.日本の項目別の順位を見てみると,「基礎的な医療環境」では2位,「終末期ケアの利用可能性」28位,「費用負担」31位,「質」21位となっている.このようなランキングは評価方法によっていくらでも変動するものではあるが,興味深い調査結果であることは間違いない.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・52

地域医療福祉部門の管理―MSWの視点での発展を考える

著者: 野田智子

ページ範囲:P.988 - P.991

医療ソーシャルワーカー(MSW)が配置されてから22年.MSW1人による医療福祉相談室が,MSW8人の医療福祉相談室に発展し,病診連携室,訪問看護ステーション,地域包括支援センター,居宅介護支援事業所を「地域医療福祉連携室」として管理することになった.病院の窓口機能を考え,なおかつ,地域医療や福祉を守るためにできることを模索する中で,医療ソーシャルワークの視点から管理業務を日々考え,実践していることを報告したい.

院内サービスの新展開・8【最終回】

―観賞魚水槽リース―「心の癒し」を提供する観賞魚水槽リースシステム

著者: 緑川清美

ページ範囲:P.992 - P.993

■障害をもつ人々の自立を支えて

 まだ障害者が地域で働ける場が少なかった1964(昭和39)年,社会福祉法人東京リハビリ協会は,クリーニング事業を主体とした作業所を開設した.以来46年にわたり,法人の理念「障害をもつ人々が,自らの力で地域における自立生活を可能とする」を実践し続けている.現在,立川市と西多摩郡日の出町で指定障害福祉サービス事業および地域生活支援事業による8つの事業を運営し,200人の利用者が生産活動に従事している.

 当協会の特徴としては,利用者に少しでも多くの工賃を支払えるよう,企業的手法を取り入れてきたことが挙げられる.障害の種類・程度にかかわらず効率よく作業できるよう,早くからクリーニング業務を大型機械化したこともその一例であるが,障害の多様化に伴い,どうしてもクリーニング業務にはなじめない利用者がいることが課題となっていた.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・39

―Person centered careの一側面―死者は死化粧されるのを望んでいるのか

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.994 - P.995

がんになっていなかったなら…

 「あなたに会いたがっている人がいるので,来てくれないか」と院長に頼まれ,あるクリニックの花見大会に行った.

 待っていたのは末期の膀胱がん患者のKさん.治療することができない状態になったため,退院して町のクリニックを受診した時,たまたま受付に拙著『がんのホスピスケアガイド』が置いてあった.流し読みしているうちにほしくなり,入手方法を院長に尋ねると,「近くに住んでいる人ですから,ご希望なら会わせますよ」と言ってくれた.その面会場所がクリニック主催の花見大会だったのである.

病院管理フォーラム ■女性医師支援・3【最終回】

潜在女性医師を採用するには

著者: 瀧野敏子

ページ範囲:P.996 - P.998

 ひとは自分の幸福のためだけには生きられない マリー・キュリー


 第1回では女性医師への支援が求められる背景,第2回では,就労継続のために必要な勤務体制について解説した.最終回となる今回は,様々な理由で一度医療現場を離れてしまった女性医師にもう一度戻ってきてもらうにはどうすればいいのかについて具体例を挙げて述べる.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第191回

公立福生病院

著者: 井上智史 ,   柴田浩

ページ範囲:P.999 - P.1005

 公立福生病院は,東京都西多摩医療圏に属する地域中核病院である.平成13(2001)年に東京都国民健康保険団体連合会から移管を受け,福生市,羽村市,瑞穂町で組織する福生病院組合が運営を行っている.

 移管以来,既存建物をそのまま引き継いで使用していたが,このたび現敷地内での全面建替を完了した.新たな建物(ハード)を得て,規模的にも内容的にも一層の充実を図ることにより,地域住民の健康の砦となる中核病院として,新たなるスタートを切ったと言えるだろう.

リレーエッセイ 医療の現場から

ミトンの中の手

著者: 三井ひろみ

ページ範囲:P.1009 - P.1009

 実家の母が,寝たきりになって1年半が過ぎようとしています.

 非結核性抗酸菌症を患って10年,咳がとまらず,血を吐いて病院に運ばれたのは昨年夏の終わり頃.「余命半年ぐらいだろうと,主治医から宣告された」と,老いた父から電話が入りました.父はショックのあまりか,言葉の先が続かず,妹が代わって,説明してくれました.

特別寄稿

世界の新潮流「第三の道修正」で「分権と委託」による大きな社会づくりへ

著者: 森下正之

ページ範囲:P.981 - P.984

 今回で13年目に入った英国医療PFI(Private Finance Initiative)の追跡調査において,世界に大きな衝撃を与えると実感したことがある.それは前評判の低い新連立政権に起因する刺激と混乱である.英国で本年5月に誕生した新連立政権は100日を過ぎ,「分権と大きな社会建設(Big Society)確立」のビジョンの明確性と急進的改革の枠組みに基づき,ぶれない確固たる政治姿勢を保ち,「政治権力の掌握に成功しつつある」との評価が英国をはじめ他の先進諸国で定着し始めている.

 振り返って見ると,同様な現象として1945年のアトリー労働党政権の「ベヴァレッジ福祉政策」や1980年代のサッチャー保守党政権の「民営化政策」が,日本は無論,他の先進諸国に大きな影響を与えたことが挙げられる.キャメロン・クレッグ連立政権は「分権化と大きな社会確立」のビジョンの下,財政再建と中央政府によるトップダウン意思決定の縮減を宣言し,国の権限を大幅に削減し,地方自治体,地域社会,家庭(患者)への大胆な権限移譲を掲げている.徹底的改革を行う主対象としては,教育,警察,NHS,福祉の4分野を明示し,分権化政策実施を後述の「大きな社会」政策と連携により推進すると述べている.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?