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雑誌目次

雑誌文献

病院69巻2号

2010年02月発行

雑誌目次

特集 病院管理会計とBSCの効用

巻頭言

著者: 大道久

ページ範囲:P.93 - P.93

 病院の経営環境が厳しくなる一方,患者・家族からは安心・安全な医療を強く求められており,それに対応できる合理的な経営管理手法が求められて久しい.管理会計は,貸借対照表や損益計算書などのよく使われる財務会計とは別に,組織管理や意思決定のために利用される会計であるとされる.医療分野においては,かねてから原価計算や指標の設定による比較検討などが行われてきたが,その発想は概ねそれに相当すると言える.近年,DPCの導入とその拡大などの流れの中で,改めて病院管理会計のあり方とその活用が大いに注目されるようになった.また,目標管理手法の側面を持つBSCも,その効用が認識されつつある.本号では,この病院管理会計とBSCの有効性と成果について取り上げる.

 まず,医療における管理会計と期待される役割について,総説的な解説を受けたうえで,わが国における診療科単位の部門別収支を,標準的な原価計算方式を用いて病院間比較を行った調査の概要を紹介していただく.これは診療科別管理会計と言うべきもので,その算定方式と調査結果は今後の病院経営に有効であろう.一方,採用する病院が増加しつつあるBSCについて,その基本的な方法と手順の紹介を受けた後,この管理手法を利用している諸外国の現況とともに,これまでのわが国の病院における全体的な取り組み状況と,今後の課題について総括していただく.また,精力的にBSCを導入して成果を得ている病院の経験から,病院組織がどのように変わったか,財務の視点から,その有効性や問題点について報告してもらうこととしている.

病院における管理会計と活用する際の留意点

著者: 池上直己

ページ範囲:P.94 - P.98

■管理会計とは?

 管理会計を財務会計と対比させると理解しやすい.財務会計の目的が外部の金融機関等への財務上の健全性に関する情報の提供であるのに対して,管理会計は内部の経営者に,経営管理に必要な情報を提供することにある.そのため,財務会計では方法・様式が他と比較できるように法規定で細かく規定,統一されているのに対して,管理会計では経営上のニーズに合わせて形式を随時変えることができる.また,財務会計は公表を前提としているのに対して,管理会計は公表しないことを前提としている.すなわち,管理会計は経営陣に役立てばどんな形式でもよいが,逆に経営に役立たなければ作成する意味もない.したがって,トップマネジメントとして,どのように活用するかを常に念頭に置いて管理会計に取り組むべきである1)

「医療機関の部門別収支に関する調査」の開発とその適用

著者: 財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構

ページ範囲:P.99 - P.102

 「医療機関の部門別収支に関する調査」(以下,部門別調査)は,診療報酬体系に医療機関のコスト等を適切に反映させるため,医療機関の診療科部門別収支の統一的な計算手法を開発することを目的として,平成15年度から手法開発が行われてきたものである.平成20年度には,それまでに作成された手法を用いて試行的な調査を実施し,その結果は平成21年7月29日の中央社会保険医療協議会 診療報酬基本問題小委員会において報告されたところである1)

 医療経済研究機構は,厚生労働省保険局医療課の委託を受けて,この計算手法の開発と平成20年度の試行的調査を実施した.この調査は診療報酬改定の参考資料作成を目指したものであり,病院内で経営管理のために実施される原価計算とは目的が異なるが,標準的な原価計算の手法を用いた複数病院の収支計算事例として,病院にとって参考になる点があると考える.ここでは,この調査手法の開発過程や実施内容を中心に紹介する.

医療におけるBSC利用の現状と課題

著者: 渡辺明良

ページ範囲:P.103 - P.106

 バランスト・スコアカード(以下,BSC)が日本の医療経営に導入されるようになってから,すでに10年近くになろうとしている.この間の変遷を振り返ると,三重県病院事業庁による県立病院の経営健全化計画を推進するマネジメント・システムとして2001年度から導入を進めた事例が報告されている1).また,聖路加国際病院では1999年度に医師の業績評価システムとしてBSCが導入され,その後2004年度に病院全体の戦略マネジメントツールとして展開された.済生会熊本病院では1996年度に「3ヶ年ビジョン」を構築し,その後行動計画書としてBSC的な活動を行い,2002年度にBSCとして認識し,2003年度には戦略マップが構築されるといった展開が報告されている2).その後,2003年に日本医療バランスト・スコアカード研究学会が設立されるなど,日本の医療において,BSCの導入が急速に拡大し,2007年の時点で,日本全国で約200病院の導入が確認されている3)

 その一方で,BSCに対する正しい知識や理解が不十分なまま,形式的なフォーマットだけを導入し,活用されていない事例や,BSCを経営管理の仕組みとして病院全体で十分に活用している事例など,その実態は様々である.失敗事例から示唆されることは,病院経営のツールとして活用することがBSC導入の目的であるにもかかわらず,BSCを作ることが目的化し,その作成に時間と労力を費やしてしまい,力尽きて利用にまで至らないということがほとんどである.

 そこで,本稿ではBSCを活用するために,どのような利用方法があるのか,その作成方法や運用方法のあり方について検討する.

BSC導入が病院にもたらしたもの―財務の視点を中心に

著者: 須藤秀一

ページ範囲:P.107 - P.110

 近年,医療機関を取り巻く経営環境が厳しくなる中で,経営管理の重要性が認識され,経営改善を図るための様々な取り組みが行われ始めている.医療機関においても,財務の視点から予算管理や原価管理を含めた管理会計の重要性が唱えられている.管理会計では,財務指標だけを目標とするだけではなく,患者満足等の非財務指標をも戦略目標としたマネジメントコントロール・システムを作り上げていくことが必要になっている.企業における管理会計では,戦略遂行のためのこのようなマネジメントコントロールが行われており,図11)のように戦略が最終的には業績に繋がるフレームワークが明示されている2)

 医療機関においても,長期的なビジョンを持って経営戦略に取り組むことが大切であり,戦略遂行のためのマネジメントコントロールが必要となっている.したがって,医療機関においても図1に示されているように,戦略遂行の結果が業績に明確に結びつかなければならない.そこで,戦略マネジメントツールとしてバランスト・スコアカード(以下,BSC)の重要性が認識され,導入する医療機関が増加している.BSCを活用することで組織全体を戦略の方向性に一致させ,戦略志向の組織体を作り上げることが期待されるとともに,医療機関において弱いとされる財務の視点をしっかりと認識することに繋がる.

【座談会】今後の病院経営における原価管理をどうするか

著者: 相田俊夫 ,   石井孝宜 ,   塩崎英司 ,   秦温信 ,   大道久

ページ範囲:P.112 - P.118

大道 改めて指摘するまでもありませんが,病院の経営環境は大変厳しくなる一方です.政権交代で今後の見通しは必ずしも定かではないものの,まさに病院経営には様々な対応が求められていると言えるでしょう.例えば,DPC対象病院が大幅に増加しました.DPCのような,いわば定額的な支払方法においては,原価管理は経営の基本の1つにならざるを得ないところがあります.

 病院にも,貸借対照表・損益計算書等,財務諸表に則った会計についての基本的な取り組みがありましたが,今回の特集は,病院という特異な組織では,組織管理や意思決定のための会計というのがあるのではないかというのが1つの主旨です.本日は病院の管理会計を背景に,その基本とも言うべき原価管理についてお話しいただこうと,お集まりいただきました.まずは自己紹介を兼ねて,それぞれの取り組みをお願いします.

【事例】診療科単位(外科)でのBSC導入の意義

著者: 田中信孝

ページ範囲:P.119 - P.122

 医療は,医師,看護師,検査技師,薬剤師,臨床工学技士,療法士,栄養士,ソーシャルワーカー,事務職など多くの職能集団による協働行為で成立し,その果実が診療機能,医療の質,療養環境,安全性,サービスとして表現されており,病院は,その全統治機能と運営管理を担っている.病院は通常,組織体として,診療部,看護部,薬剤部,事務部,企画情報部などの部門別構成形態で表現されているが,それはいわば単なる職種分類であり,相互作用からなる本来的な病院機能を反映したものではない.

 各部門の体制は強固であり確立されたものであるが,部門は独立してガバナンスを発揮できるわけではない.トップダウンにより各部門でBSC(バランスト・スコアカード)の作成が求められることが多いが,結果は部門のコストセンターとしての特殊性が色濃く反映されたもので,BSCに名を変えた目標管理,方針管理に留まり,発展的意義を見出しにくい.それにひきかえ,診療科あるいは病棟は,多くの職能集団の実践の場であり,病院総体のミニチュア版と言えるため,診療科単位あるいは病棟単位こそが,病院の意向を汲んだうえでガバナンスを発揮できる存在形態であり,BSC導入に最適の場と考える.

【事例】カナダ・オンタリオ州での医療BSCの現状と医療政策における利用

著者: 髙橋淑郎

ページ範囲:P.123 - P.128

■オンタリオ州での医療BSC導入いくつかの背景

 カナダ・オンタリオ州では1990年代後半,アメリカの初期のCABGレポートカードと内容的に類似した,オンタリオCABGレポートカードがCardiac Care Network of Ontario(CCN)より毎年刊行されるようになった1,2).その後,初のオンタリオ病院レポートも刊行され(詳細は後述)3),それに呼応するかのようにカナダのFraser Instituteが独自の病院レポート・カードを公表した4).この両者は,CIHI(Canadian Institute for Health Information)からの類似のデータを使用している.

 レポートカード開発の機運が高まった原因は,かなりの資源を投入して医療を提供しているにもかかわらず,期待される医療と実際の質とのギャップが埋まらないことであった.このジレンマは同時に,医療政策にバランスト・スコアカード(BSC)を利用しようという政策的動きにもつながった.

【事例】職員満足度とBSC

著者: 齋藤哲哉

ページ範囲:P.129 - P.132

 福井県済生会病院は,1993年に新築移転してから16年が経過している.移転時の職員数は約500人だったが,現在では約1,200人を超える職員が働いており,職員数が約1,000人を超えた頃から,組織間の連携やベクトルの統一,さらには情報共有が難しくなってきた.職員の増加による弊害は,組織が目指す方向性の優先順位をも変えてしまうセクショナリズムである.自部署の利益や存続が目的となり,理念やバリュー(共通の価値観),患者への安心・安全がおざなりになるケースである.各部署の職員がそれぞれ優秀であっても,各部署が別々の方向で行動すれば,組織の壁をつくり,患者への価値提供が後回しになる恐れがある.さらに組織としての一貫性がなくなることで,組織が求めている相乗効果は生まれない.

 医療環境が厳しい中で生き残るためには,現場で働く職員が組織の方向性を理解して行動し,組織が求める相乗効果という大きな力を生まなければならない.また現場で働く職員が考える力と実行する力をつけ,持続的な競争力を生むことも重要である.

グラフ

安心・安全な食事を届けたい―ヘルスケアキッチン みたけ 松誠会グループ セントラルキッチン

ページ範囲:P.81 - P.84

 医療法人社団松誠会と社会福祉法人松実会からなる松誠会グループのセントラルキッチンとして「ヘルスケアキッチンみたけ」(以下,「みたけ」)が本格的に稼動を始めたのは2008年4月.岩手県の盛岡市,滝沢村,八幡平市に点在する2病院と7つの高齢者施設へ,現在1日2,500食を提供している.開設前は各施設の厨房において,それぞれ食材を購入・調理していたが,2005年の介護保険法改正による給食費の大幅な減額への対応策として,セントラルキッチン化に踏み切った.

連載 デザインの力・2

目に見える要素

著者: 山本百合子

ページ範囲:P.86 - P.87

 今日,誰もが何か,書類などを作らなければならない機会を持っているだろう.特に,医療の現場では,発表用や掲示用など,不特定多数に見せたいものも多いはずである.

ここでは,そのちょっとしたデザインのコツをご紹介したい.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・42

MSWの地域活動―社会福祉専門職団体との協働

著者: 樋口美智子

ページ範囲:P.134 - P.137

 MSWは,患者・家族の多様なニーズに応え,個別の支援を主たる業務とする.また,医療機能の分化に伴い,院内外における連携やコーディネート機能に対する役割への期待も大きい.一方,度重なる制度改正に,医療・介護現場は翻弄され,その問題や矛盾は,患者・家族にしわ寄せがいっている.しかし,患者の人権と自己決定を保障し,患者の立場に立って支援するMSWが,その機能を十分果たせない現状もある.

 このような中で,沖縄県内では,社会福祉専門職団体が協働し,社会福祉に関する問題解決や啓蒙,ソーシャルワーカーの社会的認知と資質向上を目的に活動を行っている.本稿では,社会福祉専門職団体と協働してのMSWの地域活動の意義と課題について考える.

より良い高齢者終末期ケア体制の構築に向けて・2

米国の高齢者終末期ケアの動向①―メディケア・ホスピス給付の概要

著者: 岡村世里奈

ページ範囲:P.138 - P.142

 前回述べたように,現在,多くの欧米諸国では,「Cure(治療)」を中心とした医療システムから「Palliative(緩和ケア)」の概念を組み入れた医療システムへ移行を図り,また,それと同時に,そのために必要な法整備や医療関係者の教育等を進めていくことによって,より良い高齢者終末期ケア体制を構築しようとしている.そこで,今回からはこれらの諸外国の取り組みについて具体的に見ていこうと思う.

 最初に取り上げるのは米国である(本連載2~5回予定).図1は,米国の65歳以上の高齢者の死亡場所の割合の推移を示したものである.この図からもわかるとおり,米国では,病院で死亡する高齢者の数が減少する傾向にあり,その一方で,ナーシングホームや高齢者住宅,在宅等で死亡する高齢者の数が徐々に高くなってきている.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・29

―男の料理教室 ちょっくらつまみ食い(2)―人は食にケアされている

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.144 - P.145

男の料理教室NG集

 包丁を鉈のように振り下ろす人がいれば,肉を半分に切ろうとしても2対1になる人もいたことを前回綴ったが,道具が包丁であるだけに怖い.例えば,包丁を持つ反対の手は,指を内側に曲げて材料を軽く押さえる.これを「猫の手」と言うが,指を伸ばしたまま切る人がいた.僕らの子ども時代は鉛筆削りなどなく,誰もがナイフで削ったものだ.だから包丁くらい扱えると思っていたが,実際はそうではないようだ.声を大にして,包丁の使い方を指導することになる.

 調理にお酒は付き物.少し加えることで味がよくなる.たっぷり使ったところで大さじ2杯か3杯だ.10名ほどの教室だから,ワンカップ1つでも余るだろうと用意したが「お酒をたっぷり入れましょう」とのインストラクターの言葉に,ある男性,ワンカップをドバッと自分の鍋に入れてしまった.

病院管理フォーラム ■DPCを軸とした病院の経営管理・9

コストを含めたDPC分析②―どのように患者別のコストを計算するか

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.146 - P.147

●なぜ,コストおよび収支の分析か

 先月号では,支払い方式が「出来高」から「包括」に変わり,コストおよび収支(赤字または黒字の額)をしっかり把握しなければ病院経営が成り立たない時代になりつつあることを説明した.また,これまで膨大な手間が必要であった患者別のコストおよび収支の計算が,DPCデータとリンクした患者別コストおよび収支を計算するソフト(以下,「収支計算ソフト」と呼ぶ)の出現により,「非常に小さな労力」で実施できるようになりつつあることを述べた.コストや収支の計算の必要性が高まり,それを行う負担が減っているので,今後コストおよび収支計算をベースにした経営が急速に広がるだろうというのが,先月号の結論である.

 今月号では,収支計算ソフトがどのようにコストを計算しているかを紹介しながら,患者別収支計算の基本原理を説明する.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第181回

久留米大学医療センター

著者: 藤記真 ,   大守昌利

ページ範囲:P.149 - P.155

 本医療センターは,久留米大学が国立久留米病院の移譲を受けて設立し,同じ市内にある久留米大学病院および隣接するリハビリテーションセンターと連携・機能補完しながら,地域医療および高度専門医療の教育・研究・診療を担ってきた300床の地域中核病院である.

 計画にあたっての大きなテーマとして,患者本位のわかりやすく温かみのある療養環境とすること,床面積の制約(70m2/床以内)を克服しつつコンパクトかつ高機能な建築計画とすること,将来の拡張・増築をあらかじめ考慮した更新性の高い計画とすること,恵まれた環境の光と緑を建物内に積極的に取り込むこと,歴史ある既存樹を極力保存することなどが挙げられる.これらのテーマを踏まえて,本医療センターの特色を生かすべく,さまざまな工夫を行った.

 工事は敷地全体に広がる旧病院を運用しながらの建替計画となり,第1期の附属棟・エネルギーセンター,第2‐1期の入院棟,第2‐2期の外来棟と工期は大きく3期に分かれた.

【復刻版】眼でみる病院の設備とはたらき・2

完全給食

ページ範囲:P.156 - P.157

 食欲のない病人に栄養に富む食物を充分に与えることは並大抵のことではない.それで病院の給食は,ホテルのそれに比較して一層,工夫も手数もかかる.殊に特別の疾患に対する食事療法としての特別食の調理は,医学に基いた科学的操作でなければならない.

 食事のすすまない患者に,うまく食べさせるには食物が温かいことが必須条件であって,この為には特別の注意が必要である.

リレーエッセイ 医療の現場から

医師と患者を隔てる2つのカベ

著者: 西根英一

ページ範囲:P.159 - P.159

 ひとによって,1つの内容から何を引き出すかは違います.日本糖尿病学会が主催するシンポジウムで,講演の機会をいただいた時のことです.私の講演テーマは,「糖尿病のリテラシー」についてでした.

 後日,有名企業で上級役員職を務める方から「携わっている病院経営に,西根さんが講演した内容を参考にしたい.その相談をできませんか」という電話がかかってきました.彼は私の講演から,病院経営に必要なヘルスコミュニケーションのあるべき姿……を情報として引き出し,自らのフィールドで活かしたいと思ったようです.お会いしたところ,私が講演の際に数枚入れ込んでいた「医師と患者を隔てる壁」に関するスライドについて,この発想に興味を持ったということを知りました.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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