icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院69巻5号

2010年05月発行

雑誌目次

特集 長期療養ケアにおける看護の役割

巻頭言

著者: 池上直己

ページ範囲:P.333 - P.333

 欧米で近代病院が誕生したのは18世紀の後半であり,医学的な治療によって治すことができる患者を,福祉施設から分離収容することで始まった.つまり,「治す」ことが病院の存在意義であり,「療養」の場である福祉施設から機能的に分かれる形で創設された.また,看護職の教育は,19世紀後半にナイチンゲールが近代看護学を確立した際に,病棟における患者の管理と看護学生の教育を,1人の総婦長が同時に担うことはできないと判断し,教育を実務より分離した.

 一方,日本の病院は,元々福祉施設がなかったので,医師が手近で患者を診るための宿泊施設として誕生した.その後も福祉施設の発達は遅れたので,1973年に老人医療が無料化されると,一部の病院は「療養」の施設となった.入院中の療養の世話は,戦前は主に家族が担っていたが,戦後の占領軍による病院の改革により,主役は看護職に次第に移っていった.しかし,特に老人病院においては今から20年前まで,家族の代替として付添婦が広く定着していた.

療養病棟における看護師の役割―生活を看るプロフェッショナル

著者: 桑田美代子

ページ範囲:P.334 - P.337

■看護の役割が発揮できる場

 青梅慶友病院(以下,当院)は,許可病床数736床(医療療養病棟239床,介護療養257床,認知症疾患型240床)を有する病院である.入院患者の平均年齢約88歳,平均在院期間3年4か月,8割が認知症を有し,9割が亡くなる“終の住処”の役割を担った施設でもある.筆者は15年前,老人看護を極めたいと考え就職した.入職当時は「介護力強化病院」と呼ばれており,ケアの質向上にスタッフが一丸となって取り組んでいる姿は,急性期の医療機関にはないパワーを感じたのを覚えている.

 看護師は“療養上の世話”と“診療の補助”という2つの業を行う者と保助看法には定められている.療養病棟では“診療の補助”以上に“療養上の世話”についての役割が大きいことは事実である.しかし,医療についての知識と,生活支援の知識・技術も合わせて必要とされるのが療養病棟であり,看護師本来の役割が最も活かせる活動の場であると考えている.また,現在検討されている多職種との連携,チーム医療についても以前から実践されている現場でもある.今回,これまでの経験をもとに,療養病棟における看護師の役割について述べたい.

医療療養病棟におけるケアの質と記録の改善の取り組みから見えたこと

著者: 池崎澄江 ,   森智美 ,   池上直己

ページ範囲:P.338 - P.342

 2006年に医療療養病床において,ADL区分・医療区分による包括評価が導入され,2008年には,病棟のケアの質を評価するため,毎月,各病棟における褥瘡や尿路感染症等を有する患者の割合を算出する「治療・ケアの内容の評価表(以下,Quality Indicators:QI)」と,それらに該当する患者のケアを具体的に提示する「治療・ケアの確認リスト」が導入された(表1).QIは,アメリカにおいて,入所者を包括的にアセスメントするMDS(Minimum Data Set)1)を用いてナーシングホームにおけるケアの質の管理と監査をする際に使われている指標を2),参照して考案された.こうした施策を受け,現場では,質を担保するケアと記録が重要となり,またケアの質である以上,看護職が中心的役割を果たすことになる.

 ところが,看護職が体系的にケアの質の改善に取り組むことは,容易ではない.これまでに筆者らは,ケアの質に関する研究を行ってきたが3~5),調査期間中の協力に留まる傾向であった.本事業は2か年の2年目であり,前年度においては5),MDS/CAPs1)を参考に治療・ケアの確認リストに相当するケア指針を作成し,医師・看護師が指針に沿ってケアを確認することによって質の改善を目指した.だが,病棟において指針は十分に読まれず,効果はきわめて限定的であった.そこで,2年目の本研究では,海外での先行研究を参考に6~7),モデル事業として,外部の看護師を半年間にわたり2つの病院に派遣し,ケアの質と記録の改善を目指した8)

認知症ケアにおける看護師の役割―教育の現場から

著者: 臼井キミカ

ページ範囲:P.344 - P.348

 介護保険が始まって10年が経過しようとしており,認知症対策は介護保険発足当初と比較すると色々な面で大きく前進してきた.しかし,自立度Ⅱ以上の認知症高齢者の数を見ると,2010年では208万人であったものが,30年後の2040年には385万人と推計されており1),尊厳を踏まえたケアのあり方や人権問題等が一層重要になり,「認知症ケア」は今後も大きな課題であり続けるものと思われる.

 かつて「褥瘡は看護の恥」と言われ,看護の基本が説かれた時代があったが,それに代わって「入院して骨折は治ったが認知症は重度化した」と囁かれていることに対して,何とかしなくてはと必死の思いでいる看護職は筆者だけではないはずである.その昔,高齢者の医療費増大を問題視した米国政府が執った施策は,全米のナーシングホームに,1人の看護師を配置することであったと聞く.その結果,異常の早期発見や予防的なケアが取り組まれ,それまでは重度化してからの対処であったものが軽度のうちに対処可能となり,こうした質の高い看護がもたらした恩恵は,高齢者本人やその家族には勿論のこと,国家レベルでの大幅な医療費の削減にもつながったのである.

 さて,ここでは,超高齢時代において看護師は認知症高齢者のニーズにどのように応えているのか,あるいは今後応えなければならないのかを教育の立場から考えたいと思う.

急性期病院から長期療養病院・施設にケアをつなぐ―退院支援看護師の立場から

著者: 柳澤愛子

ページ範囲:P.349 - P.354

 医療制度改革(2006年度)により医療機能の分化・連携の推進による切れ目のない医療を提供することが掲げられた.このことから入院のみで医療は完結せず,退院後のケアが必要になり,在宅または次なる病院・施設において継続して,医療・看護・介護を提供する重要性が増してきた.東京大学病院でも在院日数の短縮に向かって,病院職員全体に医療連携の円滑な運用の必要性が浸透し,成果が上がってきたと言える(図1).

 東京大学病院地域医療連携部は,退院支援を行う部として,医療社会福祉部という名称で1997年4月に設置された.筆者は,在宅療養のコーディネートを行う退院支援看護師として開設当初から関わってきた.多職種の専任スタッフ(専任医師,看護師・MSW)が全入院患者を対象に退院支援を行い,患者・家族が安心し満足できる早期退院が可能になった.しかし当病院においても退院後の受け皿を確保し,切れ目のないケアを提供することが,実際には困難を有しているのが実情である.なぜなら急性期病院からの転院・転所先として受け入れてもらえるところがことのほか少ないのが現実である.

在宅療養ケアにおける看護師の役割―医療機関と地域の橋渡しを行う訪問看護師

著者: 髙砂裕子

ページ範囲:P.356 - P.359

 訪問看護制度は高齢社会を見据え,1992年,老人保健法の改正に伴って創設された.その後1994年の健康保険法改正で創設された医療保険の訪問看護制度において対象者の年齢制限がなくなり,2000年には介護保険法に基づき,居宅サービスの1つとして提供されるようになった.

 訪問看護ステーションは全国に約5,500か所あり1,2),約2万7,000人の訪問看護師が従事し(2005年)3),介護保険給付による訪問看護利用者は約26万人/月1,2),医療保険給付による訪問看護利用者は6万人/月に上る1,4).介護保険制度創設時の居宅サービス利用者は約97万人5)であったが,今では2.5倍以上の約270万人6)に増加している.

【座談会】長期療養における看護師に期待する役割

著者: 石田信彦 ,   高野龍昭 ,   服部紀美子 ,   池上直己

ページ範囲:P.360 - P.366

池上 本日のテーマは長期療養における看護師の役割です.私はこの分野の研究に関わる中で,療養病棟において看護師が非常に重要な役割を果たしているにもかかわらず,必ずしも周りから評価されていない現状を見てきました.また,当事者である看護師自身も,どういう目的で臨むべきか,日々何をすべきかを十分に認識していないという問題意識をもっております.

 そこで本日は開設者の立場,療養型病院看護部長の立場,そして元MSW・ケアマネジャーであり現在は教育者・研究者の立場というお三方に,それぞれの観点から話し合っていただこうと思います.まず自己紹介と本日のテーマとの接点を述べていただけますか.

グラフ

暮らしを大切にする長期療養ケア 医療法人笠松会 有吉病院

ページ範囲:P.321 - P.324

 かつて産炭地として栄えた福岡県の筑豊地域は,今では人口が減少し高齢化が進んでいる.1980年,有吉病院はこの地に19床の診療所としてスタートし,現在は医療療養病床56床,介護療養病床90床を持つ.2002年には全国に先駆けて介護療養病棟を個室・ユニット化して注目を浴び,その後,医療療養病棟にも導入している.

 個室・ユニットケアによって,長期療養高齢者1人ひとりの暮らしを大切にする個別ケアへと,看護・介護のあり方が変わっていったという.

連載 デザインの力・5

伝える対象

著者: 山本百合子

ページ範囲:P.326 - P.327

 どんなに重要な告知,どんなに魅力的な印刷物も,それにアクセスできなければ,意味がない.人の能力や姿には多様性があり,その条件によって見えないもの,聞こえないもの,理解できないものがある.ここではその多様性の形と,具体的なアクセシビリティの確保の方法について考えてみたい.利用者のより広い多様性をカバーするということは,標準的な人にもより快適で便利な形となる場合もある.

院内サービスの新展開・1【新連載】

―院内カフェ(前編)―病院内に『癒しの空間』を~店舗導入~

著者: 町澤慎一

ページ範囲:P.372 - P.373

 2004年4月,タリーズコーヒージャパン株式会社(以下,タリーズコーヒー)の病院内店舗1号店となる「タリーズコーヒー 好仁会 東大病院店」がオープンした.その後,病院内店舗は全国に展開し,現在では25店舗(2010年4月現在)が病院内に出店している(表).

 病院では,心身に不安を抱える患者・家族だけでなく,日々緊張感のある中,医師をはじめとする多くの医療スタッフが働いている.その医療現場に,ホスピタリティ(おもてなしの心)のある『癒しの空間』を提供したいと考えたのが,タリーズコーヒーが病院内への出店を決めたきっかけであった.幸いにも病院・患者双方から好評をいただき,最近では病院サイドからも出店の依頼をいただいている.

より良い高齢者終末期ケア体制の構築に向けて・5

米国の高齢者終末期ケアの動向④―終末期の意思決定(下)

著者: 岡村世里奈

ページ範囲:P.375 - P.378

 前回紹介したように,米国では,患者の希望する終末期ケアを実現するためには,事前指示(自分が受けたい医療について自分で判断することができなくなった場合に備えて,あらかじめ自分が受けたい医療内容について指示した書面や自分の代わりに判断してくれる者を指示した書面のこと)が有効であると考えられている.そのため,1980年代後半以降,米国では,各州でこの事前指示に関する法律が次々と制定されている.また,1990年には連邦患者自己決定法が制定され,医療機関や介護施設に対して,入院の際に患者に対して事前指示作成の権利があることを伝えること,患者が希望する場合には事前指示書作成の支援をすることなどが義務付けられている.

 しかし,こうした法制度の整備にもかかわらず,米国の終末期医療やケアの現場では,事前指示が有効に活用されていないという報告が数多くされている.そこで現在,米国の終末期医療やケアの現場では,事前指示を有効に活用するためのいくつもの取り組みが行われている.そこで,今回はこれらの取り組みのいくつかを紹介していきたいと思う.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・45

手をつなぐ地域連携―「つながりネットワーク」の試み

著者: 安武一

ページ範囲:P.379 - P.383

 病院内だけでなく地域での支援の必要性を感じ,地域包括支援センターの保健師らとともに,「つながりネットワーク」を立ち上げた.それは,高齢者が住み慣れた「多久市」「我が家」で安心して暮らしていくために,日常的に相談しやすい「つながり」をつくることを目指すものである.高齢者を支援する様々な職種や地域機関が,医療・福祉の垣根にとらわれず連携をとって家庭訪問し,連絡票を用いて「ちょっと気になる高齢者」に早期に関わることで,状態の重篤化を予防し在宅生活を支援する.本稿ではそうした「つながりネットワーク」の取り組みについて紹介する.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・32

―食はスピリチュアル~病院給食雑感(2)―シンプルなものほど味の一定化がむずかしい

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.384 - P.385

精神的なうまさ

 味というものは調理人の腕だけで決まらない.どんな場所で,どんな人が,どのように作っているかで変わってしまう.また,精神的な味というのもある.おふくろの味やふるさとの味がその代表だと思う.

 僕は子どもの頃にチョコレートを食べ過ぎて,バスに酔ったことがある.それ以来,チョコレートには抵抗があり,特にナッツ入りチョコレートは手が出ず,某メーカーの板チョコしか食べない.これは一種の「味トラウマ」と思うが,味とはなんと複雑なのだろうか.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第184回 精神科病院二題

つつじメンタルホスピタル

著者: 名原淳

ページ範囲:P.386 - P.389

■新しい精神医療の場を創る

 群馬県館林市は都心から北へおよそ60kmに位置する北関東の都市で,冬には「赤城おろし」のからっ風,夏には雷や40℃近い高温となることも少なくない土地であるが,春から夏にかけてはツツジやサクラをはじめとした様々な花が咲きみだれて訪れる人々に潤いを与えている.ヤマツツジを市の花としている.

 この館林の地に,「青柳病院」の名で長く精神医療を行ってきた172床の病院が2008年7月に「つつじメンタルホスピタル」の名称のもとに生まれ変わった.

横浜カメリアホスピタル

著者: 松村正人 ,   下手彰

ページ範囲:P.390 - P.393

■ロケーションと施設概要

 当院は長崎県の大村共立病院を母体とし,首都圏において「専門性の高い精神科保健医療福祉の創造」を目指し,児童思春期精神科医療,うつ病専門医療,ストレス関連疾患専門医療を柱として計画された.

 敷地は横浜市の郊外,都会の喧噪からほどよく距離をおいた小高い丘陵地で周囲は畑に囲まれたのどかな住宅地が広がる.施設は敷地の傾斜を活かして3階建ての一部を地下化して2階風ボリュームとすることで周辺環境と調和しているが,そのホテルのような瀟洒なデザインは目をひく存在である.

【復刻版】眼でみる病院の設備とはたらき・5

病院の舞台裏装置(前編)―熱・電気・水の供給

ページ範囲:P.394 - P.395

 病院の診療,看護,給食,その他の設備を働かせるエネルギーは,熱,電気によって供給される.又人体と同様に病院の生理作用を維持するには豊富なる水の供給が必要である.如何に良い病院設備をもっていても,これらの供給が停止すれば病院の活動は直ちに停止する.それで熱,電気,水の供給をとどこうりなく十分にするのに必要な装置設備の管理には特別の注意を払わなければならない.

リレーエッセイ 医療の現場から

うつ病患者の暮らしと心を見つめて

著者: 関口潔

ページ範囲:P.399 - P.399

 人は何のために生きるのか.そんなかたちで精神のありようを問われてみると,自分でも納得のいく答えというものはなかなか出てこないものです.あえて解を探そうとするなら,誰もが「幸福」なるものの姿を希求しながら日々を過ごし,その中にある喜びを希望に昇華させながら生きているのではないかという,心もとない推察に頼るのかもしれません.幸福や喜びと無縁の人生など,自ら望む人はいないでしょう.しかし,そんな絶望にも似た感覚に憑かれてしまった人々を,私たちは「うつ病患者」と呼び,治療・支援の対象とみなします.私は,これまで約2,000サイトのうつ病患者ブログの調査研究に携わり,その言葉世界に横たわる無数の想いの轍を見てきました.

特別寄稿

テレビドラマの中の病院(前編)―米国ドラマ『ER』と韓国版『白い巨塔』・台湾ドラマ『ザ・ホスピタル』

著者: 渡部幹夫

ページ範囲:P.368 - P.371

 マイケル・クライトンが昨年亡くなった.ハーバード大学医学部を卒業した医師でもある作家として,また映画やテレビドラマのプロデューサーとして多くの作品を遺した.彼の作品の1つであるテレビドラマ『ER』も15年15シーズンにわたる300回を超える作品として残された1)

 筆者は,第1話から今後日本で放映予定の15シーズンまで,日本語版全話の医学監修を引き受けてきたが,15年の間にアメリカを中心とした現代史も日本の歴史も,日米の医療を取り巻く環境も激変した2).このドラマの面白さに魅入られた翻訳者・演出家・声優諸氏・その他スタッフは,日本語版として全話を制作することに特別な熱意を持っている.実際,長期にわたったにもかかわらず,日本版制作メンバーは初回から今まで,ほぼ変わらずにきた.筆者も最終回まで無事に終えたいと思っている.この仕事の間に,韓国版『白い巨塔』3)と台湾ドラマ『ザ・ホスピタル』4)の日本語版制作にも協力した.

 本稿では2回にわたり,筆者が医学監修で携わった米国と東アジアの医療ドラマを紹介しながら,これらを観ながら感じた,ボーダレスな世界における“病院”について,若干の考察を試みる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?