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雑誌目次

雑誌文献

病院69巻7号

2010年07月発行

雑誌目次

特集 死生観が問われる時代の医療

巻頭言

著者: 広井良典

ページ範囲:P.501 - P.501

 少し前に『千の風になって』という歌がヒットしたり,映画『おくりびと』がアカデミー賞を受賞して話題となるなど,死生観というものへの人々の関心が高まっていることは言うまでもない.このことは,経済成長の時代を生き抜いてきたいわゆる「団塊の世代」の人々が退職期を迎え,老いそして死というテーマに直面していくこれからの時代において,一層顕著になっていくだろうし,若い世代の間でも生や死の意味づけに関する関心が高まっていると感じられる.

 他方で,年間の自殺者数が12年連続で3万人を超えたことが先般明らかになり,そうした課題が深刻であり続けるなどの閉塞的な時代状況の中で,「生きること」への積極的な支援や意味づけが求められている.死生観というテーマは,一方でターミナルケアというテーマと深く関わるが,同時に,そのような生に向けた支援という課題とも不可分である.一見すると,ターミナルケアなどにおいて問われているのは「安らかな死」あるいは「死の受容」という課題で,他方,自殺予防などをめぐる課題が「生」に向けた援助であるとすれば,両者は表面的には逆のベクトルを向いているように見えるが,充実した生と安らかで尊厳ある死という二者は,むしろ表裏一体のはずのものではないか.本企画に関する編集委員会での議論でも,ターミナルケアと自殺問題は,一見別の領域のテーマのようにも見えるが,尊厳が守られない生と死,あるいは命が軽いものとして扱われている時代という点で共通の根を持っているのではないかという指摘が出された.

現代死生学の誕生とその広がり―なぜいま死生学か

著者: 島薗進

ページ範囲:P.502 - P.506

■死生学とホスピス運動

 現在の世界的な死生学の興隆は,イギリスやアメリカ合衆国が起点となり,近代医療の限界を自覚するところから始まった.病院は死にゆく人々のケアについて自覚的な対処をして来なかった.生物医学的な医療は病気を治すためには最大限の力を注いできた.医師は病気を治すための知識を身につける組織的な教育を受け,医学研究は痛んだ身体機能を回復するために膨大なエネルギーを注いできた.しかし,そもそも病院を訪れる人は回復して平常に戻るため,また労働や健康人らしい交流に復帰するための措置だけを必要としているのだろうか.死に向けての余生を人間らしく過ごしていくための場とそのためのケアも求められている.いや,むしろそこにこそ,医療本来のケアのあり方が見て取れるのではないか.

 このことに気づいたのは,イギリスのロンドンで看護師として,また医療福祉係として病院に勤めていたデーム・シシリー・ソンダース(1918-2005)である.ソンダースは1947年,がん治療を専門とする病院で職を得たが,あるとき手術ができないユダヤ人の患者と出会った1).この患者は強制的に退院され,別の病院に移ったが,ソンダースはその患者が翌年死亡するまで,頻繁に見舞いに訪れた.悲しい死別を経験したソンダースは,死にゆく人のケアが適切になされるべきこと,また痛みを和らげる医療がぜひとも必要であることを確信し,再び学生となって医学の勉強を始めた.そして,医師資格を得てからも痛みの緩和の研究という新しい分野に取り組んだ.

樹木葬と里山の自然再生―小さな生命との触れ合いで癒しの効果

著者: 千坂げんぽう

ページ範囲:P.507 - P.510

■墓地前史

 中世までの葬送では,死体のケガレが嫌われ,住居から離れた所に葬られるのが主流であった.平安時代に作られた餓鬼草紙の1枚は,塚付近の死体が野犬に食いちぎられている様子を描いている.このことからウメハカ(直接遺体を埋めた場所)は,ほとんど顧みられず放置されたままであったことがわかる.

 藤原道長は一族のウメハカがある宇治の木幡に浄妙寺を造ったが,その動機は,木幡に参った時,祖父の墓も定かでなく鬼気迫る状況であったからとされる.公家においても肉体は重要視されず,魂の救済がなされれば良いとする傾向が強かった.一族の権力が永遠に続くことを願う聖なる宗教行事は寺院などに属するマイリノハカ(供養するための墓石がある場所)で行われたのである.

病院内の自殺事故―その予防と事後対応

著者: 河西千秋 ,   加藤大慈 ,   橋本廸生

ページ範囲:P.511 - P.515

 わが国で自殺問題が深刻化している.自殺者数は,昨年まで12年連続で毎年3万人を超え,自殺率(人口10万人対の自殺者数)は25前後と,先進国中で最悪の水準のまま推移している1,2)

 この状況を受け,2006年10月に自殺対策基本法が施行され,2007年6月には自殺総合対策大綱が策定され,自殺を「社会的取り組みで抑制する」という方針が国によって示された.大綱には9つの喫緊の課題が掲げられている2)(表1).

自己治癒力を高める

著者: 川村則行

ページ範囲:P.516 - P.519

 自己治癒力とは,人間がもつ生命力そのものである.肉体を健康な状態に維持するためには,1)恒常性維持機能,2)自己再生機能,3)生体防御機能が必要で,これらは生まれつき,すべての生き物に備わっている.恒常性維持機能は,主に自律神経や代謝エネルギー,内分泌の働きによって調節されている.特に,自律神経の交感神経と副交感神経のバランスが最も重要である.

 自己治癒力を高める1)には,自己再生機能と生態防御機能を高める必要がある.恒常性の維持は,きわめて強固に保たれるので,めったなことでは破綻しない.その理由は,細胞の1個1個の遺伝子に,深くその維持機能が強固に保たれるようシステムが刻印されているからである.自己再生機能は,傷などの刺激に遺伝子が応答することによって制御されているので,細胞を取り巻く環境における恒常性がある程度維持され,栄養が十分で酸素供給が十分であればほぼ必ず機能する.

生きる歓び―医療現場と笑いの治癒力

著者: 高柳和江

ページ範囲:P.520 - P.524

 医療現場って,どこだろう.医療って,いつから,いつまでだろう.医療はそもそもどのようにあるべきなのか.

 フランスでは,ビアンネートルという医療理念で,病気になる前の現状復帰までが医療の範囲である.だから,ソーシャル・エステも医療費支払いの対象に入っている.スイスでは患者に病苦を与えないのが医療の鉄則である.私が10年間働いていた石油の国クウェートでは,世界レベルの医療が全国民に無料で行われていた.

さまざまな生と死からの学び―看護の立場から

著者: 川島みどり

ページ範囲:P.525 - P.528

 旭山動物園の高みにあるレストランで,晩秋の夕日の落ちる瞬間に歓声を挙げた人々の中の,とりわけ屈託のない笑顔が今も目に浮かぶ.その人は,肝臓がんと膵臓がんで数次にわたる手術を受け,肺転移の身で学術集会長の任を全うした.“人々の生命・生活・希望を支える看護のわざ”と題した会長講演では,「周到な準備のもとでの『献身』こそ,もっとも優れたアートの中のアートである」と淡々と語った.看護技術学会での講演に相応しい内容に加えて,近くに迫った自身の生命の終わりを予知しながら,今日の集会までに献身した過程と,度重なる入退院で体験した医療や看護への思いとが聴く者にひしひしと伝わってきた.3か月後,彼は逝った.50歳代前半の肝不全による死であった.

 その人の名は,岩元純(当時,旭川医科大学教授),看護系学会の中での看護師以外の数少ない会員の1人であった.専門の生理学的見地からの鋭い質問やコメントとともに,彼の遺した“献身”の意味を胸の奥に刻んだ参加者らも少なくなかったと思う.肉体的な死は避けられなかったが,彼を偲び語る人々の中に彼の言葉は生き続けることだろう.

【事例】

高齢者介護福祉施設での看取り―死の質を求めた看取りケア

著者: 櫻井紀子

ページ範囲:P.529 - P.532

■利用者の重度化から看取りへの展開

 高齢者の「死に場所としての選択」を考える時,介護家族の労苦は複雑である.その思いは十分理解でき,受け皿としての施設の存在は,大変意味のあるものである.

 高齢者介護福祉施設(特別養護老人ホーム)の利用者は,重度化しているのが実態である.加齢とともに,身体機能の低下,免疫力・自然治癒力の低下が,感染症や各臓器の疾患に拍車をかけ,全身の障害進行を回避することが極めて困難になっている.さらに,ケアの質により生活行動の安定を高く求められる認知症高齢者や,疾患管理が継続して必要な多臓器不全状態の人,高齢者特有の非定型的症状の状態把握困難な人,また,転倒・誤嚥・脱水・低栄養・褥瘡発生など生命の危険リスクが高い人などが利用者の実態としてある.重度化に伴い介護量が増大し,施設現場でケアを担う人的資源が追いつかない状況にある.

在宅ホスピスケアと看取り

著者: 内藤いづみ

ページ範囲:P.533 - P.535

■ホスピスケアと出会って

 「もう治らない」と宣告された末期がん患者さんたちを前に,役に立てない敗北感と無力感に囚われた新米医師の私は25年前,ホスピスケアという分野に出会った.私自身が救われて,それ以来ずっといのちの学びの旅を続けてきた.

 英国に1980年代末から数年暮らす間に,細分化された病気への対応ではなく,体・心・社会性・スピリチュアリティというトータルな存在としての人間のトータルペインを緩和するホスピスケアの真髄に触れることができたのは幸せだった.以後,帰国して15年以上,日本での在宅ホスピスケアの普及に努めてきた.

コミュニティと在宅緩和ケア―在宅での看取りを通して見えてくるもの

著者: 山崎章郎

ページ範囲:P.536 - P.538

 私は1991年から東京都小金井市にある聖ヨハネ会桜町病院ホスピス(緩和ケア病棟)で14年間に渡りホスピスケア(緩和ケア)に取り組んできた.そして,全人的ケアであり,チームケアであるホスピスケアは,末期がんなどの生命を脅かす疾患のみならず,人生の困難に直面している全ての人々に必要かつ普遍的なケアである,ということを確信した.

 そのケアを多くの人々に提供するためには,制度に縛られ,入院した人にしかケアを提供できないホスピス等の施設ではなく,その人の住んでいる家で,すなわち住み慣れた地域の中でケアを展開すれば良いと考え,またそのためには,ホスピスケアの理念を共有できる既存の在宅療養を支える事業体が1か所に集約し,チームケアがスムーズにできるようにすれば良いのではないか,と考えた.

エンゼルメイクと死生観

著者: 小林光恵

ページ範囲:P.539 - P.541

 「エンゼルメイクとは,医療行為による侵襲や病状などによって失われた生前の面影を,可能な範囲で取り戻すための顔の造作を整える作業や保清を含んだ,“ケアの一環としての死化粧”である.また,グリーフケアの意味合いも併せ持つ行為であり,最期の顔を大切なものと考えたうえで,その人らしい容貌・装いに整えるケア全般のことである」.

 エンゼルメイク研究会(以下,研究会)は2001年に発足し,エンゼルメイクを以上のように定義して,これまで検討をつづけてきた.

グラフ

病院霊安室

ページ範囲:P.489 - P.492

連載 デザインの力・7

多様性の形―視覚障害

著者: 山本百合子

ページ範囲:P.494 - P.495

 ロービジョンに限らず,見えづらさを訴える人は多い.しかし,ぼんやり見える,まぶしいなどと言っても,どの程度なのか言葉で説明するのは難しく,周囲の理解が得られないという.ここでは,デザイン等の分野で多用される画像処理ソフトウェア,Adobe Photoshop CS2を用い,生活の中での様々なシーンの画像を加工し,見えづらさの客観化を試みた.

医療機関の再建・2

私的整理とは(上)―返済のリスケジュールと債務カットの要請

著者: 片山卓朗

ページ範囲:P.546 - P.547

質問

私は,地方で個人病院を経営しています.数年前にした設備投資の際の融資の返済額が大きく,厳しい資金繰りが続いています.金融機関との交渉によって,返済のリスケジュールや借入金の一部を放棄してもらうことは可能なのでしょうか.なお,従業員医師やスタッフにうちの経営状況が厳しいことを知られると,他の医療機関に移ってしまうおそれがあります.そうなった場合には,思うように薬剤などの仕入れができなくなるのではないかと危惧しています.できるだけ従業員や業者に知られないようにしたいのですが,それも可能でしょうか.

院内サービスの新展開・3

―院内コンビニ(前編)―“ホスピタルローソン”概要と商品の品揃え

著者: 斎藤久夫

ページ範囲:P.548 - P.549

 株式会社ローソン(以下,当社)は2000年8月,全国でも初めての院内コンビニエンスストア「ホスピタルローソン」を石川県の恵寿総合病院においてオープンした.以降,ホスピタルローソンは全国に広がり,2010年5月現在,101店舗が様々な病院において運営されている.そのコンセプトは,「QOLサポートサービス」であり,患者・家族だけでなく病院で働く医師や看護師,職員の利便性を向上させるとともに,日々の生活全般をサポートしていきたいと考えている.

 本稿ではホスピタルローソンについて,出店から運営の実際,そして病院における役割を紹介する.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・47

生活の再構築を目指して―「総合リハビリテーション」におけるMSWの役割

著者: 河宮百合恵

ページ範囲:P.550 - P.553

 今日,医療の機能分化と在院日数の短縮化が進められ,患者とその家族は病院から「退院させられる」という思いを抱いている.医療は入院の必要がなくなればすぐに退院できるように計画しなければならないが,そのためには患者が退院した後にはどこでどのように生活するのかについて考える公共財としての責務がある.突然の事故や疾病に遭遇した患者と家族は退院後の生活の再構築を余儀なくされるのである.共に苦しみ,共に生活の再構築の手立てを考えるMSWが医療の場に存在しチーム医療の中でどのような役割を担うかについて事例を通して述べてみたい.

より良い高齢者終末期ケア体制の構築に向けて・7

米国の高齢者終末期ケアの動向⑥―なぜ高齢者住宅やナーシングホームで最期を迎えることができるのか?

著者: 岡村世里奈

ページ範囲:P.554 - P.556

 高齢者終末期ケアをめぐる最も大きな課題の1つは,在宅や高齢者住宅等,病院以外の場所における看取りをどのように実現するかであろう.日本では,現在,在宅や介護施設,高齢者住宅等における看取りを推進するため様々な施策が打ち出されている.しかし,日米の65歳以上死亡者の死亡場所の割合を示した図1からもわかるとおり,日本では未だに多くの高齢者が病院で最期を迎えており,自宅や介護施設等で最期を迎えた者は15%程度に留まっている.

 これに対して,米国では,以前にも紹介したとおり,自宅や高齢者住宅,ナーシングホーム等で最期を迎える高齢者の数が年々増加しており,2005年時点では,半数以上の高齢者が自宅や高齢者住宅,ナーシングホームで最期を迎えている.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・34

―技術・技能以前の課題雑感(1)―いのちのスープを胃ろうから入れたら

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.558 - P.559

 最近増えているのが「胃ろう」に関する講演会である.僕は関西在住で他の地域は知らないが,頻繁にその種のチラシや案内メールが届く.高齢者の増加に伴うものだろうが,それらは主に専門職対象だ.しかし,一般市民も参加OKで,胃ろう患者家族の参加も多い.市民の関心も高い証拠だが,大半はやはり訪問看護師やケアマネジャー,そして栄養士であって,比率で考えれば,市民の関心はまだまだ低い.

 だから,機会があるごとに「胃ろう」や「嚥下」の講演会への参加を仲間に促すが,みんなキョトンとする.その理由に,「漢字が読めない」がある.チラシの多くが「胃瘻」「嚥下」と書かれていて,読みがわからない.僕はマイクロソフトの「Office Word2003」を使っているが,自動ルビ(ふりがな)機能を使えば胃瘻は「いせむし」,嚥下は「つばめした」とルビがつく.一般のワープロソフトでは読めない専門用語なのである.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第186回

病院霊安室

著者: 八木澤壯一

ページ範囲:P.560 - P.563

 翔子は鎖骨下の切開創のあと,横隔膜に沿った創にも針を通す.峯が糸を切り,崎田が結び,また峯が余分な糸を丹念に切った.

 あたかも本当の手術をした痕のような縫合線になっていた.

 三人で合掌するとき,翔子は峯の厚意に気がつく.わざわざ縫合させたのは,弔いの気持を味わわせるためだったのだ.ちょうど骨を拾うときの安らかな気分になっていた.

 「秋野先生,おつかれさま.遺体はこれから霊安室の方に運ばせます.そこで業者が湯灌と死化粧をしてくれるはずです.警察への報告書はわれわれがまとめます」

 峯が労をねぎらった.

【復刻版】眼でみる病院の設備とはたらき・7

診療設備の中央化(その一)―外科手術室

ページ範囲:P.564 - P.565

 外科手術の中央化には,腹部外科,胸部外科,脳外科は勿論のこと整形外科,産婦人科,皮膚科,泌尿器科,耳鼻科,眼科の手術場を一ヶ所に集めるのであるが,それには各科の手術の特殊性と自主性を重んじて,各科専用の手術室を軒を並べて病院の一区域に設けるのが一つの型式であり,又もう一つは大小いくつかの手術室を設けるのみでそれを何れの科でも専用せずに共用手術室としてどの科でも利用する型式がある.後者は前者よりも中央化が徹底して居る.

 何れの場合でも専門化された麻酔科が附設されてどの科の手術にも協力するのがよろしい.

リレーエッセイ 医療の現場から

子どもたちの生きる力を引き出すセラピー犬

著者: 大塚敦子

ページ範囲:P.567 - P.567

 聖路加国際病院の小児病棟には,毎月第2週と第3週の木曜日の午後,犬たちがやってくる.公益社団法人動物病院福祉協会(JAHA)から派遣されたセラピー犬とボランティアのチームだ.犬が好きな子どもにとっては,入院中に犬に会えるなんて,思ってもみなかった嬉しい贈り物.ふれあいの場となるプレイルームでは,犬たちが到着する前から,何人もの子どもたちが首を長くして待つ.

 小児病棟へのセラピー犬の訪問活動が始まったのは2003年の2月だ.きっかけは,犬が大好きだったある女の子の死だったという.「犬に会いたい」と言っていたその子が亡くなったとき,病棟に犬を連れてきてあげられたらよかったのに…との思いがスタッフに残った.その後,やはり犬に会いたがっている女の子がいるとわかったとき,彼女の希望をかなえるために具体的な検討が始まったのだそうだ.

研究と報告【投稿】

三重大学医学部附属病院の通訳の現状と医療通訳者インタビューから見えてきたもの

著者: 前田多見 ,   地崎真寿美 ,   鈴木志保子 ,   佐々木知香 ,   成田有吾 ,   内田恵一

ページ範囲:P.543 - P.545

要 旨 外国人の医療機関受診の増加に伴い,通訳者を採用した受診者のアンケート調査報告は散見されるが,通訳者の負担に焦点を当てた報告は少ない.本院では,2009年1月から3か月間,三重県国際交流財団の推薦により,ポルトガル語通訳者4人を非常勤雇用し,雇用終了時に通訳者へインタビューを行い,問題点を抽出した.利用者77人,延べ件数143件であった.インタビュー結果では,医療側から即座に翻訳を求められたり,医師の説明が早口であったりするなど,通訳に対して医療側の認識不足が感じられた.また,自分の通訳が患者に理解してもらえたか不安で,資格制度もなく,訓練の機会が少ない,さらに,通訳の質の確保は自助努力によるものが大きいなど,通訳者が抱える問題点が明らかになった.医療側には,通訳しやすい環境作りと,通訳者への理解が求められる.また,通訳レベルを維持向上するための資格制度などのシステムがあれば,医療と通訳双方にとって有用である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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