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文献概要
特集 死生観が問われる時代の医療
さまざまな生と死からの学び―看護の立場から
著者: 川島みどり1
所属機関: 1日本赤十字看護大学 看護学部
ページ範囲:P.525 - P.528
文献購入ページに移動 旭山動物園の高みにあるレストランで,晩秋の夕日の落ちる瞬間に歓声を挙げた人々の中の,とりわけ屈託のない笑顔が今も目に浮かぶ.その人は,肝臓がんと膵臓がんで数次にわたる手術を受け,肺転移の身で学術集会長の任を全うした.“人々の生命・生活・希望を支える看護のわざ”と題した会長講演では,「周到な準備のもとでの『献身』こそ,もっとも優れたアートの中のアートである」と淡々と語った.看護技術学会での講演に相応しい内容に加えて,近くに迫った自身の生命の終わりを予知しながら,今日の集会までに献身した過程と,度重なる入退院で体験した医療や看護への思いとが聴く者にひしひしと伝わってきた.3か月後,彼は逝った.50歳代前半の肝不全による死であった.
その人の名は,岩元純(当時,旭川医科大学教授),看護系学会の中での看護師以外の数少ない会員の1人であった.専門の生理学的見地からの鋭い質問やコメントとともに,彼の遺した“献身”の意味を胸の奥に刻んだ参加者らも少なくなかったと思う.肉体的な死は避けられなかったが,彼を偲び語る人々の中に彼の言葉は生き続けることだろう.
その人の名は,岩元純(当時,旭川医科大学教授),看護系学会の中での看護師以外の数少ない会員の1人であった.専門の生理学的見地からの鋭い質問やコメントとともに,彼の遺した“献身”の意味を胸の奥に刻んだ参加者らも少なくなかったと思う.肉体的な死は避けられなかったが,彼を偲び語る人々の中に彼の言葉は生き続けることだろう.
参考文献
1)広井良典:死生観を問いなおす,ちくま新書,筑摩書房,2001,pp9-27
2)時実利彦:生命の尊厳を求めて,みすず書房,1975,pp43-70
3)川上武:日本人の生死観,勁草書房,1993,p2
4)メイ・サートン,武田尚子(編訳):一日一日が旅だから,みすず書房,2001,pp52-56
5)マルコム・カウリー,小笠原豊樹(訳):八十路から眺めれば,草思社,1999,pp122-130
6)日本経済新聞:シニア記者がつくる心のページ,生命観の行方森岡正博さんに聞く,2010年4月10日
7)吉野せい:私は百姓女/老いて,ちくま哲学の森2,筑摩書房,1989,pp11-16
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