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雑誌目次

雑誌文献

病院69巻8号

2010年08月発行

雑誌目次

特集 病院のサステナビリティ―事業継承を考える

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.581 - P.581

 ナショナル・フラッグ・キャリアとして燦然と輝き,誰もがあこがれ,大学生による就職志望ランキング上位の常連であった日本航空.経営再建中のこの巨人は本年1月19日,東京地裁に会社更生法の適用を申請した.グループの負債総額は戦後最大となる2兆円に上るという.これに対して国は9,000億円規模の公的資金を投入し,日航は事実上,国の管理下で3年以内の再建を目指すことになった.同じく公的資金として総務省は毎年8,000億円規模の交付税を自治体病院に注入し,地域医療の確保に躍起となる.公益的な医療を提供する自治体病院事業の永続性を図るための必要な資金であるという.

 今回の大型破綻を通して,企業の持続可能性(サステナビリティ)が問われている.そして,病院でも公私を問わず,公益性の高い事業体として組織の持続可能性のために何が必要か問われているといってよいだろう.

わが国の医療政策と病院の経営持続可能性

著者: 尾形裕也

ページ範囲:P.582 - P.585

■問題の所在

 近年,「持続可能性(sustainability)」という言葉が,わが国の医療界においてもしばしば使われるようになってきた.もともとこの言葉は,「持続可能な開発」や「持続可能な成長」といったように,環境の保全や資源制約等を前提として,これらの諸前提と調和しつつ,長期的に持続しうる発展や経済成長を表わす(促す)ために使われてきた言葉であった.例えば,有名な「地球サミット」(環境と開発に関する国際連合会議:リオ・サミット,1992)において採択された「アジェンダ21」においては「持続可能な開発(sustainable development)」という概念が随所に盛り込まれている.

 一方,わが国の医療界においては,例えば2005年10月に公表された厚生労働省「医療制度構造改革試案」の冒頭の基本方針において次のように述べられている.「我が国の医療制度は,急速な少子高齢化,経済の低成長への移行,国民の生活や意識の変化等大きな環境変化に直面しており,21世紀においても真に安定し,持続可能なものとするためには,医療制度の構造改革が強く求められている」(下線は引用者).ここでは,医療制度をめぐる「環境」に大きな変化がある中で,医療制度の「持続可能性」を高めること(そのためには医療制度の構造改革が必要であること)が強く主張されている注1).逆に言えば,「構造改革」なしにこのままの状況を放置しておけば,わが国の医療制度は「持続可能」ではなくなる,ということになる.2006年のいわゆる「医療制度構造改革」は,(その内容の当否は別として)こうした強い危機感に基づくものであったと言える.

融資サイドから見た病院事業とその継続性

著者: 瀬上清貴

ページ範囲:P.586 - P.591

 全国8,800病院の65%は医療法人を設立母体としている.昭和25年に施行された医療法(昭和22年改正)により発足した医療法人制度では,持分の時価払い出し制度が積み立て剰余金の支払いと実質等しいことをもって医療法第54条規定(剰余金の配当禁止)に反すると指摘されてきた.この問題の解決への足がかりとして,平成16年8月,厚生労働省医政局長通知により,持分の払い出しの限度を払込出資額とするよう定款変更することで認定される出資額限度法人が創設され,さらに平成19年4月,公益性の高い社会医療法人の創設および出資額限度法人類型の法制化と考えられる基金拠出型法人の創設等が盛り込まれた改正医療法が施行された.また,今後,持分のある社団は設立できないこととなり,特定医療法人も平成24年までの制度となった.2009年3月現在4万5,396の医療法人が存在するが,今後の動向が注目される.

自治体病院における病院長像とその決定プロセス

著者: 邉見公雄

ページ範囲:P.593 - P.595

 今回私に与えられたテーマは「自治体病院の院長決定プロセス」というものである.私自身は副院長からの持ち上がり,つまり昇任である.一番多いタイプであろう.院長を補佐し,経営や人事などに問題がなければ,前任の院長が開設者に了解を得るのみで決着し,最もスムースな引き継ぎが期待される禅譲的な人事である.

 次に多いのは,大学医局の意向が強いケースである.よく「あの病院は○○大学系だ」と言うことがあるが,その自治体病院に医師を派遣している大学病院の幹部が適任者を選び,送り込む方式である.退官教授や定年近い教授,教授選に敗れた人などを送り込むことが多い.また,他病院から横滑りの場合もある.この場合は,その病院で院長になるチャンスがなくなったり,かなりの長い期間院長が空席となるのを待つような場合である.稀に開設者や院長が,特定の人物や診療科に院長就任をお願いすることもある.例えば,「A教授には若い頃に部長として病院に貢献いただいており,退官後はぜひお迎えしたい」「ピンチのB診療科再建のためによいトップをお送りください」などである.その際,院長だけでなくその診療科の人事もお願いする場合が多い.院内に適任者がいない,あるいは実力伯仲の候補者が複数いる場合なども,こういうことになることもある.

国立病院機構における病院長像とその決定プロセス

著者: 矢﨑義雄

ページ範囲:P.596 - P.598

 国立病院と国立療養所は,2004年に独立行政法人法に基づいて国立病院機構として一体化され,自律性・自主性を付与されるとともに,より効率的・効果的で透明性の高い運営のもと医療事業を展開するという目標を定めて発足した.そして実際,従来の官庁会計から企業会計に移行することによって,各病院が企業体としての運営に変換され,病院長のガバナンスが確立して職員の意識も改革され,使命である地域医療と政策医療のセーフティネットの中核を担い,経営基盤を強化して病院機構全体の収支相償化の目標を達成することができた.

 その過程で,各病院長が発揮したリーダーシップが大きな役割を果たし,現在もさらに向上への努力を継続されており,国立病院機構における病院長像のあり方がいかに重要であったかを述べたいと思う.

民間病院における病院長像とその決定プロセス―事業継承と税について考える

著者: 伊藤伸一

ページ範囲:P.599 - P.602

■民間病院における院長の責務

 民間病院の最高経営責任者(CEO : Chief Executive Officer)は,個人病院であれば院長,医療法人であれば理事長である.一般的に院長と理事長は兼任することが多く,プレーイングマネジャーであると共にオーナーであり,病院と運命共同体であることが特徴である.したがって,民間病院においてCEOは絶対的権限を有することが多く,この点が他の設立主体の病院と大きく異なる.

 病院経営の歴史を振り返れば,昭和50年代後半までは国策による医療拡大政策の波に乗って,公立・私立の区別なく病院規模の拡大を続けることは容易であった.しかし医療費亡国論に基づく医療費抑制以来構築された,改定ごとに縮小してゆく医療費を分け合うシステムの中で,もう1つの財布を持つ公立の病院とその他の病院では経営に対する考え方に大きな差ができてきた.民間病院は事業の拡大により運営資金を生み出すような,それまでの拡大一途の経営路線から,まず資金繰りを考慮した方針にシフトせざるを得なくなり,それを的確に判断できない病院は経営に苦労することとなった.

病院の再生とM&A―事業継承の具体的方法

著者: 片山卓朗

ページ範囲:P.604 - P.607

■病院のM&Aの必要性

 昨今の医療を取り巻く環境は,激変といっても過言でない状況にある.バブル経済崩壊後の長期かつ深刻な不況による税収不足の反面,高齢化が予想を超えたスピードで進行していることから,医療費は増大の一途である.当局は,医療費の増大に歯止めをかけるべく,診療報酬の改定を頻繁に行い,当局の思惑に沿った医療状況を実現すべく数々の誘導策を講じている.特に地方では,過疎化・高齢化が進行し,医療に対するニーズも急激に変化している.そのような中で,変化に柔軟に対応できない病院は,次第に体力を消耗し,ついには閉院するしかなくなってしまうのが現実である.一方で,世の中の流れにいち早く適応し,健全な経営をしている病院も数多い.地域医療や職員の雇用を守るためにも,健全な経営をしている病院がM&Aにより,経営に行き詰まった病院を再生・統合する必要性は年々高まっているといえる.

【病院の継承事例:福井県済生会病院】

病院のサステナビリティを考える

著者: 三浦將司

ページ範囲:P.608 - P.611

■病院の継続のためには「変化」こそが必要

 俳人・松尾芭蕉が残したと伝えられる「不易流行」という言葉.俳諧の本質は変えることなく,常に新しい句材,新しい表現を追及していくという姿勢を表した言葉だが,この不易流行こそが病院を継続していくために必要なことではないだろうか.継続・継承とは「変えない」ということだと考えがちだが,社会の変化に応じて「革新」を積み重ねることによってのみ,病院は継続できるのではないか.経営理念の根幹になる価値観は変えずに,システムや設備・経営システムを時代に合わせて変化させていく.それが病院のサステナビリティを考えるうえで,最も重要だと私は考えている.

【病院の継承事例:伊藤病院】

甲状腺疾患専門病院の継承

著者: 伊藤公一

ページ範囲:P.612 - P.614

 当院は昭和12年開設の民間病院である.始まりは甲状腺外科医であった祖父・伊藤尹が自ら手術をし,術後管理を行うところの有床診療所であった.当時の開業挨拶文にも「バセドウ氏病及甲状腺疾患の外科及物理療法」と明記され,専門特化に立ち向かう決意を表している.その2年後に病院となり,昭和34年に父・伊藤國彦が,そして平成10年に筆者が院長職を引き継いでいる.このように血縁で3代続く個人病院であり,一貫して甲状腺疾患診療を主力としてきた結果,甲状腺に問題を持ち来院する患者がすべてを占めるまでに至った1,2)

 とは言え,昔も今も「専門病院」の明確な基準は存在せず,医療法上「甲状腺疾患専門病院」と標榜することもできない.そこで院内随所に明確な理念(図1)を掲げ,発信し続けている.われわれが心がけていることは,以下の3点に尽きる.①甲状腺疾患診療に専門特化する(守備範囲と適正規模の徹底),②学術的研鑽に努める(学問的好奇心を具体化),③民間病院である利点を活かす(フレキシビリティに富むこと).

【病院の継承事例:町立三春病院】

赤字県立病院を町へ移譲・指定管理者に―町立三春病院の継承

著者: 星北斗

ページ範囲:P.615 - P.618

 景気低迷を背景とした行財政改革が推し進められる中,地方自治体による病院経営が大きな転換期を迎えている.町立三春病院は2007年3月末に福島県立病院としての役割を終え,翌日から町立病院となった.同時に当法人が地方自治法における指定管理者として病院の管理運営に当たっている.1年半を目途に月次ベースでの黒字化を目標にスタート,2か月遅れではあったがこれを達成し,2年目である2009年度は指定管理料を納付した後での黒字決算となった.県立病院から町立に転換すると同時に指定管理者となったが,関係者の多くの努力がこれまでの成果につながっている.

 現在も多くの課題を抱えてはいるが,今回の継承にまつわるいくつかのポイントについて,反省を込めて書き留めることにする.同時に,地域における医療や医療従事者の役割の重要性や地方の中小規模病院事業は地域再生の可能性を秘めると信じる筆者の考えや取り組みの一部を紹介したい.

グラフ

歴史とともに歩む 医療法人爽神堂 七山病院

ページ範囲:P.569 - P.572

 天正元年(1573年),戦国武将本多正信の弟にあたる本多十助は浄土真宗の寺院「浄仙坊」(後に浄見寺)を建立,そして慶長4年(1599年),息子の本多左内は境内に「爽神堂」を開設し,ここで医業を始めたという.医療法人爽神堂七山病院(以下,七山病院)はこの爽神堂以来,400年以上にわたり,精神病患者の治療を続けてきた.

 まだ向精神薬もなかった江戸時代,治療は代々秘伝として受け継がれてきた漢方薬と鍼灸が中心で,特に漢方薬については,明治初期に製造販売の免許を取得し,病院の大きな収入源にもなっていた.最近の研究によって,精神疾患に対して効能のあることが確認されている.

連載 デザインの力・8

視覚を補う工夫

著者: 山本百合子

ページ範囲:P.574 - P.575

 普通の生活で,私たちが見えづらさを意識することは稀だ.しかし,それまで見えていたものが,明るさやその他の条件によって見えづらくなった時,何が見えないのかがわかる.例えば,細い線や画数の多い漢字などを見る時は,目を近づけて見ようとするだろう.そうやって何が見えにくいか,気づくことによって,見えにくいものを見やすくしていくための,ちょっとした工夫をすることもできる.

より良い高齢者終末期ケア体制の構築に向けて・8

英国の高齢者終末期ケアの動向①―「終末期ケア戦略」に基づいて進む国

著者: 岡村世里奈

ページ範囲:P.629 - P.631

 今月からは英国の終末期ケアについて紹介する.英国というと「ホスピス発祥の地」ということから終末期ケアが充実しているイメージがあるが必ずしもそうではない.例えば,右の図は,2008年における全人口ならびに65歳以上の高齢者の死亡場所の割合を示したものであるが,この図からもわかるとおり,英国民の死亡場所を見てみると,国民の半数以上が住み慣れた自宅で亡くなりたいと考えているにもかかわらず,実際には7割近くの者が病院で亡くなっており,自宅や施設で亡くなる者は全体の2割強程度に留まっている.また,終末期ケアの内容についても,質の高い終末期ケアを受けられているのはほんの一部に過ぎず,多くの者が不必要な苦痛を被り個人の尊厳を敬うようなケアを受けることができていないことが報告されている1)

 このため,英国でも,終末期ケアの充実や向上は重要な課題の1つとなっており,2000年頃から様々な終末期ケア施策が展開されてきている.中でも,2008年には,先進諸国の中でも初めてと言われている終末期ケアに関する国家戦略「終末期ケア戦略(End of Life Care Strategy)」を策定して,終末期ケアの充実・向上を図ろうとしている.

医療機関の再建・3

私的整理とは(下)―第三者機関の利用

著者: 片山卓朗

ページ範囲:P.632 - P.633

 前号に引き続き,金融機関と交渉して,返済のリスケジュールや借入金の一部を放棄してもらうことは可能か,従業員や業者に知られないようにしたいが可能かという問いに答えます.

院内サービスの新展開・4

―院内コンビニ(後編)―“ホスピタルローソン”特徴と強み

著者: 斎藤久夫

ページ範囲:P.634 - P.635

■ホスピタルローソンの特徴

 図に,ホスピタルローソンの平均的な店舗設計プランを示した.理想とする店舗面積は32坪(約106m2)ほどだが,実際にはそこまでの広さを確保できないケースが多く,通路幅の確保などに注意しつつ(車いすが通るため),臨機応変な店舗設計を行っている.また,商品陳列棚やレジカウンターの高さを低めにするなど,バリアフリーにも配慮している.

 しかし,やはり収益性に影響する大きな要素としては,店舗面積よりも,院内の立地である.特に,病院の1階で,待合や出入り口など,外来患者の動線に入ってるところかどうかが売上げを左右する.利用者の5~6割は病院職員が占めるため,あまり病院職員が使いづらい場所でも難しい.外来患者や見舞い客の目につきやすく,かつ入院患者や病院職員の動線にも近いところが理想的である.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・48

病院経営バランスを考えたMSWの働き

著者: 山本邦男 ,   村上須賀子

ページ範囲:P.636 - P.641

 近年自治体病院の財政悪化が問題である.当院でも「公立病院改革ガイドライン」を踏まえた「改革プラン」に取り組むが,人件費は収支改善の要とされる.一般的にMSW業務に対する診療報酬上の評価は,社会福祉士国家資格化21年を経た今も,人件費を担保したものとは言えない.そのため,多くのMSWは,採用,雇用条件等で不安を孕みつつ業務を行っている.本報告では当院MSW職種の組織化の経過や在宅ケア事業と一体化した収支改善の一端を報告する.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・35

―技術・技能以前の課題雑感(2)―作法を忘れてしまった日本人

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.642 - P.643

家が持つ力

 妻が病院での治療を断念し,家に帰った時のことだった.白血病末期の妻は,口とのどがひどくただれ,食事ができなかった.高カロリー輸液で身体を維持していたが,退院時に,その輸液のルートまでも外して帰ってきた.それが彼女の意思であり,「やっと楽になった.これで肩もこらない」と,うれしそうな顔を見せたのを覚えている.

 それはよかったが,では彼女を介護する僕は,何を食べさせればいいのだろうか.料理は覚え始めたばかりだし,介護食となると粥やおじやしか頭に浮かばない.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第187回

社団法人是真会 長崎リハビリテーション病院

著者: 柳瀬寛夫

ページ範囲:P.645 - P.649

 長崎リハビリテーション病院の設計に際し,まずは急性期病院との違いや本病院特有のまなざしを理解することに努めた.

 本病院設立の背景には,救急搬送から急性期治療までスムーズに進みながら,退院後の家庭で寝たきりになり結果として患者を救えないケースの増加など,高齢社会の葛藤がある.

【復刻版】眼でみる病院の設備とはたらき・8

診療設備の中央化(その二)―中央試験場

ページ範囲:P.650 - P.651

 外科手術の中央化と同様に臨床診断検査も中央化することが設備の重複を避け,検査能率をあげるのに役立つ.各専門科の検査には極めて特殊なものがあり,それは中央化できないが,共通の検査はみな中央化した方が便利である.中央化された試験室には,それぞれの検査をする専任の技術員が居るのであるが,各科で患者を実際に診療して居る医員が絶対に検査をしないのではない.必要があればいつでも自分が来て検査をすべきである.

(中略)

 検査を徹底的に行うには高価な設備と熟練した技術者が必要であるが,それを各科別々に設備するのは極めて不経済である.中央化することによつてこの無駄がはぶかれる.

リレーエッセイ 医療の現場から

放射線科医から見た病院の現状

著者: 五島聡

ページ範囲:P.655 - P.655

 放射線科医と聞いて,すぐに業務内容を理解できる人は少ないと思います.放射線科医は,放射線画像診断医と放射線治療医に専門医が大きく分かれ,前者はCT,MRIをはじめとする画像診断やIVR(Interventional radiology)と呼ばれるカテーテル治療が主な専門であり,後者は悪性腫瘍への放射線治療を中心とした診療が専門となります.

 私は放射線診断医として当院に勤務し,10年が過ぎました.500床規模の大学病院ですが,日々200件程度の読影業務と年間250件程度のIVR治療を行っています.当院では頭部は脳外科,心臓は循環器内科,それ以外のすべてのIVRをわれわれ放射線科が担当しており,それらの業務を通して,ほぼすべての科に対して画像診断やIVR治療といった視点から深く介入し,多くの関連科と共同で診療を行うことが多い専門科であります.

研究と報告【投稿】

日本型Physician Assistant導入に関する全国大学病院アンケート調査

著者: 康永秀生 ,   森田啓行 ,   山田奈美恵 ,   柏野聡彦 ,   井上智子 ,   中島克佳 ,   鈴木洋史 ,   永井良三

ページ範囲:P.619 - P.622

要 旨 Physician Assistant(PA)とは,医師の監督の下に医療行為の一部を行う権限を有する職種である.近年日本でもPA資格導入が検討課題となっている.2009年11月20日~2010年1月12日の期間に,全国80大学病院に勤務する医師・看護師・薬剤師・MEを対象にPA導入に関するアンケート調査を実施し,66病院から2,605人の回答を得た.PA導入について「おおいに賛成」または「どちらかといえば賛成」の比率はいずれの職種も50%を超え,とくに非医師では40歳未満回答者における賛成の比率が有意に高かった.「PAが実施可能とすべき」医療行為として,気管内挿管・カウンターショック・Aライン確保など救急・集中治療に関連した項目が挙げられた.しかし一定のリスクを伴い技術力を要する医療行為(冠動脈バイパス・グラフト採取など)については「医師が実施すべき」という意見が多数を占めた.

特別寄稿

医療ツーリズム(国際受診)の課題―国際医療福祉大学・国際シンポジウムから

著者: 岡村世里奈 ,   開原成允

ページ範囲:P.624 - P.627

 筆者の一人開原は,2009年6月に日本経済新聞の経済教室欄に「外国人患者の診療を進めよ 病院も国際化が必要 医療をサービス産業に」という一文を書いた.この時は,まだ医療ツーリズムという言葉も日本では話題になっておらず,まして外国人患者が日本の病院で受け入れられるようになるかもわからなかった.しかし,最近では政策レベルでも医療ツーリズムが取り上げられるまでになった.日本の病院は,もっと外国人に開かれるべきであると思っている筆者にとって,ある意味では嬉しいことではあるが,しかし,新聞などの論調などでは,重要な問題点が見過ごされているような感もある.

 このため国際医療福祉大学では,2010年3月22日に国際シンポジウム「医療ツーリズムの現状と課題」を開催した.本稿では,その時の講演を中心に日本における医療ツーリズムの課題について述べたい.なお,言葉について整理しておくと,医療ツーリズム(medical tourism)を日本では直訳して「医療観光」と言う場合がある.しかし,医療ツーリズムの定義は,米国医学図書館のMeSH(Medical Subject Headings)という用語集によれば,「Travel to another country for the purpose of medical treatment(治療を受ける目的で,他の国へ旅行すること)」であり,観光という要素は入ってもよいが,それが目的ではない.この意味では「国際受診」というような訳が適しているように筆者は思うが,本稿では,「医療ツーリズム」という日本語を用い,「国境を越えて患者が外国の診療機関で診療を受けること」を意味することとする.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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