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雑誌目次

雑誌文献

病院69巻9号

2010年09月発行

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特集 本格到来するDPC時代

巻頭言 フリーアクセス

著者: 池上直己

ページ範囲:P.669 - P.669

 2003年度にDPCによる入院医療の包括払いを導入する際に,第1に包括払いに積極的な支払側と出来高払いを死守したい診療側の対立,第2に特定機能病院においても平均在院日数に最大2倍の格差が存在することによって示唆される標準化の遅れ,第3に短期間で分類の開発から報酬額の設定まで行わなければいけない厳しい日程,など様々な難題が立ちはだかっていた.これらの難題に対応するために,1万円以上の処置料などを出来高払いに残したうえで,入院期間によって4段階に逓減する1日当たりの包括払い,という日本独特の包括払いの仕組みが採用された.

 出来高払いとの相違をさらに少なくするために,当該病院の導入時における出来高払いによる報酬額と,DPCによる包括払いの報酬額の差額を,「調整係数」によって補償する制度が採用された.「調整係数」は病院の努力によって,入院の実コストが導入後に下がっても,基本的に変わらなかった.その結果,批判の対象となり,2010年度から段階的に廃止され,代わって機能評価係数IIが導入された.同係数は,高度な医療を提供することに対するP4P(Pay-for-performance)と見なすこともでき,DPC対象病院においても診療報酬による経済誘導が,どこまで有効に働くかを注意深く見守る必要があろう.

DPC制度の展開―調整係数から新たな機能評価係数へ

著者: 迫井正深

ページ範囲:P.670 - P.675

 平成15年度に特定機能病院82施設で開始されたDPC制度注1)はその後,対象施設が順次拡充され,平成22年7月の時点で1,391病院,病床数にして45.9万病床がDPC制度の包括算定対象となっている.わが国の一般病床に占める割合も50.4%と半数を突破するなど,急性期入院医療に関する診療報酬評価の中心的な枠組みに成長してきたと言っても過言ではない(図1).

 制度発足から7年を経た今回の平成22年診療報酬改定では,調整係数の機能評価係数への置き換えというDPC制度導入後では初の大きな制度改革に着手することとなった.本稿では,これらの取組みの経緯や具体的な内容,そして今後の課題等を中心にまとめた.

DPCデータを用いた研究成果の概要

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.676 - P.680

 診断群分類を用いた包括評価方式は1983年アメリカのMedicareで最初に採用された.アメリカのDRG(Diagnosis Related Group)およびそれを用いた支払方法については,他国の政策担当者の関心を集め,その応用可能性の研究が広く行われるようになった.

 わが国における診断群分類を用いた包括評価に関する最初の研究は1990年代後半になって医療経済研究機構によって行われた.この研究ではアメリカのDRGの日本における応用可能性が示唆されたものの1),その後の日医総研等の研究により分類体系が日本の診療慣行およびレセ電算システムに対応していないことなどの理由により2),その採用は見送られた.同時期に厚生省(当時)は国立病院等10施設において1件当たり包括払い方式の試行を行った.この試行研究では1入院当たり包括支払い方式の導入可能性は示されたが,分類数が少ないためにカバーする患者が少ない等の問題が指摘された.このような状況を踏まえて,日本独自のより網羅的な診断群分類の開発が「急性期入院医療試行診断群分類を活用した研究(厚生労働科学研究:2001-2003年度)」で行われることとなった.また,それを活用したコスト分析の標準的な方法論の開発が「診断群分類を活用した医療サービスのコスト推計に関する研究(厚生労働科学研究:2004-2006年度)」によって行われた.

DPCデータから見える医療機関の地域での役割と機能分化のあり方

著者: 伏見清秀

ページ範囲:P.681 - P.685

 平成22年度のDPC診療報酬改定では,調整係数から新たな機能評価係数への置き換えが始まり,医療機関の機能に応じた医療資源配分の方向性が示されている.この機能評価係数の1つに,各医療機関の地域での役割を評価する地域医療への貢献に関する項目が含まれ,急性期医療を地域の医療提供体制に密接に関連づけて評価する方向性が示されている.近年の,第5次以降の地域保健医療計画では,住民が身近に活用できる医療提供プランの提示が求められているが,DPC診療報酬においても医療計画に沿った形で医療機関の機能の評価を進めていく動きが始まったとみることができる.

 平成22年8月より,医療計画の4疾病5事業に対応して,脳卒中,がん,救急,災害医療,へき地医療,周産期医療などに貢献している医療機関には地域医療指数として一定の評価が加わることとなっている.今回導入される評価の視点は限定的であり,地域医療への貢献を広く評価するものにはなっていないが,今後の医療計画では,個別医療機関の地域での役割が明示される方向にあるので,DPCにおける地域医療の評価もそれを勘案したものになるであろう.各医療機関では,今回示された地域医療指数を獲得することを目標とするのではなく,地域医療にどのように貢献できるのかを自己評価し,地域における役割を高めていくことが重要である.

DPCと臨床指標

著者: 池田俊也

ページ範囲:P.686 - P.690

■臨床指標とは

 医療の質の定量的な評価への関心が各国において高まってきており,医療の質を「プロセス(過程)」や「アウトカム(成果)」の側面から定量的に評価するための道具として臨床指標の開発・導入が進んでいる.

 プロセスの指標は,診療ガイドライン等で推奨されている,エビデンスの確立した診療項目を指標として定め,患者に提供されるべきベストプラクティスと,実際に提供された医療との乖離を測定するのが一般的である.このほか,特定の手術や処置等の実施率も過剰実施(overuse)や過少実施(underuse)を評価するための指標としても用いられることがある.

 一方,アウトカムの指標としては,臨床的アウトカムとして院内死亡率,再入院率などのほか,合併症発生率といった避けるべきアウトカム,さらには患者満足度やQOL(Quality of Life)等の患者報告アウトカム(Patient Reported Outcome, PRO)や,在院日数・コスト等の経済的アウトカムなど,多種多様な指標が用いられる.なお,臨床的アウトカムに影響を与えると考えられる施設要因(ストラクチャー・構造)や取り扱い症例数についても,臨床指標に含める場合がある.

DPCデータの可視化と病院経営

著者: 加藤良平

ページ範囲:P.691 - P.696

■『病院情報局』の一般公開

1.病院情報局とは

 筆者が経営する株式会社ケアレビュー(以下,当社)では,今年3月より『病院情報局』(http://hospia.jp/)という情報サイトを無料で公開している(図1).

 このサイトは,DPC対象病院およびDPC準備病院(以下,DPC参加病院)の患者数や平均在院日数といった診療実績を,簡単な操作で検索や比較ができるという特長がある.DPC制度に参加していない病院の情報は掲載されていないが,国内全体の一般病床数に占めるDPC参加割合はすでに50%を超える状況であり,日本の急性期医療の半分以上の診療実績がこのサイト上で可視化されていることになる.

【事例】

病院におけるDPCデータの活用―鳥取大学医学部附属病院

著者: 中村廣繁 ,   豊島良太

ページ範囲:P.698 - P.701

 平成15年にDPCが導入されて以来7年が経過した.鳥取大学医学部附属病院は特定機能病院として当初からDPCを導入し8年目を迎えたが,その間医療は大きく変貌してきている.特に在院日数の短縮,検査・注射・処方の外来移行,手術件数の増加,医療連携の整備,経費削減のための工夫などの急速な変化が地域の医療全体に与えた影響は測り知れない1).大きな変化の流れの中で果たして医療の質は担保できてきたかどうか,患者満足度も含めて検証することも大切となってきている.本稿では膨大なDPCデータを経営改善へフィードバックする手法の1つとして当院の入院と外来診療区分の推移を分析し,さらに二次医療圏におけるSWOT(Strength, Weakness, Opportunity, Threat)分析2-4)を行うことで,当院が地域の中で果たすべき今後の役割と方向性を検討した.

病院におけるDPCデータの活用―岐阜大学医学部附属病院

著者: 白鳥義宗

ページ範囲:P.702 - P.705

 平成15年4月から全国の特定機能病院等82施設対象にわが国独自の診断群分類であるDPCを利用した包括支払制度が開始された.それに先立ち全国を数ブロックに分けた説明会に参加した際,確実に時代が変わろうとしていると大きなショックを受けたのを昨日のように思い出す.その説明会以降,この包括支払制度導入に向けて,電子カルテやクリニカルパスの勉強を行うようになり,DPCという尺度を最大限利用した院内の仕組みを考えるようになった.ただ,当院においてはまだまだ最大限に利用しているとは言い難く,利用するための模索が続いている状態である.ここでは,この新しく導入された分類であり,尺度としても利用可能なDPCを通して,病院全体を見ていくことができないかという取り組みの一部をご紹介したい.

病院におけるDPCデータの活用―トヨタ記念病院

著者: 岡本泰岳

ページ範囲:P.707 - P.710

 当院がDPC対象病院として診療報酬請求業務を開始したのは平成18年4月からである.DPCデータの活用における当院の特徴的な背景基盤として,DPC導入前のクリニカルパス(以下,パス)と臨床指標(質評価指標)への取り組みが挙げられる.パスは平成12年から病院方針にその積極的運用が掲げられ,外科系・内科系疾患を問わず,平均在院日数の短縮および診療プロセスの標準化が進められていた.また臨床指標は,平成17年から医療の質を測定する客観的指標としての活用が開始されていた(現在,168指標)1)

 本稿では,当院におけるDPC対策とそれに基づいたDPCデータの具体的活用事例を紹介する.

病院におけるDPCデータの活用―聖隷浜松病院

著者: 日下部行宏

ページ範囲:P.712 - P.715

 DPCは単なる支払いのための仕組みではなく,DPC分類という共通の単位を使用することによって,病院間の相対的な比較評価を行い自院の実態を把握したうえで有効な手段を探索できる.つまりDPC本来の目的は病院マネジメント改革である.本稿では当院におけるDPCデータの活用を紹介する.

病院におけるDPCデータの活用―相澤病院

著者: 椛島博彰

ページ範囲:P.716 - P.718

■当院の概要とDPCデータの活用

 現在の医療保険制度では,毎年増大する国民医療費を安定的に負担することは難しいのが現状である.支出抑制のための医療制度改革が定期的に行われる状況であり,こうした状況下,医療費の増加抑制という課題に対する答えの1つが,「医療機関の経営効率化」であり,医療機関において「経営改革」の視点は,今後ますます強くなることは必然と言える.

 相澤病院は,長野県松本市と近隣市町村を含む松本二次医療圏(対象人口43万人)を対象とする一般病床471床の急性期病院であり,病院の基本理念を「救急医療は医の本質である」と掲げ,24時間365日体制で急性期医療に取り組んでいる.当院の周辺には200床以上の病院が多数存在し,人口当たりの病床数が多いことは否めない状況であり,DPCデータをはじめとする,データの活用は今後の病院経営の重要なアイコンであると考えている.

病院におけるDPCデータの活用―九州医療センター

著者: 阿南誠

ページ範囲:P.719 - P.721

■当院のDPCに対する考え方

 平成6年7月の開院以来,診療情報管理に力を入れてきた当院は,元々,診療情報管理の一貫としてICDコーディングやデータベース構築を行っている.したがって,平成10年の11月の日本版DRG(以下,DRG)試行病院に選定時も,様式1作成というよりも,診療情報管理士が構築していた既存のデータベースから様式1に必要なデータをダウンロードする方法で対応した.当時の制度は「1入院包括支払」で調整係数という考え方もなかった.その理由は,それなりの経営状態にあって,急性期のモデル病院を対象としたために,調整や是正は必要なかったと推察される.

 さて,DRG時代にも過去に様々なデータが公表され,多くの議論があった.1つひとつ触れることはしないが,当院でもまず最初に行ったことは,分類に設定された期間設定と実際の当院との差である.現在と同様に各病院から提出されたデータに基づき分類開発が行われており,当時の病院数はたったの10,データ数も少ないものの,「基礎調査」データとの比較は重要であった.特に,現在のように調整係数が存在しないので,設定された1入院期間の包括診療報酬額と,出来高診療報酬額の差額は病院収入に直接的に影響を与えた.当院においては,DRG試行開始直後は,平均との比較で顕著に差が発生していたが,平成10年頃に始まった国立病院におけるクリティカルパスの積極的な導入の議論と相まって,平均在院日数短縮が実現し,短期的に,出来高点数比較では,相対的に+方向にシフトすることとなった.平成22年現在,パスについては,240種類程度が作成されている.

グラフ

患者のニーズに応えるサービス―社会福祉法人 恩賜財団 済生会支部 福井県済生会病院

ページ範囲:P.657 - P.660

 福井県済生会病院の理念は,「患者さんの立場で考える」である.これは医療の基本であり,同様の理念を掲げる病院は少なくない.しかし,「では,患者さんの立場で考えて,実際に何をしていますか?」と問われたら,すべての病院が答えられるだろうか.患者の声を聞き,それをどう形にしていくのか,同院の取り組みを紹介する.

連載 デザインの力・9

ユニバーサルデザイン

著者: 山本百合子

ページ範囲:P.662 - P.663

 ユニバーサルデザインとは,文化・言語・老若男女といった差異,障害・能力などにかかわらず,誰にでも利用できるものという定義がされている.昨今,法的整備なども進み,様々な分野でユニバーサルデザイン的なアプローチがされるようになってきた.ここではその具体的な形を考えてみたい.

より良い高齢者終末期ケア体制の構築に向けて・9

英国の高齢者終末期ケアの動向②―「終末期ケア戦略」の概要(上)

著者: 岡村世里奈

ページ範囲:P.726 - P.728

 前回述べたように,英国政府は2008年,英国初の包括的な終末期ケア施策である「終末期ケア戦略(End of Life Care Strategy)」を発表した1).この終末期ケア戦略は,年齢や疾患の種類,ケアの提供場所等にかかわらず,終末期を迎えているすべての英国民に対して良質な終末期ケアを提供していくことを目的としたものである.

 ちなみに,この終末期ケア戦略に盛り込まれた内容は,国家癌対策長官を務めるDr. Mike Richardsを委員長とする諮問委員会やその下部組織であるワーキンググループが,民間の慈善団体等によるホスピスケアや,NHSのEnd of Life Care Programmeの内容を吟味し,また終末期ケア関係者との会議を重ねて1年以上の歳月をかけて練り上げたものである.

 英国政府はこの終末期ケア戦略の実施にあたり,2009,2010年度の2年間で28,600万ポンド(約381億円)の予算を計上している.それでは,英国政府の進める終末期ケア戦略とはどのようなものなのだろうか.その内容は非常に多岐に渡っており,とてもそのすべてを紹介することはできないが,以下では,その主要点について紹介していきたいと思う.

医療機関の再建・4

法的整理とは(上)―民事再生手続の概要

著者: 片山卓朗

ページ範囲:P.730 - P.731

質問

 私は,100床の病院を経営する医療法人の理事長をしています.借入金が大き過ぎて,ほぼ満床なのに資金繰りは厳しく,3年前から銀行にリスケジュールをお願いしてなんとか経営してきました.このままでは新規の設備投資もできず,じり貧になっていくことは明らかです.私的整理手続も検討しましたが,一部の金融機関が強行であり,再建計画に同意を得られそうにありません.

 この際思い切って民事再生を申し立てて,債権者に債権カットをお願いするしかないと思うのですが,医療法人でも民事再生の申立はできますか.また,病院には金融機関の借入金につき抵当権が設定されていますが,民事再生申立の場合,どうなりますか.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・49

「貧困」に向き合うMSWの役割

著者: 志賀雅子

ページ範囲:P.732 - P.735

 水島協同病院は,戦後,コンビナートの発展とともに全国各地より労働者が集まり発展した地域にある.筆者は,単身で住み着いた人が多い街のど真ん中にある一般急性期病院(地域に根ざした医療を実践する)のMSWとして,様々な貧困と向き合ってきた.2008年,秋のリーマンショックから始まった経済不況は雇用状況をさらに悪化させ,多くの人が職を失い,社会福祉の現場からも久しく遠のいていた「貧困」という言葉に筆者らは直面することになった.水島地区でも例外ではなく,大手自動車工場では3,000人あまりが雇い止めとなり,関連企業の経営不振も合わせ,かってないほどの不況,生活破綻が地域に拡がっている.この間の野宿者支援への関わり,ならびに医療現場での生活保護申請に関わった事例の2つの実践を通して,今の社会に起こっている貧困の実態を明らかにし,貧困に向き合うMSWの役割について考える

院内サービスの新展開・5

―院内保育所(前編)―就労支援としての院内保育所

著者: 増田豊子

ページ範囲:P.736 - P.737

 ピジョングループの子育て支援事業は,哺乳瓶等のベビー用品メーカーであるピジョン株式会社が17年前の1993年に子育て支援事業部を立ち上げ,自社の研究所内に保育園を設置したことからスタートしている.以来,認可保育園や東京都認証保育所の設置運営をはじめ,病院内・企業内保育園の受託運営など本格的に子育て支援事業に取り組む一方で,1999年に子育て支援事業を専門とする子会社として,ピジョンハーツ株式会社(以下,当社)が設置された.当社は認可保育園,東京都認証保育所などの保育施設の運営に加え,病院内・企業内保育所の受託運営や商業施設の一時託児所,幼児教室「ピジョンキッズワールド」,ベビーシッターサービスなど幅広い子育て支援サービスを提供している.

 こうした事業を行う中で,ピジョングループは,表に示すように全国規模の独立行政法人国立病院機構をはじめ,大学病院,医療法人など多くの院内保育所の受託運営をしているのが特徴の1つである.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・36

―技術・技能以前の課題雑感(3)―拉致車 楽 ユーモアセンス

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.738 - P.739

 「そういう市民ムーブメントが,僕の町には起きている」と,前回を結んだ.今回は2人の市民活動家の「ことば(発言)」を中心に綴る.

日中に老人が姿を消す町

 ある講演会で「デイサービスの送迎車は,さながら拉致車のよう」と語る市民活動家がいた.兵庫県西宮市で認知症患者さんやその家族を介護保険の枠外で支援する,NPO法人理事長のMさんだ.一瞬,それが何を意味するのか理解できなかった僕だが,そのことばは会場の共感を呼び起こした.

【復刻版】眼でみる病院の設備とはたらき・9

診療設備の中央化(その三)―放射線,その他

ページ範囲:P.740 - P.741

 診療設備の中央化は各科の診療活動の自由を或る程度,束縛するので各専門科の医療職員の側には,不平があり得る.しかし病院経営の責任をもつ管理者の側から観れば,ここの制度は経済的の無駄をはぶき,また協力診療を促進する制度であるからこれは是非とも実現させなければならない.診療に関与する職員すべてがこの制度の意義をよく理解すればこれを実現することは決して困難ではない.

 病院の診療設備のうち,何を中央化するかについては色々議論もある.薬の調剤は医師でない薬剤師の仕事であるので,調剤室は昔から診療設備とは別個の存在として中央化されて居るが,今問題となって居るのは,外科手術,医療資材の配給,エックス線,臨床病理検査,血液銀行,診療記録などの中央化である.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第188回

聖隷富士病院

著者: 関戸敏訓 ,   伊藤幸雄

ページ範囲:P.743 - P.748

 聖隷富士病院は,古くは東海道吉原宿として栄えた吉原商店街から1ブロック南に立地する.昭和21(1946)年に静岡県農業会吉原病院として開院以来,地域を支えてきた歴史ある病院だが,昭和41(1966)年に竣工した旧病院は改修を繰り返すも,ハード的に高度医療への対応が困難となり,道路を挟んだ対面の敷地へ移転することになった.建設にあたっては,「安心と安全の医療の提供」「快適な療養環境の提供」「働きやすい環境」の実現が求められた.また,災害時には防災拠点としても地域に貢献すべきと考え,身体的に自由が利かない状態である患者に安全な療養環境を提供し,防災拠点として機能させるために免震構造の採用は不可欠と考え,与条件として設定した.

リレーエッセイ 医療の現場から

音楽を奏でる人も聴く人も幸せに―国も障害もこえた交流演奏会

著者: 及川光悦

ページ範囲:P.751 - P.751

 「障害者週間」「東欧音楽家支援」の国際親善交流演奏会も今年で23年目になります.この演奏会を始めたのは私がヨーロッパで仕事をするようになってからのこと.私たち演奏家にとってロシア・東欧諸国で演奏することは大変重要です.ロシアはチャイコフスキー,リムスキー=コルサコフ,ムソルグスキーなど数多くの音楽家を輩出し,ポーランドはショパンが生まれ,ハンガリーはリスト,チェコはドボルザーク,ルーマニアはジョルジュ・エネスコ,ブルガリアは世界的な歌手が活躍しています.私は幸運にもこのような芸術大国の名門オーケストラと仕事を続けてきました.

 ところが,この名門オーケストラで目にしたのは,ぼろぼろのピアノで練習し,楽器の弦を買うのもままならない音楽家の生活でした.日本の音楽家がもつ高額な楽器など手が届かない状態です.そのような経済的に恵まれない中から世界的なアーティストが出てくるのです.

レポート【投稿】

MSWによる療養型病院・施設への転院阻害要因を有する患者の早期把握とその効果

著者: 林祐介

ページ範囲:P.722 - P.724

要旨 医療ソーシャルワーカー(MSW)による転院阻害要因の早期把握の有効性を検討した.当院回復期リハビリテーション病棟において,MSWである筆者らが早期把握に向けた取り組みを行い,得られた結果は以下の3点であった.①転院阻害要因をMSWが早期に把握できている割合が,取り組み前は58.0%であったが,取り組み後は78.2%まで上昇した(p<0.05).②入院日からMSWが退・転院先選定に関わる面談を初めて行った日までの期間は,取り組み前が平均34.6日であったのに対して,取り組み後は27.0日まで短縮した(n.s.).③患者もしくは家族が第1希望に挙げていた転院先へ移ることができた割合は,取り組み前が40.6%であったのに対して,取り組み後は70.4%まで上昇した(p<0.05).①~③より,転院阻害要因を有する患者の早期把握および介入の必要性が示された.

会告

IFHE 2010開催にあたって

著者: 大道久 ,   長澤泰

ページ範囲:P.749 - P.750

毎年11月に開催されている日本医療福祉設備学会.今年は2年に一度開催される国際病院設備学会との合同開催となり,国内外から多くの参加者が予想される.日本医療福祉設備協会会長の大道久氏と学会長を務める長澤泰氏に,見所を聞いた.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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