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文献詳細

雑誌文献

病院70巻1号

2011年01月発行

特集 病気と社会を考える

人はなぜ病気になるのか―進化医学の視点から見た病因論

著者: 井村裕夫12

所属機関: 1京都大学 2財団法人先端医療振興財団

ページ範囲:P.14 - P.18

文献概要

 現在の医学は病気の原因を明らかにし,それに基づいて診断,治療を行うことを王道としている.例えばインフルエンザの場合には,咽頭からウイルスを検出し,陽性なら抗ウイルス治療を行う.この場合,原因は一見して明らかなように見える.しかし,インフルエンザの流行期に,なぜ一部の人が罹患するのかは明確には説明できない.その背景には,きわめて複雑な免疫機能の個人差と既往の感染歴があるからである.

 慢性疾患の場合には,原因の解明はより難しくなる.例えば痛風を例に挙げてみよう.この病気は血液中に尿酸が増加し,それが何らかの理由で関節内に析出して起こる結晶性関節炎である.したがって原因は高尿酸血症であるということができる.しかしなぜ一部の人に高尿酸血症が起こるのか,完全には明らかになっていない.そもそも血清尿酸値は動物にくらべてヒトでは著しく高い値である.これはヒトと一部の霊長類で,尿酸酸化酵素の遺伝子に突然変異が起こって機能を失っているからである.細菌以来,生物が連綿として受け継いできたこの酵素をなぜ失ったかは,明らかでない.しかしそこに痛風の遠因があると言える.それを理解しようとするのが進化医学である.

参考文献

1)Nesse RM, Williams GC : Evolution and Healing. The New Science of Darwinian Medicine, Weidenfeld and Nicholson, London, 1994
2)井村裕夫:人はなぜ病気になるのか―進化医学の視点,岩波書店,2000
3)井村裕夫:進化医学からわかる肥満・糖尿病・寿命,岩波書店,2008
4)Gluckman P, et al : Principles of Evolutionary Medicine, Oxford University Press, 2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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