一般病院における終末期の治療方針の決定―病院内倫理コンサルテーションの設立・運営
著者:
三浦靖彦
,
川崎彩子
,
土屋晶子
,
佐野広美
,
野村幸史
ページ範囲:P.742 - P.746
医療の最前線である一般病院においては,経管栄養や人工呼吸器に代表される,いわゆる延命治療の開始や中止,終末期患者への病名・予後の告知といった医療倫理的問題が山積している.従来,多くの病院では,これら終末期の治療方針の決定は,主治医個人の判断に任されており,それ故,射水市民病院における人工呼吸器中断や,川崎協同病院における気管内挿管チューブ抜去の問題等,メディアの注目を集める事例も散見された.臨床現場では,患者にとって最善と考えた判断であっても,患者や家族の側から利益がないと考えられてしまう可能性や,その判断が,結果的に人の死を早めてしまうのではないかという医療者自身のジレンマがつきまとい,困惑する場面も多い.その反面,医療従事者による独断専行も容易に起こりえる環境であるが,現代の医療現場においては,医療従事者の判断の正当性をいかに担保すべきかが問われる時代になってきている.
近年,各学会・委員会等から,終末期医療に関するガイドラインが相次いで発表されているが1~3),その中で言及されていることは,終末期の治療方針の決定においては,個人の判断に頼らず,医療チームでの判断が望ましいこと,また,医療チームによる判断が困難な場合は,倫理委員会に対して助言を求めることが望ましいこと等が述べられている.つまり,臨床現場における倫理的な問題に対して,合理的な判断を提供するための支援,いわゆる,倫理コンサルテーションの必要性を明言したものと言えよう.倫理コンサルテーションとは,主に医療従事者が,臨床現場において生じた倫理的問題に関する不安や対立を解消するために,個人やグループにより,助言を与えるものと定義されている4).
本稿では,一般病院における倫理委員会の設立・運営のためのノウハウを紹介し,終末期の治療方針の決定に果たす倫理委員会および倫理コンサルテーションの役割について,概説する.