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雑誌目次

雑誌文献

病院70巻10号

2011年10月発行

雑誌目次

特集 終末期における延命医療のあり方

巻頭言

著者: 池上直己

ページ範囲:P.733 - P.733

 「終末期」も「延命医療」も,共に曖昧な用語である.「終末期」は,がんや慢性疾患を持った患者が徐々に衰弱していく過程において,ある時期から認識する場合もあるし,亡くなった後になって,あの頃から「終末期」であったと気づく場合もある.実は,終末期医療における最大の課題は,患者・家族と医療者,および医療者間で,「終末期」にあることの認識を共有し,対応することである.こうした対応は,突然死した場合を除いて,すべての患者に必要である.

 一方,「延命医療」は,治癒を目的とした「積極的治療」,あるいは心身の苦痛を緩和する「緩和医療」と対比的に位置づけられる傾向にある.しかし,抗がん剤による「積極的治療」の効果が数か月の延命に留まる場合もあり,逆に「緩和医療」によっても同程度の効果が期待できる.一方,日本では「延命医療」の代表として位置づけられている胃瘻などによる経管栄養が,認知症末期の患者の延命に役立つかどうかは必ずしも検証されてなく,諸外国では尊厳を保つうえでも推奨されていない.

【座談会】終末期における延命医療のあり方

著者: 有賀徹 ,   垣添忠生 ,   町野朔 ,   池上直己

ページ範囲:P.734 - P.741

池上 本日は,終末期医療のあり方,特に回復できない状況下での延命医療のあり方に絞って,座談会をしたいと思います.

 そもそもいつから終末期であるかを規定することが難しく,いろいろ議論のあるところですが,最初に有賀先生,救急医療における終末期の考え方をお教えいただけますか.

一般病院における終末期の治療方針の決定―病院内倫理コンサルテーションの設立・運営

著者: 三浦靖彦 ,   川崎彩子 ,   土屋晶子 ,   佐野広美 ,   野村幸史

ページ範囲:P.742 - P.746

 医療の最前線である一般病院においては,経管栄養や人工呼吸器に代表される,いわゆる延命治療の開始や中止,終末期患者への病名・予後の告知といった医療倫理的問題が山積している.従来,多くの病院では,これら終末期の治療方針の決定は,主治医個人の判断に任されており,それ故,射水市民病院における人工呼吸器中断や,川崎協同病院における気管内挿管チューブ抜去の問題等,メディアの注目を集める事例も散見された.臨床現場では,患者にとって最善と考えた判断であっても,患者や家族の側から利益がないと考えられてしまう可能性や,その判断が,結果的に人の死を早めてしまうのではないかという医療者自身のジレンマがつきまとい,困惑する場面も多い.その反面,医療従事者による独断専行も容易に起こりえる環境であるが,現代の医療現場においては,医療従事者の判断の正当性をいかに担保すべきかが問われる時代になってきている.

 近年,各学会・委員会等から,終末期医療に関するガイドラインが相次いで発表されているが1~3),その中で言及されていることは,終末期の治療方針の決定においては,個人の判断に頼らず,医療チームでの判断が望ましいこと,また,医療チームによる判断が困難な場合は,倫理委員会に対して助言を求めることが望ましいこと等が述べられている.つまり,臨床現場における倫理的な問題に対して,合理的な判断を提供するための支援,いわゆる,倫理コンサルテーションの必要性を明言したものと言えよう.倫理コンサルテーションとは,主に医療従事者が,臨床現場において生じた倫理的問題に関する不安や対立を解消するために,個人やグループにより,助言を与えるものと定義されている4)

 本稿では,一般病院における倫理委員会の設立・運営のためのノウハウを紹介し,終末期の治療方針の決定に果たす倫理委員会および倫理コンサルテーションの役割について,概説する.

認知症患者への延命治療のあり方

著者: 朝田隆 ,   吉岡充

ページ範囲:P.747 - P.751

 世界でも稀な速度と加速度をもって超高齢化社会へ突入していった日本では,西欧諸国とは少し違った高齢者医療の誤りがあった.救命第一という急性期のモデル医療の中で,増え続ける障害高齢者が老人病院の中で無念の最期を迎えた.特に認知症の人たちが救命治療のために,また精神・行動症状への対処のために不必要な身体拘束を受けてきたのは事実である.その結果,人としての尊厳を傷つけられたうえに,認知症はより進行して寿命も縮められてしまった.

 社会の高齢化とともに今日のわが国では,「死」がタブーでなくなりつつある.誤解を恐れずに言えば,この10年間に「死の大衆化」が進んだ.そして「どのように死んでゆくのか?」が公開の場で語られるようになった.これは認知症高齢者においてもようやく始まりつつある.

 そこでは,リビング・ウィルの重要性が再三強調されている.またアメリカでは認知症患者に病名を告知する早期の段階で,経管栄養などの延命治療について意向を確認することも推奨されている.しかし日本における反応は乏しく,延命の意向確認などは日本の医療現場の感覚からは程遠い.そのような現状も踏まえつつ,本稿では認知症患者への延命治療のあり方について述べる.

訪問看護における終末期ケア

著者: 池崎澄江 ,   池上直己

ページ範囲:P.753 - P.756

 在宅死は過去50年減少し続け,2009年には12%となり,この割合は最近5年間で変化していない1).一方,2008年度の国の調査によれば,死期が迫っている時の療養場所として,自宅で最期まで療養することが実現可能と考える一般国民は6.2%であり,自分が終末期と診断された場合に最後まで自宅で療養したいと考える割合も11%と,いずれも低い割合である2).このように低い割合に留まっている理由の1つとして,自宅以外(病院・施設)を希望する人々は,訪問看護や在宅サービスの存在や仕組みを知らない割合が高いことが挙げられよう3).しかし,情報を提供することによって意向が変わる可能性があり,宮下らによれば,緩和ケアのシンポジウムを受講した一般聴衆において,「自宅で十分に治療や介護を受けられるシステムがない」と考える割合は受講前の61%から32%に減少し,逆に「終末期の在宅療養が可能」と考える割合は9%から34%に増加していた4).このように,終末期における積極的な医療行為の利点や欠点,在宅で受けられるサービスや仕組みについて国民にわかりやすく提示することで,個人の価値観や経験に基づいて在宅終末期をイメージし,その実現可能性を知ることにつながると考えられる.

 こうした背景で,在宅終末期における訪問看護の役割が理解されることは重要であるが,一般の国民だけではなく,医療関係者の理解も不十分である.そこで,訪問看護の具体的な役割として秋山が提示した70歳代の重症心不全末期の事例を紹介すると,大学病院を退院後,初回訪問から4日後の2回目の訪問において血圧64/40に低下していたが,清拭しながらのマッサージ・熱いタオルで足先を覆うケア・摘便により,82/62に改善し,表情も和らいだ.そして,この訪問の2日後に家族に見守られて在宅死したと記されている5).この事例の全経過は1週間であったが,訪問看護は患者の希望した在宅死を実現するうえで重要な役割を果たしたことが窺える.

 筆者が上記のがん以外の患者の例を紹介したのには理由がある.在宅死の死因を見ると,全死亡の3分1を占める死因であるがんは,在宅死に限るとその割合は17.9%(2009年)と漸増傾向にあるものの2割に満たず,8割はがん以外の死因である.一方,在宅死の死因のトップは心不全であり,3割近くを占めている1).したがって,国として在宅死の割合を高めたいのであれば,がん以外の患者の終末期ケアの体制を整備する必要がある.

終末期ケアにおける日英比較―戦略性・統合性・包括性の相違

著者: 加藤恒夫

ページ範囲:P.757 - P.764

■筆者の立場と視点:地域医療を基点に

 筆者は岡山で有床診療所を運営している開業医である.「子供から高齢者まで」を合言葉に1979(昭和54)年に開業以来,多くの方々の看取りに関わってきた.その過程で地域医療における終末期ケアの重要性に気づき,その先進国である英国をモデルとすることを考えた(その理由は紙面の関係で本稿では省く).そして,The British Council やMacmillan Cancer Supportのご好意により,1987(昭和62)年の初訪英以来,これまで14回の英国研修を重ね,その成果を自らの診療現場に応用してきた.本稿はその経験をもとにした,地域医療最前線を自負する実地医家からの報告・考察である.

【様々な終末期医療】

非がんの緩和ケアについて

著者: 丹波嘉一郎

ページ範囲:P.766 - P.769

■がんの緩和ケアと非がんの緩和ケアに違いはない?

 WHOが2002年に出した緩和ケアの定義には,「緩和ケアとは,生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して,疾患の早期より痛みその他の,身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな問題に関して適切な評価を行い,それが障害とならないように予防したり対処したりすることで,QOLを改善するためのアプローチである」とうたわれている1)

 すなわち,どこにも「がん」と書かれていない.1967年にシシリー・ソンダースがセントクリストファー・ホスピスで現代緩和ケアを始めた当初は,がんの緩和ケアという色彩が強かったが,今は「がん」「非がん」の別を問わないのが本当の緩和ケアであるべきなのである.

終末期リハビリテーションの実際

著者: 大田仁史

ページ範囲:P.770 - P.773

 そもそも筆者が終末期リハビリテーションという言葉をつくったのは,リハビリテーション(以下,リハ)医療の流れが急性期─回復期─維持期にとどまり,しかも維持期が非常に曖昧であるため,右肩上がりの風潮の中でリハ医療の切り捨てが起こることを案じ,そうではないという意思表示をしたかったからである.また,最期まで医療や介護にリハの思想や技術がなければ,人は尊厳ある生をとじられない.

 しかしその後,若年重度障害者や小児,難病,がん患者等のケアをしている人々から,「終末期」という言葉は自分たちにはそぐわないのではないか,という意見をいただき,それらを勘案して,2010年「介護期リハ」という概念を提唱し,長期間介護を受けざるをえない人々と一線を画することにした.それに関しては,拙著『介護期リハビリテーションのすすめ』(青海社,2010)1)を参考にしてほしい.

 介護期リハの提唱に伴い,終末期リハの定義を一部改めた.しかし,実践的な内容は終末期も介護期もほとんど変わらない.本稿では,主に高齢者に関して論じたい.

小児における終末期医療

著者: 中川聡

ページ範囲:P.774 - P.776

■小児での終末期医療とは

 小児であるか成人であるかを問わず,重篤な疾患や外傷などにより,救命困難な病態が生じることがある.特に集中治療の領域では,重症の患者を管理する側面から,患者の死はある一定の頻度で起こりうる.医学が進歩したとはいえ,すべての患者を救命できるわけではない.患者の救命が不可能であることを認識した時に,その事実を患者や患者家族に伝え,死につつあるという状況をどのように受け入れてもらうかが,終末期医療の基本的なカギとなる.

 小児集中治療は,わが国では発展途上の分野である.前述のように,集中治療では患者の死はある一定の頻度で起こる.欧米のPediatric Intensive Care Unit(PICU,小児集中治療室)での死亡率は,3~5%程度とされる.つまり年間1000人程度の入院があるPICUでは,毎年30~50人程度の死を経験することになる.PICUの医師や看護師は,これらの死にゆく患者をケアする中で,患者や家族に対してどのようにアプローチすべきかを,絶えず考えることになる.集約化という観点から,PICUの存在は小児患者死亡例の集積につながり,それが死と向かい合う患者や患者家族とどのように接するのがよいかを考える糸口となる.

グラフ

地域をホスピスに―ホームホスピス宮崎 かあさんの家

ページ範囲:P.721 - P.724

NPO法人ホームホスピス宮崎(HHM)が運営する「かあさんの家」は,末期がんや認知症,1人暮らしが不安な高齢者らが共同生活する「家」.宮崎市内に4軒ある.24時間365日介護スタッフが常駐し,往診や訪問看護など地域医療機関と連携して,最期まで入居者が穏やかに暮らせるように支えている.かあさんの家と,連携する医療機関を取材した.

連載 看護学生と若手設計者が考える 理想の病院・10

リゾート風な

著者: 北原祥三

ページ範囲:P.726 - P.727

リゾートとは何か

 「理想の病院」テーマの中で,私が担当させていただくのは「リゾート風な」病院です.今回皆さんの問いかけに対して,リゾートとは本質的に何なのかを改めて考えてみました.リゾートにも,例えばスキーリゾート,マリンリゾート,スパリゾート等,多種多様な対象があります.日本ではどちらかと言うと大型娯楽施設としてのリゾートホテル,リゾート開発等でリゾートという言葉は使われてきたように思います.一方,個人で海外旅行に気軽に行ける今の時代,皆さんのディスカッションの中でも挙がっていたリゾートのイメージとして,やはり東南アジア系・南国系の離島などが現代ではリゾートの共通イメージでしょうか.皆さんのサブテーマに「病室がコテージ」というキーワードもありますが,やはり喧騒から離れてゆっくりできる場所,つまり海岸沿いに建つコテージのように,静かに時間を過ごせる環境がリゾートと言えるのかもしれません.

 南国の海岸沿いに病室が点在するリゾート病院があれば,患者さんも働く皆さんもリラックスできるかもしれません.ただし,病院はホテルや別荘のように娯楽目的の場ではありませんし,遠い場所では病院機能の役割を成すことはできません.今回私に与えられたテーマはリゾートではなく,「リゾート風」という皆さんの願望を真摯に捉えて,海や森といったリゾートロケーションにある病院ではなく,あくまでも都市の中に建つ病院を条件設定し,いかにリゾート気分を建築空間で演出し,かつ病院機能が成立し得るかについて考えてみました.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・62

MSWの視点で経営・事業展開に参画

著者: 吉田麻希

ページ範囲:P.786 - P.789

 医療機関が患者の療養と生活にとって力強い存在であり続けるために,MSWも,所属する組織の経営基盤を確かなものにする働きに,積極的に関わっていくことが求められる.筆者は,「地域に適切な受け皿をつくろう」と,医療を母体とした財団法人での介護事業の立ち上げ・整備に関わった.その経験をもとに,MSWの働き,保持すべき視点や用いる方法・技術の有効性を論じてみたい.

臨床倫理コンサルテーション・6

臨床倫理コンサルテーションの方法(3)―分析・検討①

著者: 瀧本禎之

ページ範囲:P.790 - P.791

 臨床倫理コンサルテーションの中心をなすケース・コンサルテーションは,依頼内容を確認するところから始まる.続いて依頼内容を基に情報収集を行う.さらに得られた情報から問題の分析・検討を行い,その結果に応じて介入方法を検討することになる.本稿では,ケース・コンサルテーションの一連の手続きの中で最も重要な,ケースの分析・検討の具体的な方法について解説する.

医療BSC基礎講座・9

BSCにおける予算管理と原価計算

著者: 髙橋淑郎

ページ範囲:P.792 - P.795

■BSCと予算管理

 BSCは,長期的な戦略の策定と実行のためのマネジメント・システムである.長期的な戦略の遂行を支えるため,多様な視点に基づく総合的な業績評価,経営および業務活動の質向上に資するなど,多目的な活用が可能な経営管理ツールとなっているが,BSCの運営上,とりわけ戦略をコントロールするために,組織内の共通言語として重要になるのが,経営計画や予算にかかる管理会計からの情報である.

 戦略はトップマネジメントによって策定された中長期の経営計画を前提に,短期利益計画に基づく,管理会計の一手法である予算管理を通じて実行されるが,これによって,戦略を具体的な業務活動に置き換え,組織全体に戦略を伝達し,理解させることが可能になるからである.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・49

団塊の世代―~その最後の仕事~

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.796 - P.797

芋の子あつかい

 「吉田!」と,中学校の教師が生徒の名前を呼ぶ.すると「はい!」「ハイ!」「はーい」と3人の男女が手を挙げた.この情景は僕の中学時代.当時は1クラス平均55人を超え,1学年に13クラスもあった.それが3学年あるのだから,総生徒数は優に2000人を超える.「吉田」と呼べば複数の生徒が返事をしても不思議ではない.「田中」も同様で,これまた愉快だ.ところが,これだけの生徒数を既存の校舎に収容するのは不可能であり,グランドにプレハブの簡易校舎が建てられた.夏は暑く,冬は寒い.僕らはそこで授業を受けたのである.

 一方,弟が通う小学校は講堂を厚いベニヤ板で仕切り,いくつもの教室を作った.講堂の一番前には舞台があって一段高くなっている.えんじ色の緞帳が垂れ,一番奥にもう1枚の垂れ幕があり,それを開くと昭和天皇と皇后の写真が飾られている.普段は上げられない垂れ幕であって,写真を見つけた生徒たちは「おばけがいる」と,はしゃぐ.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第201回

地域を支える診療所二題―むかわ町国民健康保険穂別診療所

著者: 山口雅幸

ページ範囲:P.798 - P.801

 設計当時,穂別町は北海道道央南部,胆振振興局の最東端に位置し,北は夕張市と上川振興局の占冠村,東は日高振興局管内の平取町,西は厚真町,南は鵡川町と接しており,行政面積の約9割を山林が占める林業を主要産業とする山間の静かな町であった.現在は鵡川町と合併し,むかわ町となっている.

 交通面では道央の主要都市とは比較的近く,札幌まで2時間,苫小牧,千歳空港まで1時間の距離にある.

地域を支える診療所二題―きらめき広場・哲西 哲西町診療所/哲西町歯科診療所

著者: 堀田荏惟一

ページ範囲:P.802 - P.805

 広島県・島根県・鳥取県と岡山県の4県境が集まる岡山県の北西端部,新見市旧哲西町.地域人口約3000人(新見市人口約3万3000人),高齢化率約37%.町の過半が高原と山林で占められ,町の中東部には「西の尾瀬」と呼ばれ,国の天然記念物に指定されている「鯉ヶ窪湿原(鯉ヶ窪湿生植物群落)」があり,時期折々に貴重な動植物を楽しむことができる緑豊かな山間の地に,哲西町診療所・哲西町歯科診療所は2001年11月に開設された.

 哲西町診療所・哲西町歯科診療所は,複合施設「きらめき広場・哲西」の一角にある.この「きらめき広場・哲西」は,旧哲西町役場(現新見市哲西支局),診療所,生涯学習センター,文化ホール,図書館,保健福祉センターをひとつ屋根の下に配置した複合施設である.

 この施設は当時,過疎と合併,歴史あるコミュニティーをどのように存続させていくかという,現在でも地方集落がかかえる問題を,哲西町全町民で議論しあったうえにできあがった.

 本施設については,建設の構想・設計の過程における町の熱い想い抜きに本質を語ることができないので,以下にその経緯を紹介したい.

リレーエッセイ 医療の現場から

病院の中の“辺境”へ

著者: 石川れい子

ページ範囲:P.807 - P.807

■葬儀業界も知らない霊安室の実態

 今年春から,葬儀業界の専門誌で霊安室についてのルポを開始しました.『説明できるエンゼルケア』の著者・小林光恵さんと,数年前に死後ケアの本を作ったことから,病院側の看取り事情を多少知る者として執筆のオファーをいただきました.

 読者は葬儀関係の仕事に就いている人たちです.担当編集者によれば,葬儀業界も今は分業が進んでおり,葬儀社のスタッフのほか,斎場,湯灌,花,搬送,ケータリング等,様々な職種があるとのこと.霊安室についてなら,読者の皆さんのほうが私の百倍もよくご存じのはず……と思ったら,意外とそうでもないようなのです.例えば,葬儀社の営業社員の中にも,霊安室を見たことがない人がいるとか.遺体のお迎えはもっぱら葬儀社が契約している外部の搬送業者が行っているからだそうです.

 そこで私にその詳細をレポートしてほしいというオーダーでした.

研究と報告【投稿】

医療法人における管理会計制度の導入状況

著者: 荒井耕 ,   尻無濱芳崇

ページ範囲:P.777 - P.782

要 旨 施設事業レベルの管理会計制度は多く見られるが,施設事業内の部門レベルではあまり実施されていない.そのため,施設事業レベルで問題が生じても,どの部門で不採算や予定外のことが生じたのか原因を特定することができず,迅速な対応策が取れない.また部門レベルでは財務的な管理がなされていないため,現場部門管理者等への採算管理意識の徹底が図られていない.部門レベルでも管理会計制度を整備し,しっかりと問題の所在を明確にできるようにし,また現場部門での経営管理意識の徹底を図る必要がある.さらに,原価計算結果に基づく業績評価制度がまだ十分に整備されておらず,財務的根拠に基づいた現場管理者の財務的業績評価が十分にできていない.激変環境下での多角化による複雑な財務的影響に迅速に対応していくために,現場管理者への経営面の権限移譲がさらに進む中,原価計算結果を業績評価制度でしっかりと活用していくことも,今後課題となる.

レポート【投稿】

イギリスにおけるNurse Practitioner(NP)の活躍と社会的背景

著者: 桑野紀子

ページ範囲:P.783 - P.785

要 旨 医師の偏在など医療を取り巻く多くの問題が顕在化する中,チーム医療の推進と看護職の役割拡大についての議論が活発化している.イギリスでは,1980年代から一次医療領域を中心に,社会のニーズに応える形でNurse Practitioner(NP)が重要な役割を担ってきた.2006年には看護職の独立処方権が認められ,患者の利便性向上に大きく貢献している.イギリスは日本と同様,国民皆保険制度であり,GDPに占める医療費割合も9.8%(日本8.5%,米17.4%)と他のOECD諸国と比べ日本と近い水準にある.日本の看護職の役割拡大を考える際,イギリスにおいてNPが実現するに至った社会的背景や活動の実態等を把握することは有用であると考える.今回,渡英し,現地で関係諸機関および複数名のNPから情報収集を行ったので,イギリスのNPの実態を報告するとともにNP発展に影響を及ぼした社会的背景について考察する.

表紙

「TOKYO」

著者: 赤木主税

ページ範囲:P.731 - P.731

 1980年岡山県生まれ.生後1か月でダウン症と診断される.中学卒業後に通所した岡山県吉備の里能力開発センターで絵画の才能を開花.97,98年「Tシャツアート展」受賞,世界人権宣言50周年記念切手デザインコンクール佳作入選ほか.2006年4月より茨城県つくば市にあるNPO法人自然生クラブに参加.絵画制作の他,田楽舞の舞台にたち,アイルランド,ベルギー等の演劇祭に参加,国内外問わず精力的に作品展,公演を行う.


【今月号の作品】

彼の友達にフジテレビが好きな人がいる.その友達の影響か,中心のドーム形がそれを表現しているらしい.この作品は都会を表しているように感じられて「TOKYO」と名付けられたと思われる.(母 赤木真里子)

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次号予告/本郷だより/告知板

ページ範囲:P.808 - P.808

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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