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文献詳細

雑誌文献

病院70巻10号

2011年10月発行

文献概要

特集 終末期における延命医療のあり方

訪問看護における終末期ケア

著者: 池崎澄江1 池上直己2

所属機関: 1千葉大学大学院看護学研究科 保健学教育研究分野 2慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室

ページ範囲:P.753 - P.756

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 在宅死は過去50年減少し続け,2009年には12%となり,この割合は最近5年間で変化していない1).一方,2008年度の国の調査によれば,死期が迫っている時の療養場所として,自宅で最期まで療養することが実現可能と考える一般国民は6.2%であり,自分が終末期と診断された場合に最後まで自宅で療養したいと考える割合も11%と,いずれも低い割合である2).このように低い割合に留まっている理由の1つとして,自宅以外(病院・施設)を希望する人々は,訪問看護や在宅サービスの存在や仕組みを知らない割合が高いことが挙げられよう3).しかし,情報を提供することによって意向が変わる可能性があり,宮下らによれば,緩和ケアのシンポジウムを受講した一般聴衆において,「自宅で十分に治療や介護を受けられるシステムがない」と考える割合は受講前の61%から32%に減少し,逆に「終末期の在宅療養が可能」と考える割合は9%から34%に増加していた4).このように,終末期における積極的な医療行為の利点や欠点,在宅で受けられるサービスや仕組みについて国民にわかりやすく提示することで,個人の価値観や経験に基づいて在宅終末期をイメージし,その実現可能性を知ることにつながると考えられる.

 こうした背景で,在宅終末期における訪問看護の役割が理解されることは重要であるが,一般の国民だけではなく,医療関係者の理解も不十分である.そこで,訪問看護の具体的な役割として秋山が提示した70歳代の重症心不全末期の事例を紹介すると,大学病院を退院後,初回訪問から4日後の2回目の訪問において血圧64/40に低下していたが,清拭しながらのマッサージ・熱いタオルで足先を覆うケア・摘便により,82/62に改善し,表情も和らいだ.そして,この訪問の2日後に家族に見守られて在宅死したと記されている5).この事例の全経過は1週間であったが,訪問看護は患者の希望した在宅死を実現するうえで重要な役割を果たしたことが窺える.

 筆者が上記のがん以外の患者の例を紹介したのには理由がある.在宅死の死因を見ると,全死亡の3分1を占める死因であるがんは,在宅死に限るとその割合は17.9%(2009年)と漸増傾向にあるものの2割に満たず,8割はがん以外の死因である.一方,在宅死の死因のトップは心不全であり,3割近くを占めている1).したがって,国として在宅死の割合を高めたいのであれば,がん以外の患者の終末期ケアの体制を整備する必要がある.

参考文献

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2)厚生労働省 終末医療のあり方に関する懇談会:終末期医療のあり方に関する懇談会報告書,2010
3)Fukui S, et al : Japanese People's Preference for Place of End-of-Life Care and Death : A Population-Based Nationwide Survey. J Pain Symptom Manage : Jun 18(Epub ahead of print), 2011
4)Miyashita M, et al : Effect of a population-based educational intervention focusing on end-of-life home care, life-prolonging treatment and knowledge about palliative care. Palliat Med 22(4):376-82, 2008
5)秋山正子:在宅ケア─もっとやさしく, もっと自由に(18).訪問看護と介護 16(4):328-329, 2011
6)福井早紀子:がん終末期ケアにおける医療連携の現状と課題─病院看護師と訪問看護師への期待.病院 66(5):397-402,2007
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9)厚生労働省:介護サービス施設・事業所調査 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001029805
10)伊藤雅治:訪問看護事業に求められるビジネスモデルの再構築.週刊医学界新聞:第2794号,2008
11)医療経済研究機構:訪問看護利用者における終末期ケアに関する調査報告書,2005
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14)Munday D, et al : Exploring preferences for place of death with terminally ill patients:qualitative study of experiences of general practitioners and community nurses in England. BMJ 339 : b2391, 2009
15)Ikegami N, Ikezaki S : Life sustaining treatment at end-of-life in Japan : Do the perspectives of the general public reflect those of the bereaved of patients who had died in hospitals? Health Policy 98(2-3):98-106, 2010
16)厚生労働省:医療施設調査2008上巻,厚生統計協会,2010,pp220-221,pp319-321
17)Seymour J, et al : Implementing advance care planning : a qualitative study of community nurses’ views and experiences. BMC Palliat Care:Apr 8 ; 9 : 4, 2010

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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