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雑誌目次

雑誌文献

病院70巻11号

2011年11月発行

雑誌目次

特集 医療計画と二次医療圏の今後

巻頭言

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.821 - P.821

 1986(昭和61)年に施行された医療計画制度は,二次医療圏を医療提供体制の整備目標単位としている.実際に,病床数のコントロール(規制)に使われており,救急医療体制整備(二次救急)にも利用されている.しかしながら,二次医療圏は病床規制には有効であったものの,各圏内の人口格差,面積,県別ばらつき等が大きく,医療提供体制の完結には程遠い制度であった.

 その後,これまでの基本的な考え方を変更し,2006(平成18)年には新たな医療計画が策定された.こちらは三次医療圏(都道府県)を単位として,「4疾病5事業」を中心に,疾患別医療連携,救急医療体制整備,診療情報の開示等が作られている.今後の医療提供体制はこちらが中心になって進められるものと考えられる.

医療計画および医療圏のあり方についての考察

著者: 尾形裕也

ページ範囲:P.822 - P.826

 本稿は,本号の特集「医療計画と二次医療圏の今後」に関する総論的論考である.Publicly funded and privately deliveredと規定されるように,資金調達は公的に(国民皆保険体制),医療サービスの提供は民間主導で,というのが,わが国の医療政策・医療体制の基本的な特徴である.こうした公─民のポリシー・ミックスは,これまでそれなりに機能してきたと考えられる注1).比較的低い国民負担の下で,医療施設,設備等は「世界一」と言える整備状況にあり,少なくとも平均寿命や死亡率等で測った「健康の達成度」も世界トップレベルの水準にある注2).その一方で,医療提供体制に関しては,政府が有効な政策を展開できる余地はきわめて限定されたものであった.医療提供体制を基本的に規定してきたのは,実際には診療報酬政策であったと言っても過言ではない.そうした中で,医療計画は当初は病床規制のためのツールとして,また近年では地域における医療の機能分化と連携を推進していく「指針」として,医療政策における役割が次第に拡大してきている.

 こうした状況を踏まえ,本稿においては,はじめに医療計画制度の沿革とその位置づけについて整理する.次に,医療計画の元々の目的であった病床規制のあり方について検討する.医療提供体制に係る量的規制は,医療費適正化を目指す先進各国にある程度共通の政策であったが,近年それが変わりつつあること,またわが国においてもその見直しの論点が2003年のワーキンググループ報告において整理されていること等について説明する.さらに,近年における医療計画の見直しの中で強調されてきた,いわゆる「地域完結型医療」の基本的な考え方について,医療圏の実態等を踏まえつつ検討する.そして最後に,医療提供体制に関する将来像を踏まえ,今後の医療計画のあり方をめぐる諸論点について検討する.

二次医療圏見直しの手順と課題

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.827 - P.831

■二次医療圏データベースの紹介

 今後日本社会は,総人口は減少するが,後期高齢者が激増する.二次医療圏の今後を考える場合,政策や病院の将来ビジョン作成の担当者がまず,①その地域の人口の増減や後期高齢者の増減を考え,②高度急性期型の病床の現在の多寡,③亜急性,回復期,地域密着型,療養病床などの現在の多寡を認識するべきであろう.さらに地域の地図の上に病院をプロットし,上記①~③の情報をもとに,地域の医療提供体制の将来像を描くのが,地域や病院の将来ビジョンを考えるごく自然な手順であろう.

 しかしこれまで県や市町村の役所や病院の担当者が,他の地域と比較して自分たちの地域が,「高度急性期型の病床の多いのか少ないのか」「亜急性,回復期,地域密着型,療養病床が多いのか少ないのか」を判断するためのデータは整備されておらず,また地域の人口の推移予測からその地域の将来の適正病床数を簡単に推計できるようなツールも存在しなかった.政策立案の担当者や病院の将来を考える立場の人たちが,日本全体と比較しながら,自分たちの地域の医療や福祉の提供状況の変化を容易にシミュレーションできるツールの提供を目指して,筆者らは「二次医療圏データベース」を開発した.

都道府県が策定する医療計画と救急医療体制はどうあるべきか

著者: 菅河真紀子 ,   河原和夫

ページ範囲:P.833 - P.838

 1948年に制定された医療法は,戦争により破壊された医療施設の復興を見据え,いわば量的な医療供給体制の整備が盛り込まれたものであった.しかし,戦後の急速な医学・医療の進歩や高度経済成長とともに,医療機関の量的な整備はほぼ完了し,医療資源の地域偏在の是正を図ること等を目的に1985年に医療法が改正され,医療計画制度が設けられた.病床規制と医療圏の設定により医療圏単位での医療格差の改善を目指したものであったが,病床規制以外何ら成果を見ずに25年余りが経過した1)

 病床数の量的規制しか明確な成果を上げてこなかった医療計画は,「医療の質・安全性の確保」「医療資源の地域格差の是正,公平性の確保」「医療機能分化・強化・分担・連携」や「情報の提供と選択の支援」「患者,住民の視点」などの近年の国民の要望や新たな世間の動向に対処できなくなった.

新しい救急医療体制の構築

著者: 小濱啓次

ページ範囲:P.839 - P.844

 わが国の救急医療体制を振り返ると,昭和38(1963)年,交通事故の増加に対応するために,消防法の一部が改正され,市町村消防に救急業務1)が義務づけられ,事故現場から医療機関に傷病者を搬送することとなった.これを受けて厚生省は昭和39(1964)年,交通事故の傷病者に対応できる条件を満たす医療機関を,救急告示医療機関(救急病院,救急診療所)2)として告示した.

 本体制は昭和40年代に傷病者の「たらいまわし現象」を引き起こし,当時の厚生省はその対策として昭和52(1977)年,初期→二次→三次救急医療機関に流れる救急新医療体制を構築3)した.しかし今,再びたらいまわし現象が生じており,診療,搬送,情報におけるいずれにおいても新たなる救急医療体制の構築が求められている.

4疾病・5事業の取り組みに関する全日病の調査報告

著者: 吉田愛 ,   池上直己 ,   小松寛治 ,   西澤寛俊 ,   長谷川友紀

ページ範囲:P.845 - P.848

■4疾病・5事業とその意義

 2007年に施行された第5次医療法改正において,「4疾病(がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病)・5事業(救急医療・災害医療・へき地医療・周産期医療・小児医療)」が新たに医療計画の記載事項に追加され,具体的な医療連携体制を構築し,指標と数値目標を明示することが求められるようになった.その際,従来の2次医療圏を超えた医療提供体制を構築できることが,医政局指導課長の通知で各都道府県担当者に通知された(2007年7月20日,医政指発第0720001号).また,同改正で社会医療法人が創設され,その認可要件として,5事業のいずれかを担うことが定められた.

 一方,2010年度の診療報酬改定では,DPC対象病院の機能評価指数Ⅱの地域医療指数として,4疾病・5事業への貢献が評価されることになった.つまり,医療法における新たな規定と診療報酬による政策誘導が直接結びつくことにより,病院にとって4疾病・5事業に対応することが,病院の収益に直結するため,管理者としていっそう真剣に取り組む必要性に迫られている.

―「医療計画」「二次医療圏」「救急医療体制整備」をどのように考えるか―北海道

著者: 北海道 保健福祉部 医療政策局 医療薬務課 医療政策グループ

ページ範囲:P.849 - P.852

■医療計画

1.医療計画策定の状況

 本道は,昭和44(1969)年に地域ごとに均衡のとれた医療提供体制の整備を目指して「地域センター病院」制度を創設し,昭和55(1980)年には国に先駆けて「北海道保健医療基本計画」を策定して,第一次から第三次の保健医療圏を設定するなど,本道の実情に即した独自の取り組みを行ってきた.昭和63(1988)年には,医療法に基づく「北海道地域保健医療計画」を策定し,平成10年(1998)には「北海道保健医療福祉計画」と改めた.北海道医療計画は「新・北海道総合計画」の特定分野別計画であり,「北海道保健医療福祉計画」における医療分野の個別計画として位置付けられている.現計画の計画期間は平成20(2008)年度から平成29(2017)年度までの10年間とし,5年以内を目処に,目標の達成状況や保健医療の動向などを踏まえ必要な見直しを行うこととしている.

 本計画の基本理念は「道民の医療に対する安心,信頼を確保するため,医療計画を通じて,住民・患者の視点に立って,良質かつ適切な医療を効率的,継続的に提供する体制を確立する」ことである.その実現にむけて以下の4つの基本的方向を柱に本計画を推進している.①疾病又は事業ごとの医療連携体制の構築,②医師など医療従事者の確保と資質の向上,③良質な医療を提供するための医療安全の確保,④住民・患者の視点に立った医療情報の提供.

―「医療計画」「二次医療圏」「救急医療体制整備」をどのように考えるか―千葉県

著者: 千葉県 健康福祉部 健康福祉政策課 ,   千葉県 健康福祉部 医療整備課

ページ範囲:P.853 - P.856

■医療計画

1.医療計画策定の状況

 本県の医療提供体制を考えるうえで最も大きな課題は,「急速な高齢化と乏しい医療資源」が全国的にも際立っていること,また,「東京通勤圏の人口密集地と人口が減少しつつある郡部」を併せ持っている数少ない県であることである.

 この点を踏まえて,本県の保健医療計画は,「県民一人ひとりが,健やかに地域で暮らし,心豊かに長寿を全うできる総合的な保健医療福祉システムづくり」を基本理念とし,限られた医療資源を効率的に活用するために役割分担を明確化することで,県民の健康増進から疾病の予防,診断,治療,リハビリテーション,在宅療養まで切れ目のない保健医療供給体制を確立することを目指した計画となっている.

―「医療計画」「二次医療圏」「救急医療体制整備」をどのように考えるか―長野県

著者: 長野県 健康福祉部 医療推進課

ページ範囲:P.857 - P.859

■「医療計画」

1.医療計画策定の状況

 本県では,昭和62(1987)年以来4次にわたる「長野県保健医療計画」を通じて,県民が「いつでも」「どこでも」「等しく」保健医療サービスが受けられる体制整備を目指して取り組んできたところであるが,少子高齢化の急速な進展,生活習慣病患者の増加,医療技術の高度化など,医療を取り巻く環境が大きく変化している中で,平成20(2008)年3月に策定した「第5次長野県保健医療計画」では,県民に安全で質の高い医療を提供するため,医療従事者の養成・確保に重点を置くとともに,医療機関の機能分担と連携によるネットワーク化を推進することとしている.

 なお,計画の具体的推進とその進行管理のために,数値目標を含め目標を設定し,計画の進捗状況については,平成21(2009)年度以降毎年度,確認・評価を行い,長野県医療審議会に報告しており,現在までのところ,多くの項目において比較的順調に計画が進捗している状況である.

―「医療計画」「二次医療圏」「救急医療体制整備」をどのように考えるか―京都府

著者: 京都府 健康福祉部 医療課

ページ範囲:P.860 - P.862

■医療計画

1.医療計画策定の状況

 京都府では,これまで健康増進計画(きょうと健やか21)や保健医療計画などの策定を通じ,保健医療施策の推進に努めてきたが,市町村合併などによる地域事情の大きな変化,がん対策基本法などの新たな法律の制定や医療法の改正など,保健医療施策を取り巻く環境が大きく変化する中で,保健医療計画を定期的に見直すことで,時代の変革に的確に対応し,地域における保健医療資源の充実と安全で良質な医療を提供する体制の構築を目指している.

 平成20(2008)年に見直しを行った現行計画は,健康長寿日本一を現実のものとするために,健康寿命の延伸を阻害する疾患(がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病)への対応を軸とした保健医療対策を最優先で取り組む課題と位置づけ,在宅を中心とした医療連携体制の構築など,府民・患者の視点から,安心で良質な医療を提供する体制を整備するため,高齢者保健福祉計画や地域包括ケアシステム推進プランなど関連する他の計画との整合を図り,一体的な事業の推進を進めることとしている.

グラフ

安心して戻れる街を―原発30キロ圏内の医療 南相馬市立総合病院

ページ範囲:P.809 - P.812

 3月に起きた東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で,事故現場から半径20~30kmのエリアは2011年4月22日,緊急時避難準備区域(以下,避難準備区域)に指定された.住民は緊急時,自力で避難できることが条件とされ,小さな子どもや要介護者はこの区域では生活できない.当区域の病院には8月現在も入院患者の受け入れに制限がかけられ,介護施設への入所はまったくできない状態だ.南相馬市立総合病院の金澤幸夫院長を取材した.

連載 看護学生と若手設計者が考える 理想の病院・11

赤毛のアン

著者: 早田倫人

ページ範囲:P.813 - P.814

 「赤毛のアン」というテーマは,学生さん自身の入院体験から導き出されています.

・病室からの景色が,建物ばかりで安らげなかった.

・病室に殺風景な印象を感じた.

・廊下へ自然光が入ると良いのに.

 など,様々なことを入院中に感じたそうです.このような入院体験を通して,学生さんは近い将来,自分が看護師として働くことを想像し,「赤毛のアンの情景のような病院があれば良いのに」と考えたとのことでした.

病院への政策金融 事業仕分けと東日本大震災を通して・1【新連載】

病院への政策金融はなぜ必要か

著者: 岩野正史

ページ範囲:P.870 - P.872

 東日本大震災が起きた3月11日の午後,私は港区にある独立行政法人福祉医療機構のオフィスで,近々行われる行政改革推進本部のヒアリングへの対応方法について考えていた.あっ,地震だと思う間もなく,立っていられないほどの揺れが続き,会議室の天井の一部が落下し,理事長室の本棚が倒れた.福祉医療機構では直ちに危機管理対策本部が設置され,この日を境にして,被災された医療施設や社会福祉施設への金融支援に全力を傾けていくこととなる.

臨床倫理コンサルテーション・7

臨床倫理コンサルテーションの方法(3)―分析・検討②

著者: 瀧本禎之

ページ範囲:P.874 - P.876

 前回紹介したJosnenらの四分割表は,ケースアプローチによる分析・検討を行う際に簡潔で使用しやすい特徴がある.しかし,項目が簡潔すぎるために,1つの項目(欄)にたくさんの情報が入り過ぎて,分析から検討に移る際に見づらかったり,必要な情報が漏れてしまったりする欠点も存在する.分析・検討に慣れた者にとって,自由度が高いことは価値があるが,手続き的正義の観点から漏れなく情報を集め分析・検討することを重視するなら,必ず検討が必要な項目を独立させることで,漏れを生じにくくするほうが実践的である.そこで筆者らは,倫理的検討を行う場合に,必須となるいくつかの項目を独立させ,一連のケース・コンサルテーションの流れに沿うような形でオリジナルのシートを作成した(表).

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・63

緩和ケアにおけるMSWの役割

著者: 梶平幸子

ページ範囲:P.877 - P.881

 当院は2010年12月に緩和ケア病棟を開設した.緩和ケア病棟の開設においてはMSWが中心となり準備を行ったが,開設後も院内・院外を問わず入院相談や外来受診相談等,MSWが連携の要としての役割を果たしている.開設準備から現在までの院内・院外へのMSWとしての取り組みや緩和ケアにおいてMSWが行っている受診・受療援助について振り返り,緩和ケアにおけるMSWの役割について検証する.

医療BSC基礎講座・10

BSC導入前後に見られる典型的な障害とその解決

著者: 髙橋淑郎

ページ範囲:P.882 - P.885

 本連載も残り2回となった.今回は,病院でBSCを作成しようとする際の典型的な障害と,それを克服するためのヒントを考えていく.そして最終回となる次回では,BSCを導入・運用していくうえで,クリアしなければならない運用上のポイントを具体的に述べたい.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・50

―連載50回記念対談―WHOの定義なんて要らない?―自分たち流の緩和医療への期待

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.886 - P.889

連載50回目となる今回は,鉄郎さん(写真左)と奈良県立医科大学附属病院の緩和ケアセンターで患者の痛みと向き合う緩和ケア医,髙橋正裕医師との対談を掲載する.「緩和医療」と検索すれば真っ先に出てくるのが,WHOによる定義.でも――.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第202回

職員の労働環境とアメニティ

著者: 小菅瑠香

ページ範囲:P.890 - P.894

 連なる山々を一望できるレストラン,コーヒーの香りの立ちこめる喫茶,読書に没頭できる静かな図書室,品揃えの豊かな売店,銀行,郵便局,理髪店,託児所…….

 数十年前まで病院とは無縁と思われていたこうしたアメニティの数々は,大規模病院の複合施設化が進むにつれて,患者獲得競争には必要不可欠なものとなっている.アメニティを巡る動向は充実性にとどまらない.従来アメニティの対象として真っ先に思い浮かべるのは患者やその家族であったが,近年ではそれと同じくらいに職員のアメニティの重要性が着目されるようになった.1つには職員のストレスを取り除いて仕事の質を高めるため,もう1つには医療現場の職員不足が深刻化している現状において,魅力的な職場をアピールすることによって人材を確保する目的もあるだろう.

リレーエッセイ 医療の現場から

病院で働く医療者にとっての職業倫理―「医は仁術」の再生に向けて

著者: 秋葉悦子

ページ範囲:P.895 - P.895

 医療者の職業倫理は,ヒポクラテスの医の倫理に遡ることができる.それは元来世俗的なものだったが,後にカトリック倫理によって継承・発展させられたため,医療はキリスト教の最高の徳である「隣人愛」の実践として捉えられ,自らを顧みず病者を救済する献身的行為としての側面が強調された.「ナイチンゲール誓詞」もそれを色濃く反映する.

 ところが1960年代に米国で勃発した公民権運動の結果,患者の自己決定権という新たな権利が勝ち取られ,従来の医の倫理は権威主義的であるとして排斥される.その流れは日本の学術界をも席捲したが,米国の特殊な文化・政治事情を背景に登場した,この個人主義医療倫理に対しては,いくつか重大な問題点が指摘されている.①前提とされている孤立的個人像の特異性,②医師・患者関係は,一方が病苦からの救済を求める側,他方はこれを救済する側であって,事実上対等でない.にもかかわらず,公民権の対等が強調され,両者の関係が二項対立的に捉えられる,③医療は公共財であって消費財ではないから,通常の市場取引や契約を律する法律の枠組みで捉えることはできない,等々.しかし最大の問題は,医療行為を法律上の行為に還元し,徳行としての次元を切り捨ててしまうことが,医療者のモチベーションと医療の質を低下させることである.

講演録 【フォーラム】医の求めるもの・法の応えるもの―伝えあうことから解決がはじまる

日本の医療を立て直すには

著者: 吉田修

ページ範囲:P.863 - P.865

 2010年9月,「医療と法ネットワーク」が設立された(http://www.kclc.or.jp/medical-legal/).医療関係者と法律関係者の対話を通して,「医療と法」をめぐる様々な問題に取り組むことで,相互理解を目指している.本稿は2011年3月5日(土)に京都大学芝蘭会館で開催されたフォーラムでの,吉田修氏ならびに北川善太郎氏(共に同ネットワーク発起人)の基調講演を再録したものである.

生命科学における医と法

著者: 北川善太郎

ページ範囲:P.866 - P.869

■4つの問題

 「生命科学における医と法」というテーマには,まず「人の健康」と「人の病気」,それに「人の生」と「人の死」を加えた4つの問題がある.これらが医と法との関係の基盤にあるが,そこで重要なことは専門と非専門の関係であろう.これは「人の健康」と「人の病気」の問題では特にそうである.なぜなら,「専門的な問題は専門家だけで議論すればよく,非専門家は専門家に任せておけばよい」とはならないからである.例えば医療過誤訴訟注1)では,医の専門家でない法律家が,医療ミスがあったかどうかについて責任ある判断をしなければならない.このように明確な形でなくても,医と法の間において,専門と非専門の交錯関係はむしろ日常の出来事である.これに対して,「人の生」と「人の死」の問題は,近代ではそうでなかったが,現代ではそれが一変したのではないだろうか.

 このような視点から本稿では,医と法の間における専門と非専門の問題を,生命科学における「人の生」と「人の死」の問題から検討してみたい.なお,以下の説明は,医と法の関係で取り上げる事柄の関係でどのような問題点があるかを検討するために,範囲は日本法に限らないことをあらかじめお断りしておきたい.

表紙

「カンナ」

著者: 赤木主税

ページ範囲:P.819 - P.819

 1980年岡山県生まれ.生後1か月でダウン症と診断される.中学卒業後に入所した岡山県吉備の里能力開発センターで絵画の才能を開花.97,98年「Tシャツアート展」受賞,世界人権宣言50周年記念切手デザインコンクール佳作入選ほか.2006年4月より茨城県つくば市にあるNPO法人自然生クラブに参加.絵画制作の他,田楽舞の舞台にたち,アイルランド,ベルギー等の演劇祭に参加,国内外問わず精力的に作品展,公演を行う.


【今月号の作品】

花びんにさしたオレンジ色のカンナの花.この絵を見ると元気になれると言ってくれた人がいた.(母 赤木真里子)

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次号予告/本郷だより/告知板

ページ範囲:P.896 - P.896

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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