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雑誌目次

雑誌文献

病院70巻3号

2011年03月発行

雑誌目次

特集 自治体病院の存在意義

巻頭言

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.173 - P.173

 今年は,国民皆保険制度が確立した1961年から50年を迎える年にあたる.自治体病院の多くは,1922年に健康保険法,1938年に国民健康保険法が公布され,わが国に医療保険制度が確立していく過程で,地域に医療を提供するための施設として戦前から戦後の復興の時期に設置されている.自治体立の病院や診療所が設置されることで,国民の国民健康保険への加入が進み,国民健康保険への加入者の増加が,自治体立の医療機関の設置を促進するという循環を生んだ.

 現在,医療保険制度は,国民の高齢化による医療費支出の増大と景気の低迷による収入の伸び悩みなどにより,保険会計の赤字などの問題を抱え,将来の安定的な医療保険体制に向けた見直しが行われている.

自治体病院の存在意義はどこにあるのか

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.174 - P.179

■自治体病院の存在意義を可視化する

 世界的に見れば,病院の経営形態は,全て公立病院が占める国(イギリスなど)から,公立病院と私的病院の混合する国(フランスなど),私的病院が多く占める国(アメリカなど)など,国によって様々である.わが国の病院は,国公立病院のほか,赤十字や済生会などの公的病院,民間医療法人が混在し,私的病院の割合の多い国である.どのような経営形態であっても,そこで行われる医療自体には変わりはない.「税金が投入され,非効率な自治体病院は,効率性の観点から民間医療法人に運営を委ねるべき」という考えも成り立つ.自治体病院の存在意義はどこにあるのか,考えてみたい.

 図1は,自治体病院の存在意義を「存在意義あり・存在意義なし」「目に見える(数値化可能)・目に見えない(数値化難しい)」の2つの軸で分析をしたものである.あえて,今回は「存在意義なし」を「存在意義あり」の上に置いている.

公私の役割分担と公立病院改革

著者: 島崎謙治

ページ範囲:P.180 - P.184

 本稿の目的は,歴史的パースペクティブの下で公立病院改革の意義および課題について論じることにある.具体的には,病院の開設主体に関する今日の政策の位相は1960年代初頭と並んで最も「私」中心主義に傾斜していることを指摘する.次に,公立病院ガイドラインにおける公私の役割分担に関する考え方の評価を行う.そして,以上を踏まえ,公立病院改革の本質と課題についてガバナンス構造に着目して考察する.

 なお,あらかじめお断りしておきたいことが3つある.第1に,筆者は総務省の「公立病院改革懇談会」および「公立病院に関する財政措置のあり方等検討会」の委員を務めたが,当然のことながら,本稿の意見にわたる部分はすべて私見である.第2に,本稿は末尾に掲げる拙稿1,2)を再構成したものであり,内容は大幅に重複している.第3に,本稿では「自治体病院」ではなく「公立病院」と表記する.これはガイドライン等の表現と平仄を合わせたにすぎず,意味内容に違いはない.

地域医療を支える自治体病院のあるべき姿―みんなでつくろうみんなの医療

著者: 佐藤元美

ページ範囲:P.186 - P.189

 藤沢町民病院での経験から自治体病院のあるべき姿を考えてみたい.医療過疎からの脱却を目指して1993年に設立された藤沢町民病院は,設立当時から両立の困難な課題を解決することを求められていた.医師不足の岩手で医師を集め,良質な医療を提供し,患者を集め,黒字を達成することである.様々な試みを行ってきたが,その中で成果があり,現在の藤沢町民病院のあり方にも大きな影響を与えているのが住民との交流である.

 その1つは「ナイトスクール」である.病院スタッフが夜に地域に出向き住民と藤沢の医療について話し合う企画である.16年間にわたりナイトスクールを継続し,病院と住民との良好な関係がつくられてきた.

【事例 奮闘する自治体病院】

へき地・離島医療を支える―総合医による複数制と総合看護

著者: 白石吉彦

ページ範囲:P.190 - P.193

■当院の概要

 隠岐諸島は島前(約6500人)と島後(約1万6000人)より成り,島根半島から約50~70km離れた日本海に浮かぶ.本土の境港または七類港からフェリーで約3時間,高速船(冬季を除く)で1時間の距離で,島前と島後はフェリーで約1時間,最短距離で約10km離れている.

 島前は西ノ島(西ノ島町3200人),中ノ島(海士町2400人),知夫里島(知夫村650人)の3島に分かれている.島前の3町村には開業医がなく,それぞれ町村立の国保診療所を持ち,島前の中核的医療施設として44床の隠岐島前病院(以下当院,一般病床20床,療養型24床)がある.現在5人の常勤総合医が当院,同じ西ノ島にある浦郷診療所,内航船で15分の隣島の知夫診療所の3つの医療施設で勤務する.当院では常勤総合医に加え,眼科,耳鼻科,精神科を週に1回,産婦人科,整形外科を月に2回,非常勤医師を招聘している.

愛知県西部地域の自治体病院再編

著者: 余語弘

ページ範囲:P.194 - P.197

 平成17年4月1日,一宮市は尾西市,木曽川町との合併により38万都市となり,一宮市民病院,今伊勢分院,尾西市民病院,木曽川市民病院の4つの市立病院を持つことになった.平成16年度は4病院すべて赤字,累積欠損金は28億7911万9000円であった.

 平成17年7月1日,谷一宮市長の要請で,筆者は病院顧問に就任した.

東栄町国保東栄病院 公設民営化への道

著者: 原田典和

ページ範囲:P.198 - P.201

■国保東栄病院の医療環境

 東栄町国保東栄病院(以下,東栄病院)は,愛知県の東北端に位置し,浜松市佐久間町に隣接している.したがって医療圏は東三河北部医療圏(新城市,東栄町,設楽町,豊根村)と佐久間町の一部となる.利用者の約75%は圏域内の住民で,残り約25%は佐久間町の住民である(図1).

 少子高齢化が進行する山間過疎地域であり,現在約4000人の人口に対して高齢化率約45%近い状況にあり,10年後には2人に1人は高齢者となることが予想されている.高齢者が多い状況が続くため,当面は医療・介護の需要は減らないであろうと考えられる.

医師会・市民らが連携して病院を支える―地域医療の再生を目指して

著者: 冨原均

ページ範囲:P.202 - P.204

 西脇市は,兵庫県の中央,東経135度,北緯35度の子午線の町(日本のへそ)として知られている人口4万5,000人の町である.西脇病院は320床18診療科を有する北播磨の中核病院である(図).

【事例 自治体病院はどう見えるか】

勤務医から見た自治体病院経営

著者: 兼古稔

ページ範囲:P.206 - P.209

 地方自治体病院は,今なお多くの地域において地域医療の中核を担う存在であり,その存在意義は大きい.一方で自治体病院の経営不振により,自治体財政そのものが揺らいでいる地域も少なくない.地方小規模病院の勤務医の目から,自治体病院の経営の問題点を論ずる.

短期任用職員の見た自治体病院

著者: 田邉紀幸

ページ範囲:P.210 - P.213

 筆者は,静岡県磐田市にある磐田市立総合病院(表)から依頼され,2005年4月から2008年3月までの3年間,短期任用職員(磐田市一般職の任期付職員の採用に関する条例)として同病院「経営企画室」の室長(課長職)に外部組織から就任した.同病院の経営の中枢から経営改善に取り組んだ事例を報告する.

グラフ

健闘する地方・中小規模病院 綾部市立病院―健全経営を維持し,働きやすい職場で地道に良い医療を積み重ねる

ページ範囲:P.161 - P.164

 京都駅から山陰特急で1時間,人口約37,000人の綾部市.繊維メーカーが開設したグンゼ病院の閉院後を引き継ぐ形で,綾部市立病院は1990年に開設された.開院3年目に黒字に転じ,以後健全経営を維持,自治体立優良病院として大臣表彰も受けている.24時間救急対応,市立診療所への医師派遣,訪問看護ステーションの運営など,地域医療を担っている.

連載 看護学生と若手設計者が考える 理想の病院・3

時を感じる

著者: 加藤岡潤一

ページ範囲:P.166 - P.167

 患者さんと看護師さん双方にとって“理想的な病院”とは…….私がこのテーマについて考えた時に頭に浮かんだのは,患者さんと看護師さんが理想的な関係を築くことを建築が手助けできないかということです.

 私の妻が現在看護師をしていることもあり,私が患者,妻が看護師の立場からお互いに理想的な関係を改めて考えてみました.病気と闘っている患者さんにとって,看護師さんに実際にケアをしてもらっている時だけでなく,自分のことを看てくれている,近くにいてくれるということがどれだけ孤独な入院生活の中で安心感を与えているかということを想像するのは難しくありません.また看護師さんにとっても,他の業務に煩わされることがなく,できるだけ患者さんの傍で看護ができるということは理想なのではないかと思います.

医療BSC基礎講座・2

BSCの基本を理解する(その2)

著者: 髙橋淑郎

ページ範囲:P.220 - P.223

■BSCの生成と発展

1.第1世代のBSC:業績評価中心の時代

 ハーバード・ビジネス・スクールのキャプラン教授と経営コンサルタントのノートン氏が『ハーバード・ビジネス・レビュー』に,最初にBSCのコンセプトを発表したのは,1992年のことであった1).その後,それまでの論文をまとめた書籍として,第1冊目の著書『The Balanced Scorecard』を発刊した2)

 彼らが強調したのは,戦略が策定されてもそれをうまく実行できない原因は,財務成果に偏重したマネジメントにあるということだ.今日のように企業を取り巻く環境変化が激しく流動的であり,かつ競争優位の源泉が有形資産から無形資産に変化したことで,過去の財務データのみに頼った経営を行っているだけでは,実りある成果を達成するには不十分ということである.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・55

国保資格証問題と受療権を守るMSWの役割

著者: 山地恭子

ページ範囲:P.224 - P.227

 地域には病院へ行けない人たちが多く存在する.これは自己責任論で片づけられる問題ではなく,社会的要因が大きい.私たちMSWは,患者の受療権を守ることを第一義的な役割として存在している.国民健康保険被保険者に対する資格者証発行問題を通して,MSWが院内から積極的に地域に出て,多機関・多職種との連携を進めることが,受療権を守る取り組みとなっていることを報告する.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・42

―長崎原爆とひとりの医師①―空からの悪魔

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.228 - P.229

 1通の手紙が届いた.手紙は,NPO法人アットホームホスピスが発行する季刊誌への投稿であった.冒頭に「親から聞いたことを書きとめておこう」とあり,昭和20年8月8日の出来事から書き起こされている.タイトルは「空からの悪魔」.自分の母親から聞いた,長崎に原子爆弾(以下,原爆あるいはピカ)が投下された時の体験を,次の世代に伝えようと綴られたものだ.簡単に内容を紹介しよう.

病院管理フォーラム ■院内感染対策―医療監視の立場から・3

結核の院内感染

著者: 桜山豊夫

ページ範囲:P.230 - P.231

 今月(3月)の24日は世界結核デーです.1868年3月24日にベルリンで開かれたドイツ生理学会において,コッホ博士が結核の原因と考えられる桿菌について(この菌が後年「結核菌」と呼ばれるようになります),世界で初めてとなる発表を行いました.コッホ博士による結核菌の発見を記念して,3月24日が世界結核デーと制定されました.

 かつて結核は「死に至る病」であり,亡国病と呼ばれた次期もありましたが,結核菌の発見から1世紀半,抗結核薬も進歩し,適切な治療を行えば,けっして怖い病気ではありません.しかし感染者が発病に至る経緯など,まだまだ不明の点もあります.世界的に見れば,発展途上国を中心に,かつてないほどの蔓延状態にあり,結核はけっして過去の病気ではありません.わが国においては,結核対策の進展により,患者数は減少しましたが,それに伴って未感染者の割合が大きく増えた結果,学校や会社での集団感染とともに,医療機関での院内感染が注目を集めるようになってきました.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第194回

岐阜県立多治見病院

著者: 川島浩孝 ,   倉持智弘 ,   中達夫

ページ範囲:P.233 - P.238

 「変化に対して柔軟に対応しつつ,永く使い続けられる病院建築とは,いかにあるべきか」が,本プロジェクトのテーマであった.そのための主要課題として以下を設定した.

●マスタープランを意識した計画

●個室需要増への備え

●個別性の尊重

●家族の関わり方への理解

●急性期医療における高齢化対応

●看護拠点の系統化

●永く使い続けられる素材の活用

リレーエッセイ 医療の現場から

それって病気?

著者: 北澤京子

ページ範囲:P.239 - P.239

 お正月休みに,抜け毛が気になる30代男性に向けて「お薬があります」と呼びかけるテレビCMを見た.従来の疾患啓発広告は,「お医者さんに相談しましょう」などと医療機関への受診を促す内容のものが多かったが,このCMでは,医療機関を受診すれば「(抜け毛の悩みを解消してくれる)薬がある」ことをアピールしており,一歩踏み込んだ表現になっている.

 CMであるにもかかわらず具体的な商品名が出てこないのは,わが国では医療用医薬品の一般向け広告が規制されているからだ.だが,当の男性にとっては,薬の商品名など別にどうでもいいことかもしれない(“爆笑問題の薬”で十分通じるだろう).その意味でこの広告からは,抜け毛が気になる男性に医療機関を受診してもらったうえで,医療用医薬品である自社製品を使ってもらいたいというスポンサーの意図が,かなりストレートに伝わってくる.

研究と報告【投稿】

日本の民事医療事故裁判の傾向

著者: 山田奈美恵 ,   大磯義一郎 ,   永井良三

ページ範囲:P.215 - P.219

要 旨 日本の医療事故民事裁判について2004~2008年までの5年間の入手可能な全判決を分析した.判決は患者側認容率62.2%(うち一部勝訴が60.6%),敗訴35.4%,破棄差戻し2.4%であった.平均請求原因数は3.0件.争点は不作為過失行為が最多で,その過半数が認容されたが,作為過失行為,説明義務違反,期待権侵害は請求数,認容率とも半数以下だった.被告は病院等組織を被告として,個人被告がないものが過半数であるが,個人の場合,医師が95.3%であった.裁判の平均総請求額9460万円,平均認容額2798万円であった.患者は0歳と50歳代,60歳代が多く,性差はなかった.また,医療事故の88.2%が病院で起きていた.疾病による受診が多く,診療科は外科系が過半数で,原因行為も手術が最多であった.事故発生時間は平日,日勤帯が多かった.患者転帰は死亡が過半数であった.

表紙

「桜」

著者: 赤木主税

ページ範囲:P.171 - P.171

 1980年岡山県生まれ.生後1か月でダウン症と診断される.中学卒業後に入所した岡山県吉備の里能力開発センターで絵画の才能を開花.97,98年「Tシャツアート展」受賞,世界人権宣言50周年記念切手デザインコンクール佳作入選ほか.2006年4月より茨城県つくば市にあるNPO法人自然生クラブに参加.絵画制作の他,田楽舞の舞台にたち,アイルランド,ベルギー等の演劇祭に参加,国内外問わず精力的に作品展,公演を行う.

【今月号の作品】

春の良く晴れた日だった.赤木は,桜の木を一気に書き上げた.桜の華やかで刹那的な花は,圧倒的な力を持つ幹に咲くのだ.こんなに命を感じる桜の絵を,私は見たことがない.(自然生クラブ ディレクター 柳瀬 敬)

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書籍紹介

ページ範囲:P.193 - P.193

次号予告/本郷だより/告知板

ページ範囲:P.240 - P.240

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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