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特集 病院は経済成長に寄与するか
「医療と経済成長」論議
著者: 遠藤久夫1
所属機関: 1学習院大学経済学部
ページ範囲:P.343 - P.347
文献購入ページに移動ここに来て医療と経済成長との関係が注目されてきている.国民皆保険体制が整った1960年代からの推移を見ると,国民医療費の伸び率は経済成長率と高い相関がある(表1).これは国民医療費の伸び率が経済成長率を大きく上回ると,積極的な医療費抑制策が展開されてきたためである.医療費の伸びを経済の「身の丈」に合わせるというこの政策は1つの哲学であることは確かである.しかし,経済成長の鈍化が恒常化しているわが国において,2000年以降の医療費の伸び率は年率1%台という皆保険制度確立以来の最低水準の伸びに抑えられている.70歳以上の高齢者の1人当たりの医療費はそれ以下の年齢の5倍弱であり,65歳以上の人口は年率約3%で増加している.この高齢化に伴う医療需要の増加に経済的にどこまで応えることができるのか.これがわが国の医療保障を考えるうえで大きな課題となっている.
「トヨタ過去最高益達成」「国民医療費過去最高」,この2つの報道は異なるニュアンスをもっている.前者は「よかった.日本企業もまだまだいけるぞ」という印象であり,後者は「困った.これからどうなるのだろう」といったニュアンスで報じられてきた.この違いはどこから来るのか.医療費は負担であり経済成長の「重し」であるという固定観念があったためである.これに対して医療活動は経済成長に貢献するという当然のことが改めて主張されるようになってきたのである.しかし,そこから導かれる政策インプリケーションには対照的な2つの考え方がある.
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