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雑誌目次

雑誌文献

病院70巻7号

2011年07月発行

雑誌目次

特集 地域医療再生計画を検証する

巻頭言

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.493 - P.493

 「地域医療再生計画を検証する」という特集企画を立て,執筆者に原稿を依頼している最中に東日本大震災が起こった.今回,事例報告としての執筆者の中に被災地の岩手県立釜石病院長の遠藤秀彦先生,福島県会津総合病院長の鈴木啓二先生が名を連ねている.医療再生のまさしく渦中の病院が震災被害の影響を受けるという,何とも皮肉な現実に胸の塞がる思いだ.

 津波による壊滅的な被害を受けた地域は東日本太平洋沿岸部に広範に及び,また同時に発生した原子力発電所事故の影響で,多くの地域で医療崩壊どころか地域崩壊といった深刻な事態に陥っている.放射能流出,電力供給の問題を含め,日本経済全体が深刻な影響を受け,一体震災からの復興が叶うのか些か不安を感じている人も少なくないのが現状だ.

地域医療再生計画を検証する

著者: 梶井英治

ページ範囲:P.494 - P.499

 2009年4月10日「経済危機対策」に関する政府・与党会議,経済対策閣僚会議合同会議において,都道府県が地域医療計画に基づいて行う医療圏単位での医療機能の強化,医師等の確保等の取り組みを支援することとなった.国はこれを受けて,平成21年度補正予算で地域医療再生臨時特例交付金を確保し,都道府県に交付した.都道府県は,この特例交付金により地域医療再生基金を造成し,作成した再生計画を実施することになった.

 地域医療再生計画は,二次医療圏を基本とする地域を対象としており,各都道府県2件,全国で計94件が採択された.1事業当たりの予算は25億円で,全事業の総額は2350億円である.各地域医療再生計画の事業項目を見ると,全ての計画に医師確保事業があり,救急医療77事業,医療連携74事業,周産期医療49事業,在宅医療44事業,小児医療26事業と続いている.その他に分類されるものは59事業あった.

地域医療再生計画の課題

著者: 水田祥代

ページ範囲:P.501 - P.505

 地域医療崩壊が社会的な問題となって久しいが,多くの自治体における懸命な努力にもかかわらず,その努力の成果は遅々として進んでいない.国は2009年度に都道府県が地域の医療課題の解決に向けて策定する「地域医療再生計画」に基づいて,医療県単位での医療機能の強化や医師等確保の取り組みに対する支援を決定した.

 その計画をみるといずれの県でも,温度差はあるものの,地域医療に従事する医療人育成のための寄付講座の設置や女性医師の働く環境整備等に加え,IT化やそれぞれの医療圏内における病院の再統合等を打ち出しており,計画としては的を射ている.しかし計画が壮大すぎるものもあり,計画倒れになる懸念も捨てきれない.筆者は地域医療再生計画の有識者会議に出席してきたが,ここでは地域の医療再生に関する私見を述べる.

地域医療再生計画を地域住民のために

著者: 藤本晴枝

ページ範囲:P.506 - P.509

 今回私は,地域医療再生計画有識者会議の委員という大役をおおせつかり,全国の地域医療再生計画について学び,意見交換をさせていただいた.私自身は2005年から千葉県の太平洋沿岸部を中心とした山武(さんぶ)地域で,地域医療再生のためにNPO法人地域医療を育てる会を立ち上げ活動をしている.

 当地域は東金市,山武(さんむ)市,大網白里町,九十九里町,横芝光町,芝山町の2市4町からなる人口20万の地域である.今年の4月で当会発足から丸6年が経過した.その間には新医師臨床研修制度をきっかけとして地元の病院から勤務医が激減し,救急車が山武管外に患者を搬送する管外搬送率が30%台になった時もあった.その間,当会では情報紙『クローバー』を発行し住民に医療現場の実情を知らせ,限られた医療資源を大切にするために住民にできることを呼びかけた.さらに,医療者と住民,行政関係者とともに地域において様々な集会を企画した.

地域医療再生計画は有効か―民間医療機関の立場から

著者: 加納繁照

ページ範囲:P.510 - P.515

 平成21(2009)年4月10日,当時は自民党政権で麻生総理大臣の末期の頃であるが,この時「経済危機対策」に関する政府・与党会議,経済対策閣僚会議合同会議において次の決定が下された.「都道府県が地域の医療課題の解決に向けて策定する『地域医療再生計画』に基づいて行う,医療圏単位での医療機能の強化,医師等の確保等の取組を支援」するというものである.

 国はこの支援策として,平成21年度補正予算において,地域医療再生臨時特例交付金を確保し,都道府県に交付することとした.都道府県においては,医療圏単位での医療機能の強化,医師等の確保等の取組その他の地域における医療に係る課題を解決するための施策について定める計画「地域医療再生計画」を作成するとともに,地域医療再生臨時特例交付金により地域医療再生基金を造成し,これらの施策を実施することが望まれた.こうして地域医療再生計画が誕生した.

【事例】

高知県―医療再生機構の取り組み

著者: 家保英隆

ページ範囲:P.516 - P.520

 高知県では2010年4月から,県や高知大学医学部関係者等で構成された,医師のキャリア形成等を支援する一般社団法人高知医療再生機構(以下,機構)が,医療再生基金(以下,基金)による事業を実施するという全国的にユニークな取り組みを実施している.筆者は,県責任者(医師確保推進監)兼機構副理事長として企画・運営に当たってきたが,本年(2011年)4月にその任から外れており,今回は,独善的私見を織り込みながら書いてみたい.

福島県―大学と連携して再生を

著者: 鈴木啓二

ページ範囲:P.521 - P.523

 はじめに――東日本大震災による被災者の皆様にお見舞い申し上げますとともに,支援にご尽力されている方々に敬意を表します.また1日も早い復旧・復興を願うばかりです.

 執筆時(2011年4月),県内の医療施設の被災状況が把握できず,いまだ福島第一原子力発電所の災害がどこまで拡大するのか予断を許さない状況なので,今後の福島県の医療体制がどうなるか全く予測できない.よって大震災前の時点での大学と当院等の連携を中心に述べる.

島根県―医師確保対策と地域医療支援

著者: 木村清志

ページ範囲:P.524 - P.527

■背景と現状

 島根県は中国地方のなかで日本海側に位置しており,県土は東西約230kmと細長く,海岸沿いの狭小な平地を除いてはほとんどが山間地であるとともに,隠岐諸島という離島を持つ.

 島根県の医師数は2008年には人口10万対264人であり,47都道府県中10位で全国平均225人を上回っている1)ものの,2010年に国で実施された「必要医師数実態調査」(病院及び分娩取扱い診療所を対象)によると,島根県の必要求人医師数は274人(現員医師数に対する倍率1.24倍)であり,全国1位であった.

岩手県―深刻な医師不足解消に向けて

著者: 遠藤秀彦

ページ範囲:P.528 - P.533

 本特別企画の原稿依頼を受け3月に入って少しずつ書き始めていたが,3月11日14時46分大地震,大津波が東北太平洋沿岸地区を襲い甚大な被害をもたらし,当釜石地区でも海岸線から市街地は壊滅的な被害を被り,以来筆は完全にストップしていた.1か月経過し少しだけ余裕が出てきたのと原稿を引き受けた責任から,被災前に記載していた内容に震災の影響を書き加えて報告する.

 「地域医療再生計画」は救急医療の確保,地域の医師確保など地域医療の課題を解決し地域医療を再生させるために各県2か所の2次医療圏が選定されたが,岩手県では盛岡医療圏と当釜石医療圏が選ばれた.ここでは岩手県の状況,特に釜石医療圏について述べる.

グラフ

震災後の気仙沼で

著者: 船元康子

ページ範囲:P.481 - P.484

 今回,私は2年前に本誌で取材をした「浅草病院」の本田徹医師が,東日本大震災で被災した気仙沼市に,国際保健NGO「シェア」の一員として「気仙沼市巡回療養支援隊」に参加することを聞き,また同行取材をお願いしたのである.本田医師はシェアの代表理事も務めていて「短期間ではなく長期にわたって,交通が不便,障害者などで病院受診ができない人や,在宅で介護を受けていた患者に訪問診療で関わっていきたい」と話す.4月5日,本田氏と初めての気仙沼市内で合流した.

 本田医師の訪問診療では,地元の「南三陸訪問看護ステーション」の松岡直子看護師が車を運転し,4件の訪問診療に同行した.ほとんどが寝たきりの高齢者であり,介護する人も高齢者であった.断水,停電となり,電動ベッドが半座位のままで使えなくなったり,エアマットが使えないために震災後に褥創ができたり,創が悪化した患者がほとんどだった.地震の揺れやテレビで見た自分の町の被災映像による精神的ショックも大きいようで,以前は松岡看護師に毎回,笑顔で挨拶をしていたという患者が,何も言葉を発さなくなってしまっていた.

連載 看護学生と若手設計者が考える 理想の病院・7

アットホームな

著者: 中村守宏

ページ範囲:P.486 - P.487

アットホームな…

 家庭的な,家のような病院.

 今日,アットホームな病院を目指し,内装等ベッド回りの工夫は実際によく行っています.木質素材や畳,間接照明などなど.私も日々,「ベッドサイドは小さなマイホーム!」と考え,病院を設計しています.でも,今回はそれだけではなく! アットホームって何だろう・・・? 看護学生の皆さんからいただいた大切な機会として,私なりに考えてみました.

臨床倫理コンサルテーション・3

東京大学医学部附属病院の取り組み

著者: 瀧本禎之

ページ範囲:P.534 - P.536

 医療機関において臨床倫理コンサルテーションの需要は高まってきている.それを受けて,2007年より東京大学医学部付属病院(以下,当院)では患者相談・臨床倫理センター(Patient Relations and Clinical Ethics Center : PRCEC)を設立し,臨床倫理コンサルテーションサービス(Clinical Ethics Consultation Service : CECs)を,院内の医療従事者に向けて提供している.本稿では,PRCEC設立に至る背景と,その取り組みを紹介する.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・59

当事者の力を強化するMSWの関わり―頸椎損傷患者の社会復帰(復学)支援

著者: 松山拓也

ページ範囲:P.538 - P.541

 社会復帰支援におけるMSWの役割では,限られた関わりの中でサービスを充実させることよりも,患者・家族ら当事者の力を強化することに力点を置いている.退院後の生活では,当事者自身が対応しなければならない場面が多々あるからである.したがって退院までに,患者・家族ができること・できないことを整理し,患者・家族と様々な職種や機関をつないで支援の輪をつくり,必要に応じてその輪を広げられるように援助することが重要である.そして,患者の気持ちに寄り添い,生活者の視点から提案や調整を行うことに留意する.本稿では,頸椎損傷患者の社会復帰の事例を通したMSWの役割を報告したい.

医療マネジメント 21世紀への挑戦・4

構造転換する連携―施設間の連携からケアの連携へ

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.542 - P.546

 日本の医療界は,「長中期的」には日本が世界に先駆けて突入する「あり得ない超高齢社会」にどう対応し,また「短中期的」には今,医療システムの各側面で起きている「医療崩壊と言われる現象」にどう対応するか,2つの大きな課題を同時に解決することが求められている.

 後者の課題はここ5年来の「医療制度改革」が契機と見えるが,実は20年来の医療システムの転換がその背景にある.在院日数短縮を図るため,まず病院は治療に特化して診断や回復のケアを外部化し,さらに病棟単位に切れ目なくマネジメントされてきた院内の「ケアプロセス」も分断され,病棟を超えて病院全体で質と効率の向上が求められていることを連載第1回で分析した1).院内の各部署や職種間さらには施設間の「チーム化・システム化」が解決策と提案した.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・46

鉄郎対談集② 先生聞いて!(後編)―胃ろう設置したらなんぼ?

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.548 - P.549

 先月の対談で,医療器具は日進月歩の進歩を遂げているが,市民たちはそれに関する知識を持たない.市民の介護力をアップするには,基礎的な勉強と器具を扱う練習が必要であることを語り合った.さて,今回は…

医療BSC基礎講座・6

BSCの基本構造と原則(その3)―戦略テーマ

著者: 髙橋淑郎

ページ範囲:P.550 - P.552

■戦略マップ

 キャプランらが1996年以降の様々なBSC導入経験などから,戦略マップ上の「戦略テーマ」という概念を用いて,因果連鎖について一段と踏み込んだ議論を展開したこと1)は既に述べた.スコアカードの戦略目標および尺度の項目を見ただけでは,最終的に財務業績の向上にどうつながるかという因果連鎖が必ずしも明確には読み取れない.したがって,BSCの本質の1つであるにもかかわらず,スコアカードのみでは示すことが困難であった因果連鎖を,キャプランらは戦略マップによってより明確に,かつビジュアルに描き出そうとした2)

 縦の因果連鎖は財務,顧客,業務プロセス,学習と成長の4つの基本的な視点で考えるが,病院は非営利組織であるため,財務の視点を受託責任の視点などとすることも最近見られる,顧客の視点は患者あるいは地域連携医の視点と置き換えてもよい.これら4つの視点のつながりを簡単に説明しよう.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第198回 病院の節電対策 二題

節電対策―病院の立場から

著者: 亀井厚信

ページ範囲:P.553 - P.556

 はじめに―この度の東日本大震災により被災されている皆さま,またそのご家族やご友人の方々に対し,心よりお見舞い申し上げます.皆さまの安全と,一日も早い復興をお祈り申し上げます.

提案と事例紹介―病院の設備設計者から

著者: 塚見史郎

ページ範囲:P.556 - P.558

 はじめに―3月11日に発生した東日本大震災により,亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに,害を受けられた方々に,心からお見舞いを申し上げます.

 また,福島第一原子力発電所における事故により,引き続き,電力需給が逼迫した予断を許さない状況が続く中,今回,病院の節電対策について寄稿する機会をいただいた.病院の設備の設計者として,節電対策に向けたポイントについて,筆者が設計を行った事例をもとにご紹介させていただく.

リレーエッセイ 医療の現場から

めぐりめぐって上海勤務

著者: 守谷知晃

ページ範囲:P.559 - P.559

 私はドミニカの医大を2006年に卒業し,今は上海市内の日系クリニックに勤めている.日本からドミニカを経て,どこでどう転んで今上海にいるのか,たまに自分でも理解に苦しむ時があるが,ここに至るまでのプロセスにおいて,ドミニカ,そして中国で見聞きしてきたことを紹介したい.

表紙

「ケンタロス」

著者: 赤木主税

ページ範囲:P.491 - P.491

 1980年岡山県生まれ.生後1か月でダウン症と診断される.中学卒業後に通所した岡山県吉備の里能力開発センターで絵画の才能を開花.97,98年「Tシャツアート展」受賞,世界人権宣言50周年記念切手デザインコンクール佳作入選ほか.2006年4月より茨城県つくば市にあるNPO法人自然生クラブに参加.絵画制作の他,田楽舞の舞台にたち,アイルランド,ベルギー等の演劇祭に参加,国内外問わず精力的に作品展,公演を行う.


【今月号の作品】

この頃はポケモンの絵をよく描いていた.題は「ケンタロス」ではあるが,あとで本人は牛だと言っていた.どこかポケモンのイメージが込められているようなカラフルな牛である.(母 赤木真里子)

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次号予告/本郷だより/告知板

ページ範囲:P.560 - P.560

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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