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雑誌目次

雑誌文献

病院70巻8号

2011年08月発行

雑誌目次

特集 人口減少の衝撃 社会・病院はどう備えるか

巻頭言

著者: 広井良典

ページ範囲:P.573 - P.573

 日本の総人口は2005年から減少に転じており,2050年には9000万人を割ることが予測されている.これを都道府県別に見ると,既に38道府県で人口減少に入っているが,2015~2020年には人口が増加しているのは東京と沖縄だけになり,2025年以降はすべての都道府県が人口減少となる(国立社会保障・人口問題研究所推計).

 こうした構造変化は,一方で,少子・高齢化とも相俟って医療や社会保障のあり方に大きな影響を及ぼすと同時に,他方で,都市や地域における人口動態や人口構成の急速な変化をもたらし,病院の立地のあり方や経営に深いインパクトをもたらすと考えられる.

人口減少に対して社会・病院はどう対応すべきか

著者: 広井良典

ページ範囲:P.574 - P.578

 日本は2005年から人口減少社会に入った.国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計(2006年12月)では,現在の出生率のトレンドが続けば,2050年には日本の人口は9500万人となって1億人を切り(高齢化率39.6%),2100年には4800万人となって5000万人を切る(高齢化率40.6%)と推計されている(中位推計).

 このような変化は,人類が歴史上初めて経験するものと言っても過言ではなく,こうしたこともあって,2010年11月の『The Economist』誌は「ジャパン・シンドローム(日本症候群)」というキーワードとともに日本特集を組み,人口減少あるいは少子・高齢化への対応こそが日本が直面する課題の中心にあるもので,同時にこれは大なり小なり世界の国々が今後経験することになりうる現象であることから,世界が日本の対応に注目しているとの論説を展開したのである.

 それでは,こうした人口減少という構造変化に日本社会はどう対処すべきであり,また特に病院にはどのような対応が求められるのだろうか.こうした点について,本稿では幅広い視点から考えてみることにしたい.

人口減少社会と都市・地域の長期展望

著者: 川上征雄

ページ範囲:P.579 - P.583

■日本人口の長期的動向から見た歴史的転換期

 有史以来の日本列島には,延べ5億人の人々が居住してきたと推計されるが,この過程で人口は単調に増加してきたものではない.江戸時代に入って後の100年間で約1000万人から3000万人へ3倍,明治時代以降の100年間で約3000万人から1億2000万人へ4倍となる2度の人口急増期があった.そして現在は,2度目の急増期のほぼ頂点を迎えて減少局面に移行しつつあるという歴史的転換期にある.現状の傾向が今後も継続するならば,人口はこの100年の増加曲線と現在を境に,線対称の形状の減少曲線を描くと想定される(図1).すなわち40年後の2050年頃の人口を展望すると,40年前と同じ水準の1億人程度になると見込まれるのである.

 しかし,当時の高齢化率は6~7%,現在が約20%であるのに対して,2050年では40%となるような人口の質には大きな相違が生じる.人口の地域分布等についても,かつてと同じものとはならないであろう.

 本稿では,国土審議会政策部会長期展望委員会でこの2月に中間的にまとめられた「国土の長期展望」の推計結果1)を基に,2050年における人口減少社会とその地域的動向に着目しながら考察するものである.

経済は人口の波で動く―人口減少が地域にもたらすもの

著者: 藻谷浩介

ページ範囲:P.584 - P.588

 今般の東日本大震災で,圧倒的な破壊力を見せつけた千年に一度の津波.奇しくも戦後の日本には,日本が始まって以来の「人口の波」,シンガポール初代首相リー・クアン・ユーが「ザ・シルバー・ツナミ」と呼んでいるものも押し寄せている.戦争前後に生まれた数の多い世代と1970年代に生まれたその子ども世代が加齢していくことにより生じる,図1に示すような年齢階層別人口の急速な上下だ.足下では,生産年齢人口の減少と老年人口の急増という現象として表れているのだが,総人口だけを見ていると,その巨大な力に足をすくわれかねない.

人口減少時代における医療・福祉を重視したまちづくり

著者: 栗田卓也

ページ範囲:P.594 - P.598

 3月11日に東北地方を中心に甚大な被害をもたらした東日本大震災の復旧事業が進み,復興に向けて歩が進められようとしている.発災以後,被災地での他者への共感に溢れたコミュニティの実態を目にし耳にする都度,世界に誇るべき優れた日本社会の特質を再認識させられる.人口が減少し都市のあり方は大きく変わってくるが,都市を形づくるのは人間であり,人間に関心を寄せて都市のあり方を考えていくことが重要になってくる.被災地の方々の振る舞いは,都市政策の担当者としての筆者に,感銘と同時に様々な示唆を与えていただいた.被災者の方々に衷心よりお悔やみ,お見舞いを申し上げ,医療・福祉との関わりを中心にまちづくりの来し方行く末への問題認識を述べさせていただきたい.

人口減少時代の病院経営戦略

著者: 古城資久

ページ範囲:P.599 - P.603

 病院はface to faceでサービスを提供する産業であるが,商圏はその業態により異なる.専門特化し,アカデミズムと技術力で顧客を獲得する病院では商圏は広く,例えば有名な甲状腺専門病院などは商圏が全国区である.痔,乳腺,人口関節など「待てる急性期」を専門とする場合も商圏は広く,九州全域,西日本など広域を商圏とする病院がある.一部のセレブ,外国人富裕層をターゲットとする病院では,アジア圏まで商圏が及ぶ例も見られる.

 しかし疾病のボリュームゾーンを担う一般病院,総合病院,急性期病院では自院から半径数km,せいぜい数十kmの範囲から獲得する顧客がその大半を占めている.亜急性期,回復期,維持期を担う病院も多くは同様であり,全国の大多数の病院は自院より半径数十km以内を商圏として運営されており,商圏内人口がその限界を決める.疾病には人口当たりの発生率があり,入院率,外来受診率も同様である.医療を取り巻く環境やライフスタイルの変化によりそれらの率は変動していくが,ベースに人口があることは否定しようがない.一般論として,団塊の世代が高齢者(65歳)となる2015年に老人人口の増加が止まり,彼らが後期高齢者(75歳)となる2025年をピークとして医療需要は低下していくとの見通しがある.

医療・健康産業クラスターのまちづくり

著者: 井上謙吾 ,   鈴木邦陽 ,   曽我俊幸

ページ範囲:P.605 - P.608

 最初に,静岡県立静岡がんセンター(以下,静岡がんセンター)が立地する静岡県駿東郡長泉町について,最近の特徴的な数字を紹介する.

 1つは,2010年3月に国土交通省より発表された地価公示(同年1月1日時点)で,全国約2万7000の調査地点の中で地価上昇はわずか7地点,そのうち2地点が長泉町であった.もう1つは,2010年国勢調査市区町別人口および世帯数(速報値)で長泉町の人口が5年間で5.3%増加,また,推計人口で2010年度中の自然動態が2010年4月の人口4万285人から219人増加している.

現代山村の現状と医療・病院

著者: 大野晃

ページ範囲:P.609 - P.612

■はじめに

地域間格差と現代山村

 人口,戸数の激減と高齢化の進行で限界集落が増加しているわが国の農山漁村(離島を含む)は,いま崩壊の危機にある.これは農工間格差にみる産業構造内部の歪みが地域社会に投影され,大都市と農山漁村との間における地域間格差の拡大により結果されたものである.この格差は,賃金の格差をはじめ医療・福祉,教育・文化等,人間のトータルな社会生活に及び,その格差は年々拡大している.

 本稿では,現代山村の「人口減少」がいかなる状況にあり,その実態が「医療・病院」にどのような問題を投げかけているのかを考察する.

【インタビュー】

人口減少・高齢社会の社会保障と都市・地方

著者: 松谷明彦

ページ範囲:P.590 - P.593

 人口減少と急速な高齢化により,年金や医療といった社会保障制度にひずみが生じている.これは同時に,地域における医療や介護のあり方にも大きな影響を与えるだろう.『「人口減少経済」の新しい公式』(日本経済新聞社),『人口減少時代の大都市経済』(東洋経済新報社)の著者である松谷明彦氏に今後の方向性について聞いた.(編集室)

グラフ

島で待つ人たちのために―瀬戸内海巡回診療船『済生丸』

ページ範囲:P.561 - P.564

 昭和37(1962)年,済生会創立50周年記念事業として,瀬戸内海の離島を巡回する診療船『済生丸』が就航した.以来50年近くにわたり,医療に困っている人々を支援するという済生会の理念に基づき,無料での診療・検診を続けている.現在の済生丸は三代目,岡山・広島・香川・愛媛の4県の済生会支部が持ち回りで運営し,合計65の離島を巡回する.東日本大震災で“病院船”が注目される今,その活動を紹介する.

連載 看護学生と若手設計者が考える 理想の病院・8

ゆとりがある

著者: 江頭豊

ページ範囲:P.566 - P.567

 患者さんと看護師双方にとって理想的な病院,私がテーマとして選んだのは「ゆとりがある」です.その中でも,患者さんと看護師が密接に関わってくる病棟に焦点を当てて提案したいと思います.

 私は職業柄,様々な病院を見学してきました.最近の病院を見学すると,プライベート感の高い個室的4床室や,木質系を使った内装,雰囲気のよい照明計画など,ひと昔前の病院と比べ,療養環境の向上のための配慮が様々施されていると感じます.

臨床倫理コンサルテーション・4

臨床倫理コンサルテーションの方法(1)―形式とアプローチ

著者: 瀧本禎之

ページ範囲:P.614 - P.615

 臨床倫理コンサルテーション(CEC)の定義を再確認してみたい.CEC先進国であるアメリカでは,アメリカ生命倫理学会のヘルスケアコミュニケーションの定義を下敷にすると,CECは「患者,家族,代理人,医療従事者,他の関係者が,医療の中で生じた価値問題に関する不安や対立を解消するのを助ける,個人やグループによるサービス」と定義することができる.

 CECの定義に含まれている,価値問題に関する不安や対立を解消に導くためには,どのような方法がとられるのか.本稿では,CECの実際の形式と方法について解説する.

医療BSC基礎講座・7

BSCにおける経営戦略(その1)

著者: 髙橋淑郎

ページ範囲:P.616 - P.619

 病院がどのような意思や意図で経営されているかに関係なく,病院を取り巻く環境は常に変化している.病院が成長発展していくには,環境に適応し,環境を先取りして行動を変化させていくことが必要である.したがって,戦略がクローズアップされるのは,経営環境が大きく変化する場合,あるいは,組織が大きく自己革新しようとする場合が多い.前者では,病院の内部管理の問題以上に,病院と環境との関係が重要な経営課題として浮上してくる.すなわち,病院の長期存続のために何を行い,いかに業績を高めるかという問題である.これは組織の有効性の問題として捉えることができる.組織の長期的成功と生存は,能率よりも有効性の向上に依存している1).したがって,環境変化が大きいほど経営者の経営感覚,経営能力が問われ,逆に環境が安定している場合は,管理技法や管理者レベルの能力が問われることが多い.

 戦略の定義は論者によって様々だが,病院が将来どうなりたいか,どうすればそこに辿り着けるのかを考えることが戦略とざっくり考えると,戦略の策定・実行は,経営者の大きな業務の1つである.どのような病院を目指しているのか,地域社会とどう係わり合っていくのか,患者・家族にどのようなサービスを提供していくのかという将来構想を描くことが最初に求められ,それがいわゆる病院のドメイン,病院のコンセプトになる.すなわち,病院が勝負する土俵,生存領域を決定するということである.そして,それを達成する道筋を考えることが経営戦略論には求められている.また,戦略がなければ多くの病院職員を一定の方向にベクトルを揃えて,協働意欲を維持していくことは難しい.

 そこで本稿では,青島・加藤(2003)2)を参考に,経営戦略を「経営体(病院,企業など)のあるべき将来像を意図を持って描き,それを達成するための道筋の仮説」と広く定義する.

医療マネジメント 21世紀への挑戦・5

ガバナンス,オーナーシップ再考―医療福祉システムの「仕組みと仕掛け」を「老人仕様」に

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.620 - P.623

 21世紀の医療マネジメントの究極の挑戦は,日本の医療システムを「老人仕様に変える」ことである.これまで,日本が突入する超高齢社会はいかなる世界で,いかなるケアが必要か,需要の仕様を中心に分析してきた.ケアの目的・特徴がこれまでと大きく変わり,その継続が必須であり,その連携を担保するために供給システムの構造的大転換が求められていることを前回述べた.今回は供給体制全体の現状を分析し,供給の仕様について考察したい.

 実は国際的に見て,日本の医療供給体制は福祉と合わせて極めて特異であり,求められる構造的大転換の展望は特異性を踏まえねばならない.その特異性は供給機関の所有(オーナーシップ)にあり,したがって同時に統治(ガバナンス)のあり方にも影響を及ぼしている.医療界も日本の歴史と文化を背負っており,国際的に見て他産業と共通する特徴を持つとともに,国内的に見ても医療界独自の相違がある.そこでまず,日本の医療供給体制の所有形態について,その機能も合わせ現状を分析し,次いで国際比較を試みることにより,歴史文化的に解析したい.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・60

原爆被害者相談員の会とMSW

著者: 三村正弘

ページ範囲:P.624 - P.626

 長年,広島でMSWを行ってきた者にとって原爆被害者問題は,切っても切り離せない課題である.被爆者とともに歩んでいくなかで,クライエントへの視点や援助技術を学んだだけでなく,筆者の人間としての成長に深く関係していると思っている.

 現在も「原爆被害者相談員の会」には,広島で働く若いMSWが,被爆者証言のつどいの企画・運営,被爆者の自分史づくりのサポート,原爆症認定申請や原爆介護手当などの被爆者相談,原爆症認定裁判での陳述書作成や調査活動に,専門ボランティアとして参加している.そして,そこで実践し学んだことを,同会の機関誌『ヒバクシャ』に載せたり,病院などにおけるMSWの日常業務に活かしている.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・47

鉄郎対談集③ おなかの胃ろう見せて―余命こそ人生の本番

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.627 - P.629

 胃ろうの是非が,医療者の間だけで議論される.どうして胃ろうを使っている人の声に,耳を傾けようとしないのだろうか.誰かが素人の意見に対し,「医学の専門家の視点が欠けていることで,その価値自体に疑問が生じてしまう」と書いていた.人(私)のいのちは医学のものではないのだが…….

 今回は,胃ろうと経口摂取を併用してQOLを高めているALS患者,西村隆さんとの対談を紹介したい.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第199回

済生会長崎病院

著者: 高橋正泰

ページ範囲:P.630 - P.636

 済生会長崎病院は,無料低額診療事業,生活困窮者支援事業といった済生会病院の使命を遂行する一方,地域の救急医療,高度医療,臨床研修医教育を担う地域医療支援病院である.

 元々は,慢性期疾患の患者が多くを占める療養型に近い病院であったが,救急医療提供体制が不足している地域医療を立て直したいという思いから,入院特化型の超急性期病院の道を選択し,2009年8月に新築移転した.

リレーエッセイ 医療の現場から

今,人として生きるための生活復興を考える

著者: 酒井明子

ページ範囲:P.639 - P.639

 東日本大震災が発生してから3か月が経過した.死者は1万5000人以上,行方不明者は8000人を超えている.今回の大震災では,地震が起きて津波が押し寄せ,原発が制御を失い,いのちの危機に直面する場面が立て続けに起こった.そのような中で,医療者は,いのちと生活を守るために被災地で懸命に活動した.自らが被災しながらも住民のために少しも休まず活動を続ける人々や,急遽ボランティアで駆け付けた人々も必死で活動した.こうした様々な支援のつながりがいかに大切かを実感する3か月でもあった.

 災害直後は,津波で甚大な被害を受けた沿岸部では人命の救出が続いた.そして,今なお進まない瓦礫撤去の中,夕暮れ時になると,呆然と海を眺めている家族の姿が痛々しい.一方で,津波被害のない内陸地で家屋倒壊などの被害に見舞われた所はすぐに,生活支援,復旧に向けての取り組みがなされている.しかし原発事故で避難を余儀なくされ,帰れる日のめども立たず土地を離れて途方に暮れている人々の時間は止まっており,生活の問題,仕事の問題などが山積みになっている.

表紙

「アイルランド」

著者: 赤木主税

ページ範囲:P.571 - P.571

 1980年岡山県生まれ.生後1か月でダウン症と診断される.中学卒業後に通所した岡山県吉備の里能力開発センターで絵画の才能を開花.97,98年「Tシャツアート展」受賞,世界人権宣言50周年記念切手デザインコンクール佳作入選ほか.2006年4月より茨城県つくば市にあるNPO法人自然生クラブに参加.絵画制作の他,田楽舞の舞台にたち,アイルランド,ベルギー等の演劇祭に参加,国内外問わず精力的に作品展,公演を行う.


【今月号の作品】

アイルランドのフェスティバルから帰ってきて描いた古城.ぽっかりと空いた空間が不思議だ.赤木の作品には珍しく説明を書き込もうとしている.(自然生クラブ ディレクター 柳瀬 敬)

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投稿規定

ページ範囲:P.637 - P.637

次号予告/本郷だより/告知板

ページ範囲:P.640 - P.640

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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