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雑誌目次

雑誌文献

病院71巻1号

2012年01月発行

雑誌目次

特集 病院と日本復興

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.13 - P.13

 本誌2010年6月号(Vol.69 No.6)で「災害と病院」というテーマで特集を企画した.その巻頭言で,筆者は「病院は公私を問わず,国民の厚生をその設立の目的とする.国民の厚生が脅かされた時,私たち病院は何をすべきか? いかに連携し,役割分担すべきか? いかにリーダーシップを取るべきか?…病院はその社会的責任をどこまで担っていくべきなのか今一度考えてみたい」と結び,特集では自然災害の他に原子力災害についての論文も掲載した.

 その後,社会保障と財政にかかる論議が混迷するまさにその時2011年3月11日に,医療的に決して恵まれているとは言えない,また少子高齢化が進む東北地方を,未曾有とも,人知を超えたとも言われる東日本大震災が襲ったのであった.

【座談会】震災復興と社会保障改革,これからの病院の役割を問う

著者: 堺常雄 ,   西澤寬俊 ,   日野頌三 ,   山崎學 ,   井伊雅子

ページ範囲:P.14 - P.22

 社会保障と税の一体改革をどう評価するか.望ましい医療提供体制や二次医療圏のあり方は何か.震災復興をふまえたまちづくりと病院の役割をどう考えるか.このようなテーマで,四病院団体協議会(通称,四病協)の会長に語っていただいた.

 四病協とは,日本病院会,全日本病院協会,日本医療法人協会,日本精神科病院協会という4つの全国組織の病院団体の連合体であり,医療制度の改革に向けて,病院のデータや要望を政策に反映させ,病院現場の声を届けるために共同して各種の事業,要望活動を展開している.

日本の財政健全化と消費税

著者: 田近栄治

ページ範囲:P.24 - P.27

■経済と財政の現状

 ギリシャから端を発した国の債務リスクは国境を越え,アイルランド,ポルトガル,スペインと広がり,イタリアの10年国債の金利が7%近くにもなるなど,赤字財政のつけの厳しさを目の当たりにすることになった.累積した債務の原因が,社会保障のせいであろうと,バブルで負債の拡大した銀行への資金注入の結果であろうと,放漫とみなされた財政への市場の規律は容赦がない.そうしたなか,国は歳出の切り詰めと増税を迫られる.

 歳出の多くが社会保障給付に充てられているため,どの国も歳出カットの筆頭は年金給付額の切り下げであり,それに医療の個人負担の増大が加わり,歳入サイドでは消費税(付加価値税)や個人所得税の増税がなされる.そうした緊縮財政に反対するアテネやマドリードやローマなどでのストライキを見ていて,怒りのこぶしをどこに向けるのだろうかという,複雑な思いを持ったのは筆者だけではなかったであろう.歳入の裏付けのないままに,歳出を拡大した責任は,政治家だけでなく,そうした政治家を選出した国民にもあるからである.

東日本大震災への対応と医療提供体制の再構築

著者: 唐澤剛

ページ範囲:P.28 - P.36

 今回の東日本大震災はマグニチュード9.0に達し,津波による被害は千年に一度と呼ばれるほどのものであった.同時に東京電力の原子力発電所における原子力災害が加わり,これまで経験したことのない未曾有の被害をもたらしている.

 筆者は,平成7年の阪神淡路大震災では現在の健康局総務課(当時の保健医療局企画課)に在籍し,また,平成10~12年には,厚生科学課の健康危機管理官としてJCO原子力事故対策などを担当してきたが,今回の東日本大震災は,その規模においても,また地震津波と原子力事故の複合的な災害である点においても,従来の災害とはまったく異なるものである.

2025年の病院のあり方を考える―全日本病院協会「病院のあり方に関する報告書2011年版」より

著者: 徳田禎久

ページ範囲:P.38 - P.42

 全日本病院協会(以下,全日病)における医療提供に関する検討は,1998年に発足した「中小病院のあり方に関するプロジェクト委員会」にて始まり,成果が報告書にまとめられた.その後,継続するケアとしての介護にまで検討は及び,2000年からほぼ隔年で「病院のあり方に関する報告書」として発刊してきた.

 これまで「病院のあり方に関する報告書」では,理想的な医療の提供のために①正確な疾病調査,②地域特性をふまえた一定人口ごとの医療圏の設定,③急性期から慢性期,さらには介護まで切れ目ない継続したケアの提供,④提供体制を維持するための科学的な報酬体系の確立,⑤国民の信頼を得るための質向上の取り組み,の重要性を繰り返し示してきた.

被災地で目指す高齢社会のまちづくりモデル

著者: 後藤純

ページ範囲:P.43 - P.47

■超高齢社会のまちづくり─住まいとケアの一体的整備

 東京大学高齢社会総合研究機構は,超高齢社会の広範で複雑な課題を解決するために,医学,看護学,理学,工学,法学,経済学,社会学,心理学,倫理学,教育学など,各領域の専門家が学問領域を超えて結集した組織である.

 震災以前から,医学,看護学,都市工学,建築学の教員や学生らと,「住まいとケアの一体的整備」というテーマに取り組んできた.都市部の高齢化は想像以上に厳しい問題を巻き起こし,病院には外来患者が大量に押し寄せてくる.例えば千葉県の某市は月に500人が高齢者となり,毎年1%ずつ高齢化率が上がっていく.しかし病院の数はそう簡単に増えることはない.また一方で,日本の高齢化は後期高齢者の増加が特徴である.身体機能・認知機能ともに良好で自立した生活が送れていれば,公共交通を乗り継ぎ病院に通うことは可能であるだろう.しかし80歳あたりを境にして,自力では病院に通えなくなってくる.高齢者の単身化,夫婦のみ化も進み,病院まで連れて行ってくれる人もいない.病院は前期高齢者であふれ,街は外来にかかれない後期高齢者で埋もれる.震災以前から,こうした現状について「高齢化の津波が押し寄せる」と称し注意を喚起していた.

東日本大震災におけるDMAT活動と課題

著者: 小井土雄一 ,   近藤久禎 ,   市原正行

ページ範囲:P.48 - P.52

 現在の日本における災害医療体制は,阪神・淡路大震災の教訓に基づき構築された.阪神・淡路大震災では6433人が亡くなられたが,そのうち500人は防ぎえた災害死(Preventable Disaster Death:PDD)の可能性があったと報告されている.その原因は医療面に特化すると4つ,すなわち,被災現場で急性期に活動する医療チームがなかったこと,被災地で中心的な役割を担う災害医療に長けた病院がなかったこと,重症患者の後方搬送・被災地外への搬送が行われなかったこと,病院間あるいは病院と行政を結ぶ情報システムがなかったことである.これらを教訓に,国は超急性期に活動する医療チームDMAT(Disaster Medical Assistance Team)を作り,災害拠点病院を指定整備し,後方搬送においては広域医療搬送計画を策定し,情報システムとして広域災害救急医療情報システム(Emergency Medical Information System:EMIS)を作り上げた.今回の東日本大震災は,16年かけて作り上げてきたこの災害医療体制が試される結果ともなった.本稿では,東日本大震災においてこれらのシステムがいかに機能したか,DMATの活動を中心に紹介し,今後の課題について述べる.

東日本大震災における対応―JMAT:日本医師会災害医療チーム

著者: 石井正三

ページ範囲:P.53 - P.56

■はじめに─概要

 JMAT(Japan Medical Association Team)は,日本医師会が東日本大震災を受けて,これまでの検討内容に基づいて結成した災害医療チームである.被災地の都道府県医師会の要請に基づいて,日本医師会が各都道府県医師会に依頼して結成・派遣され,避難所や救護所等での医療や被災した病院・診療所の患者への医療の継続支援を行う.JMAT参加者には,病院に勤務する医師や看護職員等の医療従事者も多数含まれ,まさに日本の医療界を挙げての活動となった.

 さらに,JMATの派遣は,病院団体との連携によっても行われた.初期の段階から全日本病院協会と日本医療法人協会の医療チームがJMATとして派遣され,日本精神科病院協会からも参加申し出がなされた.さらに他の医療団体のチームもJMATとして多く派遣された.現在は,主要病院団体も参画し,被災者健康支援連絡協議会を立ち上げているが,その枠組みの下で,宮城県気仙沼市立本吉病院への医師派遣も実現した.国公立病院や日赤もDMATや救護班として大きな役割を果たしたが,これらの活動と医師会活動との連携もより良いものにしていかなくてはならない.また民間の病院や診療所が主体を占める日本の医療体制にあって,被災地の医療復興も,民間と公的医療機関の双方がバランスをもってなされる必要がある.

震災への対応と医療情報化

著者: 有倉陽司

ページ範囲:P.57 - P.60

 東日本大震災で犠牲になった方々に,心からの哀悼の意を捧げるとともに,一日も早い被災地域の復旧・復興を心よりお祈り申し上げます.

 今回の震災においては,医療サービスの提供そのものの停止,あるいは支障が生じた事例のみならず,医療情報を利用できない事例や,医療情報を利用できないことに起因する問題が数多く発生した.例えば,地震や津波による紙カルテや医療情報機器の流出,損壊,汚損,故障の他,医療機関の損壊等により,過去の医療情報が失われ,それに基づく医療サービスの提供ができない事例が生じた.また,医療情報機器に故障等がない場合でも,停電により電子カルテシステムや医療情報機器が使用できず,災害発生直後の緊急時に医療情報が利用できない事態が発生した.

グラフ

マネジメントの視点から災害対応を考える Hospital MIMMS―@順天堂大学医学部附属練馬病院

ページ範囲:P.1 - P.4

 MIMMS(Major Incident Medical Mana-gement & Support)は1995年にイギリスで始まった災害医療の教育コースで,医療機関をはじめ警察,消防,行政,ボランティアなど,大災害時に医療に関わる各組織・部門が互いの役割や連携のあり方を学ぶ教育システムとして開発された.現在,世界数十か国でコースが開催され,日本では2003年にイギリス大使館と日本救急医学会の共催で初めて行われたのをきっかけに,翌年には日本人インストラクター7人が誕生,これまでに50回以上開催されている.

 今回は2011年10月8日から2日間にわたって順天堂大学医学部附属練馬病院で開催された,病院向けコース「Hos-pital MIMMS」の様子を紹介する.

連載 病院が変わるアフリカの今・1【新連載】

病院変革戦略としての5S/KAIZEN/TQM

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.6 - P.7

アフリカの奇跡!

 今,アフリカ大陸のあちこちで信じられない光景が拡がっている.日本企業生まれの経営手法「5S」や「KAIZEN(改善)」,そして「TQM(総合的品質管理)」活動が,病院に浸透しつつあるのだ.例えばタンザニアでは,準首都ダルエルサラームから900km離れた奥地,ムヒンビリのムヒンビリレファラル病院に5Sが段階的に導入され,4年経った現在では30の職場改善チーム(日本でいうQCサークル)が作られ,KAIZEN活動が展開されている.政府レベルでは「5S/KAIZEN/TQM」推進国家戦略の下,5Sが主要46病院に導入され,2013年にはタンザニアの全保健医療施設(127病院と保健センターを含む)で取り組みが始まる予定だ.現在,同様のことが2007年からわずか4年で,アフリカ大陸の15か国に拡がっているのである.全46か国のうち3分の1,アフリカ大陸総人口の半数(8.2億人中4.2億人)が暮らす国々である.

 一度でもアフリカの病院を訪れれば,これがいかにありえないことかおわかりいただけると思う.すべてとは言わないが,多くのアフリカの病院は永い植民地支配の影響もあって,物資がなく,職員には無気力感が漂う.そのうえ臭くて汚く,病人はもとより職員も寄りつきたがらないような場所である.それが今,変わりつつあるのだ.臭わない,きれいな,働きやすい職場に変わり,職員の目が輝き始めている.セネガルでは,何時間もかけて来院した外来患者を平気で暑天下に待たせ,挙句の果てに賄賂を渡さないと診療拒否する,さらには入院患者を怒鳴る・殴るといったことがしばしば見られた.そんな病院が,屋根のついた外来待合をつくり,にこやかに患者と接するようになったのだ.

病院への政策金融 事業仕分けと東日本大震災を通して・3〔最終回〕

大震災からの復旧・復興のために政策金融が果たす役割

著者: 岩野正史

ページ範囲:P.62 - P.63

■震災直後の福祉医療機構の対応

 昨年3月11日に発生した東日本大震災により,被災地域の医療機関には甚大な被害が生じた.特に岩手,宮城,福島の東北3県においては,380病院中全壊が10病院,一部損壊が290病院,計300病院が何らかの被害を受けている(厚生労働省医政局2011年7月11日時点まとめ).

 被災地域の医療機能の維持・回復は住民の生命・健康に関わる最重要事項であるため,独立行政法人福祉医療機構も被災者に対する金融支援の面で,発災直後から今日に至るまで様々な対策を講じてきた.

臨床倫理コンサルテーション・9

臨床倫理コンサルテーションの方法(3)―分析・検討④

著者: 瀧本禎之

ページ範囲:P.64 - P.66

 当センターで使用している「東大病院臨床倫理コンサルテーションシート」(表)では,「患者氏名・年齢・性別・ID」「依頼理由」「情報提供者・情報取得先」「医学的適応」「治療者の意向」「患者の意向」「判断能力」「QOL」「家族の意向/家族構成/キーパーソン」「周囲の状況/その他」「法的観点」の欄にそれぞれ情報を記入する.次いで「分析/評価」にて倫理的検討を行い,「介入計画」にて法的観点も含めてどのように現場へ介入するかを決定した後,「推奨内容」で依頼者への回答を記載する.前回から引き続き,今回は「QOL」以下の項目を見ていくと共に,「分析・評価」において使用される医療倫理の基本原則について解説する.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・65

救命救急センターにおける医療ソーシャルワーク

著者: 品田雄市

ページ範囲:P.67 - P.69

 第3次救急である救命救急センターには,連日,重篤な生命の危機に瀕している患者が搬送されてくる.身元不明,無保険,身寄りのない単身高齢者などや,救われた生命の重みと遺された障害の重さにたじろぐ患者・家族を前にし,社会福祉の立場から生命の意味を問いかける実践の日々が続いている.本稿では,人びとや地域にとっての救命救急センターとは何か,そこに運び込まれた人びとに何が起こっているのか,救命救急センターにおける医療ソーシャルワークはどのような貢献が可能なのかを明らかにしたい.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・52

上方落語が描く病と医者①―身体で聴くということ…

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.70 - P.71

 以前,「映画人が見つめる病の世界」について綴ったが,今回は落語から綴ってみる.僕は関西生まれの関西育ちで,落語といえば上方落語を想起する.上方落語とは昔の大阪・京都を中心に語られるもので,東京を中心とするものは江戸落語と呼ぶそうだ.

 以前にも書いたが,僕は亡くなった2代目桂枝雀さんのファンで,彼の若い頃からその話法に魅せられた1人である.寝る時もテープレコーダーを耳元に置き,彼の落語を聴いて寝た.まさに落語が子守歌だ.一番好きだったのが(今もそうだが)「池田の猪買い」.ラジオの落語番組を録音したもので,いったい何度聞いただろうか.

病院管理フォーラム ■病院原価計算手法の再考─手法論から活用論へ①

原価の定義とその範囲の再考

著者: 渡辺明良

ページ範囲:P.72 - P.75

 近年,病院原価計算に関して,多くの研究者や実務家による取り組みにより,論文・書籍や学会発表などが数多く見られるようになった.また,その歴史的展開は終戦後の提唱期から病院原価計算要綱が公表された発達期,1990年代半ばからの実践期を経て,現在は多様期を迎えていると言われている1).これは病院経営において,原価計算の実行と活用の必要性が認知されてきたことの表れとも言える.

 2007~2011年9月の約5年間において,「原価計算」をキーワードに医中誌にて検索を試みたところ,52の文献が抽出された.このように,年間10本以上の論文などが執筆されている状況や,その内容も様々な手法に言及した論文であることなどからも,多様期を迎えた病院原価計算の実態がうかがえる.特に,総原価を対象とした部門別原価計算が中心であった病院原価計算の手法だけでなく,「医療原価」や「医業管理費」区分を明確化したうえで,各職種の主観的感覚である貢献実感を基にした「シェアリング」方法を用いた診区方式による原価計算の提案など,多様な原価計算手法に対する取り組みも行われている2).また,これらは論文に限らない.学会発表や研究会活動などを通じて,その手法を病院経営に活用するための検討や議論も行われている.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第204回

競争力強化の手段としての病院建築―韓国病院建築の動向

著者: 尹世遠

ページ範囲:P.76 - P.83

 2011年3月,韓国医療福祉施設学会の協力により,韓国のいくつかの医療福祉施設を視察する機会を得た.韓国では近年,超大型病院の建設が相次ぎ,医療福祉建築の質の向上が著しく,たびたび話題となっている.本稿では,近年建設された超大型病院を紹介し,韓国の病院建築の動向について考えてみたい.

 まず,韓国の医療制度について簡単に確認しておくと,1963年に医療保険法が制定され,1989年に国民皆保険が実現された.2008年には日本の介護保険に該当する「高齢者長期療養保険」を実施する.このように,制度は比較的近年に整備されたのだが,こうした動きを反映するかのように,医療施設は量・質ともに急増している.この10年間で,診療所・薬局などを含む医療施設数は61,776から81,681に増加し,病院について見ると,一般病院は2倍近く,療養病院にいたっては40倍以上増加している(表1)1)

リレーエッセイ 医療の現場から

それぞれの時代と『病院』

著者: 細田満和子

ページ範囲:P.87 - P.87

『病院』との出会い

 私は社会学を専門とする研究者で,医療系の資格は何ひとつ持っていません.医療に関心を持ち始めたのも大学院博士課程に入ってからで,それまでは医療系雑誌など手に取ったこともありませんでした.

 しかし今,ひそかに私は『病院』という雑誌の最も長期にわたる読者の1人だと思っています.かれこれ10年以上前,「チーム医療」について本を書いていた時,チーム医療の概念とは日本においていつ頃生まれてきたのだろうという疑問を持ちました.調べてゆくうちに,『病院』という雑誌が戦後間もない1949年に創刊されていること,この雑誌は創刊以来,日本の医療のあるべき姿を論じるオピニオン・リーダー的な雑誌であることがわかってきました.

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書評 日本の現実に即した医療コミュニケーションの新しいテキスト―山内 常男(編)『ことばもクスリ─患者と話せる医師になる』

著者: 箕輪良行

ページ範囲:P.37 - P.37

 1990年代以降に医学教育を受けたOSCE世代と呼ばれる医師は「私は○○科のミノワです」と自己紹介でき,最後に「ほかに何か言い残したことはありませんか」とドアノブ質問ができる,という筆者らの観察は,評者もアンケート調査で実証してきた.また,評者らが開発したコミュニケーションスキル訓練コースを受講した,地域で高い評価を受けているベテラン医師が受講後にみせた行動変容は唯一,ドアノブ質問の使用増加であった.

 本書は,若い医師たちをこのように見ていながらも,日ごろ,目にして耳にする患者からのクレームをもとにどうしても伝えたい「言葉」の話を医療従事者に向けてまとめた書物である.クレーム実例から出発しているのでリアルであり,真摯な語りかけである.この領域で二冊のテキスト(『医療現場のコミュニケーション』『コミュニケーションスキル・トレーニング』,ともに医学書院刊)を執筆している評者にとっても,このような語りかけがどうしてもかくあるべしの理想論になりがちで非常に難しいのがわかるだけに,クレームからのアプローチは執筆の抑制を保つうえでうまい戦略だと感心させられた.

書籍紹介

ページ範囲:P.56 - P.56

投稿規定

ページ範囲:P.85 - P.86

次号予告/告知板/表紙解説

ページ範囲:P.88 - P.88

1972年,神奈川県生まれ.自閉症障害を伴う精神遅滞およびてんかん,両感音難聴と診断される.神奈川県立平塚聾学校を卒業し,同県の通所授産所に通所後,秋田県へ.1995年より社会福祉法人一羊会 杉の木園に転入し,お菓子作りや絵画の才能を発揮している.きょうされん(旧称:共同作業所全国連絡会)が毎年開催している「きょうされんグッズデザインコンクール」では動物や風景の絵を書き,数多く入賞している.

〈1月号解説〉

「はち」に植えられた花が,まるで地面に根を張っているかのように生き生きと描かれている.本人は普段あまり使わないマジックを使った作品である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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