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雑誌目次

雑誌文献

病院71巻11号

2012年11月発行

雑誌目次

特集 検証“同時改定”診療・介護報酬

巻頭言

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.861 - P.861

 平成24年は6年に1回の診療報酬・介護報酬同時改定の年であった.当然改定のテーマは,医療機関連携,医療・介護の連携となるところであるが,それ以前に今回の改定には大きな流れが存在している.それは,「社会保障と税の一体改革」に盛り込まれた,「医療・介護に係る長期推計(主にサービス提供体制改革に係る改革について)」が柱になっていることである.この長期推計・シミュレーションは,超高齢社会のピークとも言える2025(平成37年)年に向けて医療・介護提供体制を整備してゆく,というものであり,その工程表も発表されている.このことは今回の改定だけではなく,次回以降もこの改革方針に沿って報酬改定が行われることを意味している.

 そこで,本特集では,今後の改革の羅針盤ともなる「医療・介護に係る長期推計」(医療・介護のシミュレーション)の概要・今後の方向性について,また,平成24年度診療報酬改定・介護報酬改定が何を目指しているのか,その概要と今後について,それぞれ厚生労働省担当官に執筆依頼した.また,「DPCの制度改正と今後の方向性」「中小病院に対する影響」「診療報酬改定影響度調査」「精神科病院に対する影響」「老人保健施設に対する影響」などを,関連委員会,関連団体の担当者に執筆依頼した.

医療・介護改革の羅針盤―シミュレーションの概要と診療・介護報酬改定の今後

著者: 香取照幸 ,   武田俊彦

ページ範囲:P.862 - P.869

 医療・介護の長期推計(シミュレーション)は,平成20年の社会保障国民会議において初めて行われ,今回の社会保障・税一体改革においてもこれを概ね引き継いだ形の長期推計が行われている.このシミュレーションは,今後の医療・介護の需要の変化を予測し,それを支えるサービス提供体制の将来像(あるべき姿)を提示したうえで,それを実現する際の費用推計,従事者数推計を一体的に行ったものであり,国民会議や一体改革において提示された医療・介護改革の方向性・内容を根拠づけ,さらには今回の税制改正における消費税増税による社会保障の充実所要額の積算根拠ともなっているものである.

 その意味で,今後の医療・介護の充実強化の羅針盤とも言うべき極めて重要な意義を持つものである.

平成24年度診療報酬改定の概要と課題

著者: 鈴木康裕

ページ範囲:P.870 - P.875

 医療の診療報酬に関しては,民主党政権下,2回連続してプラス改定となった(平成22年改定+0.19%,24年改定+0.004%).診療報酬改定の担当者としては,今後ともこの傾向が継続されることを望んではいるが,必ずしも継続してプラス改定となる保証があるわけではない.

 また,プロセスから見ると,社会保障と税の一体改革で示された2025(平成37)年の着地点までは介護との同時改定が今回を含めて3回,医療の独自改定が4回ある.これをホップ・ステップ・ジャンプで最終着地点に到達するように,将来に向けてステップを踏んでいくことになる(図1).

平成24年度介護報酬改定で目指したもの

著者: 宇都宮啓

ページ範囲:P.876 - P.881

 高齢化の進展,認知症高齢者の増加,高齢者世帯のうち単独世帯や夫婦のみの世帯の割合の増加等,様々な課題が存在している中で,平成24年度介護報酬改定が行われた.

 今回の改定の背景はこれまでとは異なったいくつかの特徴があった.

DPCの制度改正と今後の方向性

著者: 小山信彌

ページ範囲:P.882 - P.887

 平成24年度診療報酬改定が施行されてから約半年が経つ.22年度,24年度改定において,2回連続して診療報酬がアップしている.このことにより,病院運営も何とか良い方向に向かっているものと思われる.

 これからの病院運営には,社会情勢の判断,厚生労働省(国)の方向性を十分理解して,病院運営をしていく必要がある.特に,今回の改定は,「社会保障・税一体改革」で示された2025(平成37)年に向けたイメージを見据えつつ,あるべき姿の実現に向けた第一歩と位置づけている.そのため,今後の診療報酬体系の方向性を示す,非常にメッセージ性の強い改定であったと感じている.

中小病院への影響

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.888 - P.892

 平成24年度改定は,6年に1回の診療報酬,介護報酬同時改定である.前回の同時改定は平成18年度改定であったが,この改定は実に衝撃的であった.中医協改革が断行され,病院代表が中医協委員となった.そして,過去最大のマイナス改定であり,看護基準に夜勤平均72時間規定が導入された.さらに,医療療養病床に対して医療区分・ADL区分が導入され,介護療養病床の廃止が決まった改定である.この改定は,最悪の看護師争奪合戦を巻き起こし,結果としては,看護師紹介・斡旋業者を大きく育ててしまった.しかし,本来は本年3月末であった介護療養病床の廃止は,あと6年先延ばしになっている.

 前回,平成22年度改定は,政権交代後の初改定であり,10年ぶりのプラス改定であった.内容としては,基幹病院の救急医療,難易度の高い手術等,大病院重視の改定であった.この改定により,大学病院をはじめとする,大規模病院の経営は驚くほど改善したようである.

平成24年度 診療報酬改定影響度調査(中間報告)―日本病院会

著者: 宮㟢瑞穗

ページ範囲:P.893 - P.899

 前回の平成22年度の診療報酬のプラス改定で特に大規模な病院は息を吹き返した感があるが,中小病院では厳しい状況が続いており,病院の廃止や整理統合が進んでいる.このような状況下で行われた平成24年度の診療報酬はわずかなプラス改定となった.しかしその影響は,国の医療施策に基づく保険点数設定により,医療施設の規模や機能によって大きく異なっている可能性がある.

 日本病院会病院経営の質推進委員会は平成24年4月の診療報酬改定による会員病院への影響を検証するため,日本病院会に加入する全病院に対し調査を行ったので,そのあらましについて報告する.

精神科病院に対する影響

著者: 馬屋原健

ページ範囲:P.900 - P.904

 平成24年度改定において,精神科の改定項目,およびその内容は他科と比べて異彩を放っている.特に注目を集めたのは,精神療養病棟の重症者加算1,通院・在宅精神療法の初診時700点算定,そして認知行動療法の算定要件に,精神科救急医療体制の確保に対する協力が精神科医,医療機関各々のレベルで求められたことである.いかにも木に竹をつぐような算定要件であるが,これには精神科特有の事情が関連している.

 その1つは,同年度に改正精神保健福祉法が施行されることで,都道府県が精神科救急医療を担うと同時に,精神保健指定医にも同様の公的使命が付託されたことである.つまり,指定医は一医療機関の医師にとどまらず,社会資源の一部と位置付けられたのであり,そこから他の救急医療機関における勤務を促すような今回の算定要件が編み出されたはずである.

老人保健施設に対する影響

著者: 内藤圭之

ページ範囲:P.905 - P.909

 介護老人保健施設(以下,老健施設)の多くは経営的な危機に直面している.公益社団法人全国老人保健施設協会(以下,全老健)の正会員の属性で見ると,老健施設の開設主体は,医療法人が73.6%,社会福祉法人が15.4%,その他は,地方自治体立や厚生連,共済会などが11.1%を占めている.

 多くの民間病院や介護保険施設が,自治体立の病院や社会福祉法人と同じ土俵で競争を強いられ,経営的にも人材確保の面でも将来展望が見出せなくなりつつある.

グラフ

地域に今ある大きな病気を診る 社会医療法人財団 石心会 川崎幸病院

ページ範囲:P.849 - P.852

 川崎幸病院は2012年6月,川崎駅西口近くに新築オープンした.それまでの203床と中原分院62床を統合.さらに川崎市重症患者救急対応病院の指定を受けて市立井田病院・市立川崎病院の遊休ベッド62床を譲渡され,9月より326床で運営している.

 1973年の開設以来「地域で日常的にある大きな疾病を診る」ことをコンセプトにしてきたと,石井暎禧理事長・院長は話す.救急・急変時のニーズに対応して機能を拡充する中で,1998年に一般外来を病院から分離し(川崎幸クリニック),救急・急性期を中心とした入院医療に特化した(病院の外来は救急・紹介・透析のみ).

連載 病院が変わるアフリカの今・11

5S活動を全科,全員で推進する州病院

著者: 池田憲昭

ページ範囲:P.854 - P.855

泥の文化と紛争の絶えないマリ共和国

 西アフリカのマリ共和国は,泥の文化である.世界遺産に指定されている北部のトゥンブクトゥのモスクなどの歴史的な建造物から,現代の住居まで特徴的な泥による建築である(写真1).また,鉄分の多い砂を使った泥の染色が古くから人の手に馴染んできた(写真2).1920年にフランスに植民地化されるまで,この地域は様々な王国の時代を長く繰り返してきた.その間,サハラ砂漠を越えて来た異邦人が,マリの中央を流れるニジェール川に沿って交易してきたため,その影響がマリの文化に色濃く反映している.

 他のサブサハラ諸国と同様にマリの保健指標は劣悪で,慢性的な保健資材,とりわけ人材不足は脆弱な保健システムの根本問題として知られている.私たちはJICA(国際協力機構)のアフリカ地域医療施設機能改善(広域)プログラム「5S-KAIZEN-TQMを用いた保健医療サービスの質の向上」として,2009年からマリ保健省による公的保健施設のマネジメント改善を支援しており,2010年2月と2012年1月にはパイロット病院のモニタリングを行った.しかし,残念ながら私たちが最後に訪れた2012年1月以降,にわかに政情不安となって日本人には退避勧告がなされた.現在もマリへの渡航は制限されている.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・62

死ぬのが怖い

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.914 - P.915

“もしも末期がんになったらあなたは人生の最期をどこで迎えますか”

 上記タイトルの講演会を始めて,7回目を迎えることになった.第1回は16人しか集まらなかったが,なんとか7回目までこぎ着けた.4回目までは「西宮市後援」という形で開催してきたが,市政ニュースに掲載される程度なので,5回目からは独自に開催している.

 第7回は「ホスピスケア関係者大集合」を副題として,市内の終末期医療・福祉に関係する人々に集まってもらい,市民たちとの対話の場を作った.集まってくれたのは,訪問診療医,訪問看護師,歯科医,言語聴覚士,薬剤師,ケアマネジャー,医療ソーシャルワーカー,施設ホスピス医,ホスピス認定看護師,地域包括センター職員,患者,患者遺族と盛りだくさん.それに加えて,ドクタードックと呼ばれる犬(写真)まで演台に登り,総数16名がずらりと並ぶことになった.

医療管理会計学入門・8

価値企画の登場と普及―提供プロセスマネジメントとしての管理会計①

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.916 - P.919

 原価企画とは,トヨタ自動車が1960年代に独自開発した戦略的原価管理方式であり,「製品の量産体制以前の源流管理,企画・設計段階における原価の作り込み活動」である1).当初は原価低減活動により目標利益の達成を図るものであったが,今日では原価低減だけでなく,顧客ニーズを捉え,多様な製品コンセプトを考え出し,さらに収益・原価の両面を見ながら目標利益の達成案を探索するもの,つまり総合的利益管理活動と認識されるようになっている.日本会計研究学会では「製品の企画・開発にあたって,顧客ニーズに適合する品質・価格・信頼性・納期等の目標を設定し,上流から下流までのすべての活動を対象としてそれらの目標の同時的な達成を図る,総合的利益管理活動」2)と定義している.

 この定義は,原価企画がトヨタ自動車に端を発していることもあり製造業を想定しているが,医療(病院)においても,前提条件(提供プロセスの標準化,知識共有化,事前計画化)が満たされれば,医療サービスの提供以前,つまり設計・開発段階において,「医療の質」「収支」「安全性」「在院日数」等を同時に考慮し,費用対成果としての価値の向上を図ることができる.特にDPCが進む急性期入院領域においては,すでに病院経営上必要になっていると言えよう.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・75

MSWの働きと組織的位置づけ―新しいぶどう酒は新しい皮袋に

著者: 村上須賀子

ページ範囲:P.920 - P.923

 本連載の趣旨は,医療機関における医療ソーシャルワーカー(MSW)の活用とその拡充を願ったものである.2006年6月号よりスタートし,幸いにも好評を得て6年を経た現在も継続中である.かねてより単行本化の声もあり,本年7月,直近の号を含め病院事例を中心に,連載52回分を「総論」「支援論」「アドミニストレーション」の各部に編み直し,『医療ソーシャルワーカーの力』として刊行した.

 6年間でMSWの働く環境も変化し,その業務内容にも変化が見られる.その変化を,各機関の組織図の検証から跡づけてみたい.

診療情報管理の最前線・1【新連載】

診療情報管理士の今

著者: 阿南誠

ページ範囲:P.924 - P.926

■増加する診療情報管理士

 診療情報管理士の2011年度の認定者数は1893人,現在までの認定者累計は2万5469人となっている.一般社団法人日本病院会(以下,日本病院会)が1974年10月に通信教育を修了した82人を「診療録管理士」(後に診療情報管理士に移行)に認定して以来,40年弱の歴史があることを考えると少数にも思えるが,図に示す通り,志望者は2000年頃をターニングポイントとして急増している.すなわち,認定者の多くはこの10年の間に認定を受けているのである.

 この激増の理由は,まず1999~2000年にかけて,患者へのカルテ開示や診療情報提供の議論が沸騰したことが挙げられる.これは後の「個人情報の保護に関する法律」施行後の対応のためにも重要なイベントであった.また,2004年にDPC(Diagnosis Procedure Combination)が導入され,従来は診療情報管理には縁遠いとされていた診療報酬制度において,診療情報管理の能力が問われることとなり,診療情報管理に力を入れざるを得なくなった病院の事情が反映されている.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第214回

生協のんびり村

著者: 林美博 ,   廣加奈子 ,   山口義文 ,   水上晃

ページ範囲:P.927 - P.933

設計の立場から

コンセプトづくりと具現化

 南医療生活協同組合(以下,南医療生協)では,百人会議「飛躍会」注)を立ち上げ,構想の段階から,職員,組合員,設計者が参加するワークショップ形式で村づくりを進めた.そこで導き出された組合員が望む老後の姿は,「住み慣れたまちで暮らし続ける」「高齢になっても地域との交流を通じて役割・生きがいを持ち続ける」「手伝いや介護が必要になった時に気軽に安心して利用できる施設が身近にある」である.そして,生協のんびり村のコンセプトを「まちにとけこみ,まちとふれあう」とした.

リレーエッセイ 医療の現場から

エコーで褥瘡を診る

著者: 水原章浩

ページ範囲:P.935 - P.935

 近年,高齢化の進行により寝たきり患者が増加し,それとともに褥瘡患者の割合も急増する状況にあります.褥瘡は圧迫の力によって生じますが,皮膚が圧迫されるとその部位がまず発赤します.損傷があっても真皮内にとどまっているのが「1度」と呼ばれる軽度の褥瘡で,圧迫を解除すれば短時間に改善します.しかし圧迫が続くと不可逆的な虚血性変化から損傷に陥り,潰瘍となります.これがいわゆる褥瘡です.

 最近,表面上は傷がなく,軽症に見えるものの,実は深部の皮下組織に損傷が及んでいて,1週間ほど経過すると深い潰瘍が生じる病態が認識されるようになってきました.これがDTI(Deep Tissue Injury,深部組織損傷)という概念で,褥瘡が発症する前段階と考えられます.

提言

DPC/PDPSにおけるⅢ群病院の分類方法に関する検討―パフォーマンスに基づく病院評価の必要性

著者: 美原盤 ,   内田智久 ,   小林真里子

ページ範囲:P.910 - P.913

 社会保障・税一体改革実現の第一歩と位置づけられた2012年度診療報酬改定において,DPC/PDPS(Diagnosis Procedure Combination/Par-Diem Payment System)対象病院は,各病院の診療機能や施設特性に基づいてI群(大学病院本院),Ⅱ群(I群に準ずる病院),Ⅲ群(I,Ⅱ群以外の病院)に分類された.これら医療機関群の設定は「同様な機能的特性を有する」ものであり,「同程度の医療の標準化や効率化を促進する観点」から実施するものとされている1)

 各群の病院数は,I群80施設,Ⅱ群90施設,Ⅲ群1355施設であり,Ⅲ群病院が突出して多い.これに対し,同一群内の各医療機関の多様性については,機能評価係数Ⅰ(構造的因子への評価),Ⅱ(診療実績や医療の質的向上等を評価)で評価するとされている.しかし,例えば当院の医療機関別係数の内訳では,基礎係数(基本的な診療機能に対する評価)が72.5%を占め,機能評価係数Ⅰと機能評価係数Ⅱおよび暫定調整係数の合算値は,当院の機能評価係数Ⅱが全DPC/PDPS対象病院中最も高いにもかかわらず,30%にも満たない.出来高請求分を含む保険請求総額における割合では,わずか16%にしかならず,基礎係数との差は歴然である(図1).

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次号予告/告知板/表紙解説

ページ範囲:P.936 - P.936

1972年,神奈川県生まれ.自閉症障害を伴う精神遅滞およびてんかん,両感音難聴と診断される.神奈川県立平塚聾学校を卒業し,同県の通所授産所に通所後,秋田県へ.1995年より社会福祉法人一羊会 杉の木園に転入し,お菓子作りや絵画の才能を発揮している.きょうされん(旧称:共同作業所全国連絡会)が毎年開催している「きょうされんグッズデザインコンクール」では動物や風景の絵を描き,数多く入賞している.

〈11月号解説〉

マジックを使って「花」を表現した作品である.背景の色鮮やかな青色が葉っぱの1枚1枚の緑色をうまく引き立てており,見事なコントラストを魅せてくれている.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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