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雑誌目次

雑誌文献

病院71巻12号

2012年12月発行

雑誌目次

特集 病院のBCP

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.949 - P.949

 2011年3月の東日本大震災を契機に,また,今後高い確率で発生が想定される首都圏直下型地震,東海地震,東南海地震,南海地震の被害予測などからも,これまで以上に病院のBCP(Business Continuity Plan)策定の重要性が問われている.なぜならば,先の大震災を目のあたりした時,国民は医療こそが重要なセーフティーネットであることに改めて気づき,そして大きな期待を寄せるようになったからに他ならない.

 各々の病院は,被災地においては安心の柱であると同時に,被災者ともなる.建物ばかりではなく,ライフラインの途絶,ロジスティックの破綻,情報の途絶,そして医療スタッフそのものの被災など,病院機能に致命的なダメージを受けることもある.被災しながらも,医療という事業を一刻も早く復旧させ,継続するBCPの早急な策定は,公私にかかわらず,国民から与えられた病院の社会的責任であると認識したい.

BCP─事業継続計画とは

著者: 大林厚臣

ページ範囲:P.950 - P.954

 医療は人々の安全と健康を守る活動であり,日々継続される必要がある.しかし災害や事故は,それ自体による被害だけでなく,医療を中断させることで人々を危険にさらすことがある.

 BCP(Business Continuity Plan,事業継続計画)とは,病院,政府,企業などの重要な事業が,災害や事故などの理由を問わず中断しない,あるいは中断しても許容時間内に許容水準に回復できるようにする取り組みである.1回限りの計画ではなく持続的に行うことを強調して,BCM(Business Continuity Management,事業継続マネジメント)と呼ぶこともある.非常時における事業者の行動の優先順位は,第一に人命の安全確保,その次に事業の継続となる.しかし医療においては事業の継続は人命に直結するので,第一順位である人命の安全確保と比べられるほど重要な課題である.

東京都による医療機関のBCP策定ガイドライン

著者: 竹内栄一

ページ範囲:P.955 - P.959

 東日本大震災における病院の被害は,岩手,宮城,福島3県の380病院のうち,全壊11,一部損壊289,外来受け入れ不可45,入院受け入れ不可84であった.診療可能な災害拠点病院には通常の数倍の負傷者が搬送され,ライフラインの復旧にも長時間を要するなど,診療継続に問題が山積する中での対応を余儀なくされた.

 首都直下地震の被害想定では,負傷者が14万7600人(うち重傷者2万1900人),ライフライン停止率は最大地域で電力が48.6%,上水道が79.5%であり,これは病院の診療継続に大きな影響を与える可能性がある.

病院における事業継続計画(BCP)策定のポイント―東日本大震災を踏まえて

著者: 柴田慎士

ページ範囲:P.960 - P.963

 わが国の災害医療体制は阪神・淡路大震災以降,関係者の継続的・献身的な努力によって,格段の進歩を遂げてきた.災害拠点病院,DMAT(Disaster Medical Assistance Team,災害派遣医療チーム),広域災害・救急医療情報システムなどの制度・システムが整備され,自然災害が発生するたびに改善がなされてきた.

 しかしながら,東日本大震災では多くの企業が業務の中断を余儀なくされ,病院も例外ではなかった.地震・津波による施設・設備への被害や,ライフラインの途絶等によって,やむなく医療サービスを中断せざるを得ない病院も多数あった.

病院のファシリティマネジメントとBCP

著者: 上坂脩

ページ範囲:P.964 - P.970

 ファシリティマネジメント(Facility Management,以下,FM)は,「病院や企業等が保有または使用する全施設資産,およびそれらの利用環境を経営戦略的視点から総合的・統括的に企画,管理,活用する経営活動」と定義されている.つまりFMは病院の経営戦略から日常のメンテナンスまで包括する概念であり,図1のFMの階層的活動の体系として位置づけられている.ファシリティマネジャー(Facility Manager,以下,FM'er)には日常的FMから戦術的FMへ,そして戦略的FMまでの階層を束ねていくことが求められている.

 ここでは,単に手法に留まらない経営視点に立つ総合的な活動と捉え,FMの立場で考える病院事業継続性(Business Continuity Plan,以下,BCP)について,地震災害時の災害拠点病院にフォーカスした提言を行いたい.

病院のロジスティクスとBCP

著者: 苦瀬博仁

ページ範囲:P.971 - P.973

 東日本大震災の発生後,一部の被災地に食料品や生活用品が十分に届かなかったことから,救援物資のロジスティクスが注目された.病院においても,医薬品・医療材料不足や,電源喪失による医療機器の不備不足により,病院のロジスティクスの重要性が認識された.

 本稿では,災害時の医療・看護行為の継続という視点から,病院のロジスティクスについて考えてみる.

病院情報システムのBCP

著者: 山本隆一

ページ範囲:P.974 - P.977

 現代のわが国の医療がITシステムに依存する割合は年々増加している.これはレセプトの電算化率は医科で96%,薬科でほぼ100%に達していることからも容易に想像される.歯科のレセプト電算化率はやや低いが,これも年々向上しており,今やコンピュータシステムの停止が診療に与える影響はかなり大きいと言わざるを得ない.

 筆者は1990年代に,医事システムしかなかったある大学病院において,オーダーエントリーシステムの導入を担当した.導入時には,システムは止まるものであり,いつでもコンピュータなしの運用に切り替えられるように準備していたが,1年も無事に動くと,いつのまにか非常時用の伝票は多くの部署で戸棚の奥深くにしまいこまれ,仮に見つけ出したとしても,どのように運用するのか,多くの職員がわからなくなっていた.

【事例】地域のBCP において病院に求められる役割

佐久総合病院

著者: 伊澤敏

ページ範囲:P.978 - P.982

 2005年以降,日本は人口減少時代に突入した.長野県ではそれよりも早く,2001年の222万208人をピークに毎年人口が減り続けている.高齢化率は2010年に26.5%となり,全国で11番目である.高齢者の増加と生産年齢人口の減少は,地域社会のありようを今後大きく変えていくことになる.

 また昨年の東日本大震災は自然災害に対する備えの重要性を強烈に印象づけたと同時に,地域コミュニティの重要性,人と人の繋がりや助け合いの精神が維持されるために何が必要なのか,深く考えさせられる契機ともなった.

恵寿総合病院

著者: 神野正博

ページ範囲:P.983 - P.987

 筆者は,本誌2011年5月号(第70巻5号)の特集「病院は経済成長に寄与するか」で執筆した「病院と地域の協働による地域振興を考える」1)において,地域経済や高齢化社会と病院のかかわりについて詳述した.

 そこでは,人口減,少子高齢化社会の到来と円高による経済情勢の下で,病院と地域社会は表裏一体のものであることを強調した.すなわち,地域が廃れれば病院は患者を失い,その存続はままならない.また,医療崩壊で病院が廃れればその地域の安心が損われ,地域が崩壊していくと記した.そこで,病院は安心・安全をキーワードとして地域の他事業者と手を携えて「地域総力戦」を図るべきである.そのうえで,なりふり構わない地域の振興に努めるべきであると主張した.

グラフ

備えが病院を生かす 国立病院機構 水戸医療センター

ページ範囲:P.937 - P.940

 2011年3月11日,水戸医療センターの園部眞院長は入院患者の安全と院内の損害状況を確認し,診療の継続を決断した.病室内で作り付けの棚が倒れるなどして患者3人がケガを負ったが,幸いにもかすり傷程度.院内はあちこちで壁にひびが入ったり,医療機器が倒れたりしたものの,診療機能に大きな影響はなかった.そのため,震災当日に近隣の水戸協同病院から54人,また15~16日にかけて,福島県のいわき病院から60人の患者を受け入れている.

 しかし,東日本大震災では水戸地区は丸一日停電し,水道に至っては復旧に2週間を要した.いわき病院が患者の搬送を依頼したのもライフラインの途絶が主な理由だったが,水戸医療センターはなぜ受け入れが可能だったのだろうか.2004年の新病院開設から同院が進めてきたライフライン確保への取り組みと,それらが実際に果たした役割を紹介する.

連載 病院が変わるアフリカの今・12【最終回】

アフリカから学ぶ新たな経営

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.942 - P.943

新鮮な“驚き”

 驚かれたのではなかろうか.

 「日本発の経営手法」が「スリランカ経由」で「アフリカ大陸」に拡がりつつあることに! この1年間の連載を通して紹介したように,アフリカ53か国のうち約3分の1を占める15の国々へ,しかも各国内の医療施設へ,点ではなく面として全国的にプロジェクトが展開されている.その数は合計すれば,恐らく数千にも到達しつつあるのではなかろうか.そしてもう1つ,病院経営の課題が優先順位の差こそあれ,国を越え,大陸を越えて共通していることに! それは「限られた資源」の下で「患者・家族のニーズ」を的確に捉え,「貴重なプロの技術」である高品質かつ安全な医療ケアを,効率よく提供することに対する苦悩と喜びである.

医療管理会計学入門・9

価値企画の効果と課題―提供プロセスマネジメントとしての管理会計②

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.994 - P.997

■価値企画の効果

 今回は,採算面への影響評価を伴いつつ,価値企画活動を実践している狭義の医療サービス価値企画に焦点を当てて,価値企画の実践の有無による病院業績の違いを分析する.またそこから,「質」「プロセス効率性」「サービス採算性」という病院業績に,価値企画がどのような効果をもたらしているのかを推察したい注1).具体的には,前回紹介した筆者によるDPC対象病院へのアンケート調査(採算性データ)1)と,中央社会保険医療協議会(中医協)のDPC評価分科会によるDPC導入の影響評価調査(質および効率性データ)2)に基づき,DPCサービス価値企画の実践状況と病院業績との関係を分析する.

 ここでの「質」とは,病院が各患者に対して適切な診療を提供しているかどうかに関する業績である.適切な診療提供の評価視点には多様なものがあるが,各病院共通に入手可能であり,かつ入院医療の質を相対的によく反映していると考えられることから,再入院に関わる2つの指標「6週間以内再入院率」と「6週間以内同病再入院率(6週間以内の同一病名での再入院率)」を選択する.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・76

「移動を伴った医療」におけるMSWの支援―前方支援における取り組み

著者: 中川美幸

ページ範囲:P.998 - P.1001

 医療の機能分化が進む今日,患者・家族は治療に対する不安だけでなく,病院を転院してゆくことへの不安も抱えることになる.筆者の所属する病院は,急性期病院からの転院を受けることが多い.患者と接する中で転院についての不安・不満の声が多く聞かれたため,筆者らは,そうした不安・不満を軽減できるように,急性期病院に入院中の段階より,患者・家族へのアプローチを開始した.本稿ではその取り組みについて報告する.

診療情報管理の最前線・2

変貌する診療情報管理と組織

著者: 阿南誠

ページ範囲:P.1003 - P.1006

■社会のニーズに対応する

 前回述べたように,現在,診療情報管理にかかるデータの利活用が大きな課題になっている.患者個人への診療情報の提供がより求められるようになり,地域の病院とのデータの相互利用・共有等に対応する必要もある.さらにDPC(Diagnosis Procedure Combination)やがん登録のような国家的データ収集・分析事業というように,データを利活用する範囲も,院内での活用をまず前提としたうえで,個々(患者個人)から集団へ,さらに国全体へという流れがある.

 こうしたデータの共有や利活用においては,何よりデータの収集・提供に即時性と精度が求められる.DPCやがん登録も,データそのものの活用目的は多少異なるにしても,目的のための妥当性の検証や比較等の活用方法については概ね共通しており,即時性の観点からデジタルベースでのデータ収集が前提である.したがって,データの収集や提供,分析等を担う実務者として,診療情報管理士には,迅速性の確保,精度の担保,広範なスキルの習得が求められる.また,そのような業務を担うには体制や環境の構築も欠かせない.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・63

鬼の目玉―返してはならないもの

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.1008 - P.1009

 松谷みよ子著『私のアンネ=フランク』(偕成社)の中で,青森県の「鬼の目玉」という昔話が紹介されている.あらすじはこうだ.

 ある村の庄屋が暴れん坊の鬼の親分を捕まえて,懲らしめるために目玉をくり抜き,座敷の奥に幽閉した.やがて年老いた庄屋は「13番目の倉だけは絶対に開けてはいけない」と若者(息子)に言い残して死んでしまう.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第215回

さぬき市民病院

著者: 川島浩孝 ,   若松将人 ,   冨永裕美

ページ範囲:P.1010 - P.1016

■永く使い続けられる病院建築とは

 様々な変化に柔軟に対応しつつ,良好な地域医療サービスを提供しつづけることのできる「市民病院」とは,「その建築としての姿をいかに描くべきか」というテーマ設定から設計をスタートした.下記3点を重要なキーワードと認識し,新さぬき市民病院の建築・構造・設備計画の骨子とした.

リレーエッセイ 医療の現場から

生きる意味を求めて―スイスにおける自殺幇助の実態

著者: 松永優子

ページ範囲:P.1019 - P.1019

 2011年8月,スイスから訃報が届いた.私がチューリッヒに在住していた頃,親しくお付き合いしていたJさんが亡くなったお知らせだった.末期がんで闘病生活をおくる彼女が,医師から余命宣告を受けていたことは,人づてに聞いていた.しかし,彼女の直接の死因となったのはがんではない.Jさんは,Exitというスイスの非営利組織に自殺幇助を依頼し,自ら死に至ったのである.

 「自殺幇助」という言葉は,Jさんの死を知る前の私と同様,多くの日本人にとって,馴染みのない言葉だと思う.「自殺」と言う以上,直接死を招く行為を遂行するのは当事者であって,それを幇助するとは,自殺のための道具や場所,知識を提供することを指す.これは,日本では自殺幇助罪に当たる行為であるが,スイスでは必ずしも違法ではない.「利己的な動機から人に自殺を教唆するか,その自殺を幇助した者は,自殺既遂,未遂によらず,5年以下の禁固刑か,罰金に処す」というスイス刑法第115条が,すなわち「利己的な動機がなければ,罪にならない」と解釈されうるからである.

特別企画

アフリカを変える5S-KAIZEN-TQM

著者: セイユンテクレマリアム・アマレ ,   マロヴェナンス・フィリップ ,   オライウォラコレオショ・ヘンリー ,   長谷川敏彦

ページ範囲:P.988 - P.992

2011年10月16日~11月3日にかけて,国際協力機構(JICA)による研修「5S-KAIZEN-TQMによる保健医療サービスの向上」が開催された.本研修では5S-KAIZEN-TQMの普及に取り組んでいるアフリカ6か国からの参加があり,日本およびタンザニアでの講義・病院見学が行われた.連載「病院が変わる─アフリカの今」のまとめとして,長谷川敏彦氏による研修参加者へのインタビューを掲載する.

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投稿規定

ページ範囲:P.1017 - P.1018

次号予告/告知板/表紙解説

ページ範囲:P.1020 - P.1020

1972年,神奈川県生まれ.自閉症障害を伴う精神遅滞およびてんかん,両感音難聴と診断される.神奈川県立平塚聾学校を卒業し,同県の通所授産所に通所後,秋田県へ.1995年より社会福祉法人一羊会 杉の木園に転入し,お菓子作りや絵画の才能を発揮している.きょうされん(旧称:共同作業所全国連絡会)が毎年開催している「きょうされんグッズデザインコンクール」では動物や風景の絵を描き,数多く入賞している.

〈12月号解説〉

広々とした草原に建つ「いえ」が色鮮やかに描かれている.じっと見ていると,すべての人の心の中にある「いえ」を思い出させてくれるような作品である.

「病院」第71巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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