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雑誌目次

雑誌文献

病院71巻2号

2012年02月発行

雑誌目次

特集 病院の医師確保戦略

巻頭言

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.101 - P.101

 病院にとって医師の確保はその存亡にも関わりかねない最重要課題の1つである.今や必要定足数ギリギリの水準で地域を支える病院も珍しくなく,そんな現場の医師の業務負担は(そんな現場でなくとも)労働基準法の水準をはるかに超えていることはもはや自明の理である.「勤務医を救え」「勤務医の労働条件を整えろ」と声高に言うのは簡単だし,退職する際の理由として挙げるのは容易いが,病院管理者にとっても最も頭を悩ます問題であり,病院関係者がそろって知恵を出し,皆で乗り越える努力が今必要とされている.

 しかし,病院を取り巻く環境は決して生易しいものではない.経営環境も厳しく,そもそも安全で質の高い医療を提供し,さらに医師確保のための経費を診療収入だけで捻出する余裕はまったくないと言っても過言ではない.地域の中小病院は各専門医を用意できるだけの体制が整っておらず,専門医や研修医にとって魅力の乏しい場所となっている.問題は地域病院に集約しているが,事は病院関係者だけでは解決できない,むしろ地域の医療全体が抱える問題でもある.

医師確保の現状と今後

著者: 土屋了介

ページ範囲:P.102 - P.106

 わが国の医師数は文部科学省による医学部の入学者数と,厚生労働省による医師国家試験の合格者数によって調整されている.医師国家試験の合格率は比較的高率であるので,医師数の増減は医学部の合格者数(定員)によって論じられることになる.舛添要一元厚生労働大臣によって開催された“「安心と希望の医師確保ビジョン」具体化に関する検討会”において医師数の増加を議論し,現状の医師数の1.5倍にするよう結論した際にも,医学部の定員を増加するものと理解された.医学部定員の増加に反対する人のみならず賛成する人でも,医学部定員の増加によって医師数が増加するまでには10年以上の歳月を要するとの認識である.したがって,現状の医師不足の解決は他の方法を考慮する必要がある.

 一方,臨床研修制度の導入によって,すでに低下が指摘されていた大学医局による市中病院への医師派遣機能がさらに低下し,多くの市中病院が医師確保に苦労する状況が続いている.

「良医を育む地域・青森」を目指して―青森県の挑戦

著者: 藤本幸男

ページ範囲:P.107 - P.110

 青森県は全国で8番目に広い県土に約136万人の人口が拡散しており,6つの二次保健医療圏において,市町村等が開設している25の自治体病院が中核病院,へき地医療拠点病院等として県内の医療体制に大きな役割を果たしている.本県における地域医療を確保するうえでの最大の課題は,地域医療を支える人材,特に医師の不足である.本県ではこの課題に対し,「地域全体で医師を育成する」ことを基本的考え方として取り組みを進めている.

キャリア形成と医師確保

著者: 田中繁道 ,   浦信行

ページ範囲:P.111 - P.114

 「病院の医師確保戦略」という特集であるが,医師確保にはどの病院も苦慮しており,明確な戦略・戦術を持ち合わせているところは少ないであろう.

 市中病院における医師確保の方法には,①医学部あるいは医科大学の教室と連携を密にし,医師を派遣してもらう,②初期研修医を募集・教育し,後期研修プログラムにつなげスタッフとして養成する,③公募,あるいは派遣会社より確保する,以上,大きく分けて3通りが考えられる.おそらくどこの病院においても,また各診療科ごとに事情は異なるため,上記3つの混在した方法がとられており,つまりは病院全体として明確な1つの戦略を打ち出せないでいるのが現状であろう.

病院総合医育成と医師確保

著者: 松村理司

ページ範囲:P.115 - P.118

■背景

 洛和会音羽病院(以下,当院)は京都市の東端にあり,山科区(人口約13万7000人)の名神京都東インターのごく近くに位置している.開設は1980年なので比較的新興であるが,急性期を中心に回復期から慢性期まで一貫した医療を提供する地域の中核病院である.病床は588床であり,一般病床428床(ICU/CCU 12床,救急病床7床を含む)と慢性期病床160床(回復期リハビリテーション病床50床,医療療養型病床50床,認知症治療病床60床)から成っている.いわば大型のケアミックスの病院と言える.

 標榜診療科数は39である.2010年度(2010年4月~2011年3月)の入院患者数は8673人,救急車搬入件数は5649件,救急外来患者数は3万3485人,救急室経由入院患者数3388人,手術件数は4293件,うち全身麻酔件数2149件となっている.一般病床の平均在院日数は約13.7日である.

救急医育成と医師確保

著者: 林寛之

ページ範囲:P.119 - P.122

■日本の救急vsアメリカのER

 ジェネラリスト花盛りの世間メディアとは裏腹に,現実はまだまだ専門医の独壇場で,ジェネラリストの候補者も育成場も少ない.最近の若者はなかなかどうして勉強熱心で,学習できる環境がないとなかなか集まってくれない傾向にある.ましてや専門性がいまひとつ出しにくい横断的なERや総合診療では,苦労を買って出るくらいの気概がないと,なかなか若い医師たちは飛び込んでこない.

 その一方で,昨今のメディアのバッシングや医師不足,サボタージュ型医療崩壊も手伝って,救急医療は瀕死の状態になっている.多くの医師が日中の勤務を終えた後に命を削って時間外救急の牙城を守っている.ER医の増援を心待ちにしているのはまさしく現場で働く各科専門医たちである.

女性医師の就業支援

著者: 湯村和子

ページ範囲:P.123 - P.127

■医師不足と女性医師の増加

 勤務医師確保が難しくなり,医師不足に始まった医療崩壊は現在も続いている.特に新臨床研修制度により地方の大学病院では研修医が減少し,大学病院からの派遣医師に依存していた地域病院も負の循環に入り,十分な機能を果たせなくなってきている.医師不足はまさに,勤務医不足である.

 そのような状況の中,本邦でも女性医師の増加が顕著になってきている.2008年度の厚生労働省調査(医師・歯科医師・薬剤師調査の概況)では医師の全体数28万6699人のうち女性医師は5万1997人と,18.1%程度である1).2006年度の調査では17%であり,2年おきに行われる調査であるので,2010年度には19%超になることが予測される.したがって,今後は先進諸外国並みに女性医師の占める割合が30%に限りなく近くなることは,避けられない事実である.

【地域での医師確保】

庄内余目病院での医師獲得戦略

著者: 野末睦

ページ範囲:P.128 - P.131

 庄内余目病院は山形県の日本海側,庄内町にある民間の医療機関で,ベッド数324床のうち一般病床が190床,亜急性期病床が12床,回復期リハビリ病床が40床,療養病床が82床,そして看護師・医師不足のために一般病床42床を閉じている,いわゆるケアミックス型の病院である.僻地離島などを中心に展開している医療グループ徳洲会の一員であり,昨年開院20周年を迎えた.周囲には関連の老人保健施設が4施設,グループホームが1施設ある.二次医療圏内には数年前に市立酒田病院と山形県立日本海病院が合併してできた独立行政法人日本海総合病院(646床)と鶴岡市立荘内病院(520床)があり,当院は庄内平野では3番目の規模である.

 現在,日本全体で病院勤務医が不足しており,特に地方においては多くの病院で医師確保ができないために病院機能の縮小や,極端な場合には廃院に追い込まれている.このような状況であるため,本項「地域での医師確保」はとても大切なテーマであり,筆者の責務は重いと感じている.筆者に執筆依頼が来た理由は定かでないが,図1に当院の最近10年間(年度末)の医師数と年間経常利益の推移を示す.ここに示されているように,まだまだ十分な医師数ではないものの,少しずつ医師数が増えるとともに,病院の経営状況も改善してきており,このような状況が評価された結果かもしれない.それでは,総論から入っていこうと思う.

ピンチ(崩壊の危機)をチャンス(再生の好機)に―内科医ゼロから総合内科を中心に病院再生

著者: 梶井直文

ページ範囲:P.132 - P.135

 江別市立病院(以下,当院)は,2006年3月末まで12人在席していた内科医が短期間に集団退職し,同年10月には「内科医ゼロ」となった.公立病院の危機として全国的に報道され,数年前に同じく内科医の集団辞職があった市立舞鶴市民病院と共に「西の舞鶴,東の江別」と言われた.当院は病院崩壊の先駆けではあったが,総合内科を軸に内科診療体制を立て直し,5年後の現在,内科医は17人となっている.これまでの「医師確保」の過程を紹介することが,いくらかでも参考になれば幸いである.

研修医教育の充実で医師確保と地域医療に貢献

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.136 - P.139

“There are in truth no specialties in medicine, since to know fully many of the most important diseases,a man must be familiar with their manifestations in many organs.”

 「内科学に臓器別専門学という学問はふさわしくない.重要な病気の様々な症状について十分に知り尽くすためには,多くの臓器における症候を知るべきである」

─ウイリアム・オスラー卿(1906)

グラフ

働きやすさが人を集める―大阪厚生年金病院

ページ範囲:P.89 - P.92

 「安全な医療」「患者の立場に立ったケア」「地域連携の推進」,これら3つを理念とする病院は数多い.しかし,大阪厚生年金病院の理念には,4つ目として「職員全員が働きやすい職場づくりをすすめます」が掲げられている.現在名誉院長を務める清野佳紀医師は2003年に院長として着任して以来,働きやすい職場づくりに積極的に取り組んできた.2006年には「働きやすい病院評価」の第1号として認定されている.今回は,当院の取り組みが職員の確保,そして病院経営にどう影響を与えてきたかを紹介する.

連載 病院が変わるアフリカの今・2

スリランカで築60年の病院を磨く

著者: 半田祐二朗 ,   鈴木修一 ,   三浦美英

ページ範囲:P.94 - P.95

途上国の公的病院磨きは5Sから始まった

 スリランカ最大の都市,コロンボの郊外に国立の産科婦人科専門病院「キャッスルストリート産科病院(Castle Street Hospital for Women,475床)がある.医薬品や医療スタッフは十分とは言えないが,年間の出産件数約1万2000件(うち帝王切開2000件以上)をこなす,大変忙しい病院である.多数の出産を安全に,かつ一定の患者満足度をもって実施できている背景には,2000年から病院全体で5S(整理,整頓,清掃,清潔,躾),そしてKAIZEN活動に組織的に取り組んできたことが挙げられる.なぜインド洋の島国の病院が日本の品質管理を実施しているのか.そのきっかけは,日本式マネジメントを導入した現地の製造業から,先月号で紹介したカランダゴダ院長(Dr. Wimal Karandagoda)がその先見性をもって5S活動を学び,病院の業務環境改善手法として実践したことにある.

医療BSC特別講座

海外成功事例から学ぶBSC(前編)―カナダ血液センターのBSC

著者: 髙橋淑郎 ,   グラハムD.シャー

ページ範囲:P.141 - P.144

 筆者(髙橋)は2005年から海外の医療バランスト・スコアカード(以下,BSC)に関して,各国の医療BSC研究者,実務家とネットワークを組み,共同研究を続けている.その中で2009年からカナダのオンタリオ州トロント,ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー,アメリカのノースキャロライナ州,イギリスのロンドン,イタリアのトスカーナ地方,台湾全土において,BSC導入病院のCEOインタビューと実地調査を行い,彼らと共同で研究し,論文を執筆してきた.今回,その中からいくつかを紹介し,報告とともに検討する.

 キャプランらの書籍『The Execution Premium』(Harvard Business Press,2008)1)では,事例としてカナダ血液センター(Canadian Blood Services,以下,CBS)のBSCを紹介しているが,各章ごとに分割して示されているので,全体像が理解し難い.したがって,本稿では日本の病院現場へのBSC導入・運営に役立つように,CBSのBSCを書籍とは別の視点から分析していく.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・66

BSCを取り入れたMSW部門の戦略的運営

著者: 杉田恵子

ページ範囲:P.145 - P.149

 MSWは医療機関において必要とされる存在であるが,その役割や貢献をデータで表現することは難しく,苦労しているMSWも多いと思われる.社会医療法人医真会グループでは,数年前よりグループ全体でBSC(バランスト・スコアカード)をマネジメントツールに取り入れている.MSW部門においてもBSCを使用して業務計画を行い,毎月PDCA(Plan・Do・Check・Action)サイクルによって目標管理をし,実績データと目標値を比較しながら運営を進めている.それによってMSWの業務内容や活動の展開についてスタッフ全員が考え,意見交換をできるようになった.また,MSWがどのように組織に貢献し,また収益につながっているのかを可視化し,共有することで,モーチベーション向上にもつながっている.

臨床倫理コンサルテーション・10

臨床倫理コンサルテーションの方法(3)―分析・検討⑤

著者: 瀧本禎之

ページ範囲:P.150 - P.153

 前回に引き続き,当センターで使用している「東大病院臨床倫理コンサルテーションシート」(表)に基づき,「分析・評価」「具体的介入」の項目について解説する.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・53

上方落語が描く病と医者②―チシャ医者(医療は安心か?)

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.154 - P.155

 前回は落語家・桂枝雀の上方落語の世界から綴ってみた.彼の落語は演目そのものだけでなく,本題に入る前の導入部がおもしろい.それは枝雀さん自身のおしゃべりであり,それが楽しみで寄席に足を運ぶ人もいる.

 故人となった今,その語りを生で聴くことはできないが,CDなどを聞き比べてみると同じ演目でも公演した地域によって,例えば大阪とそれ以外では導入部も違う.言ってみれば,いい落語家は客によってつくられるようだ.では,いい医者も患者がつくるのだろうか?

病院管理フォーラム ■病院原価計算手法の再考─手法論から活用論へ②

多様化する原価計算手法

著者: 渡辺明良

ページ範囲:P.156 - P.159

 前回,原価の定義と範囲について,病院原価計算の目的に対応した設定の必要性を述べた.様々な目的で活用される病院原価計算に対して,その手法も多様化することから,原価の定義や範囲の整理を行ったうえで,多様化に対応した原価計算手法を適用する必要が生じる.これは,総原価を用いて,間接費は階梯式配賦により最終原価単位に配賦するという従来の原価計算手法だけでは,これらの多様化への対応が難しいことを示している.

 そこで今回は,多様化する原価計算手法について,それらに対応するための基本的な考え方を整理し,実践的な病院原価計算の手続きについて考える.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第205回

茨城県立こころの医療センター

著者: 佐藤基一

ページ範囲:P.160 - P.165

 茨城県立こころの医療センターは,2011年3月末まで茨城県立友部病院として半世紀以上の間,日本の精神医療に多大なる貢献をしてきた.県内精神科医療の基幹病院である友部病院は1960年創立以来,社会復帰促進を念頭に置いた積極的な開放的治療に取り組み,2005年7月には児童・思春期専門病棟「つくし」を開設するなど,意欲的な精神医療を行い,当時「東洋一」と称された歴史ある精神病院である.

 1960年に整備された病棟群は,広大な敷地に点在配置され,豊かな療養環境が整備されていた.しかし分棟であるが故の不便さや,建物の老朽化,より積極的な治療へと進化した精神科医療への施設的な対応の必要性などから改築となった.

リレーエッセイ 医療の現場から

妊婦は医療難民

著者: 横尾郁子

ページ範囲:P.167 - P.167

 今年も風邪の季節がやってきた.テレビでは毎日浅田真央ちゃんや石川遼くんが風邪と戦ってくれている.昨日から風邪っぽいA子さん,CMを見て薬局に行き,○○と□□を買った.でもなんかまだ調子悪いので内科に行って薬をもらったが,よくならない.別の内科へ行ったら違う薬を出された.生理も遅れてるし吐き気もする.え? ちょっと待って.もしかして妊娠?!

 そして産婦人科外来.「えっ,こんなにたくさん薬飲んだの? これは禁忌だし,こっちは安全性が確立されてないって書いてあるよ.胎児に異常が出ない保証はないし,100%安全とは言えないから,中絶するかご主人とよく相談して来週までに決めてください」.家では夫がネットを調べていた.「禁忌だから奇形が出る」って書いてある.ずっとほしくてやっとできた子どもなのに.どうしよう.どうしよう…….

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書籍紹介

ページ範囲:P.135 - P.135

書籍紹介

ページ範囲:P.140 - P.140

次号予告/告知板/表紙解説

ページ範囲:P.168 - P.168

1972年,神奈川県生まれ.自閉症障害を伴う精神遅滞およびてんかん,両感音難聴と診断される.神奈川県立平塚聾学校を卒業し,同県の通所授産所に通所後,秋田県へ.1995年より社会福祉法人一羊会 杉の木園に転入し,お菓子作りや絵画の才能を発揮している.きょうされん(旧称:共同作業所全国連絡会)が毎年開催している「きょうされんグッズデザインコンクール」では動物や風景の絵を描き,数多く入賞している.

〈2月号解説〉

花壇に植えられている花々よりも,花壇を彩る周りの草花の力強さが描かれた作品である.草花の色が1つも重なることなく描かれており,作者の絵に対する細やかな姿勢がうかがえる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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