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雑誌目次

雑誌文献

病院71巻3号

2012年03月発行

雑誌目次

特集 在宅療養と病院

巻頭言

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.181 - P.181

 今後,高齢化率が増加し続ける日本において,「在宅療養」の体制整備は避けられない.平成22年度より「在宅療養支援病院」が本格的に制度化され,今後も増加が見込まれる.一方,地域包括ケアの確立において,病院はどのように位置付けされていくのであろうか.本特集では,在宅療養においてどのような病院が必要とされ,また利用されていくのか,様々な角度から在宅療養と病院の連携,そのあり方を考察してみたい.

 まず,武林亨・慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教授に,「在宅療養と病院,診療所の機能─現状の評価と推進への課題」をお願いし,「在宅療養支援の実態把握と機能分化に関する研究」を中心にご執筆いただいた.続いて鳥羽研二・国立長寿医療研究センター院長には,厚生労働省より公表されている「在宅医療の体制構築に係る指針」を中心に執筆をお願いした.両先生には,在宅療養の現状分析と課題をわかりやすく論説いただいている.

在宅療養と病院,診療所の機能―現状の評価と推進への課題

著者: 武林亨

ページ範囲:P.182 - P.188

 よく知られているように,わが国の人口構造は急速に変化している.人口数の減少とともに人口構成は一層高齢化し,国立社会保障・人口問題研究所の推計(2006年)によると,65歳以上人口は2025年に3635万人(30.5%),2055年には3646万人(40.5%)に達する1).この変化は特に都市部で著しく,2025年の65歳以上人口の増加数上位は,東京都110万人,神奈川県94万人,埼玉県85万人,大阪府75万人,千葉県72万人,愛知県67万人と推定されている2).これに伴い死亡数も増加し,2040年前後には日本全国で年間166万人とピークに達する見込みである(2010年概数119万人.出生数,死亡数が中位の変化を示したと仮定).さらに,高齢者単身世帯の増加も著しい.

 このような状況の変化は,地域における医療の機能や役割分担を促す大きな要因となっている.国民側の在宅医療へのニーズも高く,厚生労働省が行った「終末期医療に関する調査」(2008年)では,終末期の療養場所として約63%が自宅(「必要になれば医療機関に入院する」を含む)を挙げている3).また,55歳以上を対象とした内閣府の「高齢者の健康に関する意識調査」(2007年度)でも,「日常生活を送る上で,介護が必要になった場合,どこで介護を受けたいか」と尋ねたところ,自宅が約42%と最も高かった4).こうしたことを背景に,在宅療養の充実がクローズアップされている.厚生労働省によると,在宅医療を必要とする人は2025年には29万人と,現在より約12万人増える見込みという.しかし一方で,最期まで自宅で療養できるのは難しいと考える割合は66%と高く(終末期医療に関する調査),人口動態調査による在宅死亡率(2010年)も,自宅12.6%,老人ホーム(介護老人保健施設を除く)3.5%に留まっていることから(図1)5),在宅医療の充実には様々な角度からの課題解決が必要である.

 本稿では,筆者らが実施した平成22年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業「在宅療養支援の実態把握と機能分化に関する研究」6)の結果を中心に,主に医療提供側から在宅療養の現状を評価し,今後の方向性について考えていきたい.

在宅医療の体制構築に係る指針

著者: 鳥羽研二

ページ範囲:P.190 - P.194

 この指針の取りまとめに当たっては,在宅医療推進会議の諸団体の意見を集約して作成した(平成23年7月13日,第5回医療計画の見直し等に関する検討会に指針案を筆者提出)1).指針の提出の背景と主旨は前文に簡潔にまとめてある.

 本稿では,緒言と現状分析は重要部分の抜粋と解説に止め,指針案提出後の動向についても触れる.12月19日の同検討会では『「在宅医療の体制構築に係る指針」の骨子』が資料として提示され2),最終的に「在宅医療の体制構築に係る指針」として厚生労働省から平成24年3月中に公開される予定である.

地域医療連携が可能にする地域包括ケアシステム

著者: 片山壽

ページ範囲:P.196 - P.199

 筆者は,「第22年度厚生労働科学研究・第3次対がん総合戦略研究事業」において分担研究を行っている.研究課題は,尾道市医師会方式の地域医療システムの目指すところと同一であり,「在宅がん患者・家族支援を支える医療・福祉の連携向上のためのシステム構築に関する研究」である.また,筆者の分担部分は「地域多職種・チーム医療による在宅での看取りに関する研究」であるので,筆者の生涯のテーマであるend of life care研究に一致する.

在宅療養支援病院の方向性

著者: 梶原優

ページ範囲:P.200 - P.203

■医療機能分化と施設から在宅へ

 わが国は世界が未だ経験したことのない超高齢化社会に突入し,社会保障問題の解決に,どのように取り組むのか世界が注目している.医療においては数次の医療法改正により,劇的な変革を遂げようとしている.機能分化と連携の名の下に,急性期医療において平均在院日数は2週間余りにまで短縮されている.

 しかし,特に高齢者にとっては,急性期医療のみでは在宅に復帰できる患者は限られている.なぜなら,急性疾病後後遺症,機能低下,さらに他の複数の慢性疾病を,長年持病として抱えている高齢者が多数存在するからである.

在宅療養支援診療所から見た病院との連携

著者: 和田忠志

ページ範囲:P.204 - P.207

 現在広く行われる「“定期往診および24時間対応”を基本骨格とする在宅医療(「現代の在宅医療」)」は病院から発祥した.その意味でも,病院は在宅医療にとって重要な存在である.昨今,在宅医療は診療所ベースで実施されるのが主流であるが,病院連携によって在宅医療は本来の機能を発揮できる.

【座談会】病院が行う在宅療養のあり方

著者: 五十嵐知文 ,   入谷栄一 ,   小野沢滋 ,   黒澤一也 ,   猪口雄二

ページ範囲:P.209 - P.216

高齢化が進む日本において,在宅療養の体制整備は重要な課題である.2006年診療報酬改定で「在宅療養支援診療所」が創設され,その後2008年に「在宅療養支援病院」が制度化された.当初,支援病院の数は非常に少なかったが2010年の診療報酬改定での要件緩和により増加し,今後も増加が見込まれている.在宅療養においてどのような病院が必要とされ,また利用されているのか,診療所との連携や今後の在宅医療のあり方について座談会を開催した.

グラフ

東日本大震災その後―石巻赤十字病院

ページ範囲:P.169 - P.173

 東日本大震災で多くの命を救った石巻赤十字病院.2011年3月11日の大震災から時が経ち,どのような状況にあるのか.どんな課題に直面し,どう解決してきたのか.今後の災害対策に向けて取り組んでいることなどを聞いた.(取材日:2011年12月20,21日)

連載 病院が変わるアフリカの今・3

5S/KAIZEN/TQMで経営革新

著者: 鈴木修一 ,   半田祐二朗 ,   長谷川敏彦

ページ範囲:P.174 - P.175

 本連載初回では変わりつつあるアフリカの病院の今を,そして前回はその発端となったスリランカでの事例を紹介した.今回は変革の柱とも言える「5S/KAIZEN/TQM」について,アフリカでどのように導入されているのかを解説する.

病院経営フォーラム ■病院原価計算手法の再考─手法論から活用論へ・③【最終回】

原価情報の活用

著者: 渡辺明良

ページ範囲:P.217 - P.221

 前回,多様化する原価計算手法について,それらに対応するための基本的な考え方を整理した.これらにより導き出される原価データは単なるデータではなく,原価情報として活用する必要がある.

 そこで,原価計算を経営管理ツールとして活用するために,原価情報の取り扱いについて,いくつかの事例を交えて検討する.

臨床倫理コンサルテーション・11【最終回】

臨床倫理コンサルテーション体制の構築

著者: 瀧本禎之

ページ範囲:P.222 - P.223

 病院機能評価のVer.6.0に「倫理的問題の検討体制の整備」が要件に含まれて以降,各医療機関において臨床倫理コンサルテーション(Clinical Ethics Consultation:CEC)をはじめとした倫理支援体制づくりが進められている.しかしながら,実効性のある倫理支援体制の整備は困難な作業である.多くの場合,どのような倫理コンサルテーション提供体制を確立するか,どのような人物を倫理コンサルテーションの担当者にするかということが問題となる.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・67

フィクション作品に描かれるMSWの働き

著者: 横山豊治

ページ範囲:P.225 - P.228

 病院を舞台にした数々のフィクション作品で,描かれる職種は多くの場合,医師,看護師が中心であったが,近年,MSWの働きに焦点を当てたものも少しずつ目にするようになってきた.この職種の専門的な役割への理解を医療関係者のみならず社会一般にも拡げていくうえで,フィクション作品での職業像の描かれ方を医療ソーシャルワークの視点から検証することは重要と考え,これまでの作品群を概観したうえで,専門的見地からも秀作と呼べる一作を取り上げ,注目すべき点について紹介する.

医療BSC特別講座

海外成功事例から学ぶBSC(後編)―University Health NetworkのBSC

著者: 髙橋淑郎

ページ範囲:P.230 - P.233

 前号に引き続き,カナダにおけるBSCの成功事例を紹介・分析していく.今回はオンタリオ州トロントで,大規模教育病院3つが統合されたUniversity Health Network(UHN)でのBSCについてである.

 1990年代初期に,トロントでは大規模な病院の統廃合があった.これはオンタリオ州の医療制度改革の一環であり,伝統あるトロント大学医学部の教育病院である「Toronto General Hospital」「Toronto Western Hospital」「Princess Margaret Hospital」の3つが経営統合してできたのがUHNである注1)

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・54

キュアからケアへのパラダイムチェンジについて思う

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.234 - P.235

「ケア」と「キュア」

 「ケア」ということばが広がりだして,何年くらいになるのだろう.カーケア,ヘアケア,ネイルケア,また阪神淡路大震災以降は「心のケア」ということばも広がっている.

 そんな状況だが,「ケア」とは何かがわからない.英語のケアに該当する日本語がないからだ.一方,「キュア」ということばがある.こちらは「治療」と訳せるので理解は容易.しかし,痛んだ心を癒すのも治療(キュア)であるのに,それがなぜ,ケアなのだろう.僕にはわからない.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第206回

さいたま市民医療センター

著者: 古我大作

ページ範囲:P.238 - P.243

■地域医療支援病院として

 4市が合併した新生「さいたま市」の,主に西部地域の医療提供を期待された病院である.さいたま市が建設し,市内4医師会が設立した法人によって運営される,いわゆる「公設民営」の病院で,設立の主旨から地域医療支援病院としての役割を担っており,地域の医療機関との連携を主たる使命とし,紹介制外来や開放型病床,高額医療機器の共同利用,医療従事者の研修などに主眼が置かれている.特に喫緊の課題として,小児救急医療の提供体制を整備することが求められた.

 市内の大宮医師会市民病院が発展的に吸収される形で,知事裁量病床を加え340床の病院となったが,原則的に計画は新設病院として推進されることになり,4医師会と市の関連部局とで委員会が設立され,病院の理念,役割等の検討がなされ,その結果に基づいて設計条件が設定された.

リレーエッセイ 医療の現場から

ソーシャルアクションに挑む

著者: 田澤貴至

ページ範囲:P.247 - P.247

 1982年,当時4歳だった私はⅠ型糖尿病を発症して意識不明に陥り,緊急入院となった.以来,Ⅰ型糖尿病を抱えながら,現在は医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)として働いている.

 Ⅰ型糖尿病患者(以下,Ⅰ型患者)の多くは私のように小児の頃に発症し,1日4回(多い人では8~10回)の血糖測定とインスリン注射が欠かせない.加えて,長年の闘病に伴い合併症が出てくるケースも多く,こうした治療にかかる高額な医療費は患者にとって重い負担となる.経済的な理由から,受診抑制に陥るケースも少なくない.さらに社会的問題として,就学,就職,結婚などの際に偏見の目で見られることが未だにある.特に,健康な人と同じように働けるにもかかわらず健康診断で不採用とされることは,治療費の問題をいっそう深刻にしている.

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書評 「がん患者の食」を支える関係志向アプローチ―川口 美喜子,青山 広美(著)《看護ワンテーマBOOK》『がん専任栄養士が患者さんの声を聞いてつくった73の食事レシピ』

著者: 柏谷優子

ページ範囲:P.195 - P.195

 本書には,がん患者専任としてかかわる栄養士が実際に患者さんに提供してきた食事レシピと,そのかかわりのコツがまとめられています.

 がんを抱えて生きる多くの方は,本書に紹介されているような食にまつわる悩みやつらさを体験しているでしょうし,近くで支えるご家族もまた同じだと思います.そんな方々に,本書はきっと参考になり,がんを抱えて生きていくうえで頼もしい味方になってくれるでしょう.そして同じように,がん患者さんとそのご家族を支援する医療者にとっても,心強い味方になってくれると思います.

書評 読者が臨床経験を経ることでより輝きを増す,箴言の重み―ローレンス・ティアニー(著)松村 正巳(訳)『ティアニー先生のベスト・パール』

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.236 - P.236

 まず本書を開いたとき,「字が少ないな」と思ってはならない.

 近年,医療情報量は爆発的に増加した.ウェブ上コンテンツの充実により一疾患の解説を「5000字以内にまとめて」という制約はもはやない.そこで「うちのはこんなにコンテンツがありまっせ」という量的評価が行われるようになる.「この教材には○○のことがカバーされていない」という形でコンテンツはけなされるようになる.

書籍紹介

ページ範囲:P.236 - P.236

投稿規定

ページ範囲:P.245 - P.246

次号予告/告知板/表紙解説

ページ範囲:P.248 - P.248

1972年,神奈川県生まれ.自閉症障害を伴う精神遅滞およびてんかん,両感音難聴と診断される.神奈川県立平塚聾学校を卒業し,同県の通所授産所に通所後,秋田県へ.1995年より社会福祉法人一羊会 杉の木園に転入し,お菓子作りや絵画の才能を発揮している.きょうされん(旧称:共同作業所全国連絡会)が毎年開催している「きょうされんグッズデザインコンクール」では動物や風景の絵を描き,数多く入賞している.

〈2月号解説〉

花壇に植えられた花バナが色鮮やかに描かれた作品である.ブラウンやグレーなど,普段目にすることのない色合いの花バナであり,作者の色彩の感性が見事に表現されている作品である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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