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雑誌目次

雑誌文献

病院71巻5号

2012年05月発行

雑誌目次

特集 看護職の賃金・給与体系はどうあるべきか

巻頭言

著者: 池上直己

ページ範囲:P.349 - P.349

 看護職の賃金・給与体系は,病院経営にとって極めて重要である.収益を確保するために,患者当たりの看護職員の人数と看護師割合の施設基準をクリアすることが優先されるが,そのうえで意欲を高め,人件費を抑える,という二律背反する目的を達成する必要がある.さらに人事考課を行う際は,有資格者であるゆえ容易に転職できる点にも留意しなければならない.これらの課題に対応するために,まず現状の解説をそれぞれの専門家にお願いした.

 平井久禎氏は,人事制度・賃金カーブ・等級別賃金レンジは様々であるが,業種によって特別な傾向は見出されないこと,また看護職を等級・コース別に管理し,一般の看護師の昇給を停止する必要性を指摘された.角田由佳氏は,官民格差は初任給においては少なく,他でも縮小する傾向にあるが,勤続10年で比較すると歴然と存在することを明らかにされた.次に,より実務的な観点から,浅見浩氏は昇給原資が退職者と新規採用者の人件費の差額である点,および支給額と同時に,安心感と納得感を与えることの重要性を指摘された.また日本看護協会の岡戸順一氏は,看護職における上がらない賃金と時間外手当の未払いの問題を指摘された.

病院における看護職の賃金・給与体系

著者: 平井久禎

ページ範囲:P.350 - P.355

■専門職で女性比率の高い看護職の賃金・給与

1.賃金・給与とは何か

 賃金・給与は経営側から見れば人件費(コスト)である.人件費は固定費とみなされるので,定員管理の徹底による人員数の抑制,予算枠内での昇給・賞与支給という方策が講じられる.また人件費の変動費化として,年収における業績変動賞与比率上昇という手法もある.

看護職の賃金の現状―「官民格差」の視点からの分析

著者: 角田由佳

ページ範囲:P.356 - P.361

 7対1入院基本料が2006年に新設されて6年,診療報酬と介護報酬の同時改定の年を迎えている.7対1入院基本料を取得するべく看護師の労働力の需要が増大し,労働力不足の問題が生じたことは記憶に新しいが,不足解消へ向けて起こるはずの価格上昇,すなわち賃金の上昇は,当時20歳代前半の看護師のみに観察され,他の年齢階層における賃金はむしろ低下していた.そして同様の状況は,現在もなお残っている1,2),注1)

 看護師全体を観察した場合,その賃金は下がる傾向にあるが,看護師の中でも勤務する病院によって格差が生じている.本稿は,看護師間で生じている賃金の格差について,病院の開設主体の違い,いわゆる「官民格差」の視点から実態を明らかにする.

看護職の適切な賃金・給与体系の設計

著者: 浅見浩

ページ範囲:P.364 - P.369

■総額人件費管理の考え方

 看護職に限らないが,賃金・給与体系の設計を考える際に必要とされる視点は,経営的な観点から見た総額人件費の管理と受け取る側(職員側)から見た安心感,納得感であると考えている.つまり,賃金・給与体系は職員の職場満足度(不満足度)につながると同時に新規採用にも影響を及ぼすが,一方であまり大盤振る舞いしてしまうと人件費率が上昇して経営を圧迫する要因となってしまうからである.

 したがって,賃金・給与体系を設計する際には,総額人件費(人件費率)を抑えながら,職員の納得感を高める仕組みが必要である.

賃金に対する看護職の考え方

著者: 岡戸順一

ページ範囲:P.370 - P.373

 本稿では,日本看護協会および厚生労働省の調査から,賃金に対する看護職の考え方や看護管理者による賃金処遇改善の取り組み状況等を概観し,さらに,看護職の賃金水準にかかわる問題のうち,昇給制度と時間外労働を取り上げ,それら問題の背景にある要因を考察している.

【事例集】看護職の賃金・給与体系

ページ範囲:P.375 - P.387

 「看護職の賃金・給与体系」の特集のために,編集室として質問調査を企画し,15の病院より協力いただいた注).質問項目は,まず病院名について記名・無記名を選択のうえ,「a.基本情報」「b.看護師の給与に関する質問項目」に選択式で回答いただいた.さらに「c.病院の置かれている経営環境,看護職の給与や勤務形態の特徴」「d.5~10年以内に行った看護職の賃金・給与体系の改革について,そのねらいと成果,および現在も継続中の取り組みなど」について,記述式で回答いただいた.

 15病院の属性,集計結果は表1のとおりである.質問a,bの回答は表2にまとめ,c,dに関する回答については,文章で掲載する.掲載順序は病床規模順である.

グラフ

働き続けやすい職場環境―特定医療法人社団 御上会 野洲病院 看護部

ページ範囲:P.337 - P.340

 滋賀県の湖南部,人口約5万人の野洲市に所在する野洲病院は,199床,18診療科の中核病院である.野洲市における唯一の総合病院として,公的病院に準じた役割を担ってきた.

 当院の看護職は2012年3月現在,正規・非正規含め167人.離職率が約25%と看護師確保に苦戦した時期もあったが,「ワーク・ライフ・バランス」を標語に人事・給与制度を改善してきた効果もあってか,最近5年間の離職率は平均11%である.一般病棟の看護配置7対1も維持している.

連載 病院が変わるアフリカの今・5

マダガスカルで芽吹く患者中心の医療

著者: 池田憲昭

ページ範囲:P.342 - P.343

政治経済危機のマダガスカル

 マダガスカルは貧しい国である.1990年代の1人当たり国民総生産は250ドル程度であり,国民の半数以上が生存に必要な最低限の栄養を維持できるライン(貧困線)を下回る生活を送っていた.2008年,長年にわたる国民の不満の鬱積を見越したように,首都アンタナナリヴォ市長であったアンドリー・ラジョリナが軍の支持を受けてクーデターを起こし,2009年に暫定政府が発足した.しかし,わが国を含め多くの国が正式な政府として認めないために開発支援が滞り,国民生活はますます不安定になっている.

 国が直営する公的病院の運営予算でさえ年々削減されてきている状況で,保健医療サービスへのアクセスが悪い地方の貧困家庭では,乳幼児と妊産婦の死亡率が高い.とりわけ子どもたちの栄養状態は深刻であり,マラリアなどの治療可能な感染症の致死率も高くなってしまう.このような政治経済危機下において,マダガスカルの保健行政担当者と医療従事者は国民の命を貧富の差なく,公平に守るために苦渋を強いられている.

病院ファイナンス・その後

新しい病院ファイナンス―地域医療連携体制の構築に「医療機関債」を活用

著者: 福永肇

ページ範囲:P.394 - P.396

■「医療機関債」のガイドライン改正

 2012年3月7日の第27回社会保障審議会医療部会に,医療法人が発行する「医療機関債」を別の医療法人が購入する際のルール案が提出された1).これは医療法人が別の医療法人に融資等をするためのスキームとして厚生労働省(以下,厚労省)が提案したもので,社会保障審議会が了承している.厚労省は医療法人が他の医療法人に融資を行うことは「剰余金配当禁止の趣旨に照らして認められない」というスタンスにある.しかし地域医療連携の推進においては,連携先の医療法人へ資金援助を行う必要も出てくる.そこで厚労省は,融資が地域医療連携の分化・連携を推進し,医療機関自身の機能も維持・向上する場合には「剰余金配当禁止の主旨に反するものではないと考えられる」との解釈を提案する.結果,剰余金配当禁止の趣旨を堅持しつつ,医療機関債購入というスタイルでの融資が認められた.医療法人債の購入ルール案を表1に示す.これに伴い,厚労省は近く,医療機関債の現行2004年版ガイドライン2)を改正する.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・69

在宅支援におけるMSWの役割

著者: 鎌田喜子

ページ範囲:P.397 - P.401

 亀田総合病院は高度先進医療,救急医療を担う急性期病院であり,在宅医療を必要とする患者に,できるだけよいタイミングで訪問看護・訪問診療を結びつけることが重要となる.それができるかできないかで患者の幸福度は大きく変わると思う.

医療管理会計学入門・2

設備機器投資の経済性計算―戦略遂行マネジメントとしての管理会計①

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.402 - P.405

■設備機器投資の経済性計算の重要性

 事業を継続して経営していくために,どのような組織においても一般的に中長期経営計画(事業計画)が策定され,そこに反映された組織の戦略を実現する一環として,設備機器(以下,機器等)投資計画が策定される.機器等投資計画の策定に際して,機器等投資案ごとの長期的採算性を計算し,経済性の観点からその優劣を比較することで,優先順位や採否を決定することを,機器等投資の経済性計算と呼ぶ.機器等への投資は中長期的に病院(法人)経営に大きな影響をもたらすため,合理的な意思決定が極めて重要である.したがって,機器等投資の経済性計算は,戦略的な病院経営に不可欠な管理会計手法と言える.

 機器等投資の意思決定は投資プロジェクトごとの計算であるため,会計期間と関わらせる必要は必ずしもなく,期間計算を適切に行うための収益・費用による計算(発生主義会計)である必要はない.また,機器等投資の結果は通常,将来の長期間にわたるため,資金(現金)の時間価値を考慮する必要がある.そのため資金の出入りのタイミングが重要であり,したがってキャッシュフロー(資金の出入り注1))ベースで計算が行われる.すなわち,機器等投資の経済性計算は,キャッシュフローベースで時間価値を考慮して実施することが,理論的には適切である.なお,機器等投資の意思決定に際しては,独立投資と従属投資の区分が重要である.ある投資案の採択が別の投資案の採否に影響を与えない場合,その2つの投資案は独立投資案であるが,相互に影響し合う場合(どちらか1つしか採択できない相互排他的投資など)には,従属投資である.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・56

鉄郎対談集④ がん患者さんに聴く―なにもしない選択肢への序章

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.406 - P.409

告知

鉄郎 今,日本は2人に1人ががんに罹り,3人に1人ががんで亡くなる「超がん大国」ですよね.がんは若い人でも罹りますが,一般には「高齢者の病気」です.日本人の寿命も延びていますし,特にこれから団塊の世代ががん年齢になると,がん患者の数はさらに増えます.

上杉 現在300万人と言われているがん患者の数が,2015年には540万人に増えると見込まれています.

ドラスティックな病院改革!~事務長の孤軍奮闘日誌~・2

IT化へのミッション・インポッシブル【前編】

著者: 妹尾朝子

ページ範囲:P.411 - P.413

 前回では,私が光生病院に入職してから在宅福祉部を立ち上げ,現在に至るまでを紹介した.その過程で様々な管理システムを合理化してきたことは既に述べたが,今回から2回にわたり,経営企画室時代に行ったIT化への取り組みについて紹介したい.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第208回

神戸市立医療センター中央市民病院

著者: 本田孝子

ページ範囲:P.414 - P.420

 神戸市立医療センター中央市民病院は1981年,ポートアイランド1期に建設されて以来,市の基幹病院として大きな役割と使命を果たしてきた.そして,さらに救急医療,高度医療,急性期医療を重点的に担うべく,2011年7月,ポートアイランド2期に移転新築され,「神戸医療産業都市構想」の臨床部門の核として生まれ変わった.

リレーエッセイ 医療の現場から

ガンマナイフがつないだ夢

著者: 林基弘

ページ範囲:P.423 - P.423

 私は脳神経外科医として,日々「頭を開けない手術・ガンマナイフ」を手がけて臨床にあたっています.ガンマナイフとは,放射線の1つであるガンマ線を手術メスのように用い,高精度(現在の機械では0.05mmの精度で照射)で病巣のみを切り取る脳神経外科の先端治療です.適応は脳腫瘍・血管障害・機能性脳疾患となっています.日々の診療を通して,頭を開けずに治せることは患者さんにとって大変な福音であると実感していますが,その中でも,とても思い出深いエピソードを綴ります.

 今年2月下旬,私の外来に,18歳の男の子が久しぶりに訪れました.彼はスポーツ一家に育ち,特にサッカーはジュニアユースで世界遠征していたほどの腕前だったのですが,12歳の時,試合中にかなり強い頭痛を自覚し,救急搬送となりました.実は試合中から頭痛はあったそうですが,背番号10を背負う彼は,その強い責任感から最後のホイッスルが鳴るまで戦い続けたそうです.

研究と報告【投稿】

厚生連病院に見る重要業績評価指標の実証分析

著者: 鳥邊晋司

ページ範囲:P.388 - P.393

要 旨 本稿の目的は,厚生連病院115病院のうち,実稼働病床数に占める一般病床数の割合が8割以上の75病院を対象に,売上高経常利益率の代理指標でもある経常収支比率(経常収益/経常費用:%)を目標成果指標として,その改善に因果関係を有すると思われる業績評価指標(Key Performance Index,以下KPIと呼ぶ)を取り上げ,それらの関係を実証的に解明することである.重要業績評価指標の選択にあたっては,今回はBSC(バランスト・スコアカード)の4つの視点,つまり「財務的視点」「顧客の視点」「内部ビジネスプロセスの視点」「学習と成長の視点」に着目し,9つのKPIを選択した.そして,従属変数を経常収支比率とし,説明変数を先のKPIとして重回帰分析を行った.その結果,新入院患者成長指数,医薬品費率,経費率,委託費率,減価償却費率,職員1人当たり医業収益,平均在院日数の7つのKPIの有用性が明らかとなった.これらの結果をもとに,各KPI指標の平均値から,どのような問題点が推測され,それに対する処方箋をどのように考えていけばよいか,若干の考察を試みた.

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書評 チームマネジメント力を養うための一冊―篠田 道子(著)『多職種連携を高めるチームマネジメントの知識とスキル』

著者: 永坂和子

ページ範囲:P.363 - P.363

■質の高いチームを作るためにはチームマネジメントが求められる

 医療・福祉サービスの臨床現場では,多職種連携やチーム医療という言葉をよく口にします.しかし,この言葉を理解しているつもりでも,意外に多職種連携やチームの作り方を系統的に学ぶ機会は少ないのが現実です.著者は大学の教授ではありますが,実際に臨床のフィールドを持ち活躍されてきました.その経験を生かし,『質の高いケアマネジメント』(中央法規出版),『ナースのための退院調整──院内チームと地域連携のシステムづくり』(日本看護協会出版会),『チームの連携力を高めるカンファレンスの進め方』(日本看護協会出版会)など,現場で役立つ著書を多数執筆されています.チームケアなどの専門分野では,鷹野和美・細田満和子・菊池和則氏らの著書がありますが,本書には,これらにない連携専門職を束ねるゼネラルマネジャーの必要性やチームを成長させる仕掛けなどの実践に役立つ記述が盛り込まれています.日ごろから「連携がうまくいかない」「今あるチームを見直し,レベルアップを図りたい」という方にとって,本書は,チームマネジメント力を養うための待望の書です.

書籍紹介

ページ範囲:P.405 - P.405

投稿規定

ページ範囲:P.421 - P.422

次号予告/告知板/表紙解説

ページ範囲:P.424 - P.424

1972年,神奈川県生まれ.自閉症障害を伴う精神遅滞およびてんかん,両感音難聴と診断される.神奈川県立平塚聾学校を卒業し,同県の通所授産所に通所後,秋田県へ.1995年より社会福祉法人一羊会 杉の木園に転入し,お菓子作りや絵画の才能を発揮している.きょうされん(旧称:共同作業所全国連絡会)が毎年開催している「きょうされんグッズデザインコンクール」では動物や風景の絵を描き,数多く入賞している.

〈5月号解説〉

キリンののびのびとした生命力が伝わってくる作品である.背景の青色と,キリンの模様の1つひとつとの鮮やかなコントラストが美しい.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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