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雑誌目次

雑誌文献

病院71巻6号

2012年06月発行

雑誌目次

特集 変化の時代に事務長に求められるもの

巻頭言

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.437 - P.437

 事務長は,理事長・院長を助けて病院のマネジメントを行う重要な役割を担っている.病院をめぐる経営環境は,年々厳しくなっており,事務長に求められる役割もますます高まっている.しかし,医療現場を訪問すると「よい事務長候補はいませんか」と聞かれることも多い.「よい医師は探せばいるが,よい事務長は探してもいない」という話も聞く.

 病院において事務職は,医療資格職でないことから院内での立場が弱く,優秀な人材がなかなか集まらず,いても辞めてしまう.生え抜きの病院職員も,与えられた仕事に籠もってしまい,事務長としての資質が身につかない傾向があったようにも思われる.

変化の時代に事務長に求められるもの

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.438 - P.442

■時代の変化と病院事務

 全国の病院にとって生き残りをかけた厳しい時代になっている.医療技術の高度化や人口の高齢化は,医療費の支出増加を生んだ.その一方,経済成長は伸び悩んでいる.国も限られた診療報酬の総額の中で,メリハリをつけた配分を行わざるを得ない状況にある.それは,各医療機関に,時代に対応した経営方法への変革を求めることにつながる.

 そのような中で,事務部門,特にその要となる事務長の役割が大きくなっている.かつてのような病院経営が右肩上がりであった時代は,事務長や事務職員の能力が低くてもよかった.しかし,時代の変化への対応が求められる時,旧態依然の事務運営は,医療機関にとって命取りになる.医療機関における事務能力の向上は,わが国の医療機関における喫緊の課題である.

【座談会】病院事務長に求められる資質

著者: 川添曻 ,   竹田幸博 ,   富田秀男 ,   正木義博 ,   伊関友伸

ページ範囲:P.444 - P.451

伊関 病院において事務長は,あまり表には出ないかもしれませんが,縁の下の力持ちとして,私は病院経営のキーマンであると考えています.そこで本日は,これからの時代に事務長に求められる資質を中心に,お話しいただきたいと思います.

川添 近森会の川添です.病院に入職して36年になります.大学は法学部を卒業して一般企業に勤めましたが,倒産してしまい,故郷の高知へ帰って仕事を探しました.そこで病院が事務職を募集しているのを見つけ,応募したのがきっかけです.

地方の民間病院事務長に求められること

著者: 野口桂一

ページ範囲:P.454 - P.457

■当院の概要

 当院は昭和13(1938)年,鹿児島市北部の当地に診療所として開院し,本年で創業73年目となる(表).昭和40(1965)年には民法34条による財団法人となり,当時の設立趣旨(寄付行為)は「消化管系のがん治療」「交通外傷に対する救急治療」「へき地医療支援」であった.特にへき地医療支援に関しては,財団設立時より16年間,トカラ列島の三島,十島に毎年医師・看護師を派遣し,離島巡回診療を行ってきた(その後,事業は鹿児島赤十字病院に継承).また,救急に関しては,今給黎満幸(いまきいれみつゆき)前理事長の信念であった「医者は何時でも患者を診る.診ない理由を自分で付けるな.それさえ守れれば医者は食っていける」の精神の下,“救急24時間対応”は設立当初からの理念である.現在も交通外傷等,年間2500台超の救急受け入れを行っており,鹿児島県唯一の3次救急病院である鹿児島市立病院の後方支援病院として,離島を含む県内一円からの救急,周産期,小児,へき地,がん医療の補完機能を果たしている.

 診療に関しては,放射線医,病理医も参加する各科合同カンファレンスが毎日行われ,各職種間の水平連携,相談が行いやすい環境となっている.また,このことが評価され,平成21(2009)年12月に公益財団法人に認定され,今年4月からは厚生労働省より地域がん診療連携拠点病院にも指定されている.

民間病院事務長から見た病院経営

著者: 盛牧生

ページ範囲:P.458 - P.461

■当院の歴史と現況

 当院は昭和60(1985)年に開設した,110床の一般病院である.石狩市は札幌市の北部に位置しており,医療圏という括りでは札幌市と同じ地域に属する.人口6万人弱の,札幌市のベッドタウンである.近隣にもいくつか病院はあるのだが,当院と同規模以上の病院は療養型が多く,110床と小規模ながら,市内では最大の一般病院という位置づけになっている.とは言え,車で20分も走れば札幌市であり,そこにある大規模病院にとっての後方支援病院という役割も担っているというのが正確な現状であろう.規模が小さいためすべての診療科に対して均等に力を注ぐこともできず,現在では人工透析,消化器内科・外科,循環器内科,健康診断に特に力を入れている.

 収益の柱はやはり人工透析である.昭和60年の開院時点では内科・外科をメインとした病院だったが,間もなく着任した泌尿器科医の主導の下,人工透析室を開設し,人工透析をスタートした.石狩市内だけでなく札幌市内やさらに遠方地域からも患者が集まるようになり,すぐに手狭になったこともあり,平成8(1996)年には札幌市手稲区のJR稲積公園駅前に,外来人工透析専門のサテライトクリニックをオープンすることとなった.

へき地の自治体病院事務長の仕事―地域医療(病院)を維持していくということ

著者: 江口美生男

ページ範囲:P.463 - P.467

 定年退職が間近に迫り,残された課題の解決に全力を尽くそうと考えていた矢先,今回の執筆依頼を受けた.最初はなぜ私に依頼が来たのかと逡巡したが,全国には当院のような地方の小さい病院がたくさんあり,そうした病院で頑張っておられる方々に対して,退職を控えた私からエールを送ることができればと考え直し,引き受けることにした.少しでも参考になれば幸いである.

 私は昭和49(1974)年に芽室町役場で採用された.その後15年間で様々な部署を経験したが,平成元(1989)年に急性汎発性腹膜炎で当院にて手術を受けた.そして退院後すぐに,何の偶然か当院へ異動となったのである.以来,23年間病院事務に携わり,平成20(2008)年4月より,事務長として勤務している.

外部から入った事務局長の見た自治体病院

著者: 加藤進

ページ範囲:P.468 - P.472

■当院の現況

 茨城県立こころの医療センター(旧県立友部病院)は昭和25(1950)年に開設され,昭和39(1964)年には614床を有する自治体病院として,その役割を果たしてきた.当時はまだ精神科疾患への認識・理解が薄く,社会に受け入れられない状況の中,一般社会から隔離された入院療養が主体であった.それ故に増床を毎年のように繰り返し,やがて「東洋一」と言われるほどのマンモス病院が構築されたわけである.

 その後,精神科疾患に対する治療も変化を遂げる中,時代と共に病院規模も縮小されていき,民間精神科病院の開設も影響して患者数は減り始め,稼働病床286床での運用となった.そして「県立病院を存続させるべきか?」「政策医療をどのように展開していくのか?」「赤字体質の病院をどのように再建するのか?」といった課題を抱える中,「友部病院(現こころの医療センター)あり方検討会」が発足し,新築移転との結論が出されたのである.

地域医療連携推進に事務長が果たした役割

著者: 谷寛憲

ページ範囲:P.475 - P.478

 医療法人社団浅ノ川は,創設者の小市政男初代理事長が金沢市を流れる浅野川にちなんでその名をとり,1951年に浅ノ川病院(現・浅ノ川総合病院,500床)を開設したことに端を発する.現在の浅ノ川総合病院の小市勝之理事長は,その甥にあたる.

 その後,1960年に桜ヶ丘神経サナトリウム(現・桜ヶ丘病院,500床),1976年卯辰山記念病院(現・千木病院,500床),1980年金沢脳神経外科病院(220床),1991年金沢循環器病院(現・心臓血管センター金沢循環器病院,230床),柳橋ケアセンター(現・田中町温泉ケアセンター,140人)を順次開設し,機能の異なる5病院と1つの老人保健施設からなる今日の医療法人社団浅ノ川ができあがった.

グラフ

その人らしくあるために―あさかホスピタルグループ

ページ範囲:P.425 - P.428

 あさかホスピタルグループは医療法人安積保養園(あさかホスピタル)を中心に,知的障害児などの療育・生活支援を行う社会福祉法人安積愛育園,老人ホームを運営する社会福祉法人安積福祉会,精神障害者の生活支援を行うNPO法人アイ・キャンの4法人で構成されている.近年,精神科領域においても医療だけでなく,患者や家族の地域での生活をサポートするような福祉の役割が重視されているが,同グループは4法人が連携することにより,福島県郡山地域において,まさに医療・保健・福祉にわたる幅広いケアやサービスを展開している.

 同グループの佐久間啓理事長は「“病院”や“医療”という枠にとらわれず,地域に必要なサービスは何かを,常に考えて展開してきました」と語る.先代の佐久間有寿理事長も,昭和40年代の頃から知的障害児の施設や養護学校の誘致,老人ホームの開設など,病院医療では不十分なところを積極的にカバーしてきたという.また,農作業など自然の中での作業を通じて精神障害者の心の回復を図る試みも当時から行われており,これは現在,グループが所有する農場「Kふぁーむ」での活動(後述)につながっている.

連載 病院が変わるアフリカの今・6

地方から変わる公的病院

著者: 石島久裕

ページ範囲:P.430 - P.431

アフリカの真珠,ウガンダ共和国

 ウガンダはアフリカ東部に位置し,ビクトリア湖に面した美しい国である.ビクトリア湖やナイル川の源流など,水資源が豊富なことから緑豊かであり,その国土の美しさからイギリスのチャーチル元首相がこの国を「アフリカの真珠」と称えたほどである.

 ウガンダの公的病院は,大きく分けてナショナルリファラル(国立病院),リージョナルリファラル(地域中核病院),ジェネラル(県総合病院)の3つに分類される.国立病院は医科大学の教育病院としての機能も持ち,1500床を有するムラゴ病院を筆頭に,3病院が存在する.また,地域中核病院は12地域に設置され,県総合病院から依頼された患者の対応を目的としている.

医療管理会計学入門・3

バランスト・スコアカード―戦略遂行マネジメントとしての管理会計②

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.480 - P.483

 事業を継続的に経営していくために,どのような組織でも一般的に中長期経営計画(事業計画)が策定されるが,そこにはその組織のビジョンと戦略が反映されている.この経営計画に反映された戦略を具体的に遂行するための管理会計手法として,バランスト・スコアカード(以下,BSC)がある.今回はBSCの登場と背景,および基本構造について概説し,そのうえで医療界におけるBSCの登場とその背景(必要性)について述べる.

 また,BSCには管理対象業績の包括性があり,特に中長期的な組織業績に影響を与える「学習と成長の視点」を包含している点は特徴的であるが,そうした人材育成を支える教育研修費の現状についても,最後に言及したい.

ドラスティックな病院改革!~事務長の孤軍奮闘日誌~・3

IT化へのミッション・インポッシブル【後編】

著者: 妹尾朝子

ページ範囲:P.484 - P.486

■電子カルテ導入までに学んだこと

 一般的に,IT化の進んでいない病院が,電子カルテを導入するまでの道のりは厳しい.「光生病院に電子カルテを稼働させる」というミッションをクリアするために,私たち経営企画室は院内のIT化を促進しつつ,過去の電子カルテ導入の失敗点を復習し,慎重に進んだ.最短時間で目的を達成できればそれなりに褒められるのであろうが,なにぶん経験と能力が不足しているので,なかなか一足飛びにはいかない.今にして思えば,アブナゲな橋(後述)を何度も渡りかけたが,運よく大きな損失を出すことなく,結果的には予測以上の場所にたどり着けたようだ.

 電子カルテ導入に行き着くまでに,ミッションが出てから2年間迷走を続けた.その間,成功例や失敗談など生の声を拝聴するために多くの病院を訪問し,また研修会などに参加して,勉強させていただいた.そして,私たちの知識が増すほどに,当院のような地方の民間中小病院に電子カルテを導入することが,いかに難しいかがよくわかった.何と言っても,大病院と違って予算が少ない.できるだけ「安価なもの」にしようとすると,そこに相当のリスクを伴う.そのうえ,当院の場合は診療科目と非常勤の医師が多いうえ,特養や在宅への往診に遠隔診療対応も必要となる.さらに多くの部門やモダリティなど,すべてのシステムとスムーズに連携できなければならない.しかも,肝心の常勤医師は高齢化している.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・70

難民認定申請者への受診援助

著者: 千葉優喜子

ページ範囲:P.488 - P.491

 桜町病院では2008年より難民認定申請者(以下,難民申請者)への受診援助を行っている.人数はこれまで15人と多くはないが,慢性疾患の長期受診や,事前相談なしの飛び込み受診などに柔軟に対応している.本稿では,受診窓口となっているMSWの院内での活動や,支援団体・東京都社会福祉協議会との連携などについて,事例を交えながら紹介する.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・57

雑感 東日本大震災3.11と若い看護師の病院離れに思う…

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.492 - P.493

 ある基幹病院の平均在院日数が「11.8日」になったと聞いた.天皇陛下が心臓の冠動脈バイパス手術を受けられたが,これも15日間での退院.この手術は心臓へ血液を送る冠動脈が詰まってしまった場合に,バイパス血管をつなぐことで血液が無事心臓に届くようにするものだ.心臓の裏側の血管につなぐのでなければ,心臓を止めることなく手術ができると聞いている.そして,バイバス血管の縫合には,特に問題がなければ5分もかからない.しかし,胸骨を切り開くのだから,骨折と同じように,骨がくっつくのには時間がかかる.それが約2週間で退院なのだから,なんという早さだろうか.

 欧米の入院日数はもっと短いと聞く.例えばオランダでは,普通分娩なら朝入院して夕方には退院だそうだ.交通事故でも歩けるなら家に帰される.患者は痛い痛いと言いながら帰宅するそうである.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第209回

三井記念病院

著者: 来野炎

ページ範囲:P.494 - P.499

 今から100年以上を遡る1906(明治39)年の10月,本病院の前身である三井慈善病院が設立された.以降,三井記念病院は東京の中心市街地である神田和泉町の地において,数度の建替えを経ながら継続して質の高い医療を提供し続けている.中でも1968(昭和43)年に着工した大規模な建替え計画(BC棟建設)は時の東京大学工学部教授で建築計画学の創始者である吉武泰水工学博士による基本設計であり,シティホスピタルとしての性格,将来の拡張性,運営を継続しながらの建設,設備機器の重視といった,まさに今日的なコンセプトによるものであった.

 それから約40年を経た2006(平成18)年10月,既存建物を全面的に刷新する一大建設プロジェクトが着工し,去る2011(平成23)年9月に全面竣工した.

リレーエッセイ 医療の現場から

研究の魅力・研究の威力

著者: 神馬征峰

ページ範囲:P.503 - P.503

 私の病院勤務歴は飛騨高山赤十字病院での2年だけと短い.もう25年も前のことである.それからは特に途上国の公衆衛生に携わっている.よりセクシーに言えば,「グローバルヘルス」が専門である.自分の専門に入る前に,病院と研究ということで思い起こす,1つのエピソードを紹介したい.

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書評 新薬・医療機器開発に不可欠な臨床試験のガイドブック―臨床試験を適正に行える医師養成のための協議会 編『クリニカルクエスチョンにこたえる! 臨床試験ベーシックナビ』

著者: 猿田享男

ページ範囲:P.453 - P.453

 日本において新薬や医療機器の開発の遅れが指摘されてから,かなりの年月が経過した.厚生労働省,医療関係者および企業の方々の努力にもかかわらず,いまだ思うような成果がみられていない.文部科学省でも,医科系大学や研究所の最先端研究を少しでも早く実用化させるため,橋渡し研究の拠点を整備し,新薬や新しい医療機器の開発支援に力を入れている.このような動きを加速させるために重要なことは,新薬や医療機器の開発において欠かすことができない臨床試験をもっと推進させることであり,それには医師,薬剤師,看護師をはじめ臨床試験に携わる多くの方々に臨床試験の重要性を理解してもらう必要がある.

 臨床試験にはいろいろな種類があり,新薬や医療機器の開発ばかりでなく,各診療領域において,診断や治療に関する日本人のエビデンスを得るための大規模臨床試験も重要な試験であり,その普及も強く求められている.

書評 帰してはいけない患者か否か? 疑う眼を養うことのできる一冊―前野 哲博,松村 真司 編『帰してはいけない外来患者』

著者: 林寛之

ページ範囲:P.474 - P.474

 時に研修医からコンサルトを受けて,アドバイスをしたら,「あっ,大丈夫だと思って帰しちゃいました」……(タラー(~_~;)).そこからすったもんだの揚げ句,呼び戻す例,神様に無事を祈る例(オイオイ!)など,さまざまある.「コンサルトって患者を帰す前にするんじゃないの!?」って悲鳴を上げたくなってしまう.

 ここにこんな素敵な本が出版されたではないか.まさしく直球ストレートなタイトル,「そりゃ帰しちゃダメだろ! お前,患者を殺す気か? おととい来やがれ,このタコ!」と言いたいところを,ちょっとだけマイルドに変換して「その患者,帰しちゃったらどんな落とし穴が待ってるのか,わかってて帰す気なの? 勘弁してよぉ」となり,もっとマイルドにすると『帰してはいけない外来患者』というタイトルになったのだろう……そうに違いない……たぶんそうかも(^o^)?

投稿規定

ページ範囲:P.501 - P.502

次号予告/告知板/表紙解説

ページ範囲:P.504 - P.504

1972年,神奈川県生まれ.自閉症障害を伴う精神遅滞およびてんかん,両感音難聴と診断される.神奈川県立平塚聾学校を卒業し,同県の通所授産所に通所後,秋田県へ.1995年より社会福祉法人一羊会 杉の木園に転入し,お菓子作りや絵画の才能を発揮している.きょうされん(旧称:共同作業所全国連絡会)が毎年開催している「きょうされんグッズデザインコンクール」では動物や風景の絵を描き,数多く入賞している.

〈6月号解説〉

花瓶から大きなあじさいが顔をのぞかせており,手を伸ばせば今にも触れることができそうな臨場感溢れた作品である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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