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雑誌目次

雑誌文献

病院71巻7号

2012年07月発行

雑誌目次

特集 病院のセキュリティ

巻頭言

著者: 神野正博

ページ範囲:P.517 - P.517

 地域に開かれた病院には多くの患者,その家族,そして見舞い客が訪れる.不特定多数が来院するといってもいいかもしれない.一方,患者の医療情報はきわめてナイーブな個人情報である.病名や予後ばかりではなく,受診や入院の事実そのものが秘匿するべき情報となることもある.

 病院は,地域住民から安心と同時に信頼を勝ち得なくてはならないことはいうまでもない.多くの病院管理者はセキュリティの確保を社会的責任として腐心する.そこで,総論として,情報セキュリティ大学院大学の林教授には「組織的セキュリティ」や「物理的セキュリティ」を包含した“「情報処理システム」としての病院”について執筆していただいた.そのうえで,設備としての保安管理,入退室管理はもとより,犯罪を防止する抑止的設備に関する最近の知見を設計・建築の立場から千葉大学の中山教授,そして現場を守る施設管理の立場から聖路加国際病院の小室マネジャーに執筆していただいた.

最近のセキュリティに関する考え方―システム依存・標的型攻撃・レジリエンス・許すが忘れない

著者: 林紘一郎

ページ範囲:P.518 - P.522

 昨年暮れに『セキュリティ経営』1)を出版したことが縁で,寄稿を依頼されたが,私は医療や病院について特段の知識や経験を持っていない.大学院の設立(2004年)後に,初めて「観血的侵襲」という言葉を聞いた時は,何のことかもわからなかったほどで,由緒ある本誌に寄稿することについて,いささかの逡巡があった.

 しかし最終的にお受けすることにしたのは,私たちの書物自体が「情報セキュリティ対策として,特段の技術や知識に注力するよりも,経営そのものの一環として捉えて欲しい」と訴えているからである.経営者にそう訴える以上は,自分でも未知の分野に適用可能かどうか,試してみる必要があろう.

病院の安全と建築・設備

著者: 中山茂樹

ページ範囲:P.523 - P.526

■環境を理解するということ

 まず,写真1をご覧いただきたい.左の写真はJRの改札であるが,ここを通過するプロセスを想像してほしい.切符を投入するとゲートが開くので前進し,改札機の向こうに出ている切符を受取って,改札を通り抜ける.誰もがスムースに通過できるだろう.右の写真はミラノの地下鉄駅の改札機である.ここでは切符を投入しても,ゲートは開かない.投入口とは別の吐き出し口から切符が出てくるので,それを取上げると,ゲートが開き,通過することができる.ちょっとした操作手順の相違であるが,ふだん使い慣れた機械でないと,その方法がわからず,戸惑うことがある.後者の装置はパリやロンドンの地下鉄も同じスタイルである.パリの地下鉄駅の行列の先に,まごついている日本人の姿をご覧になった方は多いはずだ.

 人は内面化された認知の枠組みに照らし合わせて環境を理解するとされている.上述の内容は,器械操作が通常の手続きでないと,わかりにくさ,あるいは不慣れな戸惑いを発生する例である.私たちはよどみない活動をコントロールしうる手続きを含む知識構造を有しており,出来事・行動・対象物について過去の経験から習得される一般的知識に基づいて行動している.これを認知心理学ではスキーマと呼ぶ.

院内暴力等への安全対策

著者: 小室克夫

ページ範囲:P.527 - P.531

 近年わが国の病院において,職員・患者が暴力被害を受ける事件が相次いで発生し,患者・家族,職員の生命・健康に危害が及ぶリスクが高まっている.

 これまで病院の安全管理対策としては,警備員配置や監視カメラ設置などの限定された対応策が多く,院内で発生する暴力等について,必ずしも組織全体で取り組む姿勢が見られず,運営上の課題として位置づけられているとは言い難い.2007年の全日本病院協会による院内暴力に関する実態調査1)によれば,組織的な取り組みをしている病院は約2割,また院内報告体制について今後も取り組む予定がないと答えた病院は,約4割に上った.

医療とプライバシーリスクマネジメント

著者: 高坂定 ,   瀬戸洋一

ページ範囲:P.532 - P.536

 2011年,某大学病院において,10年間に同病院を受診した患者2万4459人の個人情報を含むUSBメモリの紛失が明らかになった.USBには,患者の氏名,ID,電話番号,性別,生年月日,傷病名などが記録されていた.USBメモリは所定のキャビネットに保管され,夜間は施錠されていた.同院ではUSBメモリ内の個人情報について,データベースソフトで管理し,IDとパスワードがなければ内容を閲覧できないと説明している.対象となる患者に説明と謝罪の文書を送付し,院内で利用するUSBメモリについて,セキュリティを強化したものへ統一するなど,対応を行うという1)

 これらの情報漏洩は,データにアクセスするIDやパスワードを職員が外部に漏らす,あるいは,施設外に持ち出してパソコンや記憶媒体を盗まれたり,失くしたりというような単純な原因であることが多い.大手通信会社(2004年)および大手印刷会社(2007年)などの過去の国内の大規模な個人情報流出は,施設内の人間がデータを売り渡す内部犯行であった.個人のプライバシー情報が漏洩すると情報を流出した企業も社会的批判やブランドイメージにダメージを受け,損害賠償に発展することもある.

病院における情報管理―情報セキュリティと個人情報保護

著者: 飯田修平

ページ範囲:P.537 - P.540

■変革の時代における情報管理

 変革の時代,すなわち,急速,大規模かつ予測困難な変化に対応するためには,情報技術を用いて情報を活用すること,すなわち,適切な情報管理をしなければ組織は生き残ることが困難である.適時,的確に情報を選別,収集,分析,評価,判断,意思決定し,最適の行動を採ることが必須である.

 情報管理は,運営主体,規模,地域,機能に拘らず,すべての組織の最重要事項である.個別の対応あるいは形式主義では,適切に情報管理を行うことは困難である.品質管理(Quality Management),安全管理(Safety Management)と同様に,経営者・管理者主導の組織的取り組みが不可欠である.総合的質経営 (Total Quality Management : TQM)の一環として,取り組むべきである1,2)

病院ICTのセキュリティ

著者: 中安一幸

ページ範囲:P.541 - P.546

■情報セキュリティの特性

 ICTに関するセキュリティについて考えるうえで,まずは「情報セキュリティ」というものについて小括しておこう.

 JIS Q 27001では,情報セキュリティ (information security)について3つの特性を維持することを求めている.それらは概ね以下のようなものである.

医療ITの中の信頼基盤となる保健医療福祉分野PKI認証局のあり方

著者: 矢野一博

ページ範囲:P.547 - P.551

 IT化を進めるうえで避けて通れないものがセキュリティの問題である.これは何も医療に特化した問題ではないが,医療分野においては医療・健康情報を取り扱うという点から,特に重要性が高いものとして様々な仕組みの検討や取り組みがなされている.その中の1つとして,わが国において保健医療福祉分野PKI認証局という基盤(Healthcare Public Key Infrastructure:HPKI)が整備され,現在,実際に運用が始まっている.

 HPKIとは,平成17(2005)年に厚生労働省が策定した「保健医療福祉分野PKI認証局 証明書ポリシ」という指針に則って運営される,保健医療福祉分野に係る認証局のことを指す.証明書ポリシへの適合性は,同じく厚生労働省が平成18(2006)年に策定した「保健医療福祉分野PKI認証局 証明書ポリシ準拠性審査報告書様式」の準拠性監査で確認されている.また,平成21(2009)年には,新たな運営の指針として「保健医療福祉分野PKI認証局認証用(人)証明書ポリシ」「保健医療福祉分野PKI認証局認証用(組織)証明書ポリシ」が追加されている.現在,この枠組みの中で実際に運用されているのが,日本医師会による「日医認証局」である.

バイオメトリック認証技術の最新動向

著者: 瀬戸洋一

ページ範囲:P.552 - P.557

 バイオメトリクスの重要性が認知されたのは2001年である.同年9月11日に起こった米国同時多発テロを境に,バイオメトリクスへの評価が大きく変化した.それ以前は,バイオメトリクスは使えるか使えないのかといった導入賛否の議論が行われていた.利用も,重要施設の入退出管理などの市場に限定されていた.しかし,9月11日を境に,なぜ使わないのか,本人確認における主流の技術であるという導入を前提とした意見が大勢となった.

 一方,日本におけるバイオメトリック技術は,2004年10月に金融機関のATM(Automated Teller Machine)への静脈認証装置の採用,2006年にはIC旅券(顔認証),入国管理システム(顔および指紋認証)2007年にはIC運転免許証への顔データの実装というように,社会基盤システムに着実に展開された1)

【事例】

RFIDを利用したセキュリティ対策

著者: 大久保優

ページ範囲:P.558 - P.561

■病院におけるセキュリティ対策の考え方

 近年,病院におけるセキュリティ対策を検討する施設が増加している.病院とは,患者が療養する場所であると共に,多種多様な目的の方が出入りする場所でもある.医療スタッフはもちろんのこと,患者家族,見舞い客,行政職員,病院との取引業者など,用途や行き先も様々である.そして,面会に関して言えば,以前までは誰でも入館でき,部屋を把握していれば,入院患者の病室までも素通りで行けるという非常に危険な状態であった.

 しかし近年では,安全のためのセキュリティや個人のプライバシーが問題視され,入館規制を行うため警備員の配置や時間による施錠管理などを行うことが当然となっている.ただし,来院者がどこの誰に何の目的で会うために来たのかなどを毎回確認するには時間や手間がかかるうえ,警備員不在時には対応できないなどの問題が生じる.

指紋認証を利用したセキュリティ対策

著者: 小西宏明

ページ範囲:P.562 - P.565

■当院の概要

 自治医科大学附属病院は,病床数1130床,診療科40科,職員数2400余の北関東地域における高度医療の中心であるとともに,地域医療を担う総合医の育成を建学の柱とする大学附属の病院である.2004年から3か年で段階的に電子カルテシステム(通称JUMP : Jichi medical university Universal Medical information Program)を構築し,2006年2月14日に全面稼働した.ちょうど開発途上の2005年4月に個人情報保護法が医療機関に全面施行されたが,それに合わせて情報のセキュリティに関しては特段の配慮を行った.

静脈認証を利用したセキュリティ対策

著者: 寺野隆 ,   蓼原誠

ページ範囲:P.566 - P.568

 千葉市立青葉病院(以下,当院)は,「分かりやすく納得のいく医療を心のこもった笑顔で」という基本理念のもと運営されている.前身である千葉市立病院時代の1995年,病院のIT化が,この基本理念を実践するための有力なツールになると考え,導入を検討した.そして2003年5月,インテリジェントホスピタルを目指した病院リニューアルオープンにあわせ,フィルムレス,ペーパーレスを基本とする病院情報システムを稼動開始する.2010年5月に,病院情報システムの全面リニューアルを行い,現在電子カルテ,オーダーリングシステム,20を超える部門システムと医療機器が約600台のクライアント端末と連携しながら,24時間安定稼動を実現している(図1).

 当院では,病院情報システムで必要な利用者認証などにおいて,生体認証(バイオメトリクス認証)の仕組みである指静脈認証システムを利用している.

グラフ

印西市立印旛医科器械歴史資料館

ページ範囲:P.505 - P.508

 浅草から快速列車で約40分(普通列車で約1時間),北総線・印旛日本医大駅から徒歩1分の所に,歴史的な医科器械を収集した「印西市立印旛医科器械歴史資料館」がある.本資料館は1974年日本医科器械学会(現・日本医療機器学会)創立50周年記念事業として構想された.第50回学術大会長・青木利三郎氏は,医療機関の整備拡充により古い器機が廃棄処分されていく中で,それらの保存の必要性を強く感じ,全国の病医院等を行脚して収集した.そして1977年に埼玉県春日部市で「青木記念館」として開設した後,2007年4月に現在地へ移転.復刻された江戸時代の器具等も含め,所蔵資料は9000点を超える.医科器械を通じて当時の診断・治療の様子がわかることは後世の役に立つという熱意の賜物が本資料館である.

連載 病院が変わるアフリカの今・7

内戦後のブルンジで対話と希望の職場改善

著者: 吉川徹 ,   田制弘 ,   阿部一博

ページ範囲:P.510 - P.511

 日本で生まれた5S/KAIZEN/TQMが,アフリカの大地に深く根を下ろし,人々を貧困から救う医療支援の1つとして広がっている.ブルンジ共和国は政党対立の形を取ったツチ族,フツ族の内戦が長く続き,2008年12月にようやく停戦和平合意となった.隣国ルワンダで発生した1994年の大虐殺は世界を震撼させたが,内戦は国土や生活インフラだけでなく,人々の心も荒廃させる.JICA(国際協力機構)のポストコンフリクト支援(内戦後の国内復興)の1つ,ブルンジ保健省の「母子保健向上を目的とする医療施設能力強化プロジェクト」では,アジア・アフリカ知識共創プログラムの「きれいな病院プログラム」の一環として,保健医療施設の改善に5S/KAIZEN/TQM活動の導入を開始した.

ドラスティックな病院改革!~事務長の孤軍奮闘日誌~・4

既得権益を守る老臣との戦い―時代を変える力とは

著者: 妹尾朝子

ページ範囲:P.569 - P.571

■上場企業からやってきた「厄介な私」

 私は2008年に光生病院に入職した.それまでの12年間は,医療法人資本で立ち上げた株式会社の役員として,経営管理に携わってきた.公的介護保険が始まることを見据えて設立したその会社は,3年後には分社して,その後株式を公開するまでに成長した.思えば1996年頃にはすでにグループウェアのようなものを導入し,当時からペーパーレスを推奨,会議ではプロジェクターを使い,海外との交換研修会やワークショップも盛んに行っていた.会社の大株主は医療法人で,主軸は介護事業という特殊な分野ではあったが,組織運営やマネジメントに関しては先進的であり刺激も多く,ベンチャー企業の先端として勉強する機会に恵まれていた.また,それが私にとっては当たり前の日常だった.

 光生病院に入職して以来,ずっと業務改革を中心に仕事をしてきたが,そのような目的で特別採用されたわけではない.そもそもは経営管理を離れ,最前線の現場で一職員として介護事業に専念してみたいと思っていたのだ.ところが,仮にも経営管理者として10年以上も企業を背負った人間は,そういう視点から物事を見る癖が抜けない.つまり,常に効率や合理性を追求し,職員の配置や損益を気にして仕事をしてしまうのだ.逆に言うと,仕事の出来栄えは,最終的に必ず数字で評価しないと落ち着かない.「とにかく頑張った」では,自分自身が納得できない.そのような「厄介な私」が配属された現場においては,改善すべき点が次から次へと目についた.

医療管理会計学入門・4

事業計画制度―戦略遂行マネジメントとしての管理会計③

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.572 - P.575

■事業計画制度の重要性

 事業計画制度とは,法人が経営する事業種類ごとに作成される事業上の業績計画(目標)設定と,その計画の実現に向けた活動(定期的な進捗状況確認や進捗遅れへの対策の考案・実行)からなる経営管理手法(事業別PDCA)である.設定される計画には,財務的な事項から非財務的な事項まで多様な業績事項が含まれ,計画設定の期間も 1年間から数年間まで多様なものがありうる.そして,予算と対応する形で策定されたものが年次事業計画, 事業の将来ビジョンに沿って中長期的な観点から策定されたものが中長期事業計画である.病院事業のみ,あるいは他事業も営んでいるが病院事業が圧倒的に中心事業である場合, 法人(医療法人や公営企業等)の経営計画と病院の事業計画は基本的に同じものとなるため,病院に関しては事業計画≒経営計画と言ってもよい.

 現在,継ぎ目のない医療・介護の提供が推進される中で,社会福祉法人など関連法人を含む同一医療法人が,機能の異なる複数事業を運営するようになってきている.そのため, 制度など経営環境の変化による財務的影響も複雑になっており,事業別業績状況を把握せず,法人全体としてのどんぶり勘定的経営では,経営リスクが非常に大きくなってきている.また,多様な事業を運営するに伴って法人の規模は大きくなり,その経営は複雑性を増し,トップ経営者のみによる法人経営は困難となりつつある.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・71

児童虐待防止における医療機関でのMSWの役割

著者: 林ちづる

ページ範囲:P.576 - P.579

 児童虐待に関するニュースが飛び交い,地域において子どもが安心かつ愛されて育つことが難しくなってきている今日,医療機関は地域の一資源として,虐待防止の役割を担うことが重要である.そのためMSWも虐待防止の認識を持ち,地域と一体になった院内外での取り組みが求められている.筆者は虐待等で治療を要する子どもへの支援において,MSWが地域との架け橋となり,重要な役割を担っていることを痛感しており,本稿では医療機関におけるその役割について報告したい.

病院管理フォーラム 病院とSNS(前編)

SNS導入までの流れ

著者: 扇子雅弘

ページ範囲:P.580 - P.581

 松江赤十字病院は,島根県松江市にある地域医療支援病院・地域がん診療連携拠点病院である.2010年3月に新入院棟,2012年6月には新外来棟をオープンさせた.職員数約1100人,診療科26科,病床数645床,救命救急センターを有するなど急性期医療に力を入れており,「高度」・「良質」・「公正」な医療の提供を理念に掲げ,地域の中核医療機関としての役割を担っている.

 当院ではここ数年,インターネットを利用した広報活動に力を入れており,2010年9月にブログ(図1)を,2011年7月にはFacebookとTwitter(図2,3)を病院公式のソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下,SNS)として導入している.SNSとはインターネットを使い双方向に交流することができるコミュニティ型Webサイトの総称で,ブログも広義的にはSNSに含まれる.最大の特徴は不特定多数の登録者への情報発信と情報交換であり,代表格のFacebook,Twitterはともに国内利用者が約1000万人を超えていると言われ,一般企業でもビジネスへの活用が積極的に進められている.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・58

ミッション・インポッシブル―あの世への挑戦!

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.582 - P.583

 あの世はあるのだろうか.

 「絶対にない」「あると言われても信じられない」「あっても行きたくない」と考えていた僕だが,最近,「ひょっとしたら…」と思うようになってきた.そのきっかけが3.11東日本大震災の惨事だ.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第210回

福岡県済生会 飯塚嘉穂病院

著者: 安川智

ページ範囲:P.584 - P.590

■敷地内での建て替え

 本件は,2007年に県立病院の移譲を受けた福岡県済生会「済生会福岡第二病院(旧名称)」の敷地内建て替え計画である.

 敷地は,市の中心部から南へ5km,幹線道路(国道200号線)から約500m西側の高台に位置している.かつてこの小高い丘の上にひっそりと佇んでいた県立結核療養所の名残を感じさせるように,大小の池やうっそうと茂った木々など豊かな自然が印象的な土地である.

リレーエッセイ 医療の現場から

医療通訳は病院を救う

著者: 沢田貴志

ページ範囲:P.591 - P.591

 私が勤務している港町診療所は,横浜で働く人々のために設立された無床診療所である.開設以来,英語での対応が可能であったために外国人の患者さんを多数診療してきた.特に外国人労働者が急増した1990年代には,毎日20~40人程の外国人の新患が訪れる時期もあった.これまで100以上の国と地域から,1万人以上の外国人が来院している.

 当時は健康保険に入れない立場の人も多く,遠くから重病人がくることが少なくなかった.来院する患者さんの中には腹膜炎,劇症肝炎,心筋梗塞,末期の悪性腫瘍といった重症の人も少なからず含まれており,毎週のように救急車で入院搬送をする特異な診療所であった.そんな野戦病院のような時期を乗り切ることができたのは,近隣の多くの公的病院が労を厭わず,こうした患者さんを受け入れてくれていたからである.相談を持ちかけられた医師だけでなく,病院をあげて一緒に解決法を考えてくれた.

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次号予告/告知板/表紙解説

ページ範囲:P.592 - P.592

1972年,神奈川県生まれ.自閉症障害を伴う精神遅滞およびてんかん,両感音難聴と診断される.神奈川県立平塚聾学校を卒業し,同県の通所授産所に通所後,秋田県へ.1995年より社会福祉法人一羊会 杉の木園に転入し,お菓子作りや絵画の才能を発揮している.きょうされん(旧称:共同作業所全国連絡会)が毎年開催している「きょうされんグッズデザインコンクール」では動物や風景の絵を描き,数多く入賞している.

〈7月号解説〉

ななかまどの実が鮮やかな赤や黄金色に輝いており,観る人を圧倒する作品である.1つひとつの実に生命力が感じられ,自然の恵みに感謝の気持ちが湧いてくる.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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