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文献詳細

雑誌文献

病院71巻7号

2012年07月発行

特集 病院のセキュリティ

病院の安全と建築・設備

著者: 中山茂樹1

所属機関: 1千葉大学大学院 工学研究科

ページ範囲:P.523 - P.526

文献概要

■環境を理解するということ

 まず,写真1をご覧いただきたい.左の写真はJRの改札であるが,ここを通過するプロセスを想像してほしい.切符を投入するとゲートが開くので前進し,改札機の向こうに出ている切符を受取って,改札を通り抜ける.誰もがスムースに通過できるだろう.右の写真はミラノの地下鉄駅の改札機である.ここでは切符を投入しても,ゲートは開かない.投入口とは別の吐き出し口から切符が出てくるので,それを取上げると,ゲートが開き,通過することができる.ちょっとした操作手順の相違であるが,ふだん使い慣れた機械でないと,その方法がわからず,戸惑うことがある.後者の装置はパリやロンドンの地下鉄も同じスタイルである.パリの地下鉄駅の行列の先に,まごついている日本人の姿をご覧になった方は多いはずだ.

 人は内面化された認知の枠組みに照らし合わせて環境を理解するとされている.上述の内容は,器械操作が通常の手続きでないと,わかりにくさ,あるいは不慣れな戸惑いを発生する例である.私たちはよどみない活動をコントロールしうる手続きを含む知識構造を有しており,出来事・行動・対象物について過去の経験から習得される一般的知識に基づいて行動している.これを認知心理学ではスキーマと呼ぶ.

参考文献

1)安全を確保する1つの手法として,最近よく耳にするのが「タイム・アウト」である.例えば術前にいったんすべての動作を中断し状況を把握するそうだが,特殊な環境下で手順・体制をチェックするのは,慣れないスクリプトを1人ずつが再確認する目的であろう.
2)既に建築・設備の領域では様々な議論が展開されているが,例えば,「山元・室殿・中山担当編集:患者の高齢化と病棟の安全,病院設備 54(3),日本医療福祉設備協会,2012.5」では,最新の話題を幅広く取り上げている.
3)幅木とは床の下部で,床に接する部分に取り付けられた横長の板.足などが当たる部分なので,壁の損傷や汚れを防ぐ目的で設けられる.これを独立した材料とするのではなく,床材をそのまま立ち上げて用い,かつ角部にはアールをもたせる工法が感染防止に役に立つ.
4)「大久保憲,他:病院空調設備の設計・管理指針HEAS-02-2004,日本医療福祉設備協会,2004.10」や「鈴村明文,他:病院設備設計ガイドライン(衛生設備編)HEAS-03-2011,同,2011.10」など.
5)米国では1995年にヘルスケア・ファシリティ・マネジャー制度が創設された.医療事業経営のコア機能としてAHAの中に位置づけられている.その専門職者に求められる知識領域としては,①関係法規の遵守,②建築計画・設計および建設関係,③施設・設備保守運営管理関係,④財務管理関係,⑤通常業務管理関係が定められ,広範囲にわたる専門領域の知識と業務遂行能力の確保と責任の所在の明記が求められている(田中眞:米国のヘルスケア・ファシリティ・マネジメントと安全管理,近代建築 57(11),2003.11).
6)日本医療福祉設備協会は,2012年から認定ホスピタル・エンジニア制度をスタートさせ,研修講座,試験が行われ,既に合格発表もされている.
7)この図のコンセプトは,以下の論文に詳述した.「中山茂樹:社会資本としての医療施設─病院建築の質とコスト,医療福祉建築172号,日本医療福祉建築協会,2011.7」

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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