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雑誌目次

雑誌文献

病院71巻9号

2012年09月発行

雑誌目次

特集 高齢先進国のビジョン

巻頭言

著者: 井伊雅子

ページ範囲:P.685 - P.685

 高齢化は地方の問題と捉えられてきたが,都市の高齢化は地方を上回るペースで進んでいる.10年後には,65歳以上の高齢者の過半数が三大都市圏に居住するという試算だ.世帯の4割が高齢者世帯となり,その7割が親子では住まない世帯,つまり多くが独居もしくは老老世帯となる.人口構造,世帯構成が急速に変化する中で,わが国は高齢先進国としてどのような社会モデルを世界に提供できるのか.日本がこの未知の領域にどのように取り組むのか,世界の注目が集まっている.

 今回の特集では,臨床現場,医療政策,医療産業の視点から,健康,コミュニティ,地域社会,経済といったテーマを見据えながら,あるべきわが国のビジョンを示すことを試みた.

「依存と分断」のシステムを超えて

著者: 武内和久

ページ範囲:P.686 - P.690

 近い将来,気づいたら日本の医療システムは主要国の中で最も機能の低いものとなる.そして財政・サービスともにハードランディングを余儀なくされる.私はこのような危機感を持っている.

 理由は,日本の医療を「システム」として見た時,個別課題に目を奪われる余り,システム全体の機能を強化し,発揮させるメカニズムが弱いからだ.医療システムに関わるステークホルダーが,専ら個別利益・個別解の達成に焦点を当てている間に,システム全体としての機能が脆弱となっている.住民はより便利で手厚い医療を,医療機関は報酬点数を,保険者は負担金の減を,行政は事件や摩擦の防止を,といった個別解に専ら精力を注いでいる.その結果,リソースは減耗し,システム全体にストレスが高まりつつある.

在宅被災世帯復興活動から展望する高齢先進国モデル構想

著者: 武藤真祐 ,   園田愛

ページ範囲:P.691 - P.696

 2011年3月11日,午後2時46分.マグニチュード9.0の巨大地震が日本列島を襲った.その後東日本沿岸を襲った大津波は,多くの尊い命とかけがえのない日々を一瞬にして奪った.

 私たちは言葉を失った.そして,歴史的に類を見ない試練に直面することとなった.

健康医療福祉都市構想

著者: 酒向正春

ページ範囲:P.697 - P.701

■はじめに─健康医療福祉都市構想がなぜ必要か

 世界に先駆けて,未曾有の超高齢社会となった日本では,「病気は治るもの」という神話が壊れた.高齢者の病気は治らず,慢性化する.脳卒中後遺症の片麻痺,感覚障害,言語障害,高次脳機能障害も治らない.超高齢化社会では,病気や障害とつき合いながら生活することが前提となる.しかし,これまでの日本社会では,高齢者や障害者は外出しない「閉じこもり生活」を選択する暗黙の了解があった.2030年には3人に1人が65歳以上の高齢者となる超高齢化社会が到来する.従来型の閉じこもり生活は廃用症候群を生み,病気や障害を増悪させる.すなわち,超高齢化社会では,高齢者や障害者の残存能力を活かし,活用する社会体制に再構築することが必要となる.

 そこで,高齢者や障害者を含めた全ての人に優しく,安全に安心して外出できるユニバーサル都市環境の整備が必須となる.それが健康医療福祉都市構想のルーツである.日本の都市整備や道路環境の政策は効率性と生産性を重視するあまり,高齢者や障害者の生活性を無視した環境整備を行ってきた.その政策を根本的に改め,生活に優しい都市環境と社会体制を実現し,超高齢化社会のモデルを発信することで世界貢献ができる時が到来した.

人口を増やす政策を総動員し,社会保障を抜本から見直すべきだ―超高齢化社会に対するベンチャー起業家からの提言

著者: 出口治明

ページ範囲:P.702 - P.706

 国立社会保障・人口問題研究所は,2012年1月に日本の将来人口推計の結果概要を公表した.この推計は5年毎に行われているもので,将来の出生推移・死亡推移について,それぞれ中位・高位・低位の3仮定を設け,それらの組み合わせにより9通りの推計を行っている.以下では,出生中位・死亡中位のケースを基準として論じることとする.

介護人材をどう確保するか―日本版キャリアパスの検証

著者: 石橋智昭 ,   池上直己

ページ範囲:P.708 - P.712

 介護保険事業に従事する介護職員数は,制度発足から5年目(2005年)には倍の112.5万人に達し,その後も年5%の増加を続けている(表1)1).しかし,介護保険の利用者が最大となる2025年には212~255万人の介護職員が必要であり2),さらに100万人規模の人材確保が求められている.ところが,一般労働市場の有効求人倍率が0.76倍(2012年3月)という状況においても,介護分野のそれは1.61倍3)と深刻な人手不足が続いており,人材確保の見通しは厳しい.その一方で,すでに資格登録者が100万人に達した4)介護福祉士の約4割が介護事業に従事しておらず,潜在的有資格者の就業促進も大きな課題となっている.

 これらの状況に対して政府は,介護職員が生涯働き続けるための労働環境の整備に乗り出し,特に介護分野へのキャリアパス導入に重点を置いた施策を展開している5).その背景には,介護職員は経験を積んでも賃金が上昇しにくく,特に30歳以降の他産業との格差の問題がある.

超高齢社会の医療・介護連携におけるITの活用

著者: 有倉陽司

ページ範囲:P.714 - P.717

 わが国の公的介護保険制度は2000年の施行以来,基礎的な社会システムとして一定の定着を見るとともに,要介護(要支援)認定者数は525万人(2012年1月),介護(予防)サービスの費用額は約7.6兆円(2010年度)に達し,その規模を急激に拡大してきている.その一方で,介護を要する患者や利用者はその病態や状態が複合的かつ非定形的で変化しやすい場合が多く,個々の状況に応じて必要な医療・介護サービスを受けられるように,医療と介護の連続性の確保や,医療と介護の一体的な提供が強く求められるようになっている.

 これに対応し,保健,医療,介護,福祉,住まいおよび地域生活支援サービスを関係者が連携して地域住民のニーズに応じて包括的かつ継続的に提供する地域包括ケアが推進されており,医療と介護の連携は一層重要になってきている.多職種間および事業者間の連携が必要とされる医療・介護間の連携においては,コミュニケーションおよび情報共有の手段としてITが非常に大きな可能性を秘めていると言える.また,医療・介護における1つひとつの資源をより効果的かつ効率的に機能させるうえで,その支援方策としてIT活用の重要性が増してきていると言える.

都市の高齢化問題

著者: 井上肇

ページ範囲:P.718 - P.722

 人口の高齢化が,医療のみならず社会全体の課題と捉えられるようになって久しい.また,わが国の高齢化は世界各国との比較においてより大きな問題をはらんでいること,すなわち,高齢化の速度が速く,かつ,最終的な高齢化率のピークが高いこともよく知られている(図1)1)

 反面,わが国の高齢化は地域によって異なる様相を見せており,今後は首都圏辺縁部(千葉県,埼玉県,神奈川県)を中心とした都市部において,より大きな困難を抱えるであろうことは,十分に認識されてこなかった.本稿では,日本全体の高齢化の中でも,都市部が抱える課題に焦点をあて,とるべき対応について考察する.

高齢先進地─長野県の病院から見た保健・医療・福祉の再生ビジョン

著者: 平林信

ページ範囲:P.724 - P.727

■特色ある5つの病院ネットワーク

 長野県は,行政機構審議会の答申(2009年9月)を受け,県立病院の経営形態を地方独立行政法人とすることを決定し,2010年4月「地方独立行政法人長野県立病院機構」が設立された.当機構は,それぞれに特色を持つ5つの病院と本部研修センターによって構成されている.

 阿南病院と木曽病院はへき地医療拠点病院でありそれぞれの医療圏に唯一の病院である.こども病院は長野県における小児・周産期医療の最後の砦としての役割を,こころの医療センター駒ケ根は精神科における先進的専門医療の役割を担っている.須坂病院は,本部研修センターを併設する都市部の総合病院であるとともに第一種感染症指定医療機関であり,県立病院機構の中心的役割を担っている.

グラフ

高齢社会のニーズに応える 社会医療法人 恵仁会 くろさわ病院

ページ範囲:P.673 - P.676

 社会医療法人恵仁会くろさわ病院(83床)は,長野新幹線・佐久平駅から車で15分程の距離にある.昭和12年に産婦人科・小児科の医院として開業,昭和43年に病院となった.

 当院の5km圏内には厚生連佐久総合病院(821床)や佐久市立国保浅間総合病院(323床)があり,患者の大病院指向もあって経営的に厳しい時期もあった.また,戦後のベビーブームを支えた産婦人科・小児科であるが,高齢社会へと進展する中で地域のニーズも変わっていった.そこで,当院の機能を高齢者医療・介護へと転換し始めたのが昭和の終わり頃である.

連載 病院が変わるアフリカの今・9

出産ケア改善と結びつく5S-KAIZEN

著者: 後藤美穂 ,   池田憲昭

ページ範囲:P.678 - P.679

 セネガル共和国(以下,セネガル)は西アフリカのサハラ砂漠西南端に位置する,面積約20万km2(日本の半分程度)の国である.同国は1960年の独立以来,一度もクーデターを経験しておらず,内政上高い安全を維持してきた.今年3月の大統領選挙も平和裡に行われ,12年間のワット政権から新政権へ平和的,民主的な形で国民の意思が示されたことは,この国の成熟した民主主義を象徴していると言える.

 タンバクンダ州とケドゥグ州は首都ダカールから約450km,モーリタニアなどとの国境に接する貧困州の1つである.母子保健指標は表の通りで,保健医療施設や熟練分娩介助者,包括的緊急産科ケアへのアクセスの悪さを示している.加えて女性の地位・決定権の低さ,早婚,女性性器切除などの社会経済文化的要因が,首都に比較して極めて高い妊産婦死亡率,乳児・5歳未満児の死亡率の原因となっている.

ドラスティックな病院改革!~事務長の孤軍奮闘日誌~・6【最終回】

地域に根差し,必要とされる病院を目指して―在宅連携と地域貢献に向けて今後の課題

著者: 妹尾朝子

ページ範囲:P.734 - P.737

■本当の本丸とは

 先日,某経営管理者研修会に参加し,2日間に亘ってSWOT分析やBSCを中心とした,チーム医療を推進する経営手法について勉強させていただいた.1つのビジョンに向かい,それぞれの職種が協働して具体的な行動目標を作り上げ,職員全体のモチベーションを向上させていく.様々な要件を交錯させて一定の結論を導き出していくそのツールは,かなり複雑だ.しかし,今後の病院において健全な経営を継続していくためには,チーム医療と連携は欠かせないキーワードとなる.

 実は,この研修会の間,私は少々違和感を感じていた.どうしても光生病院の医師が参画し,中心となってビジョンを決定し,皆で計画を練り上げていくような協働イメージが湧かなかったのだ.あるいは,診療科ごとの担当医が率先し,行動計画や方針を決め,関わる職員が一体となり,病院経営を推進していく新しい組織構造など,現在の当院には容易に想像もつかない.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・73

地域医療連携上の“在宅”の諸相

著者: 和田光徳

ページ範囲:P.738 - P.742

 地域医療連携は,機能をつなぐ.機能は価値観や情緒を含まないから,それらを含む患者の「生活」はつなげない.だから,機能連携の各局面で使用される“在宅”という言葉も,患者固有の「生活」の視点ではなく,医療機関・支援者目線で意味づけされる.近年推進される「在宅医療」は,「生活支援」を目的とするという.医療機能と生活支援をシンクロさせる医療福祉技能が必要である.本稿では,地域医療連携上の“在宅”の諸相と,患者の生活をつなぎ,関わる者の情緒をつなぐMSWとしての支援を,事例を通して概観する.

医療管理会計学入門・6

責任センター別管理会計の実施状況と効果―責任センターマネジメントとしての管理会計②

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.744 - P.747

■責任センター別管理会計の実施状況

 筆者らは2010年11月に,医業収益10億円以上の病院を運営する2271医療法人を対象として,責任センター別管理会計に関する調査(回収率約9%)を実施した1).今回はこの調査を基に,予算管理と利益目標管理および業績評価の現状を明らかにする.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・60

3.11 東日本大震災―海の幸と心のケア

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.748 - P.749

 気仙沼に行ってきた.

 目的は東日本大震災の現地取材. 6月5~6日の,たった一泊二日の旅程だったが,大阪伊丹空港から仙台に飛び,さらに石巻から気仙沼へと移動.原発事故後の福島の様子も見たかったけれど,そこまでまわることができない.

アーキテクチャー 保健・医療・福祉 第212回

長谷川病院

著者: 久保田秀男

ページ範囲:P.750 - P.755

 長谷川病院の高田前事務長より,拙書『患者に選ばれる病院づくり』(じほう,2001)を読んで思いが同じなので,との丁重なメールをいただいたことから,病院設計のお手伝いをすることになった.

 敷地は,富山市のメインストリートに面し,東に立山連峰を望む絶好の地にある.あらゆるところで“病院くささ”を排除しながら,『患者に選ばれる病院づくり』の骨子である「患者によし・スタッフによし・コストよし」に「家族によし」を加え,以下を設計のポイントとしながら各所に拙著のコンセプトをちりばめた.

リレーエッセイ 医療の現場から

排泄ケアは暮らしを変える

著者: 浜田きよ子

ページ範囲:P.759 - P.759

 社会が急速に高齢化する中で,介護を必要とする人は増加の一途をたどり,高齢者介護は社会の大きなテーマとなっている.介護の中で大変なものの1つは排泄ケアであるが,排泄ケアはともすると,おむつ交換の方法やトイレ誘導のタイミングといった内容で考えられていることが少なくない.

 仙骨部の褥瘡の大きな原因となるのはおむつである.またおむつを当てることで股間は開いてしまい,ベッド上でも寝返りがしにくくなるし,座位の場合でも姿勢は崩れて辛いばかりでなく,食事もしにくくなる.このようにおむつはいろいろなトラブルを引き起こすものであるにもかかわらず,杜撰に使われているのが現状だ.

研究と報告【投稿】

手術実施度および平均在院日数と採算性との相関関係―国立DPC関連病院群での検証

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.730 - P.733

要 旨 本研究では国立病院機構傘下のDPC関連病院を対象として,DPC影響評価報告と国立病院機構公表の財務諸表の2資料から,手術実施度や平均在院日数の,採算性との相関関係について実証的研究を試みた.その結果,国立病院傘下のDPC関連病院の現状では,手術実施度は採算性と無関係のようである.その背景の1つには,手術の中には採算性が悪く,赤字のものもかなりあるという実態が考えられる.一方,平均在院日数(疾患構成の違いを補正後)の短縮による効率性の向上は,国立DPC関連病院では,新たな患者の十分な増加を伴い,採算性の向上に繋がっていると考えられる.さらに今回の研究結果からは,指標補正の重要性も示唆された.

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書籍紹介

ページ範囲:P.690 - P.690

書評 助産師と同じ目線の高さ故の圧倒的な迫力と臨場感―宮崎 雅子 写真・文『Mother いのちが生まれる』

著者: 島義雄

ページ範囲:P.729 - P.729

 いわゆるフォトエッセイである.永年にわたって妊娠・出産の現場を撮り続けてきた,このジャンルでは第一人者の女性写真家が,自らライフワークの集大成と位置付けた作品集で,厳選の75葉と自身の軌跡を二部に章立てた構成となっている.第一部に集められた写真たちは,評者の仕事柄関連のある分野の医学・看護系の雑誌で既に見覚えたものも多く,いつもなら“やわらかく”その扉を飾ったり,あるいは専門的な記事の合い間のページにひっそり挟まる構図で記憶していたのだが,ここではひとまとまりとなって強い調子で主張をしているかのようだ.それが何で,それはなぜなのか,第二部まで読み進めば得心がゆく.

 女史は修行時代にやがて本業とする写真のテーマを探しながら,「妊娠していたわけでもないのに参加した」地域の出産準備クラスで,助産婦(当時)という職業の存在を知る.新しいいのちの誕生を助ける仕事,女性ならではの仕事,そしてなんとも美しい「助産婦」という言葉の響きにすっかり魅了される.以来,お産の現場をフィールドと定め,プロフェッショナルの魂を持った誇り高い「助産婦さん」とのいくつもの邂逅を経る.そしていつしか,自ら昼夜を問わず雨風も厭わずお産に駆け付ける,まるで「助産婦さん」そのもののような写真家として現在に至ったようである.

書籍紹介

ページ範囲:P.737 - P.737

投稿規定

ページ範囲:P.757 - P.758

次号予告/告知板/表紙解説

ページ範囲:P.760 - P.760

1972年,神奈川県生まれ.自閉症障害を伴う精神遅滞およびてんかん,両感音難聴と診断される.神奈川県立平塚聾学校を卒業し,同県の通所授産所に通所後,秋田県へ.1995年より社会福祉法人一羊会 杉の木園に転入し,お菓子作りや絵画の才能を発揮している.きょうされん(旧称:共同作業所全国連絡会)が毎年開催している「きょうされんグッズデザインコンクール」では動物や風景の絵を描き,数多く入賞している.

〈9月号解説〉

梨が木からぶら下がっている様子が描かれている.葉っぱの1つひとつが丁寧に彩られており,作者の絵に対する繊細な感性が窺える作品である.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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