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雑誌目次

雑誌文献

病院72巻1号

2013年01月発行

雑誌目次

特集 病院の評価─課題とこれから

巻頭言

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.17 - P.17

 1997(平成9)年,日本医療評価機構が病院機能評価事業を始めてから,わが国の病院において医療や病院マネジメントの評価は着実に定着してきた.2012(平成24)年2月現在で,評価事業の認定病院は,全国8650病院中2440病院,全病院の28.2%に達している(日本医療機能評価機構調べ).

 最近では,品質マネジメントシステムの国際規格であるISO 9001の病院への導入や世界基準としての病院評価であるJCI(Joint Commission International)の認定を受ける病院も増えてきている.また,DPCデータ等を二次利用して臨床指標を算出し,医療の質の評価を行う試みも始められている.2010(平成22)年度から開始された,厚生労働省による「医療の質の評価・公表等推進事業」に参加した日本病院会,全日本病院協会,国立病院機構の3団体はDPCデータを活用した医療の質の評価も行われている.さらには,病院現場の改善ツールであるTQM(Total Quality Management)も日常的なものになってきている.

医療の質と評価

著者: 福井次矢

ページ範囲:P.18 - P.23

■はじめに─医療の質を表す指標

 患者の立場として質の高い医療を受けたい,医療者の立場から質の高い医療を提供したいと思うのは,あまりにも当然のことである.そこでまず考えなくてはならないのが,どうすればわれわれは医療の質を知ることができるか,である.

 1960年代にミシガン大学病院管理学教授のA. Donabedianが,医療の質とは,病院の建物,医療機器,医療スタッフの種類と数などの「ストラクチャー(構造)」,実際に行われた診療内容や看護の内容である「プロセス(過程)」,そして治癒率や死亡率といった,実際に患者が受けた診療や看護の結果である「アウトカム(結果)」といった3つの側面から評価できると提唱した1).この考え方は,現在でも広く受け入れられているところである.

病院機能評価の課題とこれから

著者: 河北博文 ,   菅原浩幸

ページ範囲:P.24 - P.28

■病院機能評価の現状

 病院機能評価とは,病院を第三者が評価し,病院活動の改善を促す仕組みである.わが国では,日本医療機能評価機構が平成9(1997)年に病院機能評価事業を開始し,15年を経過した.現在では認定病院数は2425病院,施設割合では28%を占めるに至っており(平成24年9月7日現在),15年間で一定の定着をみた.また的確に病院を評価するためには,病院活動のあるべき姿を記したスタンダード(評価項目)が必要であるが,医療環境等の変化とともに評価項目も改定を重ねている.事業開始当初の第1世代(Ver2~Ver3:種別版評価項目),ケアプロセス評価の導入や医療安全を重視した第2世代(Ver4~Ver6:統合版評価項目)を経て,平成25(2013)年4月からは第3世代の評価項目体系である「機能種別版評価項目」を適用する予定となっている.

 翻って15年前の病院の姿を思い浮かべてみると,現在の病院は医療の質や安全の面で大幅に進歩しているように思う.もちろん医療環境の変化に対応しようと日夜努力している病院自身の取り組みによるものだが,それを効果的に支援する仕組みとしての病院機能評価も一定の役割を果たしてきたものと考えられる.しかしながら一方では,「認定を受けてもメリットがない」「受審しても職員が疲弊するだけ」などの意見も聞かれる.そこで,病院機能評価の現状を整理し,将来の展望について考察してみたい.

病院の評価─課題と展望

著者: 長谷川友紀

ページ範囲:P.29 - P.34

■医療の質概念の変遷,質確保の手法

 近年,医療における質と安全について世界的に関心が高まっている.2001年に米国Institute of Medicine (IOM)はレポート“Crossing the Quality Chasm”を公表し1),①米国民が受けることのできる医療サービスと実際に受けている医療サービスの内容に差異があり,これはchasm(断層)と表現されるほど深刻であること,②単一の医療機関で医療が完結する傾向のある急性疾患に対して,慢性疾患の治療では複数の医療機関の関与が必要であり,今後,疾病構造が慢性疾患中心となるにつれこのchasmは拡大することが危惧されること,③これを解消するためにはinformation communication technology(ICT)の導入と,医療提供体制の大幅な改編を必要とすることを指摘した.IOMのレポートは,各国の医療界に大きな衝撃を与え,1990年代後半以降の医療費抑制を主眼とした医療制度改革において,新たに質と安全を中核概念とする原動力となった.

 医療サービスの質については,その構成要素と評価方法についていくつかの提唱がなされてきた.Codmanは主として外科手術の結果に着目して,1910年代にEnd Result System(現在の結果に相当する)の概念を提唱した.Donabedianは,医療の質は構造(structure),過程(process),結果(outcome)の3つの視点から評価されるべきであると1960年代に提唱し,この考え方は現在も広く用いられている2)

DPCデータ等を二次利用した医療の質評価とその活用

著者: 小林美亜 ,   本橋隆子 ,   伏見清秀

ページ範囲:P.35 - P.39

 近年,わが国では医療の質に関する関心が高まり,良質な医療を提供することに向けて,医療の質をどのように評価し,公表するかといったことが課題となっている.厚生労働省は,平成22(2010)年度より,国民の関心の高い特定の医療分野について,医療の質の評価・公表等を実施し,その結果を踏まえた,分析・改善策の検討を行うことで,医療の質の向上および質の情報の公表を推進することを目的とし,医療の質の評価・公表等推進事業(以下,推進事業)を開始している.

 推進事業には,これまで,全日本病院協会,日本病院会,国立病院機構,恩賜財団済生会,全日本民主医療機関連合会,日本慢性期医療協会(順不同)が参加し,DPCデータを二次利用して臨床指標を算出している団体も多い.しかし,これらの臨床指標によって計測された医療の質が,臨床現場の実態を反映しているのか,また正しく計測されているのかなどの検証は十分に行われていない.医療の質評価を推進し,公表していくうえで,このような検討は必須である.

病院におけるISO 9001マネジメントシステムの導入効果と今後の展望

著者: 進士君枝

ページ範囲:P.40 - P.44

 品質マネジメントシステム(Quality Management System)であるISO 9001(以下,ISOという)を導入している国内の病院数は,他の産業界に比較すると緩やかであるが微増している(全産業の適合組織数36,767件の内,医療および社会事業分野は541件,2012年2月現在)1)

 ISO 9001の表題である品質マネジメントシステムとは,「品質に関して,組織を指揮し,管理するためのマネジメントシステム」であり,マネジメントシステムとは,「方針および目標を定め,その目標を達成するためのシステム」であると定義されている.

NTT東日本関東病院のJCI再受審への取り組み―医療の質の向上を目指して

著者: 秋山剛 ,   金谷健生 ,   落合慈之

ページ範囲:P.45 - P.49

 NTT東日本関東病院は2011年に国際的な医療機能評価であるJCI認証を取得し,現在,2014年3月の再受審(更新)を目指して,取り組みを進めている.初回の受審も当院にとって大きなチャレンジであったが,JCI受審を,当院の医療の質の向上に結びつけられるか,再受審で私たちの努力の真価が問われると考えている.

 再受審については,
①初回の受審よりもJCIの要求水準がより高く設定されると想定する
②JCI基準を満たすための取り組みを,病院の日常的な活動にうまく織り込む形で,要求されている内容を達成する

の2点を念頭に対応を進めている.

The Joint Commissionの警鐘事象情報に学ぶ

著者: 青木貴哉 ,   浦松雅史 ,   相馬孝博

ページ範囲:P.50 - P.55

 わが国では1990年代から重大医療事故を機に医療安全への関心が高まり,各医療機関で様々な取り組みがなされてきた.また,第三者機関による医療施設の評価・認定においても,医療安全は重視され,日本医療機能評価機構も2006年から医療安全情報の提供を始めた.

 本稿では,米国の第三者評価認定機関であるThe Joint Commission(以下TJC)が提供する警鐘事象情報(Sentinel Event Alert,以下,SEA)をレビューし,日本医療機能評価機構の医療安全情報と併せて,今後わが国で注目すべき医療安全対策の動向を探った.

病院におけるTQMの実践と医療の質・病院の評価

著者: 副島秀久 ,   村中裕之 ,   田崎年晃

ページ範囲:P.56 - P.59

 当院では2002年にTQMセンターを設置し組織的な質管理に取り組み初め,少しずつ専任者を増やし,データを蓄積し,試行錯誤を繰り返しながら現在の体制に近づけてきた.近年,わが国でも医療の質に関心が高まり,従来,科の縦割り制や主治医の裁量権を盾に踏み込めなかった診療内容の適切性や妥当性の検証が,DPCやIT化によるデータ抽出が容易になることによって可能になりつつある.こうしたデータは公になり,施設間比較を通してベストプラクティスや医療の標準化を進め,より良い医療提供に繋がることが期待され,またこうした医療の透明性は社会的要請でもある.

グラフ インタビュー

日野原重明一〇一歳 語る

ページ範囲:P.1 - P.4

 2012年10月4日に101歳を迎えた日野原重明先生.医師となって約75年が過ぎるが,今なお現役で診療を行い,病院理事長として経営に携わるほか,各種団体の会長や理事長として驚異的なスケジュールをこなしている.

 本誌『病院』の創刊は約65年前の1949年であり,初代編集委員が当時,聖路加国際病院院長であった橋本寛敏先生であった.その頃,日野原先生は橋本院長の片腕として聖路加国際病院に勤務し,編集会議に一緒に来られたこともあったそうである.『病院』創刊号の表紙は聖路加国際病院の塔が飾っている.

 インタビューは誕生日直前の10月1日に行い,台風一過の澄みわたった空のもと,聖路加国際病院の中庭で撮影した.病院の敷地にはたくさんの木々が植えられ,日野原先生の企画・原案により音楽劇ともなった絵本『葉っぱのフレディ』(レオ・バスカーリア著)を思い起こさせる.日野原先生は季節ごとに移り変わる草木を見ながら,自然の息吹や命の摂理を感じるのだという.

連載 アーキテクチャー 第216回

足利赤十字病院

著者: 近藤彰宏

ページ範囲:P.8 - P.15

 足利赤十字病院は,栃木県の南西部,群馬県との県境に位置する足利市において,両毛地区80万人を対象とした地域の基幹病院として,その大きな役割を担っている.両毛地区11市町唯一の救命救急センターを備えており,その拡充とさらなる施設整備の必要性が求められる中,足利市より2003年に廃止となった足利競馬場跡地の20年間無償貸与の提案をうけ,移転新築に至った.

決算書類を読みこなす・1【新連載】

病院における会計と決算書類

著者: 牧健太郎

ページ範囲:P.60 - P.62

■連載にあたって

 今回から「決算書類を読みこなす」を連載させていただきます.私の事務所は医療機関のお客様が多く,病院経営に携わる方々と経営(特にお金に関する事項)に関する様々な意見交換を日々行っています.病院経営に関連するお金の情報は決算書類や月々の会計帳簿に表されていますが,これらの情報を正しく理解するためには,会計に関する正しい基礎知識を有していることが必要です.

 会計という学問は,各種の事業に関係する利害関係者の現実のニーズに基づき,長い時間をかけて多くの学者・実務者・行政執行者等が議論を重ねて構築されてきた実学であり,病院経営者の方々にとっても興味深い学問であると思います.本連載を通じて,病院経営に携わる方々の,会計に対する関心を高めることができれば大変嬉しく思います.

診療情報管理の最前線・3

北里大学病院・東病院での診療情報管理

著者: 荒井康夫

ページ範囲:P.63 - P.66

 学校法人北里研究所は,旧社団法人北里研究所と旧学校法人北里学園が2008年に統合し設置された法人である.北里研究所は1914年に北里柴三郎博士が創設し,1962年の創立50周年事業として学校法人北里学園が創立され,北里大学が設立されている.同法人には北里大学病院,北里大学東病院,北里研究所病院,北里研究所メディカルセンター病院の4病院があり,首都圏に合わせて2200床超の病床を有する.

 4病院は急性期入院医療を対象とした診療報酬の包括評価制度(以下,DPC/PDPS)の対象病院であるが,北里大学病院は制度施行年である2003年に指定を受け,他の3病院は2007年から2年間の準備病院を経て,2009年にそれぞれ指定を受けている.また,2012年には4病院の病院情報システムを同一ベンダーの電子カルテ・システムにリプレースし,現在,4病院間で電子カルテの相互参照や経営分析システムの統合化などの構築が進められている.本稿では,筆者が兼務する北里大学病院(以下,本病院)および北里大学東病院(以下,東病院)の診療情報管理について報告する.

医療管理会計学入門・10

原価計算の基礎と医療界での意義―経営情報マネジメントとしての管理会計①

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.67 - P.71

■原価計算の意義

 原価計算とは,特定の対象に対して収益および原価を集計し,その財務情報を各種目的のために活用する管理手法である.伝統的な慣用表現として「原価計算」と呼ばれているが,収益と原価の対応計算であり,損益計算である.また,単に計算対象に収益や原価を集計するだけでなく,その結果として算出された計算対象別の収益・費用・利益(財務情報)を,意思決定や業績管理などに活用することも当然含んでいる.日本の病院では活用されないままになっている場合もあるが,精度の悪さや現場の反発などから活用できないだけであり,当初から計算だけを目的として実施されているわけではない.

 計算対象としては,病院内の各部門注1)や多角化法人における各施設事業などの責任センター,さらにDPCやクリティカルパス,患者,部門内サービス(各種検査など)といったような,多様な次元のサービスが想定される.どのような責任センターやサービスが計算対象となるかは業種や当該組織の必要性などにより異なるが,基本的にこの2種類に分類できる.責任センター別の財務情報は予算管理などの責任センターマネジメントで活用される一方,サービス別の財務情報はサービス価値企画などのサービス提供プロセスのマネジメントで活用される.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・77

地域を繋ぎ“住み慣れた家への退院”を目指す

著者: 猿渡進平

ページ範囲:P.72 - P.75

 当院の患者の80%以上は急性期病院や回復期リハビリテーション病院からの紹介入院であり,平均年齢は85.2歳である.入職後,療養型病院のMSWとして退院支援を行ってきたが,家族や介護保険サービス事業所は長期入院を望み,多くの患者が望む在宅退院には介護保険サービスのみでは退院に結びつかないのが現状である.結果,長期入院,施設への入所を検討せざるを得ない状況が続いていた.

 そこで地域の連帯感を深めれば在宅への退院が可能ではないかと考え,平成19年から行政,地域住民と協働し高齢者が住み続けられる地域間の関係性の醸成を図り始めた.平成22年に地域福祉の向上を図るNPO法人しらかわの会を設立後,地域の高齢者の個別支援,誰もが利用できるサロンを立ち上げる.それに伴い退院支援にも多くの地域住民が関わることになり退院率も大幅に向上した.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・64

薬剤師ってなに?(前編)

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.76 - P.77

 医薬分業になって,調剤薬局が増えた.大きな病院も町の診療所も院内処方を行うところは姿を消し,病院の周囲には何軒もの調剤薬局が建ち並び,客引き?を行う.

 初めて病院にかかった患者にすれば,どの薬局を選べばいいか,判断の基準がない.結果として,とりあえず病院前の一番大きな薬局とか,駐車場のある薬局,はたまた美人の薬剤師さんが玄関で迎えてくれるような薬局に行ってしまう.しかし,大きな調剤薬局はチェーン店化しているところが多く,かかりつけ薬局にはなりにくい.人(薬剤師)がころころ入れ替わるからである.

リレーエッセイ 医療の現場から

MEDプレゼン─医療人のプレゼン力

著者: 秋山和宏

ページ範囲:P.79 - P.79

 私は消化器外科医としての勤務の傍ら,社会起業家として一般社団法人「チーム医療フォーラム」を運営している.当フォーラムは,チーム医療を通して日本の医療を元気にすることをMissionとし,3000件の草の根勉強会の設立と3万人の講師養成をVisionに掲げている.

 さらに,チーム医療に携わる医療人の祭典として,毎年秋にチーム医療推進全国会議を開催している.4年目となる2012年は,10月7日に日本科学未来館にてプレゼンテーションのイベント「MEDプレゼン2012」を行った.「MED」とは“Medical Entertainment Design”の頭文字で,世界的なプレゼンイベント「TEDカンファレンス」にあやかったものである.人の言葉には言霊が宿るという.医療人がそのような言霊を獲得する場を提供したいと考えている.登壇してくれたプレゼンテーターを表に示す.

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書評 紛争事例から得られた貴重な教訓が満載―長野 展久 著『医療事故の舞台裏 25のケースから学ぶ日常診療の心得』

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.28 - P.28

 この本は損害保険会社の顧問医師により書かれたものである.本書で記載されている25のケースはドキュメントファイルと呼ばれ,実際の医療紛争事例を臨場感あふれるドキュメンタリー風のケースシナリオにアレンジしたものであり,なぜ医療事故や訴訟に至ったのかが丁寧に解説されている.数多くの医療事故での紛争を観察した著者ならではのことであるが,賠償金の支払いを巡って医師側に責任があるのかないのかなどについてのポイントがわかりやすく記載されており,貴重な教訓が豊富にまとめられている.

 第一章では,診断での思い込みや見落としなどのピットフォール・バイアスによる診断エラーについてのケースファイルが収録されている.続く第二章では,患者さんや家族に対するインフォームドコンセントのあり方が問われたケースファイルが記載されている.そして第三章では,検査や治療のための医療手技に関連する事故についてのケースファイルが収録されており,CVカテーテルや内視鏡手技に伴う事故などで争われたものが集められている.

書籍紹介

ページ範囲:P.71 - P.71

次号予告/告知板

ページ範囲:P.80 - P.80

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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