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雑誌目次

雑誌文献

病院72巻12号

2013年12月発行

雑誌目次

特集 新たな専門医制度と病院

巻頭言

著者: 井伊雅子

ページ範囲:P.929 - P.929

 平成25(2013)年3月に「専門医の在り方に関する検討会」が終了し,最終報告書もまとまった.日本でも後期研修が必修化される時代がやってくる.専門医制度が生まれることを受けて,その新制度が実際にどのような成果を生み出していくかは,これからの日本の医療の質を決定づける重要な課題である.本特集では,新しくスタートする専門医制度のもとで,病院が後期研修医や看護師の養成に果たす役割を考察した.

 日本の専門医認定の特徴は,それぞれの学会が制度設計を行い専門医の認定を行うなど,統一基準がない点である.標準化された専門医研修(後期研修)が定められていないのである.専門医研修の内容と認定の基準は一般には公開されておらず,患者の立場からすると専門医療の質を担保しているとは言えない.また,専門医,認定医,標榜医などの名称が使われているが,患者にはわかりにくい.医療は極めて専門性の高いプロフェッショナルな世界だが,公正に評価して国民に伝える手段は現在まで確立していなかったのである.

新たな専門医制度の全体像と今後の課題

著者: 池田康夫

ページ範囲:P.930 - P.933

 平成25(2013)年3月に厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」の最終報告書が発表され,わが国の新しい専門医制度の概要が明らかになった.

 この検討会は平成23(2011)年10月に発足し,日本医学会,日本医師会,大学関係者,地方自治体等の医学・医療関係者の他,法律家や患者の立場を代表する方々が委員として毎月の検討会に参加した.合計17回におよぶ真摯な議論の結果,全委員の合意のもとに報告書がまとめられた.

 本稿ではその概要について解説するとともに,新たな専門医制度をスムーズに運用するに際しての課題についても述べてみたい.

病院における専門医の養成

著者: 堺常雄

ページ範囲:P.934 - P.937

 2013年4月に厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」が報告書をまとめた1).そのなかで中立的な第三者機関の必要性が明確に述べられており,病院の立場からも同感である.

 2004年4月に新医師臨床研修制度が創設されたが2),その設立の議論に参加した者として「初期研修の重要性はもちろんだが,その後の後期(専門医)研修を制度化することがさらに重要である」旨の発言をしたところ「初期研修は厚生労働省の管轄だが,後期研修は医師集団の専任事項であり厚生労働省は直接関与しない」と言われたのを覚えている.その後の医師の地域別・専門科別偏在が政治問題になり,今回の報告書に繋がったことを考えると,経緯はどうであれ結果としては評価でき,今後,この制度を整備・成熟させる必要性を強く感じている.

新たな内科系専門医制度の考え方と制度設計の現況

著者: 渡辺毅

ページ範囲:P.938 - P.943

■内科医におけるgeneralityとsubspecialtyの統合の必然性

 内科は,身体の内部(内臓)の異常を診療する経験的な学問体系として紀元前数千年から系統立てられ,現代医学の源流である古代ギリシアのヒポクラテスの教義の本質である「病状を正確に観察し記述する.病気よりも病人の現状を全体としてとらえ,将来の経過を正しく予知しようとする.環境条件が病気の発生や経過さらに人の体質気質に及ぼす影響を明らかにし,病気を自然現象として見る」という考え方は現在にも通用する.一方,外科学は外傷や腫瘍の治療技術として紀元前500年頃から発達してきた.臨床医学は,このような科学(science)と技術(art)を主体とする2つの潮流を受け継ぎ,診断と非手術的治療を内容とする内科系診療科と手術による治療学を基本とする外科系診療科に大別されて進歩してきた.

 近年の自然科学・技術の急速な進歩により,診療領域が各臓器・系統ごとの多くの領域に細分化されていった.外科学が比較的早期から臓器別に独立し,一般外科としては消化器外科などいくつかの領域が主体となったのと対照的に,内科は比較的最近まで統一性を保つ形で推移してきたのが特徴である.専門医制度にもこの歴史が反映され,脳神経外科,整形外科,泌尿器科,耳鼻咽喉科など多くの外科系の多くの臓器別専門医が基本領域に分類されるが,内科系の臓器別専門医はsubspecialty専門医(二段階目)となっている.このことは,現在の日本の専門医制度の制度的な複雑さの要因と考えられる.

日本脳神経外科学会の立場からみた専門医制度

著者: 鈴木倫保

ページ範囲:P.944 - P.950

■わが国の専門医制度

 学会の立場からの歴史的俯瞰

 本邦では,各学会がよりよい医師の育成を目指し,それぞれ独自の専門医制度を長年月掛けて作り上げてきた.しかし,その内容は必ずしも統一性が無く,各学会主導で様々な教育システムや評価基準による専門医・認定制度が制定され,乱立状態となる不幸な時期があった.

 そのような問題を解決すべく,1981年に学会認定制協議会が設立され,1986年には日本医師会,日本医学会,学会認定制協議会三者の協議会が発足して,専門医・認定医の在り方が検討されるようになった.1999年から脳神経外科は,「外科」の二階部分のsubspecialtyではなく,独自の基本的診療科として一階部分に位置付けられている.2001年,学会認定制協議会は専門医認定制協議会と改称され,懸案であった「専門医の広告」を基本的診療科から開始する予定であった.その後,厚生労働省はこれらの団体の動きを先取りする形で,9項目の「外形基準」を確認することで47学会における専門医の一般広告を承認してきた.2003年に専門医認定制協議会は日本専門医認定制機構となり,2008年には社団法人日本専門医制評価・認定機構と改称し,専門医の質を担保するために各学会に対して専門医制度の見直し・改善を求め,われわれもそれに対してプログラム制度の充実等,応えてきた歴史がある.

新たな専門医制度を踏まえた総合診療専門医の在り方と養成

著者: 草場鉄周 ,   丸山泉

ページ範囲:P.951 - P.957

 新たな専門医制度の到来は21世紀の日本の医療の在り方に大きな影響を与えると同時に,プライマリ・ケアの発展にも大きな道を開くものとなった,と後世の人からは評価されるのではないだろうか.なぜなら,日本の医療システムにおいて欠けていた大きなミッシングリンクこそがこの総合診療専門医であり,この30年間必要性が叫ばれたシステムがようやくここに始動するからである.この項ではその意義を概説しながら,日本プライマリ・ケア連合学会が抱く新たな専門医制度に対する期待,そしてそこで果たしうる総合診療専門医の在り方と育成について論じていきたい.

新たな専門医制度に関する日本医師会の考え方

著者: 小森貴

ページ範囲:P.958 - P.962

■専門医制度に関する日本医師会の考え方

 専門医制度の在り方については,厚生労働省の「専門医の在り方に関する検討会」が平成23(2011)年10月に設置され,17回の議論を経て,平成25(2013)年4月22日に報告書がまとめられた.専門医制度の改革は,将来の日本の医療提供体制に大きな影響を与えるものなので,日本医師会内でも頻回にわたり,真摯な議論を行ってきた.日本医師会の役員間で,理事会,打合会などで議論してきたことはもちろんであるし,都道府県医師会長協議会,代議員会でも繰り返し討議を行って,会内の一定の合意を得ていると考えている.多くの議論が積み重なってここに至っていることをご理解いただきたく,また,多くの有識者の方々の意見,ご指導に感謝申し上げたい.

 先の「専門医の在り方に関する検討会」のなかで,平成24(2012)年1月に日本医師会はヒアリングを行った.そこで日本医師会として基本的な考え方を示し,5項目にまとめて提示したが,あらためて確認したい(表1).

新たな専門医制度における大学病院の役割

著者: 石黒直樹 ,   植村和正

ページ範囲:P.963 - P.966

 専門医制度の大きな変換が行われようとしている.現在の問題点を要約すると,①各領域の学会が独自の方針で専門医制度を設け,運用してきた.現状に即している面もあるが,逆に専門医制度を設ける学会が乱立し,自身の都合で種々の専門医が生まれてしまうという点,②専門医の認定基準が統一されておらず,専門としている診療領域やその能力等が,国民から見て分かりにくい点の2つが指摘されている.

 これらの課題克服に向けた改革の内容が明らかとされている.今回の専門医制度規則の改定により,第三者機関によって専門医の認定に加え,専門医研修プログラムの評価・認定が行われることと,それに関わる基準(施設基準を含む)の作成が行われることとなった.

若手医師からみた専門医制度

著者: 孫大輔

ページ範囲:P.967 - P.970

 2017(平成29)年度から開始が検討されている新しい専門医制度では,これまで各学会が独自に専門医を認定し運用してきた形を改め,第三者機関が評価・認定を統一的に行い,専門医の質を高め,国民の視点にも立った開かれた専門医制度になることを目指している.また,育成される側(つまり若手医師)のキャリア形成支援も重視した制度となることが期待されている.

 筆者は卒後14年目の内科系医師であるが,初期臨床研修制度も始まっておらず,また専門医の位置付けもあいまいであった世代であり,当時からすると近年の研修や専門医に関する制度改革は画期的であると感じる.私の経歴は,一般内科研修を終え腎臓内科の専門研修を修めた後,卒後9年目から家庭医療・総合診療の後期研修プログラムに所属する形で研修を行い,現在に至るまで東京都市部のプライマリ・ケアに従事している.また昨年より大学教員として学生教育にも携わっている.保有する専門医資格は,日本内科学会総合内科専門医,日本腎臓学会腎臓内科専門医,日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医である.これまで大学病院や大規模市中病院の専門内科,また中小規模の市中病院や診療所でのプライマリ・ケア,在宅医療など様々なセッティングでの医療を経験してきた.このような立場から,今回の専門医制度に関する論点に関していくつか私見を述べてみたい.

総合診療専門医と協働するプライマリ・ケア診療所看護師の役割と教育

著者: 森山美知子 ,   松浦亜沙子

ページ範囲:P.971 - P.975

■プライマリ・ケア機能を担う総合診療専門医の必要性

 米国国立科学アカデミーは1996年に,プライマリ・ケアを「患者の抱える問題の大部分に対処でき,かつ継続的なパートナーシップを築き,家族及び地域という枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供される,総合性と受診のしやすさを特徴とするヘルスケアサービスである」と定義している1)

 慢性・進行性の疾患や障害を抱える患者の増加,患者を取り巻く家族や社会,ライフスタイルに関連が示唆される疾病の増加,そして複数の疾病を同時に抱える高齢者の増加などが進むわが国においても,プライマリ・ケア医(総合診療専門医)を地域医療の中心に位置付け,プライマリ・ケアを推進していくことが,わが国の抱える医療の構造的問題点を解決していく重要な鍵になると考える.そして,そこで協働する看護師の役割と能力を強化することが制度を成功に導くために重要である.

グラフ

HPHでみんなの健康づくりを実現する 千鳥橋病院

ページ範囲:P.913 - P.916

 博多港の近くに位置する千鳥橋病院は,2008年に日本初のHPH(Health Promoting Hospital)として認定を受けた病院である.

 HPHとは,その名のとおり健康増進活動拠点病院であり,千鳥橋病院では,患者はもちろんのこと,地域住民や職員など病院に関わるすべての人の健康づくりに取り組んでいる.

連載 アーキテクチャー 第227回

聖マリア病院 地域医療支援棟

著者: 南部谷真

ページ範囲:P.920 - P.926

■新棟建設の背景─病院全体の再編計画

 聖マリア病院の創設は1948年の井手医院の開院にさかのぼる.その後,1953年に聖マリア病院として本院がスタートした.60年を超える長い歴史の中で,時代の地域医療ニーズを捉えて,「新生児・小児救急医療センター」「循環器・産婦人科救急医療センター」「脳神経広域救急医療センター」など,個性ある独立した(センター化した)診療棟ごとに発展してきた独自の経緯がある.

 将来計画についてかねてより当病院の井手義雄理事長より助言を求められていた長澤泰教授(工学院大学副学長)の指導の下,2006年に病院全体の再編計画に着手した.今回の急性期機能を集約した「地域医療支援棟」(以下新棟)の建設は,病院全体を見直し,新たな構成(システムマスタープランに沿った建築計画)へ移行する節目となる.

世界病院史探訪・9

ライデンのペストハウス

著者: 石田純郎

ページ範囲:P.927 - P.928

 ヨーロッパでは西暦541年に疫病(plague)が流行したことが記録に残っているが,以後疫病の流行が繰り返された.後にペストと呼ばれるようになる,感染力が強く死亡率の高いこの伝染病は,ヨーロッパの人口を半減させ,文化や産業の停滞を招いた.11世紀の十字軍,14世紀のモンゴル軍による人の大量移動により,この疫病は猖獗を極めた.オランダでも流行し,アムステルダム,ウトレヒト,ライデン,ゴーダなどの都市外壁の外側に,16世紀から17世紀にかけてペストハウスが置かれた.

 修道院は病人や困窮者を収容し,それが19世紀に近代的な病院に専門分化した.院内感染を防ぐため,修道院の困窮者収容施設には,伝染病患者の入院は禁じられた.疫病患者を健常者から隔離するため,都市の外側にペストハウスが置かれた.人棄的施設である.

医療安全のこれから・5

メディカルコーチング―医療コミュニケーションの新たな技法と医療安全

著者: 小野眞史

ページ範囲:P.976 - P.981

コーチングとは

 コーチングの「コーチ」とは古くから英米語で客車や四輪馬車,競技者あるいはチームの指導者という意味で使われ,医療の現場では1950年代よりその名称を用いた報告が散見される.この言葉はわが国においては主にスポーツの領域において一般に広く用いられている.

 1980年代米国では,スポーツに限らず個人あるいは組織の目標(ゴール)達成を効率的に行うために,個人を対象としたパーソナルコーチング,個人あるいは組織,企業を対象としたビジネスコーチングが行われるようになった.また,より広い領域のクライアント(コーチを受ける人)に対しコーチングが行われるようになり,同時にコミュニケーションの技法として体系化され,教育するといった経過が認められた.その後1990年代になり,わが国においてもより広い分野で同様の技法の導入が開始された.

二次医療圏データベースの活用・3【最終回】

開発の経過と効果的に使いこなすコツ

著者: 高橋泰

ページ範囲:P.982 - P.984

 二次医療圏データベースについて,連載第1回ではデータ処理の流れの概要を,第2回では地図機能の活用方法を説明した.最終回の今回は,開発の経過と二次医療圏データベースを効果的に使いこなすコツを紹介する.

リレーエッセイ 医療の現場から

コーチレジ―オール高知で,高知の医療を盛り上げたい

著者: 菅健太郎

ページ範囲:P.987 - P.987

 コーチレジとは,高知県の医療を盛り上げるべく活動する,高知県内の初期臨床研修医を中心としたコミュニティです.活動内容は大きく①高知県に若手医師を集める,②高知県の人と人をつなぐ,③医療者のメンタルヘルスケアに力を入れる,の3つです.

 全国的に医師不足が叫ばれる昨今,高知県は人口に対する医師数が多いと言われてきました.しかし実際は若手医師数の減少,医師の高齢化,高知県内の中央部への集中といった現状がありました.広大な県域をもつ高知県,このままでは医療が崩壊してしまうのも時間の問題でした.

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投稿規定

ページ範囲:P.985 - P.986

次号予告/告知板

ページ範囲:P.988 - P.988

「病院」第72巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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