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雑誌目次

雑誌文献

病院72巻2号

2013年02月発行

雑誌目次

特集 医療の公益性とは─医療法人制度改革の現状

巻頭言

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.97 - P.97

 医療の非営利性,公益性については,「医業経営の非営利性等に関する検討会」報告書(2005年)などに集約されている.2006年の第5次医療法改正により,かつての「持分あり医療法人」は経過型となり,新たな法人の設立は「基金挙拠出型医療法人社団」「医療法人財団」等,持分の定めのない医療法人となった.さらに「医療の公益性」についても一定の基準が設けられ,この基準は「社会医療法人」の創設に繋がった.

 しかし,「持分の定めのある医療法人社団」は現在も医療法人の大多数を占めており,移行に伴う課税問題もあり,容易に基金拠出型や持分なしに移行できない.また,そもそも持分を放棄する気のない法人も数多く存在する.

【インタビュー】社会における医療と病院―岩井克人氏に聞く

著者: 岩井克人 ,   猪口雄二 ,   井伊雅子

ページ範囲:P.98 - P.103

 「公益」とは,社会全体の利益となるものを呼ぶ.したがって,医療の公益性を考えるに当たっては,社会において医療がどうあるべきかが重要となる.本特集の導入として,『貨幣論』や『会社はだれのものか』といった著書で知られる,経済学者の岩井克人氏に話を聞いた.

医療の非営利性・公益性について

著者: 田中滋

ページ範囲:P.105 - P.108

 医療にかかわる営利・非営利,さらには公益性をめぐる問題が世間で最も盛んに討議された時期は,小泉内閣の頃である.いわゆる新自由主義的な勢力が,当時の規制改革会議などを舞台に営利企業,取り分け株式会社の病院市場参入自由化推進論を積極的に唱えていた.そうした“市場経済原理主義”注1)に対抗して,厚生労働省に「これからの医業経営の在り方に関する検討会」1)(2001~2003年)および「医業経営の非営利性等に関する検討会」2)(2003~2005年)が設けられ,わが国における医業経営のあり方が正面から論じられた.そこでの関係者の精力的な議論の影響もあり,医業経営における非営利性の意義が広まっていった結果,株式会社病院開設論等が下火となる一方,公益性をも意識した社会医療法人制度創設につながっていった経緯はいまだ記憶に新しい.

 本稿では改めて医療をめぐる非営利性と公益性の考え方を整理して提示する.

公益事業から見た医療

著者: 高嶋裕一

ページ範囲:P.111 - P.115

 本稿は,「公益」とそれに関連する概念の腑分けを行い,これと医療との関係を考察することを狙いとしている.その手段として,「公益事業」と呼ばれる産業と医療の比較に重点を置く.

医療法人制度の現状と今後

著者: 小川貴夫

ページ範囲:P.117 - P.121

 医療法人制度については,戦後直後の医療機関の整備が不十分であった時代に,私人による医療機関の整備を促進することを目的として,1950年の医療法改正で創設された.これにより医療事業の経営主体が法人格を取得する途を開くことで,資金の集積が容易になり,民間医療機関の経営の困難が緩和されることとなった.その後,幾度かの改正を経て,現在の制度に至っている.中でも2006年の第5次医療法改正が最も大きな改革であったと言える.本稿では,2006年の医療法改正後の医療法人制度を踏まえながら,制度の現状や課題について整理する.

「持分なし医療法人」への移行の実際

著者: 川原丈貴

ページ範囲:P.122 - P.125

 2007年施行の第5次医療法改正において医療法人の持分に関する大きな改正が行われ,解散時の残余財産の帰属先が変更された.従来の持分あり医療法人の定款では,残余財産の帰属先は「払込済出資額に応じて分配するものとする」とされていたが,法改正により「国若しくは地方公共団体又は医療法人その他の医療を提供する者であって厚生労働省令で定めるもの」となった.それにより,2007年4月1日以降,持分あり医療法人は設立できなくなり,持分なし医療法人しか設立できなくなった.それ以前に設立された持分あり医療法人は「経過措置型医療法人」として位置づけられ,「当分の間」存続するものとされている.

 持分という出資による資金調達ができなくなったことから,新たな資金調達手段として基金制度が設けられた.同時に,公益性の高い医療法人として社会医療法人が創設された.

医療法人制度の変遷と課題

著者: 伊藤伸一

ページ範囲:P.128 - P.132

 昭和25(1950)年に医療法人制度が設立されて,すでに63年の歳月が経過してきた.医療法人制度発足の趣旨は「民間医療機関の資金の集積を容易にし,医療機関の経営に永続性を付与し,もって私人による医療機関の経営困難を緩和する」ことであった.終戦直後の混乱の中で,医療者が事業を継続するために心血を注いで創設した新たなこの制度は,その後の民間医療機関の発展を支え,世界に冠たるわが国の医療制度の基礎を築き上げてきたのは周知の事実である.

 そして,医療を取り巻く環境が大きく変化する中で,医療法人制度は細部の修正によって時代に適合した制度として,医療提供体制の一翼を担ってきた.しかし,平成18(2006)年の第5次医療法改正において,医療法人の主体であった持分を有する法人の新規設立が認められなくなり,さらにそれら法人が制度の本流からまったく外れてしまうような大幅な見直しが行われた.そのうえ,改正医療法の施行後も税制面での制度整備が進まず,持分なし法人への移行が困難であることが,医療現場に混乱を招いている.

コンサルタントから見た新医療法人制度―基金拠出型医療法人の検証

著者: 佐久間賢一

ページ範囲:P.133 - P.136

 新医療法人制度とは,2007年の第5次医療法改正によって誕生した社会医療法人と基金拠出型医療法人を指すものである.筆者は医業経営コンサルタントとして講演を行うことも多いが,特にこの新医療法人制度については重要なテーマであり,講演する機会が多い.本稿では,既設医療法人の多くを占める,出資持分の定めのある医療法人にとって,今後の動向に深く関係することになる基金拠出型医療法人について検証してみたいと思う.

グラフ

自然を通じた生きがいづくり 医療法人ふらて会 西野病院

ページ範囲:P.81 - P.84

 鮮やかな黄色の壁に,レンガの屋根.一見しただけでは,その建物が病院だとは気づかないかもしれない.その前に美しく手入れされた庭が広がっているとなると,なおさらだ.2003年の新病院建設にあたって,医療法人ふらて会の西野憲史理事長は「病院らしさ」を極力排した.それは,人が健やかに日々を送るための豊かな環境とは何かを,ずっと考えてきた結果である.

 「例えば今,競争社会によるストレスで様々な健康上の問題が起きていますが,それを解決するために薬を飲むのは違うと思うのです.自然とのふれ合いが,その回復には欠かせないと考えています」

連載 アーキテクチャー 第217回

あいちリハビリテーション病院

著者: 室殿一哉 ,   赤谷達哉

ページ範囲:P.88 - P.94

 あいちリハビリテーション病院は,愛知県の西三河地方にあり,三方を丘陵地に囲まれた西尾市内の田園地域の中にある.開設者である医療法人仁医会は市内で約35年前に開業した整形外科を主とするクリニックと,愛知県初の老人保健施設をはじめ訪問看護や地域包括支援センターなどの運営により,長年地域医療福祉に貢献している特定医療法人である.

 今回の施設整備は,県下において充足率が低い回復期リハビリテーションを主とする病院を新設して,超高齢社会における医療福祉連携の強化により,さらなる地域貢献を目的としている.

決算書類を読みこなす・2

決算書類の作成ルール

著者: 牧健太郎

ページ範囲:P.138 - P.142

■決算情報が表現する真実性

 決算書類(財務諸表)は,それを作成した法人等の実態を正しく表しているでしょうか.粉飾決算のように,意図的に虚偽の情報を記載した決算書類も存在しますが,私たちが通常目にする決算書類は作成主体の経済的実態を正しく表現していると考えられています.しかし,その決算書類が表現している情報の真実性は,絶対的真実性ではなく,相対的真実性に過ぎないということには留意しておく必要があります.その理由は次の3つです.

1.会計目的の違い

 会計目的は,歴史とともに変化します.

診療情報管理の最前線・4

大阪府立母子保健総合医療センター

著者: 枝光尚美

ページ範囲:P.143 - P.145

■病院概要

 大阪府立母子保健総合医療センターは大阪南部の泉北ニュータウンの緑多い公園に囲まれた閑静な地区に位置し,1981年10月に周産期小児の専門医療機関として開設された.病床数375床(NICU18床,ICU
8床,MFICU 9床含む),診療科目19科を有し,母体,胎児,新生児から小児に至る一貫した診療を提供できる体制を整備している.また,2009年よりDPC対象病院となり,同時期に電子カルテシステムを導入した.さらに,2014年には新たに手術棟が新設され,地域の重症小児患者の受け入れ体制が強化される予定である(表1).

医療管理会計学入門・11

医療界における原価計算の体系と発展・現状―経営情報マネジメントとしての管理会計②

著者: 荒井耕

ページ範囲:P.146 - P.150

■医療界での原価計算の体系

 前号で述べた原価計算の意義(目的)に対応するため,医療界には次元の異なる2種類の原価計算がある.すなわち,診療報酬設定などを目的とした一国医療提供システムを経営するための「共通原価計算」と,医療機関を経営管理するための「病院原価計算」である1).このことを認識せずに,共通原価計算として開発されてきた原価計算(次号で紹介)に対して,「病院での原価計算として不適切である」といった批判を聞くことがある.しかし,共通原価計算には病院原価計算とは異なる設計要件注1)があり,目的も異なる以上,この批判は的外れである.

 また,どちらの次元の原価計算にも,“原価計算観”とも言うべき,基本思考を異にする複数種類の原価計算があり,さらに同一の基本思考に立つ原価計算でも,その志向性には異なるものが見られる.こうした異なる種類の原価計算をしっかりと認識しない議論は不毛である.そこで今回は病院原価計算に絞ってその体系を明らかにし,建設的な議論の基礎を提供したい.なお,それぞれの原価計算観に基づいて志向性を有する各原価計算は,どのタイプが絶対的に優れているかというわけではないことを,あらかじめ指摘しておく.原価計算に対する実施者の期待によって,適切なタイプは異なるからである.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・78

MSWの求人・求職に思うこと

著者: 武内昶篤

ページ範囲:P.151 - P.153

筆者はMSWとして約20年,病院事務長として約20年勤務し,その後,病院を退職してから10年が過ぎた.いろいろなご縁から今も時々相談を受けることがある.その1つに,MSWの求人・求職がある.本稿では最近の相談事例を紹介しながら,感じたことを記してみたい.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・65

薬剤師ってなに?(後編)

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.154 - P.155

薬剤師さんに聞く「〈女も男も気になる〉50代からの薬の話」

 こんなタイトルの講座を開催しませんかと,わが町兵庫県西宮市の男女共同参画センターウェーブに提案したところ採択され,2012年11月10日(土)に講座を開催した.

 市民企画講座というのは,男女共同参画社会の形成促進のために,市民が企画・実施・運営する講座だ.表題は当初「男と女も~」だったが,「女も男も~」に変更できないかと依頼され,最終的に掲題のようになった.男女共同参画センターならではだが,それでよいと思っている.

リレーエッセイ 医療の現場から

ホースセラピーと出会って

著者: 齊藤純子

ページ範囲:P.159 - P.159

 ホースセラピーと出会って,もう15年が過ぎただろうか? ある日,東京から弁護士が訪ねてきて,「障害のある子たちが乗れる,安全な馬をつくってください」と依頼された.それまで夫と私は競馬界に長年いて,より速く走ることだけを馬に教えてきた.障害者乗馬というものがあることすら知らずにいたわけだが,現役を引退した馬にとって,これは第2の人生だ.私たちも同じ第2の人生を,馬と共に歩んでいこうと決めた.

 競走馬として生まれた馬を,障害者が安全に乗れるようにするのは大変なことだ.まずは走ることを我慢し,ただひたすら歩くことを教えた.そして1時間でも2時間でも,じっと同じところに立ち,狭い場所で辛抱する我慢強さを教え続けた.

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書評 不毛な医療訴訟を防ぎたいすべての関係者へ―ダグ・ヴォイチェサック,ジェームズ・W・サクストン,マギー・M・フィンケルスティーン(著)前田 正一(監訳),児玉 聡,高島 響子(訳)『ソーリー・ワークス! 医療紛争をなくすための共感の表明・情報開示・謝罪プログラム』

著者: 田中まゆみ

ページ範囲:P.109 - P.109

 2012年10月に日本脳炎予防接種後の急死例が大々的に報道された.このケースでもそうだが,医療事故には複雑な要因がからんでおり,過誤の有無,過誤が悪い結果(死亡・後遺症など)の唯一の原因であったのかなど,すぐには結論が出ないことが多い.しかし,被害者にとっては「予期しない悪い結果」の原因は,人為をまず疑うのは当然であろう.もし初期対応が不適切であると,加害者vs被害者の対立構図が生じ,訴訟に至ってしまう.

 しかし,医療訴訟に勝者はいない.信頼を裏切られた患者家族だけでなく,疑われたうえ「訴訟中は何もしゃべるな」と厳命される医療者もまた苦しむ.司法解剖がされたとしても,その結果は遺族にも医療者にも知らされることはないので,再発防止にも役立たない.最終的には医学的に医療過誤とは言えないという結論で終わることも多いが,それを「医療とは元々不確実で未熟なものであり,司法でそれを裁くには限界がある」というふうにではなく,「医療訴訟では患者側が勝つことは難しい」というように受け止められてしまう.

書評 本来の医療を取り戻すために:一日で学べる医療法学―大磯 義一郎,加治 一毅,山田 奈美恵(著)『医療法学入門』

著者: 渋谷健司

ページ範囲:P.126 - P.126

 昨今,医療訴訟や紛争のニュースを目にしない日はない.しかし,多くの医療従事者はそれらを人ごとだと思っているのではないか.実際,「法学」と聞くと,たちどころに拒否反応を起こす医療従事者も少なくないだろう.われわれは,ジョージ・クルーニー扮するTVドラマ『ER』の小児科医ダグ・ロスのように,「目の前の患者を救うためには法律など知ったことではない」というアウトロー的な行動に喝采を送る.医療訴訟,そして弁護士と聞くと,常に前例や判例を持ち出す理屈屋,医療過誤で儲ける悪徳野郎といったイメージが浮かぶ.医師兼弁護士などは資格試験オタクだ.しかし,この『医療法学入門』は,法学に対するそうした浅薄な先入観をいとも簡単に裏切ってくれる.

 医師であり,弁護士でもある著者らの医療従事者へのまなざしは,寄り添うように温かい.本書は,よくある判例の羅列や味気ない法律の条文の解説ではない.各章が明快なメッセージで統一されて書かれているので,上質のエッセイを読むかのごとくページが進む.序文にある著者らの決意表明が心地よい.増え続ける司法の介入に対して,「何よりも問題なのは,医学・医療の知識もなく,医療現場に対し何等の責任もとらない刑法学者等が空理空論で“正義”を振りかざしたこと」であり,「医療を扱う法学は実学でなければ」ならず,「医療を行う医師,医療を受ける患者という生身の人間から離れず,多数の制限下において現実に行われている医療現場から規範を形成する『医療法学』こそが必要」だと説く.

書籍紹介

ページ範囲:P.153 - P.153

投稿規定

ページ範囲:P.157 - P.158

次号予告/告知板

ページ範囲:P.160 - P.160

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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