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雑誌目次

雑誌文献

病院72巻4号

2013年04月発行

雑誌目次

特集 リビングウィルを考える

巻頭言

著者: 井伊雅子

ページ範囲:P.265 - P.265

 リビングウィルとは,終末期における自分の意思を事前に表明するルールである.2025年には高齢者人口がピークになり,特に一人暮らしの高齢者や認知症の高齢者の数が急増する.それに伴い,亡くなる高齢者の数も増加するが,現在の医療制度において,どこでどのように最期を迎えるかということは大きな問題になる.

 昨今,無用な延命措置は受けずに,納得し満足できる安らかな最期を迎えることに,日本人の多くが関心を持つようになっている.尊厳死は洋の東西を問わず,医療だけではなく,多くの分野にまたがる問題として捉えられてきた.

リビングウィルと法

著者: 樋口範雄

ページ範囲:P.266 - P.269

 厚生労働省は1987年以来,ほぼ5年ごとに終末期医療に関する意識調査を行い,それを検討する会議を設置してきた.最新のものは2008年の調査で,2010年12月にその報告書が出されている1).さらに2012年度中(2013年3月末まで)に新たな調査が行われることになっており,すでに調査が開始されている2)

 この調査の中には,リビングウィルに関する項目が毎回含まれている.それは次のような設問である3)

尊厳死のあり方―リビングウィルの法制化

著者: 岩尾總一郎

ページ範囲:P.270 - P.274

 尊厳死とは,不治かつ末期の病態になった時,自分の意思により無意味な延命措置を中止して自然の摂理に経過を任せ,人間としての尊厳を保ちながら死を迎えることである.自然死や満足死,平穏死と同義で,積極的な方法で死期を早める安楽死とは根本的に異なる.(社)日本尊厳死協会(以下,当協会)は,終末期の医療について意識のある間に自分の意思を表し,医療機関が受け入れることのできる「尊厳死の宣言書」(リビング・ウイル)を発行・登録管理している(表1).2012年末現在,約12万5000人が会員登録している.

 医療者に自分の意思を伝える「リビングウィル」のような事前指示書は,世界の多くの国々で法制化されている.米国では「Advance Directive」として州法に位置づけられており,人口の約41%,1億人以上が所持している.日本では法制化されていないため,まだまだ所持率が低い.当協会は,終末期医療における自己決定権を確立すること,すなわち,本人の意思に基づいて延命措置の中止を容認し,リビングウィルに従って医師が延命措置を中止しても免責される「尊厳死法」の制定を求めている.

“good death”とリビングウィル

著者: 会田薫子

ページ範囲:P.275 - P.279

 “good death”は日本語で言うならば「望ましい死」となろうか.終末期医療に関わる多くの研究課題がそうであるように,「望ましい死」を概念化する研究も,がん医療の分野で始まった.そして,終末期医療に関わる多くの研究がやはりそうであるように,“good death”の概念化の取り組みも英国や米国で開始され,日本に輸入された.

 英米では今や,“good death”の実現は,がんにおける緩和ケアの重要な目的の1つとされているだけでなく,がん以外の疾患や,外傷性を含めた急性期の患者の終末期医療においても,より良い患者ケアのための重要な目標(goal)の1つとして認識され,学会ガイドラインにも記載されている.例えば,米国集中治療医学会は2001年にまとめた終末期医療に関する学会勧告1)の冒頭で,「患者にとっての“good death”を実現することは臨床医の役割である」と記している.

事前指示をめぐる世界の状況と日本

著者: 岡村世里奈

ページ範囲:P.281 - P.285

 本稿では,事前指示をめぐる海外の状況について紹介してみたいと思う.ところで,日本では,終末期における自分の意思を事前に表明した指示書のことを「リビングウィル」(Living Will)と呼ぶことが多いが,海外では「事前指示(書)」(Advance Directives)と呼ぶのが一般的である.なぜなら,海外には終末期における自分の意思の実現を目指した指示書には様々な形があり,リビングウィルはそのうちの1つに過ぎないからである.そこで本稿でも海外の状況を説明する際の混乱を避けるため,「リビングウィル」ではなく「事前指示」という言葉を使っていきたいと思う.

Advance Care Planningへの取り組み

著者: 三浦久幸

ページ範囲:P.286 - P.289

 超高齢社会となり,要介護高齢者が増えるにつれ,高齢者への胃ろう栄養が問題とされるようになってきた.また,「尊厳死」「自然死」「平穏死」など,延命処置を受けない,あるいは中止までをも含む人生の最期のありようについての著書も多く出版されるようになった.

 今年になって,日本老年医学会では2001年に出した「高齢者の終末期の医療及びケア」に関する立場表明を10年ぶりに改訂し,この中で「年齢による差別に反対する」項目の論拠欄で,何らかの治療が患者本人の尊厳を損なったり苦痛を増大させたりする可能性がある時には,治療の差し控えや治療からの撤退も選択して考慮する必要があるとしている.同学会はさらに「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」を承認しているが,このプロセスの中で重要とされるのは,本人の意思確認の問題である.

患者の死と家族のケア―プライマリ・ケアの立場から

著者: 望月亮

ページ範囲:P.292 - P.296

 一般国民,および医師,看護職員,介護職員を対象に厚生労働省が行った2010年のアンケート調査「終末期医療に関する調査」1)によると,10.9%の一般国民は終末期に「自宅で最後まで療養したい」と考えており,自宅で療養して必要になれば医療機関などを利用したいという回答も含めれば,60%以上の国民が「自宅で療養したい」と考えている.一方,70%以上の医師も終末期患者の療養場所として,自宅を勧めたいと考えている.この背景としては,ホスピス病棟などがまだ少ない現状では,急性期病棟に終末期患者の受け入れが期待されているため,病棟の本来の役割が遂行できないという事情も推測される.

 このように国民,病院ともに終末期医療における在宅への期待は大きい一方で,60%以上の国民が「自宅で最後まで療養することは実現困難である」と考えている.その理由としては「介護してくれる家族に負担がかかる」(79.5%),「病状が急変したときが不安である」(54.1%),「往診してくれる医師がいない」(31.7%),「急変時にすぐに入院できるか不安である」(31.6%)などがある.

ベッドサイドに仏教がある風景―緩和ケアに参加した僧侶の経験から

著者: 長倉伯博

ページ範囲:P.297 - P.300

 この特集における私の役割は「医療と宗教」について論ずることだが,キリスト教や神道など他の宗教の方々とも親しくお付き合いさせてもらってはいるものの,宗教全般を通して見解を表明することは,宗教学者でもない身には力量を超えている.あくまで,縁あって医療の現場に出かけることになった地方の一僧侶の話とお断りしておくことをお許しいただきたい.

 僧侶が医療現場に存在する理由を想像しづらいと思うので,まず医療現場に関わることになった経緯から始めて,次に2つの看取りの事例と医学・看護教育における仏教との協働についての試みを紹介し,最後にリビングウィルについて考えを示したい.

グラフ

地域の透析医療を支える 医療法人衆和会 長崎腎病院

ページ範囲:P.249 - P.252

 「長崎市における透析医療の問題はへき地であること,そして独居の高齢者が多いことです」と医療法人衆和会の船越哲理事長は指摘する.長崎市は公共の交通手段が十分に整備されていない地域もあり,通いやすい場所で透析を受けられるかは,患者にとって生活上の大きな問題だ.しかしその一方で,広範囲にわたって透析施設を点在させるには,限られた医療資源では限界がある.

 衆和会でも人的要因から,市の南部に開設していた桜町病院と市の中心部にあった桜町クリニックを統合し,2011年に新病院が完成,長崎腎病院として新たにスタートした.

連載 アーキテクチャー 第219回

北海道整形外科記念病院

著者: 小川孝

ページ範囲:P.256 - P.261

 北海道整形外科記念病院は1978年の開院以来,北海道内全域から患者を受け入れる整形外科系の専門病院である.これまで医療の高度化に伴い増改築を重ねてきたが,病室の療養環境の改善,救急医療,高度医療,急性期医療を重点的に行うため今回の全面建替えに踏み切った.当初,建替えの敷地候補がいくつか上がったが,地域に根付いた病院であることから,現地での建替え計画となった.

世界病院史探訪・1【新連載】

スルタンが建てたモスクの病院

著者: 石田純郎

ページ範囲:P.263 - P.264

エディルネ(トルコ)

 ブルガリアとの国境の町,トルコ共和国のエディルネ(Edirne)は,14~15世紀の89年間,オスマン・トルコの首都が置かれた古都で,歴史ある個性的なモスクが多い.

 その1つが,町の防御壁の働きをする川の外側に置かれたモスクの病院「Comlex of Sultan Bayezid Ⅱ」である.バヤズィットⅡ世(1447-1512,1481年にオスマン・トルコ皇帝に即位)によって1488年に建てられ,1916年までモスク・病院・医学校として機能した.1652年には音楽療法が取り入れられ,眼病治療でも著名な病院であった.

アンケートが現場を変える―短期集中型業務改善・1【新連載】

新築移転への不安

著者: 阪本研一

ページ範囲:P.302 - P.304

■美濃市立美濃病院の再生

 美濃市立美濃病院(以下,当院)は,2003年6月に新築移転した(表).2004年度に開始された新臨床研修医制度の影響もあり,地域の医師不足が徐々に表面化していく中で,当院においても常勤医師数が移転時の15人から2005年には11人まで減員することとなった.特に産科医療については,移転1年後に常勤産婦人科医が欠員となり,撤退を余儀なくされた.

 また,経営面での問題もあった.移転年度に医業収支比率は82.4%,経常収益は4億8000万円の赤字決算となり,新病院は抜本的な経営改革の必要性に迫られたのである(図1,2).さらに2006年度の診療報酬改定は大幅なマイナス改定(全体-3.16%,本体-1.36%)となり,特に自治体病院においては2008年度決算で70.9%の病院が赤字決算となる,大変厳しい経営環境にあった.

診療情報管理の最前線・6

DPC病院にとっての診療情報管理士

著者: 藤森研司

ページ範囲:P.305 - P.308

 「診療情報管理」には多様な側面があるだろうが,DPCの拡大に伴って,その大きな目的の1つはDPCレセプトと適切な様式1の作成になったであろう.「最も医療資源を投入した傷病名」の確定はもちろんのこと,副傷病名や緊急入院の有無,分岐に係る医療行為の把握は,レセプトの質と病院収入に直結する.下世話ではあるが,診療情報管理のスキルが病院収入を相当に左右する時代になった.

 本稿では病院マネジメントとDPCにここ10年ほど関わってきた元・臨床医から見て,医療現場で働く診療情報管理士に期待することを多少の辛口も織り交ぜながら述べてみたい.あくまでもDPCに関連したことのみを述べるので,診療情報管理士の多彩な業務内容のすべてに言及したものではないことを,あらかじめお断りしておく.また,問題は診療情報管理士のみにあるのではなく,医師をはじめとする他職種にもあることは言わずもがなである.

医療ソーシャルワーカーの働きを検証する・80

【最終回記念対談】病院の社会的責任と医療ソーシャルワーク

著者: 炭谷茂 ,   村上須賀子

ページ範囲:P.310 - P.316

 医療ソーシャルワーカー(MSW)の機能・役割を示しながら,MSWによる患者支援は,患者・家族にとっても病院にとっても有益なものとなることを,本連載では様々な実践事例を通して報告してきた.また,本連載を編みなおして『医療ソーシャルワーカーの力』(編著,日本医療ソーシャルワーク学会発行,医学書院販売,2012)として書籍を刊行した.第80回を区切りとして本連載をしめくくるにあたり,済生会理事長の炭谷茂氏に,連載監修者である村上須賀子氏が話を聞いた.

決算書類を読みこなす・4

経営分析(後編)

著者: 牧健太郎

ページ範囲:P.317 - P.321

■始まりは情報収集

 今回は院内に存在する様々な情報を使った分析手法を紹介します.患者単価や病床稼働率といった,皆さんにとって馴染み深い分析指標もその1つです.ここでは,今まで自院で経営分析を行っていないケースを想定して,分析に必要な情報を集めることから始めてみましょう.

 経営分析に必要となる主なデータとデータソースを表1にまとめます.これらのデータを活用して基本的な分析は行われます.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・67

在宅ホスピスケアを伝える―②絵本の完成から配布へ

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.322 - P.323

子どもに本物を残す

 なぜ,低年齢層に「死」や「在宅での看取り」を伝えようとするのか.理由は単純であり,僕が16歳と22歳の息子2人とともに,妻の看取りをしたからだ.息子たちにすれば,そんな年齢で母との別れに向き合うというのはつらすぎる経験だっただろう.しかし,かかりつけ医が訪問診療を断り,他の医者や訪問看護師を紹介してくれることもなかったため,家族が力を合わせるより道がなかったのだ.

 今思えば,そこで体験した精神世界こそ,妻が息子たちに残した,かけがえのない遺産だったのだ.前回,『いびらのすむ家』のラストで子どもたちがお母さんの死に装束として「普段着」を選んだことにふれたが,実際に息子たちがそうしたのも,この遺産に動かされた結果だと僕は考える.そんな発想は大人にはない.そして,この遺産は後世に残さないといけないと思った.それも,どういうわけか大人たちにではなく,子どもたちに残そうと思った.そこで浮上してきたのが,媒体を「絵本」にするという構想だ.

リレーエッセイ 医療の現場から

医師事務作業補助者の役割

著者: 藤原典子

ページ範囲:P.327 - P.327

 現職に就く前,私は医事や診療情報管理の仕事をしていました.多忙で走り回る医師のタイミングを見計らい,書類や退院時サマリーの依頼・催促をするのは,医師の忙しさを十分承知しているがゆえに非常に心苦しい仕事でした.さらに病院の風土も,こうした仕事は医師がやるものと線引きをしてしまっている状態でした.

 しかし,2007年に「医師及び医療関係職と事務職員との間等での役割分担の推進」(医政発第228001号)が発出され,「一定の条件下で,医師に代わって事務職員が記載等を代行することも可能である」といった内容が示されました.そして2008年の診療報酬改定では「医師事務作業補助体制加算」が新設され,私は2009年に医師事務作業補助部門である医療クラーク室に配属されました.

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書評 事典としての有用性を超えた,読み応えのある書―泉 孝英(編)『日本近現代医学人名事典【1868-2011】』

著者: 猪飼周平

ページ範囲:P.290 - P.290

 本書は,呼吸器内科を専門とする医学者が14年にわたり,明治期以降日本の近代医学・医療の発展に貢献した3762名(物故者)の履歴を調べあげた成果である.評者のように,明治期以降の医業関係誌を参照する機会の多い者にとっては,このように便利かつ確度の高いレファレンスが完成したことは,大変喜ばしいことであり,そのありがたみは今後随所で感じられることになるであろう.編者の長年のご苦労に感謝したい.

 とはいえ,本書を単に事典として理解するとすれば,書評の対象とする必要はないかもしれない.そこで以下では,本書を約800ページの読物と解してその意義を考えてみたい.

書評 医療事故を防ぎ,備える手がかりを与えてくれる本―長野 展久(著)『医療事故の舞台裏 25のケースから学ぶ日常診療の心得』

著者: 大野喜久郎

ページ範囲:P.324 - P.324

 病気を治そうとして,不幸にも医療事故が起こった場合,医師は診療結果に失望し,同時に患者さんや家族との信頼関係が損なわれると,クレームの嵐に晒されることになる.一流の名医と言われる医師でも,人間である限り,医療事故は免れない.そうならないような備えと,起こった時にどうするかが重要であり,本書はそのための手がかりを与えてくれる.

 まず,本書の「はじめに」を読むと,著者が本書を著した意図がよくわかる.医学や医療の問題に深く切り込み,医師および患者の心理学,救急診断学に必要な医学的知識,そして救急診療のヒントなどが読みやすく書かれており,このような本は今までなかったように思う.著者のこれまでの経験に基づく優れた洞察力による研究書でもある.医師側および患者側の両者にとって不幸な事例に対し,何が問題であったのかを丁寧に解説し,同じことが起きないようにとの温かい配慮がなされている.これは著者自身の医師としての長い経験と多くの医療事故の分析に裏打ちされていることによるものと思う.日常診療において研修医だけでなく,経験を積んだ医師も気をつけなければならないことが書かれている.そして,時間外当直,あるいは救急患者の診療には恐ろしい落とし穴がいくつもあるように感じる方も多いと思う.確かに,思い込みや忙しさからのミスは起こりうるので,いつも念頭に置く必要がある.

投稿規定

ページ範囲:P.325 - P.326

次号予告/告知板

ページ範囲:P.328 - P.328

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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