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文献詳細

雑誌文献

病院72巻4号

2013年04月発行

文献概要

特集 リビングウィルを考える

リビングウィルと法

著者: 樋口範雄1

所属機関: 1東京大学法学部・大学院法学政治学研究科

ページ範囲:P.266 - P.269

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 厚生労働省は1987年以来,ほぼ5年ごとに終末期医療に関する意識調査を行い,それを検討する会議を設置してきた.最新のものは2008年の調査で,2010年12月にその報告書が出されている1).さらに2012年度中(2013年3月末まで)に新たな調査が行われることになっており,すでに調査が開始されている2)

 この調査の中には,リビングウィルに関する項目が毎回含まれている.それは次のような設問である3)

参考文献

1)この報告書を含め終末期医療に関する諸問題については,樋口範雄(編):ケーススタディ―生命倫理と法 第2版,有斐閣,2012のp60以下およびp80以下が詳しい.
2)厚生労働省:第1回終末期医療に関する意識調査等検討会,2012年12月27日 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002sarw.html
3)厚生労働省:終末期医療のあり方に関する懇談会報告書,2010年12月17日 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000yp23.html
4)Kapp MB:The Nursing Home as Part of the POLST Paradigm.(October 5, 2012) at 20-21. 36 Hamline Law Review, Symposium Edition 2013 Forthcoming; FSU College of Law, Public Law Research Paper No. 609.  http://ssrn.com/abstract=2157497
5)日本の民法では代理権の消滅事由として本人の死亡はあるが,本人の判断能力喪失は明記されていない.だが,アメリカの代理法では,本人の判断能力喪失は必ず代理権を消滅させる.アメリカの代理法は,本人が代理人に指示して,まさに本人の手足として働かせるための法的制度だからである.本人は自分の指示をいつでも変更できる(指示の変更にいつでも代理人は従う)のが原則であり,それはたとえ当事者がそれと異なる合意をしても(例えばこの指示は1年間は変更しないという合意をしても)なお可能とされる.ところが,意識不明や植物状態の本人にはそれができない.したがって,通常の代理法では,本人の判断能力喪失と同時に代理関係終了となる.詳細は樋口範雄:アメリカ代理法,弘文堂,2002を参照.
6)この点では,有名なカレン・クインラン事件の裁判がアメリカ中の関心を集めたことが大きい.In re Quinlan, 355 A.2d 647(1976)
7)前掲6)のカレン・クインラン事件も,刑事裁判ではなく,父親が植物状態に陥った娘の人工呼吸器を外す権限を有する後見人に選任してほしいという形で訴えが提起された.筋弛緩剤を投与するような積極的安楽死は別として,それ以外の場面では,アメリカでは終末期医療のあり方が刑事裁判になることはないと考えられている.さらに,オレゴン州などごく少数の州では,厳しい要件の下ではあるが,楽に死ねる薬を医師が処方する形での尊厳死(physician assisted suicide)を認めるところがある.
8)その問題点は,マーシャ・ギャリソン:自己決定権を飼い慣らすために―自己決定権再考(前掲1のp382以下)でも指摘されている.
9)以下の記述は,前掲4),p22以下による.
10)前掲4),p2より,Zweig SC,et al:The Physician's Role in Patients' Nursing Home Care.JAMA 306(13):1468-1478,2011およびMitchell SL,et al:A National Study of the Location of Death for Older Persons With Dementia.J Am Geriatr Soc 53(2):299-305,2005
11)Patient Self-Determination Act,Pub. L. No.101-508,Title IV,§§ 4206,4751,1991
12)Standley C,Liang BA:Addressing Inappropriate Care Provision at the End-of-Life:A Policy Proposal for Hospitals.Mich St U J Med & L 15:137-176,2010,p137,147
13)前掲4),p29.例としてミネソタ州法,Minn. Stat. Ann. § 145B.06 (West).これらの法律が,延命治療を中止したからではなく,続けた時の免責を定めている点に留意すべきである.また,この場合の免責は,刑事責任ではなく民事責任を想定している.
14)前掲4),pp15-17.アメリカの終末期医療に関する文献では,一般に患者本人の自己決定だけが強調されているが,医療現場ではこのように家族の存在も大きいことを示す点で貴重な指摘である.
15)もっとも,何事も州ごとに異なるアメリカでは,所によって呼び方も異なる.POLSTの概要について知るには,Pope TM,Hexum M:Legal Briefing:POLST:Physician Orders for Life-Sustaining Treatment.J Clin Ethics 23(4):353-376,2012が便宜である. http://ssrn.com/abstract=2198573
16)詳しくは,http://www.ohsu.edu/polst/を参照.なお,このような動きは,読売新聞:医療ルネサンス―米国の胃ろう事情,2012年9月26日(15面)でも紹介されている.
17)日本尊厳死協会:リビング・ウイル 148:4,2013
18)樋口範雄:高齢期の終末期医療と法のかたち.Geriatric Medicine 50(12):1395-1397, 2012を参照.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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