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雑誌目次

雑誌文献

病院72巻7号

2013年07月発行

雑誌目次

特集 病院の経営統合

巻頭言

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.513 - P.513

 近年,中小規模を中心に病院数は減り続けており,その原因として,廃止,診療所化,倒産などが挙げられる.一方では,吸収,合併などの経営統合による病院のグループ化が広がっている.

 病院のM&A(合併,買収)というと,経営の行き詰まり,継承者不在,そして悪徳ブローカーの存在など,負のイメージが強い.しかし,様々な方法で経営を統合しグループ化することは,資金調達力の強化,経営の効率化,人材の育成と供給など,多くの利点も存在する.今後さらに厳しくなると予想される病院の経営を考えると,経営統合の推進は避けられない道ではないだろうか.

経済学におけるM&A

著者: 宮島英昭

ページ範囲:P.514 - P.519

■M&Aと日本経済

 M&A(Merger and Acquisition:合併・買収)が日本経済において存在感を高めたのは,図の通り1999年からである.それ以前のバブル期(1986~1990年)にも小さなブームがあったが,この時期の国内企業間のM&A(IN-IN)は限定されており,中心はもっぱら海外企業を対象とするM&A(IN-OUT)であった.三菱地所によるロックフェラービルの買収や,松下電器(現,パナソニック)による大手エンターテイメントMCIの買収が著名である.

 その後,M&Aはいったん停滞した後,1999年からIN-IN,IN-OUT,さらに,海外企業による国内企業の買収OUT-INが並行して増加した.M&A件数の増加は2003年頃までは比較的緩慢であったが,株価が上昇した2004年から急増し,戦後初のはっきりとしたM&Aのブームを迎えた.レコフ社の集計によれば,ピークの2006年は2,775件,金額は約15兆円でGDPの約3%に達した.

病院の経営統合―合併・再編成等に関する調査をもとに

ページ範囲:P.520 - P.524

 当社は平成23(2011)年度に厚生労働省から医療施設経営安定化推進事業「近年行われた病院の合併・再編成等に係る調査研究」を受託し,民間病院(医療法人・個人立病院)を中心に経営統合(合併・グループ経営等)事例を調査した.

 民間病院は全病院施設数の56%を占めるが,99床以下では83%,100~199床では76%と小規模病院が多いことが特徴である.また,公立病院や公的病院では一般急性期医療の提供が中心であるのに対し,療養型やケアミックス型病院が過半を占める点も民間病院の特徴の1つである.

病院の再生と統合―現状と今後の課題

著者: 翁百合

ページ範囲:P.525 - P.530

 2013年3月末で中小企業金融円滑化法が終了となり,中小企業や病院,学校法人などの事業再生は待ったなしの状況となっている.

 本稿では,まず事業再生(私的整理)のエッセンスと成功の鍵について整理し,病院再生が企業再生とほとんど同じ考え方で行われることを指摘する.

公立・公的病院の統廃合の実態

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.532 - P.537

■公立・公的病院再編の必要性

 全国の公立・公的病院で,病院再編の動きが起きている.その大きな原因となったのは,医師不足である.2006年の新臨床研修医制度を契機として若手・中堅医師の勤務先が流動化した.図1は,病床規模別1病院100床当たり常勤換算医師数の推移であるが,400床以上の病院で医師数が増加し,300床以下の病院のほとんどが医師数は増加していないことがわかる.

 医療が,高度・専門化していく中で,時代に対応した医療を提供していくためには,病院も一定の規模が必要となっている.診療を行う医師にとっても,医師の多い病院であることで宿直等の負担が軽減し,救急等の対応にも余裕が生まれる.病院の規模が大きくなることで,研修機能を充実しやすくなる.特に,若い医師にとって,勤務先の重要な条件になっている専門医資格の取れる教育施設の体制を取りやすくなる.病院経営にとっても,病院の規模を拡大し,医師が集まることで,収益が向上することが期待できる.

病院M&Aの実際

著者: 谷口慎太郎

ページ範囲:P.538 - P.541

■全体的なトレンド

 昨今,事業会社における後継者問題が叫ばれて久しいが,この問題は医療業界(病院や診療所)においてより顕著だ.診療分野の専門化・細分化が進められている昨今においては,病院や診療所の承継は容易でなくなってきている.また,2009年12月に民主党政権下において施行された金融円滑化法が今年(2013年)の3月で終了を迎え,ここ数年目立たなくなった「病院再生」といった問題も今後は多く顕在化してくるであろうと言われている.これに診療報酬の引き下げが追い打ちを掛けるようなことになれば「先行き不安」といった状況もあわせて病院M&Aの需要は一気に増えると考えられている.

 昨今の病院M&Aを巡る状況をみてみると,相談件数は2~3年前に比べるとかなり増えている.5年ほど前は病院のM&Aは年に1,2件程度であったが,2012年を境に相談件数が大きく増えてきた.この年は団塊の世代が65歳を迎え始める年,「2012年問題」と言われた年であり,分岐点であったように思われる.現在は,当社で病院M&Aのセミナーを全国で開催すると,全国で700人の参加申込があるほどだ(2012年実績).

海外の医療事業体の成長戦略とM&A

著者: 松山幸弘

ページ範囲:P.552 - P.555

 医療が21世紀の世界経済成長のエンジンであることは衆目の一致するところである.再生医療をはじめとする革新的医療技術により新たな医療サービスが登場していることに加え,中国,東南アジア,中東,アフリカなど欧米先進諸国以外の国々でも医療提供体制整備のための投資が高水準で続くからである.本稿では,その担い手である医療事業体のM&A海外事情を伝える.なお,病院M&Aという用語を使わないのは,海外でニュースになっているM&Aでは複数の医療施設群を経営する医療事業体間のM&Aが主流だからである.

【事例】

病院経営統合・グループ化の意義と理念

著者: 古城資久

ページ範囲:P.542 - P.545

■伯鳳会グループ病院経営統合の歩み

 われわれ伯鳳会グループの中心である医療法人伯鳳会は,1960年兵庫県赤穂市にて先代の古城猛彦が19床の有床診療所,古城外科医院を開設したことを起こりとする.その後64床の個人病院とし,1970年より医療法人化した.2001年先代の死去により,長男である私が理事長に就任した.当時の売り上げ規模は53億円,265床のケアミックス病院,70床の介護老人保健施設,訪問看護ステーションが事業の全てであった.

 2004年,日本経済新聞が行った病院経営充実度ランキングで全国2位にランキングされ,自信をつけて日本医療福祉経営審査機構の格付けを受けたが,意外にもBBB+の格付けに留まった.経営審査機構の審査官によると,「この経営規模ではこれ以上の格付けは付かない」とのことであった.

民間病院の統合と独法化―桑名市総合医療センターの地域中核病院の実現への歩み

著者: 足立幸彦 ,   松本正人 ,   郡三千男

ページ範囲:P.547 - P.551

 桑名市民病院(現桑名西医療センター)では,足立が院長に着任した2006年1)以来7年間にわたって,老朽化と共に療養型病院化し,赤字の膨らみつつあった市民病院の再生に取り組んできた.具体的には,一部適用から全部適用,さらに地方独立行政法人への移行,また2民間病院との経営統合を行って,職員の意識改革・経営改善と共に二次医療自己完結型の新しい地域中核病院建設の実現へと歩を進めてきている.本稿では,現在までの経緯を,時系列を踏まえながら紹介する.

グラフ

摂食・嚥下機能の支援

ページ範囲:P.497 - P.500

 摂食・嚥下機能を適切に評価し,適切なリハビリテーションや食事支援を行うことによって,「食べる楽しみ」を取り戻せる患者は多数いる.

 本稿では,大阪大学歯学部附属病院顎口腔機能治療部外来医長の野原幹司氏(歯科医師)らによる摂食・嚥下外来と,歯科クリニックと連携した訪問診療,ならびに野原氏が理事・プランナーを務めるNPO法人摂食介護支援プロジェクト主催の嚥下研修の様子を紹介する.

連載 アーキテクチャー 第222回

群馬病院

著者: 郡明宏 ,   高野信

ページ範囲:P.504 - P.510

 群馬病院(特定医療法人群馬会)は,1962年に開設した群馬県高崎市の郊外に位置する465床の精神科病院である.

 既存施設の老朽化,狭隘化を改善するため建替を判断したものであり,第1期として外来・病棟を中心とした新館を建設.第2期として既存病棟等の建物を解体・改修し,各棟を渡り廊下で接続.解体後の空地はイングリッシュガーデンを中心とした庭の整備を行った.

世界病院史探訪・4

教会に隣接したスペイン・ポルトガルのHospital

著者: 石田純郎

ページ範囲:P.511 - P.512

 日本最初の西洋式のHospitalは大分にあった府内病院である.ポルトガル人商人でイエズス会の宣教師,そして外科医でもあったアルメイダ(Luis de Almeida,1525~1583)が,1557年に豊後府中(現・大分市)に領主・大友義鎮(宗麟)の庇護を受けて設立した病院である.1555年にまず育児院が,1557年にHospitalが,教会(デウス堂)に隣接して建てられた.この施設は1586年に島津軍が大友氏を破って,府内を占領した際に焼失した.その後のキリスト教弾圧により日本には史料が残されていない.

 当時,長崎にもHospitalは建てられていたようで,「HOSPITAL」の銘のある洋鐘が残されている。長崎にあったサンチャゴ病院の銅鐘で,現在は大分県竹田市立歴史資料館に国指定重要文化財として保存されている(サンチャゴの鐘、所有者は中川神社).

病院機能分析の実際・1【新連載】

地域患者シェアと診療圏分析

著者: 森脇睦子 ,   伏見清秀

ページ範囲:P.564 - P.567

 患者ニーズに応じた病院・病床機能の役割分担や,医療機関間,医療と介護の間の連携強化を通じた効果的・効率的な医療サービス提供体制を構築するため,2025年に向けて入院医療の機能分化が進められている.各病院は,地域医療における役割を見極め,どう生き残っていくかその方向性と方針を決定しなくてはならない.

 近年,DPC・レセプトデータにより医療の質や効率的な医療提供に関する多くの分析が行われ,その結果は,病院の今後の方向性や方針を決定する判断材料として重要な役割を果たす.

診療情報管理の最前線・9

学校教育と病院の診療情報管理士に対するニーズ

著者: 安孫子かおり

ページ範囲:P.569 - P.572

■日本の診療情報管理教育

 診療情報管理教育は1964年から厚生省病院管理研究所(現・国立保健医療科学院)に病歴管理専攻科が開設されたことに始まる1).1972年には,日本病院協会(現・一般社団法人日本病院会)による2年間の診療情報管理士通信教育が開始されている.1980年代より,認定大学校,専門学校における教育も充実が図られ,2013年1月18日現在,診療情報管理士認定試験受験指定校となっている認定大学は24校,専門学校は50校で,北海道から沖縄まで全国各地に診療情報管理士の教育校が立ち上がっている.

 また,日本病院会の指定大学には,看護大学や薬科大学も含まれていることから,診療情報管理士教育は,すでに事務系の職員だけではなく,他職種からも興味をもたれる資格に変化を遂げていることがうかがえる.資格認定について,学校教育では,必要単位を取得することにより認定試験の受験資格が得られ,認定試験合格と学校卒業をもって,晴れて資格取得が認められる.

アンケートが現場を変える 短期集中型業務改善・4

業務改善策の作成

著者: 阪本研一

ページ範囲:P.573 - P.575

 前回で述べたように,アンケートにより職員の大多数が新病院への移転を前にして,業務改善の必要性を強く感じていることが確認された. 721種875意見にも及ぶ,ある意味“雑多なる生の声”が寄せられたわけだが,この声をいかにして短期間で効果的な業務改善に繋げるかが,次のステップでの課題となる.

 まずは,回収した“生の声”について,それぞれが内包する問題点を1つひとつ的確に読み取り,これを文章化していった.そして,これらを①業務プロセス(各部門・病院全体の仕事のやり方の問題),②意識改革(主に個人の意識の問題),③人員配備(管理部門の検討課題),④経営管理(管理部門の検討課題),⑤接遇(個人・病院全体の対患者姿勢),⑥教育(教育システムの検討課題),⑦その他,の7つに大分類したのは,表在化した課題の性格によって取り組み方や改善に要する時間が異なるということもあるが,移転まで残された短期間で解決すべきテーマを抽出したかったことが一番の理由である.

日本発の外国人患者対応認証・1【新連載】

医療の国際化とJMIP認証

著者: 真野俊樹

ページ範囲:P.576 - P.578

■JMIP認証の発足

 民主党政権の時代に新成長戦略として,国家で医療を盛り上げていこうという動きが起きた.紆余曲折はあったが自民党政権においてもその流れは継続している.特に自民党政権になってからは,医療の輸出といった側面も強調され,厚生労働省内に健康・医療戦略厚生労働省推進本部を置くなど医療の競争力強化の視点が強くなっている.

 このうち,国内における外国人対応強化の視点で,厚生労働省としては,第三者機関を公募し,外国人患者受入れに資する医療機関認証制度を開始した.これがJMIP(Japan Medical Service Accreditation for International Patients;外国人患者受入れ医療機関認証制度)である.この制度は,ビジネスや観光などで来日した外国人や,日本に在住する外国人が,安心して医療機関を受診できる環境を整備するためのもので,外国人患者受入れに資する医療機関認証制度整備のための支援事業が実施されている.筆者は,厚生労働省支援事業である「外国人患者受入れに資する医療機関認証制度推進協議会」の委員長を1年間務めた(今年度も継続)ので,その経験も踏まえて報告したい.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・70

患者はなぜ医者を「先生」と呼ぶのか?―アンバランス上のかけひき

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.580 - P.581

 「日本ホスピス・在宅ケア研究会」というNPO法人がある.医者だけの集まりではなく,市民を巻き込んで色んな角度から医療を考えようとする会であり,焦点とするのは名称の通り「ホスピスケア」である.

 この研究会では普段から介護福祉部会や患者部会など様々な部会が活動しているが,年に一度全国大会があり,数千人もの人々が一堂に会する.この全国大会には1つのルールが設けられていて,破ると1回100円の反則金を払う.そのルールとは,「医者を先生と呼ばない」ことなのである.

リレーエッセイ 医療の現場から

医療通訳サービスを志して

著者: 鄭君

ページ範囲:P.583 - P.583

 13年前,名古屋で日本語の勉強とアルバイトをしながら,忙しい日々を送っていた頃の出来事である.疲労が頂点に達したのであろう.目覚めたものの,朝から冷や汗が止まらず,喉が痛く,全身が激しく痛み,いてもたってもいられなかった.

 日本語学校寮内の仲間に病院に連れて行ってもらおうと思案したが,あいにく誰も見当たらなかった.

特別記事

全館停電訓練による徹底検証

著者: 田丸寿一

ページ範囲:P.556 - P.562

 医療機関には様々な医療機器や設備があり,電力の安定供給は欠かせない.当院は旧館時代も含めると35年間,受電・変電設備の保守点検において計画的な停電による検証を行ってきた.当該点検は電気事業法に定める電力会社との保安規定に基づき実施している.大切な患者の生命を預かる病院としての大事な設備の法定点検の1つである.

 東日本大震災を契機に,病院においても電気の安定供給の重要性が再認識された.当院は大阪府災害拠点病院や大阪府ドクターヘリ患者搬送先医療機関に指定されている.災害時は院内患者のみならず多くの災害弱者を受け入れる責務がある.

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書評 類まれな,近現代医学の歴史教科書としても優れた書―泉 孝英(編)『日本近現代医学人名事典【1868-2011】』

著者: 早石修

ページ範囲:P.563 - P.563

 本書は,1868(明治元)年3月に明治政府が欧米医学を公式に採用して以来,2011(平成23)年末までに物故された医療関係者で,特にわが国の医学・医療の発展に貢献された3762人を選んで,物語風に記録されたユニークな人名事典であります.何分にも膨大な内容であり,私自身,生化学という限られた基礎医学が専攻分野なので,医学・医療全体の問題を議論したり,評価することには必ずしも適任ではありません.それでもまず本書を通読して,最も重要な“人選”が極めて公正で妥当であるという印象を受けました.

 次に個々の記載について,個人的に親しかった方々について詳しく調べました.いずれも概ね正確な情報に基づいており,しかも専門的な記述以外に本人の性格,趣味,交際,家族など私的な紹介も多く,読物としても興味深いものでした.以下,幾人かを収載人物の例として挙げます(敬称略).

書評 新臨床医研修のための必読書―田中 まゆみ(著)『研修医のためのリスクマネジメントの鉄則─日常臨床でトラブルをどう防ぐのか?』

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.579 - P.579

 このたび医学書院から,田中まゆみ先生の『研修医のためのリスクマネジメントの鉄則─日常臨床でトラブルをどう防ぐのか?』というA5判168ページの本が出版された.

 田中先生は京都大学医学部卒業後,京都大学大学院を出てボストンのマサチューセッツ総合病院で研修を受け,さらにボストン大学公衆衛生大学院を修了し,帰国後,聖路加国際病院の総合臨床外来を経て,現在は大阪市にある北野病院(京都大学医学部の関連病院)で総合内科部長として勤務している.私が理事長をしている聖路加国際病院では2012年までの6年間,一般内科の副医長を勤め,研修医の教育に携わってこられた.

次号予告/告知板

ページ範囲:P.584 - P.584

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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