icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院72巻8号

2013年08月発行

雑誌目次

特集 なぜ今,医療基本法なのか

巻頭言

著者: 井伊雅子

ページ範囲:P.601 - P.601

 「基本法」とは,国政に重要なウエイトを占める分野について,国の制度,政策,対策に関する基本方針,原則,準則,大綱を示した法律である.憲法と個別法との間をつないで,憲法の理念を具体化する役割を持ち,憲法を補完するものである.医療は国政上極めて重要な課題であり,医療なくして基本的人権の保障はない.医療に対する国民の不安感が高まっている今日,「医療基本法」の制定が各分野から要望されている.「医療基本法」は,国・自治体を含む公,国民(受療者予備軍),患者(受療者),医療提供者(医療機関・医療従事者),保険者それぞれの立場の権利と義務を含むものでなければならない.

 今回の特集では,「医療基本法はなぜ必要か」として伊藤雅治氏に,医療基本法について全体像をご解説いただくとともに,医療基本法のこれまでの経緯や既存の医療法との違いなどについてもご執筆いただいた.終戦から1980年代までは,医療政策の基軸が明確であり,わが国が経済成長を続けたこともあり,政策形成過程で国民的な合意形成が比較容易であったが,今後はこうした国民的合意形成が難しくなる傾向にあり,我が国の医療制度の基本方向について明確にする必要性が高まることが指摘されている.田中秀一氏には,医療現場の課題を具体的に考察しながら医療基本法の必要性について,前田哲兵氏には,弁護士として,医療基本法はどうあるべきかご考察いただいた.特に東京大学公共政策大学院・医療政策実践コミュニティー(H-PAC)の医療基本法チームリーダーを務められたお立場から,H-PAC医療基本法要綱案をご紹介いただいた.

医療基本法はなぜ必要か

著者: 伊藤雅治

ページ範囲:P.602 - P.606

 急速な高齢化,医療技術の進歩等により膨張を続ける国民医療費を誰がどのように負担するのか,医師の地域偏在,診療科間偏在の是正等課題山積のわが国の医療制度を今後どのようにしていくのかについて,国民的な合意形成は容易ではない.

 医療基本法はなぜ必要か.医療政策のあり方をめぐる国民的合意形成が今後ますます難しくなることから,国民皆保険制度を柱とするわが国の医療制度の基本方向について明確にする必要性が高まるというのがその答えの1つである.これまで医療政策の基本方向についての国民的合意形成は高度経済成長等を背景にし,現在ほど困難ではなかった.現在,各方面で医療基本法をめぐる議論が活発化してきているが,わが国の医療政策の歴史的変遷との関連において考察してみたい.

医療基本法と医療現場の課題

著者: 田中秀一

ページ範囲:P.608 - P.611

 深刻な医師不足などによって,医療は危機に直面している.急速な少子高齢化や財政難に伴い,医療を取り巻く環境はさらに厳しくなることが予想され,国民皆保険制度など医療体制は将来も維持できるのかという懸念も強まっている.

 ところが,医療に関する法律は医療法,医師法など数多いものの,それぞれ医療機関や医師の資格,義務などを定めた法規であって,現代医療が抱えている問題を包括的に解決するような法体系になっていない.国民が安心して医療を受けられるよう,これからの医療のあり方の全体像を提示し,医療体制を整備する拠り所となる「医療基本法」を制定することが必要なのではないか.

医療基本法はどうあるべきか

著者: 前田哲兵

ページ範囲:P.612 - P.617

■H-PACとは

 筆者は,医療政策実践コミュニティー(Health Policy Action Community,略称H-PAC)に参加し,医療基本法要綱案の策定,その後の制定活動などに携わっている.

 H-PACとは,東京大学公共政策大学院「医療政策教育・研究ユニット」における自主的社会活動であり,「医療を動かす」をミッションとして掲げ,医療政策に関する研究・提言を行い,実社会において当該提言を実践していくことを目的とした団体である.その特色は,メンバーの多様性にある.すなわち,H-PACでは,患者・市民,医療提供者,政策立案者,メディアの4つの立場から,医療政策分野において様々な活動を展開している社会人らが集まり,共に研究・提言を行っていくことを旨としている.われわれ医療基本法制定チームも例外ではなく,総勢17人のメンバーは,患者,医師,看護師,行政機関の職員,政治家,新聞記者,法律家などによって構成されている.

財政から見た医療基本法

著者: 印南一路

ページ範囲:P.618 - P.622

 医療基本法の財政的側面について,医療基本法の基本的性格や具体的な内容と切り離して論じるのは難しい.そこで,筆者の考える医療基本法の姿とともに論じたい.結論から言えば,財政から医療保障の内容を考えるのではなく,医療の本質的目的に照らして,国が保障するべき医療保障の内容に優先順位をつけ,そのうえで必要な医療を提供するための政策や中長期的な財政的安定性を確保するための方策を,医療基本法に盛り込むべきであるということになる.

患者会の立場から

著者: 長谷川三枝子

ページ範囲:P.624 - P.626

 日本リウマチ友の会は,1960年に152人の患者で発足し,1970年に社団法人として認可された.以来,「リウマチに関する啓発・リウマチ対策の確立と推進に関する事業を行い,リウマチ性疾患を有する者の福祉の向上に寄与する」という会の目的をもって活動を続けた結果,すべてのリウマチ患者に還元される公益事業の継続が評価され,2012年に公益社団法人へ移行した.この間,リウマチ患者の療養環境は大きく変わり,特に医療に関しての進展は周知のとおり,治療の目標が「寛解」を目指せるようになった.これは当会が5年ごとに実施している実態調査の結果をまとめた「リウマチ白書」1)のなかでも数で裏付けられている(図1,2).

 しかし,53年間の患者会としての活動を通してみた時,医療政策に関しては,依然として患者・国民不在のままであり,日本の医療政策に関する議論は初めに予算ありきの時代が続いている.本来,医療は人間の生命を守るための,唯一無二の砦であり,国は,なにより優先して国民の生命を守ることを第一に考えるべきであるが,長期の医療を必要とする難病患者や慢性疾患患者の立場からはそうは考えられない.

「医療基本法」の制定に向けて―日本医師会の検討経緯

著者: 今村定臣

ページ範囲:P.628 - P.631

 昨今,医療をとりまく状況がますます複雑化するなかで,医療提供者と患者の関係も,少なからずその影響を受け,数々の問題が指摘されるようになった.言うまでもなく,医療は医師・医療提供者と患者の信頼関係に基づいて営まれるものであり,両者の関係を如何に良好に保ち,発展させていくかは,医療全体の命運を決すると言っても過言ではない.

 日本医師会は,医療専門職能団体として,会内に50あまりの検討委員会を設置し,全国から選出された委員が,それぞれの問題について審議を重ね,その結果を報告書としてまとめている.医事法関係検討委員会は,そうした委員会の1つとして永年活動を続けており,2012年3月には,「『医療基本法』の制定に向けた具体的提言」と題する報告書を日本医師会長に提出した.この報告書は,医事法関係検討委員会が,医療提供者と患者の間に内在する諸問題について議論し,信頼関係の再構築に向けて模索を重ねた結果,医療の理念を規定した医療基本法(仮称)という法律を制定すべきという結論に帰着した内容を提言としてまとめたものである.

「医療基本法」制定に向けて―医療基本法案(全日病版)提案の経緯

著者: 飯田修平

ページ範囲:P.632 - P.635

 特集「なぜ今,医療基本法なのか」が企画されたことは,“医療基本法制定の是非”の検討が,社会の要請であると解釈すれば,喜ばしい.しかし,もっと前から,医療界を挙げて検討し,提言すべきであったと考える.

 筆者は,1991年の院長就任以来,医療のあり方,医療制度のあり方,病院のあり方を検討し1~2),2000年ころから,医療基本法を制定すべきであるとして,全日本病院協会(全日病)で議論3~5)し,書籍でも提言した1,4).筆者の個人的見解を含めて,全日病の議論の経緯を紹介する.

グラフ

「1F5S」で地域の核になる―「人」を中心とした堅実な医療と新たなチャレンジ 独立行政法人 国立病院機構 福山医療センター

ページ範囲:P.585 - P.588

 福山市は広島県東部に位置し,近隣の府中市,神石高原町を含め50万人を超える二次医療圏を構成している.福山医療センターは,1908年に創立された福山衛戌病院にはじまり,1945年に国立福山病院に名称を変更.2004年の4月独立行政法人化に伴い,国立病院機構福山医療センターとなった.

連載 アーキテクチャー 第223回

倉敷中央病院―長期間にわたる施設整備の視点から

著者: 辻野純徳

ページ範囲:P.592 - P.598

■創立と建替計画までの経過

 倉紡中央病院(後の倉敷中央病院)は1923年に開院された.それまで各工場の医局では,大正初めの流行性感冒には対応しきれず,医療にかかる前に亡くなる従業員や市民を目の当たりにした大原孫三郎は,本店のある倉敷に専門医と完全なる設備を備えた病院を設け,各医局と連携し,一般にも開放することを考えた.1918年,京都大学総長・荒木寅三郎と医学部長・島薗順次郎両氏より「慈善や研究目的の立派な病院とは異なる診療本位の病院,それも岡山大学に負けないものを」との助言を受けた.また,その推薦により津市立病院長・辻緑氏ら設立の軸となる3医長を倉敷紡績に入社させ,1919年から病院設立のための視察と構想に当たらせた.

 根本的理念はヴォーリズの近江療養所(1918年)に,病院の平面型や医療設備は当時の最新鋭の慶應病院(1919年)に学んだ.治療本位と完全な設備を備え,優良な看護婦を多く採用し,弊害の多い職業的付添い人を廃止し,病室には等級を付けず,従業員への心付けは厳禁とするなど,当時すでに完全看護を実施していた.しかし,第2次世界大戦の人材徴用もあって存続が危ぶまれる時期もあった.

世界病院史探訪・5

ベルギー・レシーヌの薔薇の聖母病院

著者: 石田純郎

ページ範囲:P.599 - P.600

 土地の領主Arnould 4世の未亡人で,修道女でもあるAlix de Resoitにより1242年に創設された「薔薇の聖母病院(L'Hopital Notre-Dame a la Rose)」は,ベルギーのレシーヌ(Lessines)にある.薔薇は創設者Alix de Resoitのシンボルである.ベルギーのフランス語圏中央北端部に位置し,中世にその起源を発する修道院病院は,3~11月のみ公開されている.

 レシーヌは,ブリュッセルから1時間,ヘラールツ・ベルヘン(Geraardsbergen)で乗り換え,10分の場所にある.人口約1万8000人の小都市で,小高い丘上のサン・ピエール大教会を中心に発達した.その教会の門前町の東半分の地域に,大規模な聖母病院がある.

医療安全のこれから・1【新連載】

医療安全再考(前編)―遅すぎた革命から,これからの革命へ

著者: 長谷川敏彦

ページ範囲:P.640 - P.643

 あれから15年弱が過ぎた.当時,2つの大学病院のありうべからざる事件によって,医療事故は社会の問題となった.そしてそれから数年後には,全国に医療安全の体制が整えられはじめ,事故の予防は医療界のみならず社会の課題となった.この間,いったい「何が起きたのか?」.国をあげての取り組みは効を奏したのだろうか.確かに医療事故関連の新聞記事は急増した2005年頃をピークに減少に転じ1),医療関連訴訟もこの数年減少に転じている.しかし現場での事故は減少しているのだろうか.

 実はこの15年は同時に病院経営が大転換した期間でもあった.私たちは何に取り組み,何を達成し,何をいまだ成し遂げえていないのだろうか? つまり,いま「何が起きているのか?」

診療情報管理の最前線・10

診療情報管理士の課題と将来像

著者: 大井利夫

ページ範囲:P.644 - P.647

■診療情報管理士の現状

 診療情報管理士の養成は,1972年,当時の日本病院協会(現・日本病院会)による「診療録管理」通信教育により始められた.その経緯については,本シリーズの第1回において阿南誠氏が詳述しているが,多くの先人の努力により,2013年4月現在までの認定者累計は2万5,000人に達している.今回,シリーズ10回目として私に与えられたテーマは,主に診療情報管理士の将来像についてであった.

 通信教育による診療情報管理士養成事業に着手して約40年,現在では認定大学,認定専門学校の履修生を加えて毎年約3,600人が認定試験に参加し,その約半数が合格して,医療研修推進財団と四病院団体協議会による認定証が授与されている.その多くは,すでに病院に勤務し事務職等に従事しているか,あるいは就職を予定している卒業生であるが,日本病院会が2004年から3年ごとに行っている「診療情報管理士の現況調査アンケート」報告書(第3回,2011年3月)によると,医師,看護師,薬剤師等の医療関連の国家資格を有する人を除く回答者2,287人中,正規職員として勤務している人は73.5%,派遣職員が15.3%,非常勤職員が11.1%であった1).回答率が44.2%と低く即断しにくいが,前2回の調査に比し正規職員が10%近く減少し,その分,特に非常勤職員が増加しているのは診療情報管理士の正規就労の厳しさを表していると言えるだろう.

病院機能分析の実際・2

診療科ベンチマーク分析

著者: 森脇睦子 ,   伏見清秀

ページ範囲:P.648 - P.651

 医療の質や病院経営を安定・向上させるために,診療実績等を類似の病院群と比較することで自院の課題を抽出するベンチマーク分析を行っている医療機関は多い.様々な課題に取り組むためには,意思決定が可能なマネジメント単位にその課題を掘り下げ,実践可能な改善策を見出すことが必要である.多くの病院では診療科単位で日々の診療活動を行い必要な意思決定を行っているので,そのマネジメント単位は診療科と言える.一方,多くのベンチマーク分析では,病床規模や設置主体別の他施設との比較やMDC別の診療分野別の比較が多く,診療科単位のベンチマークはあまり多く行われていないようである.それは,各診療科がカバーする疾患の範囲や疾患構成が,地域の医療ニーズや医師の専門性などにより,病院によって大きく異なることが多いためと考えられる.同じ名称の診療科であっても病院によって診療内容が大きく異なっていることが多いので,それらの間の単純な比較分析では臨床現場にとって有益な比較評価を導き出しにくい.

 このような状況から,国立病院機構における病院機能分析では,DPCデータやレセプトデータに記載された診療科コードと診断群分類コード14桁(以下,DPC 14桁コード,非DPC病院以外の病院ではレセプトの病名,処置等からコードを付与)等を使い,診療科単位のベンチマーク分析として「類似度指数を用いた分析」と「仮想診療科を用いた分析」を開発した.本稿では,この2つの分析の概要と活用方法について述べる.

アンケートが現場を変える 短期集中型業務改善・5

医師部門に与えたインパクト

著者: 阪本研一

ページ範囲:P.652 - P.654

 病院内の業務プロセスは複数の部門に跨って進むため,単一部門の業務改善だけでは病院全体としての業務効率や医療安全を確保することはできない.病院を業務プロセスの観点から見ると,医療現場が疾病を有する患者を対象とする以上は,業務のコアになるのは医師である.よって,病院として業務改善,さらには経営改革を推進するうえで,医師の業務改善は最も基盤となる部分である.

 しかしながら,極めて独立性の強い医療専門職である医師部門において業務プロセスの業務改善を進めることの難しさは大きく,不用意にこの難題に着手すると医療供給体制の減弱といった意に反した結果を招くことにもなりかねない.昨今の医師不足の状況においては医師数減のリスクを伴う施策には余程の慎重さが必要とされる.それでも,厳しい経営環境におかれた局面においては,その打開策として医師部門の業務改善に取り組まざるを得ない.

日本発の外国人患者対応認証・2

りんくう総合医療センターのJMIP認証

著者: 南谷かおり

ページ範囲:P.656 - P.657

■OJTによる医療通訳者募集とコーディネーターの採用

 りんくう総合医療センターは,旧市立泉佐野病院,感染症センター,泉州救命救急センターから成る総合病院で,24時間発着可能な関西国際空港から一番近い搬送先病院であり,災害時拠点病院でもある.近隣には外国人観光客や航空会社のクルーが滞在する大型宿泊施設,外国人留学生が在籍する大学や日本語研修施設もあり以前から外国人患者が多かったが,その対応は現場まかせであった.そのため2006年4月に国際外来を設立し,筆者を担当医師に据え,医療通訳者をOJT(On the Job Training)目的で募集し解決策に乗り出した.

 日本語と外国語による面接と小論文テストに合格した人は交通費のみ支給の認定外国人サポーターとなり,その後は経験と学習を積んで診察室でも1人で通訳できるレベルになれば有償の医療通訳者に昇格する.認定外国人サポーターは患者の受付や検査に付き添い通訳できるが医学的な内容の通訳は医療通訳者のみに限定し,ペアでの活動を基本とした.

鉄郎おじさんの町から病院や医療を見つめたら…・71

一家言ある人この指とまれ―QOLということ

著者: 鉄郎

ページ範囲:P.658 - P.659

新時代の告知

 誰も知らない秘密を自分だけが知っていた場合,どんな気分になるのだろうか.仮に明日,宝物がわんさと眠る場所を記した場所を自分だけが知っているとしたら,僕ならニヤニヤするだろう.秘密でひとつ思うのは,本人さえも知らないその人の秘密を自分が知っていたとしたら,どんな気分になるだろう.

 病院ということから考えると,「告知」が,2番目のそれにあたるのではないか.検査データからも,医者としての経験からも,この人は助からないと当事者よりも先に知った医者は,その時どんな心理状態になるのだろうか.「一種の優越感」は起こらないのだろうか.

リレーエッセイ 医療の現場から

地域医療情報データベース「せごどん」

著者: 古田真美

ページ範囲:P.663 - P.663

 2011年度,地域医療提供体制や地域医療従事者の支援の研究を目的に,鹿児島大学に地域医療支援システム学講座が開設された.また,地域医療支援センターが鹿児島大学病院内に設置され,同講座と一体的な運用が図られることとなった.

 当センター業務の1つとして,患者紹介・受入体制構築に資する地域連携データベース(以下,DB)の作成があり,私は医療ソーシャルワーカー(以下,MSW)として採用され,この担当となった.これまでの自分自身の行ってきた退院支援・相談業務などとは異なる部分が多く,戸惑いもあったが,まず始めに,他県におけるDBに関するアンケートを全国の大学病院宛てに行った.

レポート【投稿】

手術安全チェックリスト導入によるリスクマネジメント

著者: 長嶋健 ,   鈴木ティベリュウ 浩志 ,   中島正之 ,   宮崎勝

ページ範囲:P.636 - P.638

要 旨 世界保健機構(WHO)が提唱した手術安全チェックリストを段階的に運用開始したので,その使用経験について院内での工夫や今後の問題点などを含めて報告する.麻酔導入前確認は,当院では主に患者入室時の項目とし,各手術室前に患者本人とともに外科医,病棟看護師,麻酔科医,手術室看護師が集合したうえで,患者誤認および手術部位誤認がないことを確認後に入室を許可する方式とした.執刀前確認は,手術チーム全員が一旦手を止め,患者氏名,手術部位,手術法,手術時間,予測出血量と輸血準備の有無を確認するとともに,全員が名前と役割について自己紹介を行った.退室前確認は,何らかの不足が判明した場合に対応できるよう,閉創開始前に実施した.手術安全チェックリストの使用は,外科医が本来苦手であった手術室内のコミュニケーションを補佐して手術安全を円滑に進めるツールとして,また手術スタッフ全員の安全に関する認識と情報共有のために有用であった.

--------------------

書評 「患者にとってよいこととは?」をハーバード大学の教授らが分析―Jerome Groopman,Pamela Hartzband(原著)・堀内 志奈(訳)『決められない患者たち』

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.655 - P.655

 今般医学書院から,アメリカでベストセラー作家といわれてきたJerome Groopman医師とPamela Hartzband医師合作の“Your Medical Mind : How to decide what is right for you”という著書が,札幌医科大学卒業後米国留学の経験をもつ堀内志奈医師によって日本語に訳され,『決められない患者たち』という邦題で出版された.

 これはハーバード大学医学部教授と,ベス・イスラエル病院に勤務する医師の二人が,患者とその主治医に密着して得た情報を行動分析して,一般読者にわかりやすく書かれた本である.

書評 新人薬剤師のみならず中堅・ベテランにも薦めたいスタンダードマニュアル―橋田 亨・西岡 弘晶(編)『薬剤師レジデントマニュアル』

著者: 乾賢一

ページ範囲:P.660 - P.660

 薬学教育改革による6年制薬剤師の誕生,診療報酬改定に伴う「病棟薬剤業務実施加算」の実現など,今,薬剤師にかかわる新しい話題が医療現場で注目を集めている.新卒薬剤師の教育は,これまで大学病院薬剤部の研修制度をはじめとして,各施設独自のカリキュラム,教材を用いて進められてきた.安全・安心の医療が求められる中で,医薬品の適正使用,病棟薬剤業務など,新しい薬剤業務を推進するために,新人薬剤師のトレーニングはさまざまな工夫を凝らしながら行われてきたが,ここ数年,医師にならった薬剤師レジデント制度が普及し始めている.薬剤師研修の教材は,これまで各施設において適宜作成されており,書籍として公開されているものはなかった.

 このたび刊行された『薬剤師レジデントマニュアル』は,神戸市立医療センター中央市民病院の新人薬剤師研修プログラムを基本として,急性期医療の最前線で活躍している薬剤師や総合診療科医師が中心となって分担執筆されたものであり,待望の新卒薬剤師の研修マニュアルとして見事にまとめられている.総論の部では,薬剤師の基本業務,薬物療法を理解するための基本知識,腎障害,肝障害,高齢者などスペシャルポピュレーションに対する薬物療法の注意点,臨床検査値の読み方,フィジカルアセスメント,薬剤管理指導/病棟業務の注意点,など薬剤師業務を実践する上で,身につけてもらいたい事項がまとめられている.さらに各論として15疾患領域別に,病態,患者の状態把握,標準的処方例,薬剤師による薬学的ケア,そして処方提案のポイントなど病棟薬剤師としての対応がコンパクトに解説されている.

投稿規定

ページ範囲:P.661 - P.662

次号予告/告知板

ページ範囲:P.664 - P.664

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?