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連載 アーキテクチャー 第223回
倉敷中央病院―長期間にわたる施設整備の視点から
著者: 辻野純徳1
所属機関: 1ユー・アール設計
ページ範囲:P.592 - P.598
文献購入ページに移動倉紡中央病院(後の倉敷中央病院)は1923年に開院された.それまで各工場の医局では,大正初めの流行性感冒には対応しきれず,医療にかかる前に亡くなる従業員や市民を目の当たりにした大原孫三郎は,本店のある倉敷に専門医と完全なる設備を備えた病院を設け,各医局と連携し,一般にも開放することを考えた.1918年,京都大学総長・荒木寅三郎と医学部長・島薗順次郎両氏より「慈善や研究目的の立派な病院とは異なる診療本位の病院,それも岡山大学に負けないものを」との助言を受けた.また,その推薦により津市立病院長・辻緑氏ら設立の軸となる3医長を倉敷紡績に入社させ,1919年から病院設立のための視察と構想に当たらせた.
根本的理念はヴォーリズの近江療養所(1918年)に,病院の平面型や医療設備は当時の最新鋭の慶應病院(1919年)に学んだ.治療本位と完全な設備を備え,優良な看護婦を多く採用し,弊害の多い職業的付添い人を廃止し,病室には等級を付けず,従業員への心付けは厳禁とするなど,当時すでに完全看護を実施していた.しかし,第2次世界大戦の人材徴用もあって存続が危ぶまれる時期もあった.
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