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雑誌目次

雑誌文献

病院73巻1号

2014年01月発行

雑誌目次

特集 人口高齢化と病院医療

巻頭言

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.17 - P.17

 人口高齢化に伴い医療提供体制の再編成が求められている.その背景には高齢化の進行による傷病構造の変化に加えて,本特集で猪飼周平氏が説明しているように社会の成熟化によって「ケア観の変化=生活モデル化」が生じているというより本質的な概念変化がある.このパラダイムの変化は,医療か介護か,施設か在宅かといった二分論的なサービス提供体制ではなく,個々の患者のQOL(quality of life)に焦点を当てた,より包括的なケア体制の実現を求めるものである.

 本特集の企画者である筆者が例示したように,今後地域においては従来であれば療養病床で治療を受けていた患者を在宅でみる体制が不可欠となる.生活の場で入院医療的なケアを提供することが求められるのである.それはあたかも地域全体を1つの病棟とみなすような仕組みとなる.病棟において24時間体制で患者をモニタリングしているのは看護師である.従って,地域包括ケアを実現しようとすれば地域のナースステーションが必要となる.林田賢史氏はこうした任にあたる看護師に求められる能力として,臨床力に加えてコーディネート力,コミュニケーション力,QOLに対する深い理解を挙げている.こうした力量を持った看護師を病院でいかに育成するかが課題である.

生活モデルに基づくヘルスケア再編の射程

著者: 猪飼周平

ページ範囲:P.18 - P.23

 2010年に上梓した『病院の世紀の理論』において,筆者は,次代のヘルスケアシステムがより地域的かつより包括的なシステムという特徴を帯びることは歴史の必然であると主張した1).以降,筆者は,2012年度来本格的に推進されるようになった「地域包括ケアシステム」に対して社会理論的基盤を与えた研究者という評価を受けるようになっているようである.ただ,次代のヘルスケアが地域包括ケア的なものとなるという筆者の主張と,現実の政策として推進されている「地域包括ケア」との間には,観点の違いがある.

 もちろん,筆者は現在推進されている政策の重要性についても理解しているつもりである.ただ,厚生労働省や政策の土台を提供した地域包括ケア研究会と筆者とでは,本質的な部分で理解を異にする部分がある.それは,ケアシステムが地域包括ケア化することを必要とする根拠に関する部分である.

高齢化の病院医療への影響―地域包括ケアと病院

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.24 - P.29

 少子高齢化の進行,経済成長力の低下,医療におけるイノベーションと傷病構造の変化などにより,わが国の社会保障財政の持続可能性が問題となっている.社会保障国民会議では社会保障財政を将来にわたって持続可能なものにするために,医療介護提供体制の構造改革,すなわち地域包括ケアの推進を提言している.

 地域包括ケアは図1に示されるように,高齢者をはじめとする住民が日常生活圏域の中で,医療,介護,予防,生活支援そして住まいの総合的なサービスを受けることができる仕組みである.それは地域の信頼(トラスト)を再構築する試みであり,21世紀のわが国の安心を保障する基盤となるものである.これをどのように具体化していくのか,今われわれはこの大きな課題に取り組むことを求められている.なお,地域包括ケアの内容については,厚生労働省前老健局長の宮島による優れた解説書があるので参照されたい1)

都市部(特に東京)における病院医療の課題―地域包括ケアを支援する病院のあり方を中心に

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.30 - P.36

 現在,医療制度改革のなかで病院の機能分化が推し進められている.厚生労働省医政局では,病床機能の報告制度,都道府県の医療ビジョンの作成等を通じて,国民に各々の病院の持つ機能を明示する法的措置を行おうとしている.

 それは,病棟ごとに機能を報告することとし,急性期医療を受け持つ病床,長期療養の病床,さらに回復期や在宅療養,介護施設等との連携による「地域完結医療」を目的とする病床,等に機能を分化させて報告し,都道府県を中心に医療ビジョンを作成するというものである.

地方における病院医療の課題

著者: 寺岡暉

ページ範囲:P.38 - P.46

 本特集の趣旨に沿い,筆者の病院と地域を言わばケーススタディの対象として,地方における病院医療の課題について,帰納的に考えてみたい.

 その際の筆者の基本的スタンスを簡単に述べておく.筆者は,一地方医として脳神経外科専門医と総合医の立場で地域住民と向き合い,病院経営者として社会に向き合ってきた.同時に医師,病院,医療と社会とのかかわりにおいて自分自身を含めて社会を観察し,医師会などいささかの社会活動にも参画した.また,2013年7月「第16回日本病院脳神経外科学会」を主催する機会に恵まれ,テーマを「地域社会の高齢化とQOLの変容─脳神経外科診療の役割」とした.本学会において,類を見ないスピードで進行中の高齢社会の医療の課題について貴重な発表が行われたので,本特集のテーマとの関連においてその内容について簡略に触れ,論考の一助とした.

地域連携における病院の役割―長崎在宅Dr.ネットの取り組みと在宅医が病院に望むこと

著者: 詫摩和彦 ,   白髭豊

ページ範囲:P.48 - P.53

 長崎市では,長崎在宅Dr.ネットや,2008年4月より2011年3月まで行われた「緩和ケア普及のための地域プロジェクト(OPTIM)」の活動を通して,病院と在宅医療の連携が進展し,多職種連携が発展的に進み,患者の望む療養場所の実現と緩和ケアの充実が実現しつつある.本稿では,長崎在宅Dr.ネットやOPTIMの取り組みについて紹介するとともに,地域医療の最前線を担う開業医の立場から,高齢化社会における病院への要望を述べる.

高齢社会における病院と看護職

著者: 林田賢史

ページ範囲:P.54 - P.59

 平成24(2012)年10月1日現在,日本の人口は1億2,752万人であり,そのうち65歳以上の高齢者人口は,過去最高の3,079万人であった.これは,総人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)が24.1%ということになる.

 そもそも日本の高齢化率は,昭和25(1950)年時点では5%未満だったものの,昭和45(1970)年に7%を超え「高齢化社会」へ,平成6(1994)年にはさらにその倍の14%を超え「高齢社会」へと突入した.今後,高齢者人口は,いわゆる「団塊の世代」〔昭和22(1947)~24(1949)年生まれ〕が65歳以上となる平成27(2015)年に3,395万人,75歳以上となる平成37(2025)年には3,657万人に達する見込みである.そのような中,日本では出生数の減少と死亡者数の増加により分母である総人口は減少する.そのため,推計では,高齢化率は平成37(2025)年には30.3%,平成47(2035)年には33.4%と増加を続ける(図1).

グラフ

星総合病院―星北斗理事長に聞く

ページ範囲:P.1 - P.4

 福島県郡山市にある星総合病院は,1925年創設の星医院に始まり,90年近い歴史をもつ.2011年3月,老朽化した旧病院を新築移転する起工直前に東日本大震災が起きて被災した.新病院完成を希望の砦として病院機能を回復させ,2013年1月,JR郡山駅東側に新病院を開院した.星北斗理事長に話を聞いた.

連載 アーキテクチャー 第228回

伊勢赤十字病院

著者: 三谷恭一

ページ範囲:P.8 - P.14

 2013年,遷宮が執り行われた伊勢神宮のお膝元にこの病院は存在する.旧名,山田赤十字病院.移転新築を機に病院名を伊勢赤十字病院に改称した.

 この地域において,永く地域医療を支えてきた本病院は,今回の移転新築事業においてその役割を強化し,さらに地域に深くかかわり,市民に愛される病院となった.伊勢特有の郷土愛と村林紘二院長の病院改革におけるビジョンが1つになって新病院は動き出したのである.

世界病院史探訪・10

小庭のある困窮者収容施設群―ライデンのホフィエ

著者: 石田純郎

ページ範囲:P.15 - P.16

 ホフィエ(Hofje)は,オランダではライデンにもっとも多いが,ハールレム,アムステルダム,ウトレヒト,アルクマール,ハーグ,デルフトなどにもある.ドイツの諸都市にも,同様の施設がある.Hofとは,ドイツ語と同様,オランダ語で庭を意味する.-jeはオランダ語の接尾語で,小さいを意味する.Hofjeで小庭の意味になる.

 ホフィエは1480年以後に設置され始め,東西貿易で巨万の富を得たオランダの「黄金の世紀」である17世紀に数多く設置された.往時,人口5万人のライデンに35か所ものホフィエがあった.花咲く小庭には井戸,日時計が置かれ,絵になる美しさだ.小庭の周辺に,背の低い5~20軒の長屋を配し,貧しい老人や病人を無料で収容し,世話をした.設置主は富裕な市民で,しばしばその名称に創設者の姓が冠されている.

医療安全のこれから・6

医療コミュニケーションと法

著者: 大磯義一郎

ページ範囲:P.60 - P.63

■契約説的医師患者関係観

診療契約説

 医師患者関係を法的にどのように捉えるべきかということは非常に難しい課題であり,世界中で検討がなされている.現時点におけるわが国の多数説では,医師患者関係は,法的には診療契約という契約関係であるとされている.また,診療契約の法的性質としては,準委任契約(民法656条)であるとされており,診療という事実行為を委託する契約であると説明されている.このように考えられているのは,準委任契約であるとすると,より高い注意義務である善管注意義務(民法644条)を導くことができるからと言われている1).すなわち,「医療においては,確かに疾病の治癒を約束することは不可能であるが,民法644条にかかれている通り,医師には高度な注意義務が課せられている」と説明するために準委任契約とされているのである.

病院勤務者のための論文作成入門・1【新連載】

論文執筆事始め

著者: 松田晋哉 ,   福留亮 ,   村松圭司 ,   藤野善久 ,   久保達彦

ページ範囲:P.64 - P.69

1.はじめに─論文を書いてみませんか?

 過去10年以上にわたって筆者らはDPCの開発とその活用に関わってきました.具体的には,DPCデータを用いた経営分析や診療プロセスの分析の方法論を主に開発し,それを研究班が主催するセミナーで現場の方々と共有するということを地道に行っています.私たちの努力だけの成果ではないと思いますが,DPCデータを用いた分析は,多くの病院で日常業務の一環として行われるようになり,それが制度の安定的な運用につながっているのだろうと思います.しかし,セミナーを開催した際に参加者からは以下のような意見(愚痴?)も聞かれます.

 「DPCデータの分析は面白いけれど,せっかく出した結果について,上層部がどのくらい意味を理解してくれているのかよく分からない.そもそもどのくらい活用されているのだろうか?」

病院のお悩み相談室・1【新連載】

病院経営層の業務・役割と事業承継

著者: 垂水謙太郎

ページ範囲:P.71 - P.75

■連載をはじめるにあたって─厳しい経営環境

 病院経営が右肩上がりであった時代も,今は昔.「病院経営冬の時代」と言われてすでに久しく,10年前には9,000以上あった病院数も2010(平成22)年には8,670病院まで減少しています(図1).病院数と病床数の変動傾向をみると,2001(平成13)年を起算点として,2010年には病床数が96.8%(▲3.2%)であるのに対し,病院数が93.8%(▲6.2%)となっています(図2).

 病院の倒産件数は,2007(平成19)年の18件をピークに,2009,2010年はともに10件を上回る倒産件数となっています(図3).2011,2012年は大幅に減少していますが,これは,「企業再生支援機構」の活用に加え,2009年12月に施行された「中小企業金融円滑化法」によるところが大きいと考えられます.全国の病院の約6割が赤字と言われる中,今後,消費税の増税も控えており,病院経営のかじ取りはますます重要になってくると言えます.

リレーエッセイ 医療の現場から

今朝の秋

著者: 津田篤太郎

ページ範囲:P.79 - P.79

 先日,NHKで「今朝の秋」という昔のドラマが再放送されているのを目にした.田舎住まいの老人が,東京の一人息子が末期の胃癌に侵されていることを知り,見舞いに訪れる.病床にいる息子は,会社で“窓際族”の不遇をかこち,妻はデザイナー業が忙しく,娘は大学生でバイトにいそしみ,家庭関係もすきま風が吹いている.そんな息子を老父はなす術もなく見守るのであるが,ある日,何十年も前に家を出て行った老父の妻が,突然病院にやって来て,身の回りの世話を手伝うようになった.息子は,いよいよ先が長くないことを悟り,病院から出たい,田舎に帰りたい,と老父につぶやいた.

 昭和の名優,笠智衆が訥々と演ずる老父は,就寝時間を告げられて,真っ暗な病棟をトボトボ帰りかける.が,エレベータをおりたところで,何を思ったか,病室に踵を返し,息子に言い放った「行こう,行こう,蓼科へ…」.息子を演じているのはこれまた戦後の名優,杉浦直樹で,老父の言葉を聞くと,みるみるうちに涙を溜めて,子どものような笑顔を浮かべてうなずくのであった.老父は,その夜のうちに,息子を車いすにのせて連れ出し,タクシーを朝まで走らせて田舎に連れ帰ってしまう….

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書籍紹介

ページ範囲:P.47 - P.47

information

ページ範囲:P.76 - P.76

日本医療・病院管理学会第321回例会

日時:1月26日(日)10:00~16:40

会場:東京医科歯科大学M&Dタワー2階(東京都文京区)

投稿規定

ページ範囲:P.77 - P.78

次号予告

ページ範囲:P.80 - P.80

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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