文献詳細
文献概要
特集 人口高齢化と病院医療
生活モデルに基づくヘルスケア再編の射程
著者: 猪飼周平1
所属機関: 1一橋大学大学院社会学研究科
ページ範囲:P.18 - P.23
文献購入ページに移動 2010年に上梓した『病院の世紀の理論』において,筆者は,次代のヘルスケアシステムがより地域的かつより包括的なシステムという特徴を帯びることは歴史の必然であると主張した1).以降,筆者は,2012年度来本格的に推進されるようになった「地域包括ケアシステム」に対して社会理論的基盤を与えた研究者という評価を受けるようになっているようである.ただ,次代のヘルスケアが地域包括ケア的なものとなるという筆者の主張と,現実の政策として推進されている「地域包括ケア」との間には,観点の違いがある.
もちろん,筆者は現在推進されている政策の重要性についても理解しているつもりである.ただ,厚生労働省や政策の土台を提供した地域包括ケア研究会と筆者とでは,本質的な部分で理解を異にする部分がある.それは,ケアシステムが地域包括ケア化することを必要とする根拠に関する部分である.
もちろん,筆者は現在推進されている政策の重要性についても理解しているつもりである.ただ,厚生労働省や政策の土台を提供した地域包括ケア研究会と筆者とでは,本質的な部分で理解を異にする部分がある.それは,ケアシステムが地域包括ケア化することを必要とする根拠に関する部分である.
参考文献
1)猪飼周平:病院の世紀の理論,有斐閣,2010
2)たとえば,猪飼周平:地域包括ケアシステムの展望へ(高橋紘士 編:地域連携論─医療・看護・介護・福祉の共同と包括的支援,オーム社,2013,終章)
3)たとえば,同文献2)参照
4)ここでいうQOLは,測定尺度によって測定されるもののことを指しているのではなく,人生や生活の質それ自体のことを指している.これは上田敏のいう「全人間的回復」としてのリハビリテーションに概ね対応する概念でもある(例えば,上田敏:リハビリテーションを考える,青木書店,1983).
5)Germain CB & Gitterman A:The Life Model of Social Work Practice:Advances in Theory&Practice, New York:Columbia University Press, 1980
6)EUにおける政策概要については,濱口桂一郎:EUにおける貧困と社会的排除に対する政策(栃本一三郎,他 編:積極的な最低生活保障の確立,第一法規,2006,第III部)
7)この変化は,近年の胃瘻を巡る論争に象徴的に表れているといえる.この論争の端緒は,日本の臨床現場で広がっていた胃瘻に対して,「食べる」という人間にとって根源的な価値をもつ行為を奪うことで人生の質を損ねているという批判がなされたことであった.この告発が,TVや新聞などのマスメディアを巻き込んで広く社会的な議論を呼んだことは周知のとおりである.その後,胃瘻を造設することが一概に悪いとはいえない,という反論も現れるようになり,最近では比較的冷静に胃瘻の功罪が議論されるようになってきている.ここで重要なことは,これが一見,胃瘻を認めない/認めるという正反対の立場のぶつかり合いのように見えながら,実のところ共通の価値観を前提とした論争となってきたということである.すなわち,胃瘻を造設するにせよしないにせよ,それが当事者の人生(QOL)にとってどのような意味があるかによって評価されなければならない,という共通の価値前提のうえに論争が行われていたということである.
8)もっとも今日においてもプログラム規定説的性格が失われているとはいえず,その規定力については,政治・運動による拡大と司法による追認の過程を続けているという点には注意が必要であろう〔尾形健:「生活への権利」はいかなる意味で権利か.(長谷部恭男 編:人権の射程,法律文化社,2010,第12章)〕.
9)いずれにせよ,生活モデルに適合的な形で理想的な法整備を目指すかぎり,非常に大きな政治的資源を要する法改正となるので,問題はいかに現行法を活用しながら制度を整理してゆくかということになろう.
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