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雑誌目次

雑誌文献

病院73巻10号

2014年10月発行

雑誌目次

特集 チーム医療における病院薬剤師の役割

巻頭言

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.751 - P.751

 従来,病院薬剤師の役割というと医師が交付した処方箋に基づく調剤業務や医師の指示による薬剤管理指導業務といった定型的な業務が中心であった.そこでは基本的に医師の指示を遵守し点検することが優先され,業務も薬局内に限られる傾向があったことは否めない.しかし近年,病院ではチーム医療を支える薬物療法の専門家として期待される役割は大きく広がっている.

 チーム医療を支える医療職は,常に患者中心に業務を考え,それぞれの分野の専門職として患者の利益を守り,提供されるサービスの質の向上に努める責任がある.病院薬剤師も1人ひとりの患者に安全なサービスを提供するために,より患者に近づくことが求められている.活動する場所も薬局から病棟,外来へ出向き,チームの一員として患者に関する情報を効率的に収集し共有する必要がある.そのうえで個々の患者に最適で安全な薬物使用に関する提案をする力を養わなければならない.

病院薬剤師に求められる役割

著者: 北田光一

ページ範囲:P.752 - P.756

■薬剤師の役割と社会的背景

 病院薬剤師に求められる役割は社会の変化に対応して拡大している.社会的環境変化の1つに,わが国が他国に類を見ない超高齢社会を迎え,慢性疾患や複数の病気をもった患者が急増するとともに,疾病構造の変化に伴って求められる医療が変化し,医療に対する需要動態・ニーズも多様化してきたことがあげられる.

 加えて,医療の進歩に伴う医療費の高騰は社会保障給付の高騰とも無縁ではなく,限られた人的,経済的・財政的資源のなかでの高度で良質な医療提供という難しい選択を迫られている.質が高く,安全で安心な医療サービスを求める国民の声が高まる一方,医療の高度化・複雑化に伴う業務の増大による医療現場の疲弊が顕在化しており,医療の在り方が議論され今日に至っている.

薬剤師業務の新たな展開と今後の期待

著者: 井上大輔

ページ範囲:P.757 - P.761

■薬剤師業務の基本的な考え方と概要

 薬剤師法第1条では,薬剤師の任務として,「薬剤師は,調剤,医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによつて,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もつて国民の健康な生活を確保するものとする」と規定している.薬剤師は,この任務を果たすため,薬剤に関連した業務に日々従事しているが,薬剤師の業務の考え方は,「監査」の考え方と類似する部分が多い.

 「監査」とは,法令上の定義はないものの,一般的に,ある者が行うある業務について,その信頼性や妥当性を担保するため,法令等に則って行われているかどうかなどを第三者が調査し,必要に応じて指導や助言を行うことである.特に,公認会計士が企業に対して行う「監査」は,財務諸表等の信頼性や妥当性の担保の他,業務の改善にも貢献するものであり,最終的に,投資者や債権者の利益につながる.一方,薬剤師業務の基本である調剤業務とは,医師が交付した処方箋の内容について,患者の肝機能や腎機能に照らし合わせると処方内容は適切か,医薬品の添付文書上の禁忌に該当していないか,などを注意深く検討した上で特定の人の特定の疾病に対して特定の処方内容に従って薬剤を調製する業務であり,患者の利益につながるものである.

病院薬剤師による医療安全への取り組み

著者: 清野敏一

ページ範囲:P.762 - P.769

 1999年の患者取り違え事故以降,多くの医療事故が報告され,医療事故を未然に防止するための対策を講じることが極めて重要な課題となっている.多くの病院では医療安全対策室の設置やリスクマネジャーの配置などの安全対策体制が整いつつあるが,未だ同じような薬剤で事故が繰り返されるなど問題が解決されているとは言いがたい.

 2010年8月に医療機能評価機構から公表された結果によると,全国の国立大学病院,国立病院などで1年間に報告された医療事故は1,895件,ヒヤリハット事例の件数は約24万件であった.この結果から見て,医療事故に関する報告体制が進んできていることがわかるが,同時に病院等の医療現場では多くのヒヤリハット事例が存在していることも明らかである.

病院薬剤師と感染制御

著者: 丹羽隆 ,   伊藤善規

ページ範囲:P.770 - P.773

 多剤耐性のAcinetobacter baumanniiやPseudomonas aeruginosaなどの多剤耐性グラム陰性菌による集団感染が報告され1),感染制御の重要性が高まっている.多剤耐性菌の感染制御には,医療従事者および環境を介した水平伝播の防止対策とともに抗菌薬の適正使用の推進が重要である2).このため,感染対策チーム(infection control team;ICT)はより一層,感染制御に取り組むことが求められる.岐阜大学医学部附属病院(以下,当院)では,従来から行っている院内伝播の防止対策に加え,2009年より全注射用抗菌薬を毎日監視することによる精力的な抗菌薬適正使用推進─antimicrobial stewardship─を開始した3).この取り組みは,感染症専門医(infection control doctor;ICD)と薬剤師が中心となって開始しており,特に薬剤師はこのために毎日午前中4時間を費やしている.本稿では,このICTとしてのantimicrobial stewardshipの取り組みを通じてチームのなかでの薬剤師の役割,各職種の連携を述べる.

薬剤師による病院経営への貢献

著者: 川上純一

ページ範囲:P.774 - P.778

 薬剤師が管理・経営に直接見える形で関わっている病院は,これまであまり多くはなかった.その背景として,診療報酬上の評価が少ないこと,病院職員や管理部門に占める薬剤師の割合が低いこと,薬学の教育・研修が医学から独立しており薬学的専門性が十分に理解・活用されていないこと,などが考えられる.

 近年では,病棟,外来,集中治療部など,様々な部門において薬剤師へのニーズが高まっている.2012(平成24)年度に新設された病棟薬剤業務実施加算に代表される診療報酬上の評価も,十分な点数ではないが得られるようになった.一方で,薬剤師職能や薬事関連法規への理解不足から,薬剤師に薬剤師でなくても実施できる業務まで担当させることで,経営的に非効率な人員運用をしている病院もある.

 本稿では,病院薬剤師と診療報酬や病院管理・経営との関係について概説する.

外来チーム医療における病院薬剤師の役割と人材養成

著者: 橋田亨

ページ範囲:P.779 - P.783

 今,病院薬剤師にとっては,パラダイムシフトともいうべき変化が起きている.平成22(2010)年4月30日付厚生労働省医政局長通知にある,「医療の質の向上及び医療安全の確保の観点から,チーム医療において薬剤の専門家である薬剤師が主体的に薬物療法に参加することが非常に有益である」というメッセージを受けた形で,平成24(2012)年度診療報酬改定において「病棟薬剤業務実施加算」が新設された.その趣旨に沿った動きとして,薬剤師の病棟配置に必要な人員確保に向けて,これまでになく多くの医療機関が増員に動いている.この「病棟薬剤業務実施加算」によって,病院薬剤師が入院患者の薬物治療の有効性・安全性向上にこれまで以上に貢献する機会が増している.一方,病院の機能分化の流れの中で,従来は入院で行われていた診療内容の外来へのシフト,日帰り手術の増加などに伴い,病院薬剤師が外来診療に関与する動きも活発化している.平成26(2014)年度の診療報酬改定で「がん患者指導管理料3」が新設されたことはその一端を示すものといえよう.本稿では病院薬剤師の外来チーム医療の中で果たす役割とそれを実現する人材の養成について自施設の事例を取り上げながら考えたい.

院内処方再考

著者: 星北斗

ページ範囲:P.784 - P.788

■医薬分業の理想と現実

 そもそもわが国においては,なぜ,そして誰のどんな希望や要求によって医薬分業を始め,推進したのだろうか.本当に患者が望み,その望みを叶える方向に進んできたのだろうか.最近そんな疑問が湧いてくる.重複投薬,同時投与禁忌薬の回避や生涯にわたる服薬管理の重要性や意義を否定はしない.しかし,それができる環境を整えてきたのだろうか.いわゆる“門前薬局”への集中や患者の病名や経過などの医療情報なしでの服薬指導は,これほど高い調剤料を払う意味があるのか全く疑問である.医薬分業理想論の背後には,医師による不要な処方と調剤が医療費を高騰させるという批判があり,さらに「複数の医師による秩序ない処方と調剤による服用は患者にとって危険である」との指摘がある.多剤投与による副作用問題や複数の医療機関から受ける重複調剤がマスコミを賑わしたあの頃,大きな容器にさまざまな医療機関から受け取った薬袋を無造作に入れ,その患者(とりわけ当時自己負担の少なかった高齢者)が「適当に飲んでいる」と発言した場面は今も忘れられない.

 現在でもなお,診察や診断など医師の頭脳で行われる高度な判断などを含む「技術料」は評価が低く設定される一方で,薬価は販売価格を保証し,仕入れの安さはその差額の利益を生むという構造がある.また,医師の「技術料」が低く抑えられる一方で,調剤技術料は格段に高く設定されるという,診療報酬による医薬分業への「誘導」が続いている.

【事例】病院薬剤師と地域連携

尾道方式退院前ケアカンファレンスによる地域連携

著者: 向井弘恵

ページ範囲:P.789 - P.792

 近年,高齢化が問題化する中で患者が最期まで安心して暮らせるための多施設・多職種協働による地域医療連携システムの構築が医療機関に求められている.いわゆる「尾道方式」は急性期から回復期・生活期への転換期および退院後の各段階で継続的に行うケアカンファレンスを中心に切れ目のない医療および介護を支援するプロセスとして地域に定着し,顔の見える連携により患者・家族から大変喜ばれている.特に急性期病院では,医療の継続性を確保して退院後の患者や家族を支援する重要な位置づけになっていることから,病院薬剤師(以下,薬剤師)も積極的に参加している.本稿では退院前ケアカンファレンスを中心とした地域連携における薬剤師の役割について述べる.

地域で取り組む糖尿病療養指導—釧路赤十字病院薬剤部の活動から

著者: 千田泰健

ページ範囲:P.793 - P.795

 釧路赤十字病院は,「人道・博愛の赤十字精神をたずさえて,温かみのあるより良い医療を提供する」という理念の下,総合周産期母子医療センター,小児救急医療拠点病院,基幹型臨床研修病院の指定を受けるとともに,釧路根室地域の小児科・産婦人科医療の拠点病院として,高度な医療を患者に提供してきた.

 薬剤部においては,「薬学的視点に立ち,薬物療法における有効性・安全性の確保を実践し,チーム医療を通じ,患者のQOL向上に貢献する」を理念に掲げ,医薬品の適正使用,医療安全などに大きく貢献してきた(表1,写真1).日本糖尿病療養指導士(CDEJ)の8人以外にも,多くの薬剤師が地域のイベントに積極的に関わり,それぞれの役割を果たしてきた.イベントに参加し地域の結束力が高まるのを感じ,患者や多くの市民との関わりを通じ,コミュニケーション能力を高め,さらに医療者としての責任感も強まっている.本稿では,それらの取り組みを紹介したい.

グラフ

Think Positive Think Patient—北里大学病院 医療の質・安全推進室

ページ範囲:P.735 - P.738

■新病院移転を機に

 「患者中心の医療 共に創りだす医療」を理念に掲げる北里大学病院は2014年5月に新築移転した.「患者中心の医療」を具現化する象徴として,1階の正面入り口からすぐの場所に設置された「トータルサポートセンター」は,入退院支援をメインに患者相談業務を一手に引き受ける.同じフロアには吹き抜けの明るい空間が広がり,カフェスペースに隣接して患者の学習を支援する「けやきサロン」が設けられ,外来の順番を待つ患者や見舞客,地域の人々が寛ぐ憩いの空間となっている.

 「共に創りだす医療」は,大学病院の使命として患者と一丸になって最先端の治療に挑戦することはもちろん,医療安全のパートナーとしての協力を呼びかける.「安全な医療を受けるために」「静脈血栓塞栓症について」「抗がん剤点滴治療を受ける方へ」などのリーフレットを作成したのはインシデント・レポート(以下,レポート)の分析結果を踏まえて発足した各ワーキンググループであり,それを支えるのが「医療の質・安全推進室」だ.

連載 アーキテクチャー 第237回

キッコーマン総合病院

著者: 藤田純也

ページ範囲:P.742 - P.747

■「食と健康」の実現を目指す,食品会社で唯一の企業立総合病院

 キッコーマン株式会社は,優れた素材と伝統技術で「食と健康」の実現を目指す世界に名だたる食品会社です.キッコーマン総合病院(以下,当院)は,同社発祥の地で,現在でも工場や本社機能が置かれている千葉県野田市駅周辺に,キッコーマンの前身である野田醤油醸造組合の直営病院として,1914(大正3)年に設立された100年の歴史を持つ病院です.

 病床数129床の当院は,健診センターを併設し,従業員の方々の健康はもとより,野田地域の人々の暮らしにすっかり密着した医療を展開し,「食と健康」というモットーをまさに体現している地域医療中核病院です.

 1966(昭和41)年に建設された旧病院の老朽化に伴い,隣接する土地へ新病院の建替を行いました.

世界病院史探訪・19

幕末維新の来日オランダ医たちが医学教育を受けたウトレヒト陸軍病院

著者: 石田純郎

ページ範囲:P.749 - P.750

 陸軍軍医学校は外科と内科をともに学問として公平に扱い,国家が管理したヨーロッパにおける最初の近代的医育機関である.1789年のフランス革命の余波でギルドが廃止され,外科医ギルドの中で要請されていた外科医の養成ができなくなった.当時,外科医は職人で,外科は技術,職人の手仕事であり,大学ではもっぱら内科医だけを養成していた.

 そのためヨーロッパ各地に国家によって,陸軍病院内に陸軍軍医学校が創設された.前回掲載のウィーン陸軍軍医学校だけは,フランス革命に先駆けて1785年に創設されたが,19世紀に入ると,パリ,モンペリエ,ストラスブール(以上,フランス),ライデン(オランダ,旧ペスト・ハウス棟内),ベルリン(プロシア)などに,陸軍軍医学校が次々と置かれた.1807年に500床の陸軍病院がオランダのウトレヒトに設置され,ライデンの軍医学校は1822年にこの病院に移転し,ウトレヒト陸軍軍医学校となった.

医療計画・地域医療ビジョンとこれからの病院マネジメント・4

患者調査・医療施設調査を用いた地域別医療ニーズの推計

著者: 伏見清秀

ページ範囲:P.802 - P.805

 地域医療の実態を知るデータには,DPC(Diagnosis Procedure Combination;診断群分類)データ,NDB(National database)レセプトデータに加えて,官庁統計である患者調査,医療施設調査,病院報告のデータがある.公表されているものはこれらの集計表であるが,都道府県等の行政機関はこれらの調査の個票を取得し,年報等報告書または行政運営資料として利用可能であり,地域医療ビジョン策定などに活用することができる.本稿では,これら統計データの特徴と利用方法をまとめる.

病院のお悩み相談室・10

休暇の取得とワーク・ライフ・バランス

著者: 垂水謙太郎

ページ範囲:P.806 - P.809

 安定した職員の確保・定着を実現するためには,職員のワーク・ライフ・バランスを実現してあげることが事務長の大事な役割です.ワーク・ライフ・バランスを実現の要素として,有給休暇の取得率向上が挙げられますが,職種や部署によってその取得率が大きく異なる病院も多いのではないでしょうか.

 職員が働きやすい環境づくりをしていくためには事務長がどのような対応をする必要があるのか,そのポイントについてご紹介したいと思います.

医療者からみた高齢者の「こころとからだ」・4

入所者の「満足度」から高齢者の生活を考える

著者: 高齢者の生活環境と「こころとからだ」を考える会

ページ範囲:P.815 - P.815

 これまで高齢者の「こころとからだ」を図形化で表す試みを行ってきた.図1のY軸に精神的障害度と身体的障害度を,X軸に高齢者の心境をプロットして三点を結んだ三角形の面積を高齢者の生活における「満足度」と考えた.

 前回は投薬などの精神的な加療,リハビリテーションなどで高齢者の快復がなされ,それに呼応して心境も改善すると述べた.しかし,X軸上のプロットはあくまで不確定要素によって変移する.高齢者施設で入所者が生活する中,精神的・身体的に良好でも「満足度」が低くなることはあるし,逆に精神的・身体的障害度が高くても「満足度」が高くなることが少なくない.今回はそうしたいわば「イレギュラー」な三角形から,高齢者の満足とは何か考えてみたい.

リレーエッセイ 医療の現場から

医療とITとモバイル端末

著者: 金井伸行

ページ範囲:P.817 - P.817

 最近,「電車スマホ」「ながらスマホ」という言葉があるように,電車に乗っていても,歩いていても,実に多くの人がスマートフォン(スマホ)を使っているのを目にします.私自身もメールをチェックしたり,ニュースをチェックしたり,仕事の調べ物をしたりと,出先でも日常的にスマホを活用するようになりました.

 でも残念なことに,10代,20代の若者を中心に,電車内でスマホを使っている人の半数以上が,どうやらゲームやLINEなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)に没頭しているようです.最近の統計では,スマホ利用者の実に78%がゲームを利用しています(2013年12月,ニールセン社調べ).私は1975(昭和50)年生まれで,いわゆるファミコン世代.小学生の頃に任天堂のファミリーコンピュータが発売され,大ブームになりました.ゲーム好きの友達の家に行っては遊んだ時期もありましたが,親の厳しい目もあり,ゲームをする時間と宿題をする時間はしっかりと区別できていたように思います.近年,携帯型テレビゲーム機,さらにはスマホの登場により,家の各部屋はもちろん,外出先でもゲームができるようになってしまいました.また,SNSも,友達同士のおしゃべりや愚痴の言い合いに終始していることが多いのが実態ではないでしょうか.時間つぶしのつもりで始めたゲームやSNSに没頭し,移動中でも寝床でも携帯端末を手放せなくなっている人が急速に増えています.しかも,子どもだけでなく,社会人にも,そういう人が多くなっているようです.スマホはその依存性の高さから「現代のタバコ」だと言う人もいるほどです.

特別記事

ユニバーサルデザインの考え方にもとづく病院設計

著者: 髙橋儀平

ページ範囲:P.796 - P.801

■病院設計におけるユニバーサルデザインとは

 特別なデザインではなく,可能な限り多くの人がともに利用できることを目標とするユニバーサルデザイン(以下,UD)の概念がわが国に導入されてから早くも20年が経過しようとしている.2000年以降の15年間でトップメーカーの製品開発や公共建築物の設計,自治体サービスにUDの考え方が数多く導入されてきた.

 しかし,公共的建築物の中では特殊性が強い病院建築の場合,UDの導入はやや遅れて始まった.交通機関と同様,病院は,どのような患者や家族にも「安心」を与え,わかりやすさを伝えなければならない施設である.病院は,入院患者,外来患者,付き添い者はもとより,病院職員,医師にとっても安心感が得られ,快適である環境づくりが求められる.緊急時や自然災害など,どのような事態になっても病院に訪れる市民の願いは,医療機関こそが「安全である」という「確信」である.これが病院におけるUDのゴールともいえる.

書評 美しい写真がすべてを語る素晴らしい書—八尾 恒良●監修・「胃と腸」編集委員会●編『胃と腸アトラス 第2版 Ⅰ・Ⅱ』

著者: 武藤徹一郎

ページ範囲:P.810 - P.810

 初版から13年,改訂決定から約4年の年月を経て『胃と腸アトラス』第2版(Ⅰ・Ⅱ)が完成した.誠に想像を超えた見事な出来栄えである.監修の八尾恒良博士,「胃と腸」編集委員会そして本書の編集委員の諸氏の多大な努力に,まず深く敬意を表したい.内視鏡像,X線像,病理組織像のいずれをとっても完璧で美しい.よくここまで質の高い多くの写真を集められたものと感嘆するばかりである.

 初版の序文において“本書は本邦独自の診断学を集成し,消化管診断学に従事している医師や研究者の臨床に役立てることを目的として「胃と腸」の編集委員会で企画され,編集された”とあるが,この第2版によってその目的はさらに高いレベルで達成されたといえる.扱っている疾患は,「Ⅰ 上部消化管」:咽頭5項目,食道58項目,胃62項目,十二指腸48項目,「Ⅱ 下部消化管」:小腸66項目,大腸78項目の合計317項目にのぼり,初版より大幅に増加している.見たこともないようなまれな疾患も数多く掲載されており,エンサイクロペディア的に活用することも可能であるが,折に触れてページを開いて美しい写真を眺めるだけでも心が癒される.項目ごとに症例についての簡潔な記述があり,各画像の簡単な説明があるだけで,美しい写真がすべてを語ってくれている.必要最小限の文献が各項目の終わりのページに記載されているのも,大変便利でしゃれている.

書評 がんサバイバーシップをわかりやすく体系化した書—日野原 重明●監修・山内 英子,松岡 順治●編『実践 がんサバイバーシップ 患者の人生を共に考えるがん医療をめざして』

著者: 堀田知光

ページ範囲:P.812 - P.812

 わが国でも「がんサバイバーシップ」という概念がようやく普及し始めている.がんサバイバーシップとは「がん経験者がその家族や仲間とともに充実した社会生活を送ることを重視した考え方」を意味している.かつて,がんは不治の病として長期の入院などにより患者は社会から切り離されてきた.しかし,今では早期発見や治療法の進歩などにより生存期間が延長し,多くのがんは長くつきあう慢性疾患として,がんと共に暮らすことが普通の時代になりつつある.

 がん体験者は患者であると同時に生活者であり,社会人でもある.2012年に閣議決定された第2期がん対策推進基本計画では,「がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が全体目標の一つに加えられた.今日,がんは日本人の死亡原因の第1位で年間に約36万人ががんで死亡しているが,一方で,直近のデータでは2014年に約81万人が新たにがんに罹患すると推計されている.したがって年間に約40万人以上のがん経験者が増える計算になる.就労を含めたサバイバーシップの充実は大きな政策課題といえる.

投稿規定

ページ範囲:P.818 - P.819

次号予告

ページ範囲:P.820 - P.820

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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