icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院73巻11号

2014年11月発行

雑誌目次

特集 これからの医療安全を考える

巻頭言

著者: 井伊雅子

ページ範囲:P.837 - P.837

 2014年6月に医療法の一部が改正され,第三者機関の設置を含む新たな医療事故調査制度が2015年10月から施行されることになった.そこで今回の特集では,改めて病院管理者が医療安全に取り組む意義について考えてみた.患者安全を通して,外部調査や訴訟への対応による人的経済的損失から病院経営を守り,ひいては病院のブランドイメージを高めることに他ならず,今後は院内に留まらず,地域医療の安全を確保する中核としての機能も期待されるだろう.
 種田氏にはこれまでWHOで取り組まれてきた医療安全に関する概要をご解説いただき,国際的な動向と今後の展望についてご紹介いただいた.長尾氏には懲罰的ではなく安全文化構築の一翼を担うインシデントレポートの収集・活用を中心に,最新の取り組みに関してご執筆いただいた.新制度が有効に機能し,社会から信頼を得るには,医師集団を筆頭に,医療現場に豊かな報告土壌が存在していることが前提であると指摘されている.

患者安全をめぐる国際的潮流

著者: 種田憲一郎

ページ範囲:P.838 - P.843

 WHO(世界保健機関)は日本を含む加盟国における患者安全をグローバルに推進している.WHO本部はジュネーブにありグローバルなレベルでのとりまとめを行うが,加盟国の具体的な支援は世界を6つの地域に分け,日本を含む地域はマニラにある西太平洋地域事務局(Western Pacific Regional Office:WPRO)が行う.WHOにおける患者安全のこれまでの国際的な取り組みを振り返りながら,これからの患者安全を推進する取り組みについてともに考える機会としたい.

インシデントレポートを通した医療安全文化の醸成

著者: 長尾能雅

ページ範囲:P.844 - P.849

■医療安全黎明期の象徴“インシデント報告システム”
 2002年に厚生労働省が医療機関内におけるヒヤリハット情報の収集と分析など,いわゆるインシデント報告システムの導入を奨励してから12年以上が経過した.この間,多くの医療機関においてインシデント報告を端緒とした業務改善や,事故対応が進められるようになった.当初は大学病院や特定機能病院など,大規模医療機関を中心に導入されたシステムであったが,特に2006年の第5次医療法改正以降は,クリニックなどの小規模医療機関群にも同様の取り組みが広がり,インシデント報告システムは多くの医療現場にとって身近なものとなりつつある.わが国において,2000年以前にはこのような取り組みがほとんどなかったことを顧みれば,同システムの導入は,専従・専任医療安全管理者の配置や,医療安全管理マニュアルの整備などと並び,医療安全管理の黎明期を象徴する,代表的な取り組みの一つであったといえる.

医療界のヒューマンエラー対策の動向

著者: 河野龍太郎

ページ範囲:P.850 - P.853

■安全への取り組みは終わりなき闘い
 Reason1)は,著書『組織事故』の中で,「安全への取り組みは戦争である」と表現している.さらに,その戦争は「最後の勝利なき長期のゲリラ戦」と説明している.
 筆者はこの表現を知ったとき,まさにそうであると思った.完全に勝利することはなく,決して終わらず,敵は潜伏しており,手を抜くとやられ,そして,リターンマッチはない.まさにこのたとえは医療のリスクマネジメントにぴったりである.われわれはエンドレスの取り組みをしなければならない.

医療への信頼を再構築するための法政策の課題

著者: 児玉安司

ページ範囲:P.854 - P.858

■リスク・マネジメント再考
1.リスク・マネジメントの始まり
 1990年代の終わりころから,医療現場において医療安全対策に注目が集まるようになり,リスク管理(リスク・マネジメント)に組織的に取り組む医療機関が増加した.例えば,リスクマネジャーなどの名称で,医師やコメディカル,事務職も含めた職種横断的な取り組みが行われるようになった.かつては,医療の質・安全を高めるのは,資格と能力であると信じられてきたが,組織とコミュニケーションの重要性が認識されるようになってきた.
 2002年の医療法施行規則改正および2006年の第5次医療法改正によって,医療機関に医療安全管理者の配置と苦情相談窓口の設置が義務づけられるようになるとともに,2006年の診療報酬改定で医療安全管理者の配置を施設基準とした医療安全対策加算が認められるようになった.また,苦情相談窓口に関連して2012年の診療報酬改定で医療対話推進者の配置に加算が認められた.このように,国は病院内に医療安全管理の組織作りを行って組織内の安全管理に関する情報収集と分析を行うとともに,患者・家族等からの苦情相談対応の窓口を設置し,患者からの苦情を質・安全改善のための情報として積極的に受け止める対応をすすめてきた.

医療事故における情報開示のあり方

著者: 浦松雅史 ,   三木保

ページ範囲:P.859 - P.863

■信頼回復の第一歩としての事故対応のあり方とは
 医療事故が発生した際,医療機関から患者に対して情報をどのように提供するかは,患者やその家族はもとより,事故に関与した医療従事者,さらには医療機関にも大きな影響を与える.そこで,医療機関から患者への情報提供の方法を含めた医療事故発生時の「対応のあり方」について,組織的かつ制度的に検討することが必要となる.
 オーストラリアをはじめとする先進各国においては,医療事故発生時の「対応のあり方」として,Open Disclosure Standard1)(以下「オープン・ディスクロージャー」とし,特に言及がない場合には内容は文献1に依拠している)という考え方が広まってきている.オープン・ディスクロージャーとは,「生じた有害事象」「そこから生じた結果」および「被った害を救済する手段」などについての情報を,どのように患者・家族に提供すべきか,その考え方や具体的な手順を示したものである.

医療版事故調査制度はどこへ向かうのか

著者: 前村聡

ページ範囲:P.864 - P.869

 1999年に相次いで起きた横浜市立大学附属病院の患者取り違え事故,そして都立広尾病院の点滴ミスから15年.医療事故の被害者,医療者の長い議論の末に2014年6月18日,医療版事故調査制度を導入する関連法が国会で成立した.診療行為に関連して患者が予期せず死亡した場合,全ての医療機関は第三者機関に届け出るとともに,原因分析と再発防止のための院内調査が義務づけられることになった.2015年10月からの運用開始に向けて,厚生労働省(以下,厚労省)は調査方法などを盛り込んだガイドラインをまとめる.本稿では,これまでの議論と今後の行く末,特に医療機関が取り組むべき課題を考える.

医療安全と連動した患者サポート体制

著者: 豊田郁子

ページ範囲:P.870 - P.873

 昨今,医療安全とともに医療者と患者・家族との間のコミュニケーションの大切さが認識されるようになり,2012(平成24)年の診療報酬改定では,患者サポート体制充実加算が新設された.私は,2004年10月から新葛飾病院(以下,当院)の医療安全対策室に勤務し,患者サポート業務に携わってきた.この職に就いたきっかけは,故・清水陽一院長(当時)から,「患者の視点で,院内の医療安全を担当してほしい」と声をかけていただいたことだった.
 2003年に他院の医療事故で息子を亡くした私には驚くような提案だったが,「医療現場に足りないのは患者の視点だと思う,経験したことを再発防止に生かしてほしい」という清水病院長の言葉を受け,この取り組みが始まった.このような経緯を経て,2012年に「患者・家族と医療をつなぐNPO法人架け橋」を設立し,現在私は,医療対話推進者の養成研修を定期的に開催するなど,医療対話推進を支援するための活動を行っている.

在宅呼吸ケアの現場における患者安全確保—医療と介護の連携強化

著者: 中山初美 ,   津田徹

ページ範囲:P.874 - P.878

 超高齢化社会を迎え,医療機関の機能分化・強化と連携,在宅医療の充実を重点課題とし,平均在院日数の短縮や在宅復帰率を基準にした診療報酬体系は,医療ニーズの高い患者の在宅移行を促進させている.
 高齢者の在宅移行において,医療ニーズだけでなく,独居高齢者や老老介護などの家庭環境,ADL(日常生活動作)低下や認知症による介護ニーズが高いことを念頭に置く必要がある.さらに「医療の役割」と「介護の役割」を互いに理解した連携を柱とする在宅医療現場での安全確保の取り組みは不可欠である.

グラフ

医療従事者のパフォーマンス向上に資する—自治医科大学メディカルシミュレーションセンター

ページ範囲:P.821 - P.824

 自治医科大学の建学の精神は「へき地等の地域社会の医療の確保及び向上のために高度な医療能力を有する医師並びに住民の保健医療及び福祉に貢献できる総合的な看護職を育成すること」である.地域医療の現場では,医療資源の乏しい環境に置かれることが多い.そのためには経験がものを言うが,患者の権利意識が高くなった昨今,経験の浅い学生や研修医に体を触らせたがらない患者も増え,また安全という観点からも実技は見学とせざるをえない状況が増えている.そこでリスクを低減しつつ基本的な技術の習得が可能であるシミュレーション教育の導入が進んでいる.

連載 アーキテクチャー 第238回

公立甲賀病院

著者: 椙村睦美 ,   南部晋平

ページ範囲:P.828 - P.833

■はじめに
 甲賀市は滋賀県南東部の内陸部に位置し,関西経済圏と中京経済圏に近接している.公立甲賀病院(以下,当院)は70余年の間,甲賀市水口町の市街地で地域医療に貢献してきた.
 2013年4月,当院は旧敷地から北に1.5kmほど離れた丘陵地に全面移転した.自然環境に恵まれた立地条件を生かし,病棟と外来診療棟を分離した“ヒューマンスケール”の施設として413床の地域完結型の急性期中核的病院として生まれ変わった.
 新病院開院後約1年が経過し,設計時の計画と開院後の使用状況を比較し,公立甲賀病院の施設計画について報告する.

世界病院史探訪・20

マルタ島の聖ヨハネ騎士団ホスピタル

著者: 石田純郎

ページ範囲:P.835 - P.836

 十字軍は,1096年から1272年までの間,聖地エルサレムをイスラム教徒から奪還するために,9回にわたり西欧から派遣された,武装したキリスト教徒からなる軍隊である.その中に,病院騎士団として知られる聖ヨハネ騎士団があった.彼らは傷病者の治療,貧困者の世話,聖地を訪れる巡礼者の保護を目的として,軍事侵略に先駆けて,エルサレムで11世紀前半にホスピタルを設立した.また,エルサレムに至る巡礼路の地中海東岸,地中海の島々にもホスピタルを建設した.
 十字軍運動終焉後も,キプロス島,後にロードス島(ギリシア)に,聖ヨハネ騎士団ホスピタルは置かれた.オスマン・トルコ軍の攻撃により,聖ヨハネ騎士団は1523年にロードス島から駆逐されたが,1530年にマルタ島に安住の地を見出し,最初はビルグ(Birgu)地区にホスピタルを建てた.

医療計画・地域医療ビジョンとこれからの病院マネジメント・5

GISを用いた傷病別アクセス圏分析

著者: 石川ベンジャミン光一

ページ範囲:P.888 - P.891

 平成26(2014)年6月18日に成立した「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律」に基づいて,平成27(2015)年4月からは都道府県が定める医療計画の内容に「将来の医療提供体制に関する構想(いわゆる地域医療ビジョン.以下,地域医療構想)」が追加される.
 地域医療構想を含む医療計画および地域包括ケア計画については,本連載の第1回 で記されたように,医療介護関係者のみならず,住民やマスメディア,他分野の行政関係者・研究者への情報提供が重要となる1).本稿では,地域医療構想をわかりやすく国民に伝える方法の1つとして,地理情報システム(Geographic Information System;GIS)を用いた傷病別アクセス圏分析について紹介する.

病院のお悩み相談室・11

委託職員への院内教育

著者: 垂水謙太郎

ページ範囲:P.892 - P.894

 医事・給食・検査・清掃・滅菌など病院ではさまざまな院内業務を外部に委託しており,その範囲は多岐にわたっています.今月号の特集テーマは「医療安全」.安全管理のルールを構築しても,その考えが委託職員に浸透していなければ,患者・職員・病院を守ることはできません.
 委託職員も大切な病院スタッフの一員ですが,委託職員への教育は多くの医療機関で悩みの多い課題です.病院職員も委託職員も一丸となって安全安心な病院作りをしていくための院内研修のポイントについてご紹介します.

医療者からみた高齢者の「こころとからだ」・5

「高齢者施設」という場所での満足とは

著者: 高齢者の生活環境と「こころとからだ」を考える会

ページ範囲:P.895 - P.895

 前回までは心身の障害の度合いと心境を変数にして,高齢者の施設における生活の満足の度合いを形状と面積から考えてみた.しかし,それらの変数だけでは生活の「満足度」を表現しきれないことも指摘した通りである.変数としての心身の障害の度合いは「満足度」の必要条件であるため,どうしても例外は出てくる.もちろん,心身の障害は如実にそのときの「満足度」に影響するであろうが,高齢者それぞれ施設への入所に至った経緯や,それまで生きてきた背景も異なる.そうした諸要因が複雑に影響しあっていることは否定できない.
 要するに,単純に心身の状態が良ければ満足するかと言えば,そうではないということだ.たとえばモノやカネが割と充足する今の時代,人々は「満足」を実感しているだろうか.豊かであるはず,満足であるはずなのに,生活の不安が拭いきれないのは高齢者に限ったことではないだろう.さらに,安心して暮らせる場やこころを許して暮らしていける隣人はいるだろうか.孤独感がないだろうか.

リレーエッセイ 医療の現場から

天命

著者: 宮阪英

ページ範囲:P.897 - P.897

 最近,よく考えることがある.人には天から与えられた役割,いわゆる天命があるのではないかということである.すべてはこの記録をたどる,とされる「アカシックレコード」を盲信するわけではないが,行っていることが天命だと気付くと,それはさらなる意味を持つと思う.明治〜大正時代の思想家,内村鑑三の言葉に「人生の成功とは自分の天職を知って,之を実行することである」という名言があるが,まさにそのとおりであると感じる.これは医療の世界でも一緒だと思う.大学病院をはじめ大病院の医師は,最先端の技術を提供し,そのために日々努力する.地域の開業医は,地域住民の悩みに答え,健康維持に邁進する.どのような立場であれ,漠然とでも自分の天命を理解している人は,力強く,輝いて見える.
 私は,医師になってからの8年間をいわゆるジェネラリストとして従事してきた.救急医および総合診療医としての8年間を過ごした京都・宇治徳洲会病院の救命救急センターでは,1次から3次までの救急に幅広く対応し,内科救急だけでなく小児科救急や外傷などの初期診療にも携わってきた.総合診療医としては,ほぼ全ての内科疾患の入院を診ていた.なので,幅広く何でも診ることには自信があった.良く言えば「幅広く診る」という得意技を持ったスペシャリストであった(なお,私と違って幅広くだけでなく専門医を凌駕するほど深く診ることができる総合診療医も存在する).

特別記事

【対談】医療の質・安全の来し方,行く末(前編)

著者: 小泉俊三 ,   上原鳴夫

ページ範囲:P.880 - P.887

日本における医療の質・安全の取り組みは,1999年の患者取り違え事件を契機に広がっていった.
しかし,それから15年がたち,いまだに現場では閉塞感が漂っている.
この対談では,その原因や解決策について,これまでの質・安全の取り組みを振り返りながら,日本における医療の質・安全を率いてきた上原鳴夫氏に語っていただいた.
その内容を本号,次号で紹介する.

--------------------

information

ページ範囲:P.887 - P.887

第9回 医療の質・安全学会学術集会
International Forum on Quality and Safety in Healthcare, Japan 2014
テーマ:患者本位の質・安全を追求する21世紀医療システムの構築に向けて
会期
[学術集会]
11月22日(土)〜23日(日)
[国際フォーラム]
11月23日(日)〜24日(月・祝)
[以下共通]
会場:幕張メッセ国際会議場(千葉市美浜区)

投稿規定

ページ範囲:P.898 - P.899

次号予告

ページ範囲:P.900 - P.900

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?