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雑誌目次

雑誌文献

病院73巻7号

2014年07月発行

雑誌目次

特集 先端医療と病院

巻頭言 フリーアクセス

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.513 - P.513

 日進月歩の医学研究の成果をいかに速やかにかつ安全に臨床に応用するかは医療政策の役割の1つである.病院には先端医療に取り組むことで,より良い医療を提供すると同時にブランドイメージを高めるという目的もある.しかしながら,先端医療には経済政策・産業政策としての側面もあることから,経済的な不確実性や倫理的に検討するべき課題もある.本特集では先端医療について,医療政策および産業政策的視点,生命倫理的視点,病院の経営的視点といった多面的視点から検討した.

 岩田論文では細胞シートを例として,先端医療研究の具体的内容が詳細に説明されている.これを一般臨床に広めるためにはCRCなどによる支援が不可欠である.CRCの重要性は広く認識されるようになっているが,それが本来の目的に沿って十二分に機能するためにはCRCを担う人材の育成,そしてそのキャリアパスへの配慮が不可欠であることを今井論文は指摘している.先端医療をめぐる競争は国際的に激化しているが,1つの組織が単独でその川上戦略・川下戦略をたて,また実行していくことは難しい.そこで,日本発の先端医療開発を進めるためのシステムとして石黒論文では「中部先端医療開発円環コンソーシアム」の概要が説明されている.日本全国への発展が期待される枠組みである.

先端医療と生命倫理

著者: 樋口範雄

ページ範囲:P.514 - P.518

■用語としての先端医療と先進医療

 この雑誌の読者なら常識かもしれないが,普通の患者(医師以外の人々)にとって理解が難しいのは,「先進医療」と「先端医療」が異なるという点である.本稿は「先端医療と生命倫理」と題しているから,「先進医療と生命倫理」を論ずるものではない.しかし,そもそも「先端医療」と「先進医療」はいかに異なるか,というところから本稿を始めるのが便宜であろう.

 「先進医療」とは「最先端の技術を用いた医療」であるから,本来は,「先進医療」も「先端医療」も同じ意味の言葉である.ところが,日本の医療制度の中では,「先進医療」に特別の意味を持たせた.それは,「先端医療」のうち,厚生労働省が指定した特定の医療機関で特別に承認した「先端医療」を指す.どこが違うかといえば,医療保険上の取り扱いが異なる.通常の保険診療と保険外の自由診療を組み合わせた場合,混合診療禁止という大原則の下ではすべて保険診療から外れ,患者が全額自己負担することになる.そもそも混合診療禁止の原則が本当に国民皆保険制度維持のために必要か,患者のためになるのか,そもそも法に基づく原則といえるのか1),には大いに議論がある.本稿ではそれに触れないが,実際には混合診療禁止という原則にはいくつもの例外が認められている.入院した場合の差額ベッド代は保険が利かないが,だからといってすべての診療費が自己負担になるわけではない.同様のことが,時間外診療や一定の歯科医療などに認められており,その1つとして,先に指摘したように国が特に承認した「先進医療」が含まれている.

先進医療制度―医療保険制度における先端医療へのアクセス確保と評価

著者: 笠原真吾

ページ範囲:P.519 - P.523

 平成24(2012)年10月に従前の高度医療と先進医療が統合され,新たに先進医療制度として再スタートを切ってから,1年以上が経過した.平成26(2014)年4月1日時点で,先進医療Aとして56種類の技術(表1)が,先進医療Bとして40種類の技術(表2)があり,最先端の医療を比較的少ない負担で受けられる制度として活用されている(表3, 4).

先端医療の医療経済学的評価

著者: 池田俊也

ページ範囲:P.524 - P.527

 医療経済評価は,多くの国々において医療技術の保険償還の可否の判断や,ワクチンや健診などの予防技術導入の判断などの政策決定に利用されている.特に抗がん剤などの高額薬剤については,英国のNICE(National Institute for Health and Care Excellence),カナダのCADTH(Canadian Agency for Drugs and Technologies in Health)やpCODR( The pan-Canadian Oncology Drug Review),オーストラリアのPBAC(Pharmaceutical Benefits Advisory Committee)などの公的機関において,臨床エビデンスとともに経済エビデンス(費用対効果)を評価し,それに基づいて診療ガイダンスを作成したり,保険償還の可否を判断したり,価格設定の参考としている.すなわち,臨床試験により有効性が確認された薬剤でも,費用対効果が悪ければ,その使用を推奨しないという判断が下される場合がある1)

 わが国においても中央社会保険医療協議会(中医協)において,革新的な医療技術の取り扱いを議論した際などに,医療保険制度において費用対効果の議論を行っていくべきとの指摘が数年前よりたびたびあった.これらの指摘も踏まえ,平成24(2012)年度診療報酬改定に係る答申書附帯意見において,「保険適用の評価に際し費用対効果の観点を可能な範囲で導入することについて検討を行う」こととされた.これを受けて平成24(2012)年度より中医協に費用対効果評価専門部会が設置され,政策利用の可能性について検討が行われている.約2年間にわたる議論の結果,当面の間,基本的に医薬品,医療機器を評価対象技術として,検討を進めていくこととされたが,一方で先進医療として実施している医療者などの技術の一部に,医療経済評価(費用対効果評価)の考え方を適用できるのではないかという指摘もあり,先進医療として実施している医療者などの技術についても費用対効果評価のあり方を検討することとなった2)

 本稿では,先端医療などの医療経済学的評価の手法と具体的事例,ならびに,政策利用に向けた課題について述べる.

産業政策としての先端医療

著者: 田倉智之

ページ範囲:P.528 - P.533

 国民皆保険制度を取り巻く社会経済環境が厳しさを増す中,わが国の疾病負担についてより一層の軽減を図り,国民の健康福祉の向上を目指すには,先端医療の研究開発を促す議論においても,産業振興や経済成長等の観点が不可欠と言える.このような背景のもと,本稿では病院が先端医療の発展の一翼を担う意義について,海外の産業政策の動向や病院経営との関連性も交えながら論述する.

中部先端医療開発円環コンソーシアム

著者: 石黒直樹 ,   水野正明

ページ範囲:P.534 - P.538

■はじめに

 先端医療の開発には常に一定のリスクが伴う.これは財政的な面,あるいは規制面であるかもしれない.また,開発途上での結果の不確実性による場合も決して無視できない.優秀なシーズも不均質な体制で開発を行ったが故に結果にばらつきが生じ,結局断念に至った例を知っている.さらに,開発時間の延長も大きな障害となる.症例の組み込みが遅れ,計画が達成できずに当初資金が底をつくというパターンである.企業治験ならまだしも,医師主導型治験では致命傷となる.
 医療開発に関わる組織として確実な成果を期待するならば,いわゆる優良なシーズを多数揃えること,確実な症例を組み込むこと,迅速なデータ収集を可能にするネットワークがあり,さらに常にそれが活動していることなどが取り得る方策である.

 また,このようなネットワークの存在は単にアカデミアの結合にとどまらず,産業界,社会にも注目されうる.当然,外部からのシーズ共同開発,支援などが一大学単独で活動するよりも受けやすくなることが期待される.

 医療開発時に避けがたい様々な問題に対して,リスクを軽減し,迅速に進めるための仕組みがこの中部先端医療開発円環コンソーシアムである.そもそも,医療開発には開発拠点を設けて,集中的に進めるという考え方とネットワークを活用して進めるという考え方がある.それぞれの特長を生かした形で開発が進めば最もそれが効率的と言える.中部先端医療開発円環コンソーシアム(以下,コンソーシアム)はネットワーク型の医療開発組織である.現在までの活動と今後の展望について紹介する.

トランスレーショナルリサーチの重要性

著者: 長村文孝

ページ範囲:P.540 - P.544

■医薬品開発の動向

 2004年に米国食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)は“Challenge and Opportunity on the Critical Path to New Medical Products”を発出した.この中で,図1に示すように医薬品開発への投資額は製薬企業および政府の開発機関である米国立衛生研究所(National Institute of Health;NIH)ともに年々増加しているにもかかわらず,図2に示すようにFDAで承認申請が受理される(承認ではない)数が医薬品・生物製剤ともに減少していた.先の白書はこれに対して非常な危機感を示し,規制当局の側から開発を促進する対応策を打ち出していく意図が込められていた.

 一方,このころより,製薬業界では「2010年問題」への対応が大きな問題となっていた.これは,売り上げの上位に位置する医薬品の多くが特許切れを迎えるが,それにとって代わる大型の新薬開発が進んでいないため,経営上大きな危機を迎えるというものであった.表1は2002年と2012年の医薬品の世界売り上げトップ10を示したものである.2002年は,2位に赤血球造血刺激因子でバイオ製剤であるエリスロポエチン製剤が入っているが,その他は化合物の薬物作用を探求するスクリーニング等により開発された医薬品であった.また,その多くは「2010年問題」に含まれる特許切れを迎えていた.2012年になるとトップ10の医薬品は全て入れ替わっているが,特に注目する点として,6品目が特定の作用機序に関与する分子をターゲットとした分子標的療法薬であり,そのうち5品目が抗体であったことが挙げられる.ヒュミラとレミケードの作用機序は関節リウマチ等の原因であるTNFαの過剰生産に対して抗体でTNFαを阻害することであり,エンブレルはTNFが結合する受容体とヒト免疫グロブリンのFc部分から構成されており,TNFが細胞表面の受容体と結合することを阻害する.リツキサンはB細胞性リンパ腫ではリンパ腫細胞表面にCD20が発現していること,ハーセプチンは乳がん等でHER2が過剰発現している場合が多いことに注目し,悪性細胞で発現している分子に抗体が結合し障害を与えることが作用機序である.固形がんでは血管新生による腫瘍の増殖が認められるが,アバスチンは血管新生を促進する分子であるVEGFの作用を阻止する抗体として開発された.いずれも基礎研究での発見に注目し,医薬品として抗体あるいは受容体製剤として開発されている.

先端医療開発研究の中でCRCの果たすべき役割

著者: 今井康人 ,   金子周一

ページ範囲:P.545 - P.550

■CRC(臨床研究コーディネータ)とは

 近年,医薬品・医療機器開発において臨床研究コーディネータ(clinical research coordinator;CRC)は必要不可欠の存在となっている.CRCとはスポンサー側(主に製薬企業)と医療機関側(主に医師,薬剤師など)との仲介役となり,治験全体のコーディネートを行い,円滑に治験が実施できるように支援を行うとともに各種調整業務を担う医療スタッフである.医療機関に所属している院内CRC以外にも治験施設支援機関(site management organization;SMO)に所属しているCRCも存在する.

 CRCは日米EU医薬品規制調和国際会議(International Conference on Harmonisation of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use;ICH)で合意をみたICH E6ガイドライン(ICH-GCP)1)に基づいて法整備(1997年公布,1998年施行)された新GCP(good clinical practice:医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令,以下,新GCP省令)において新たに命名された呼称であり,わが国でもまだ15年程度の歴史しかない職種である.

細胞シートによる再生医療実現プロジェクト

著者: 岩田隆紀 ,   大和雅之 ,   岡野光夫

ページ範囲:P.551 - P.555

細胞を用いた製品に対する行政の対応

 2013年に通称「再生医療三法」が国会を通過し,2014年末より新しい法律に則った再生医療製品の開発が始まろうとしている.以下,三法の概略を述べる.

リハビリテーション医療における先端医療の動向

著者: 蜂須賀研二

ページ範囲:P.556 - P.560

 厚生労働省が発表した平成25(2013)年人口動態統計によれば,脳血管疾患の死亡者数は2013年には11.9万人となり,悪性新生物,心疾患,肺炎に次いで第4位になった1).しかし,平成23(2011)年の脳血管疾患による入院患者数推計は17.2万人で上位3疾患を上回り,統合失調症に次いで第2位である2).さらに,介護保険で要介護となった原因疾患の第1位は脳血管疾患である3).すなわち,脳血管疾患は最も入院治療を必要とする疾患で要介護の最大の原因でもある.そのため脳血管疾患患者を含む多くの高齢障害者に対して,十分量のリハビリテーション(以下,リハ)介入を提供できるようにする必要がある.

グラフ

医療と教理の融合で「陽気ぐらし」を目指す―天理よろづ相談所病院

ページ範囲:P.497 - P.500

■病院設立の背景

 天理よろづ相談所病院,通称「憩の家」(以下,当院)は,1966(昭和41)年に開設された,天理教を母体とする病院であり,「笑顔と親切」をモットーに全人的医療を掲げる.天理教は19世紀前半にできたいわゆる「新宗教」の古株であり,全国に支部をもつ比較的規模の大きい宗教法人である.法人としての代表は「真柱(しんばしら)」と呼ばれ,第2代真柱の中山正善氏のときに病院ができた.現在は分院と合わせて1,000床を超える有数の大病院として知名度も高い.

連載 アーキテクチャー 第234回

国家公務員共済組合連合会 浜の町病院

著者: 安川智 ,   四井智之

ページ範囲:P.504 - P.510

■新病院 5つの特徴

 浜の町病院は,1951(昭和26)年の開院以来,市民の厚い信頼を集め約50年地域医療に貢献してきた.施設の老朽化と安全性への課題により,優れた療養環境の提供と,より一層の診療機能の充実のために,現在とほぼ同じ医療圏域内の別敷地に建替を行った.

 新病院の特徴は大きく5つある.①高度な医療サービスと健全な経営を継続するための「機動力の高い部門配置と動線計画」,②診療内容や患者数の変化に追随できる,貸しビルに倣った「フレキシブルな平面」,③適度な「動線混合」による,患者とスタッフが互いに顔が見える双方の「安心」,④機能的な矩形平面の診療部分と,45度回転し,プライバシーと眺望に配慮した十字型病棟,⑤災害に強い「安全で安心な病院」である.

世界病院史探訪・16

ザルツブルクにある2つのシュピタール

著者: 石田純郎

ページ範囲:P.511 - P.512

 封切りより半世紀になるアメリカ製ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台が,オーストリアのザルツブルクである.この映画を見て,いまだに多くの観光客が世界中から訪れ,ロケ地巡りの大型観光バスが客を満載して,毎日運行されている.断崖のある丘上に,大規模な城砦ホーエンザルツブルクが聳える印象深い地形の人口14万人の古都ザルツブルクは,ザルツァッハ川西部の狭い平野に旧市街がある.この街にも,旧市街に1つ,そのすぐ北側の新市街に1つ,計2つのシュピタールがある.これら以外にもザルツブルクにはシュピタールが置かれ,裕福な都市であった.

 世界遺産の旧市街にあるシュピタールが,ブルガー・シュピタール(Burgerspital)で,トラップ・ファミリーが歌った音楽祭会場である大祝祭劇場の北部に接する馬の水飲み場(やはりロケ地)の北部Burgerspitalgasse2番地にある.正式名はBurgerspital St.Blasiusという.まず12世紀末に後にシュピタール教会となったSt.Blasius教会が建てられた.St.Blasiusは病人の守護聖人で,アルメニアの医師で司教であり,5世紀から6世紀初めに実在したとされる.次いで,1327年にFriedrichⅢ世大司教が,年老いた病人のためのシュピタールを建て,16世紀に拡張された.市民からの寄付に頼ったので,Burgerspital(市民病院)と呼び称されるようになった.現在シュピタール棟は,ザルツブルクおもちゃ博物館として利用されている.

医療計画・地域医療ビジョンとこれからの病院マネジメント・1【新連載】

地域医療ビジョンと第6次医療計画のめざすもの

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.567 - P.571

■連載を始めるにあたって

 平成25(2013)年4月25日病床機能の報告・提供の具体的なあり方に関する検討会での議論の結果,各都道府県は圏域内の医療機関の機能に関する情報や地域の医療需要の将来推計を活用し,平成27(2015)年度から医療ビジョンの策定を開始することとなった.この地域医療ビジョンについては,策定に当たり都道府県ごとに「協議の場」が設定され,「診療に関する学識経験者の団体」が参加することになっている.具体的には都道府県医師会や大学の研究者などの学識経験者が入ることになると考えられる.

 平成27(2015)年度からビジョン策定というスケジュールに沿って検討を進めるためには,平成25(2013)年度中にガイドライン策定に当たって必要となる基礎資料を作成する必要があった.そこで,筆者らは厚生労働科学研究の枠組みでビジョン策定の前提となる将来需要や,現状を投影した場合の医療資源量の推計方法の検討および地域医療ビジョンに投影した場合のイメージを得られるよう,大まかな地域・疾患・医療機能(急性期,亜急性期等)の可視化に関する研究を行ってきた1, 2).平成26(2014)年度以降の研究ではこうした資料をもとに各地域における地域医療ビジョン策定のための具体的なガイドラインの作成作業を行っていくことになる.

 ところで,このガイドラインの位置づけについては関係者間での意見の相違も取りざたされている.例えば,医療系ニュースサイトでは厚生労働省の担当者が「ガイドラインには拘束力を持たせる」との考えを述べたことに対し,日本医師会の幹部が「ガイドラインはあくまで参考に過ぎない」と反論したと報道されている3)

 医療をめぐる財政状況が厳しくなっていることを受けて,病床機能の調整について現在の案で進まなかった場合,より強い規制が導入される可能性があるという3).社会保障制度改革国民会議の最終報告においても,医療者自らの努力によって医療提供体制の適正化が進む必要性と期待が述べられている4).建前上の言葉遊びに過ぎないという批判をあえて甘受する覚悟で私見を述べると,適正化とは医療ニーズの変化に対応した医療提供体制の適正化であり,必ずしも支出の抑制を意味するものではないだろう.実際,社会保障制度改革国民会議の報告書においても今後の医療費増加についてはそれが許容されている.したがって,喫緊の課題は「適正性」の合理的根拠を示す作業をいかに行っていくかであり,しかもその適正化が地域ニーズの多様性に対応して的確に行われる仕組みをどう具体化するかである.

 この作業を関係者の合意のもとで行うためにはデータが必要であり,その準備の一端を筆者らの研究班メンバーが担ってきた.本連載では今回を含めて表に示した6回シリーズで,研究班メンバーの各々がその具体的内容について説明する.なお,医療計画の見直しと地域医療ビジョンは一体的に進むため,本シリーズではこの2つを総合的に議論する.また,地域包括ケアへの対応についても第6回で言及する予定である.

医療者からみた高齢者の「こころとからだ」・1【新連載】

老健居住者の生活環境の満足感とは

著者: 高齢者の生活環境と「こころとからだ」を考える会

ページ範囲:P.573 - P.573

 急速な少子高齢化を背景に,国は介護保険法を制定・改正して介護老人保健施設(老健)を全国的に展開させている.

 そこでは入所者だけではなく,世話をする職員にも様々な戸惑いが生じている.食事一つを例にとっても,本来楽しいはずの食事の場のあちこちで奇声が聞こえたり,排泄の臭いが漂ってきたりする.ケアをする職員は,入所者が車椅子から転落しないよう見守らなければならないし,食事介助で飲み込みの悪い人が誤嚥性肺炎にならないよう配慮しなければならない.さらに,歩行移動に障害の少ない入所者は徘徊したり断りなく脱出(離設)したりする.これを防止する一方で,離設への「思い」は何なのか.ケアする側には入所者の「からだ」だけではなく,「こころ」に対する深い配慮が求められる.

病院のお悩み相談室・7

経営意識の向上

著者: 垂水謙太郎

ページ範囲:P.574 - P.576

 診療報酬改定,消費税増税などの煽りを受け,病院は事務職,医療職にかかわらず,全職員が経営意識を持って行動することが求められています.第7回となる今回は,“医師の経営意識の低さ”に悩む事務長からの質問を取り上げ,意識向上の取り組みポイントについて紹介します.

 また,今回は私がコンサルタントとして病院の経営支援に入る中で直面し感じた“2014年診療報酬改定”について文末のコラムで触れたいと思います.

リレーエッセイ 医療の現場から

教育力のUPで魅力ある地域病院に

著者: 高村昭輝

ページ範囲:P.577 - P.577

 日本は歴史的に総合診療医・家庭医と呼ばれる医師が非常に少ない国ですが,国際的に見ると地域医療を担う中心は総合診療医・家庭医です.専門治療ができる病院に臓器別専門医を集約し,地域では総合診療医・家庭医が日常の健康問題の解決に当たり,専門診療が必要な患者さんを適切な時期に紹介することで医療経済的にも患者さんの動線としても効率化が可能となっています.これらのシステムは臓器別専門医へのアクセスが不便な,たとえば国土が広大であったり,交通網が発展していなかったりした場合には非常に効果的です.

 幸い(?)日本は国土も狭く,人口密度も高いことから都市部以外でも臓器別専門医が存在し,これまで地域の健康水準を高い状態で保つことができていました.そこには大学が医師を地域に派遣していたということも大きく寄与したと言えるでしょう.しかし,少子高齢化が日本の社会でも問題になるに従い,特に人口減少地域では高齢化が顕著になり,必要な医療量が増える一方で臓器別専門医を配置し続けることが効率的ではなくなってきました.

レポート【投稿】

事故調査委員会の運営手法の一例―ロンドン・プロトコルの方法論

著者: 菊地龍明 ,   後藤隆久 ,   相馬孝博

ページ範囲:P.562 - P.566

要旨

 横浜市立大学附属病院で発生した医療事故に対して,医療安全管理室が中心となった院内での事故調査と,それに引き続き外部委員を加えた事故調査委員会による調査とが行われ,それぞれ報告書が作成された.後者の事故調査委員会では,ロンドン・プロトコルに基づき寄与要因の枠組みに沿って網羅的・系統的な分析を行った結果,より客観的な寄与要因の同定と対策立案が可能になった.さらに事故における本質的問題を定め,寄与要因との関連性を明確化したことにより,より具体的な対策案も示された.

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投稿規定 フリーアクセス

ページ範囲:P.578 - P.579

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.580 - P.580

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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