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文献詳細

雑誌文献

病院73巻7号

2014年07月発行

文献概要

特集 先端医療と病院

先端医療と生命倫理

著者: 樋口範雄1

所属機関: 1東京大学法学部・大学院法学政治学研究科

ページ範囲:P.514 - P.518

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■用語としての先端医療と先進医療

 この雑誌の読者なら常識かもしれないが,普通の患者(医師以外の人々)にとって理解が難しいのは,「先進医療」と「先端医療」が異なるという点である.本稿は「先端医療と生命倫理」と題しているから,「先進医療と生命倫理」を論ずるものではない.しかし,そもそも「先端医療」と「先進医療」はいかに異なるか,というところから本稿を始めるのが便宜であろう.

 「先進医療」とは「最先端の技術を用いた医療」であるから,本来は,「先進医療」も「先端医療」も同じ意味の言葉である.ところが,日本の医療制度の中では,「先進医療」に特別の意味を持たせた.それは,「先端医療」のうち,厚生労働省が指定した特定の医療機関で特別に承認した「先端医療」を指す.どこが違うかといえば,医療保険上の取り扱いが異なる.通常の保険診療と保険外の自由診療を組み合わせた場合,混合診療禁止という大原則の下ではすべて保険診療から外れ,患者が全額自己負担することになる.そもそも混合診療禁止の原則が本当に国民皆保険制度維持のために必要か,患者のためになるのか,そもそも法に基づく原則といえるのか1),には大いに議論がある.本稿ではそれに触れないが,実際には混合診療禁止という原則にはいくつもの例外が認められている.入院した場合の差額ベッド代は保険が利かないが,だからといってすべての診療費が自己負担になるわけではない.同様のことが,時間外診療や一定の歯科医療などに認められており,その1つとして,先に指摘したように国が特に承認した「先進医療」が含まれている.

参考文献

1)ただし,最高裁第3小法廷は平成23年10月25日,混合診療禁止を適法とする判断を示している.民集第65巻7号2923頁.
2)これについては,三瀬朋子:医学と利益相反.p42(2007年・弘文堂)参照.
3)Conrad Fischer:USMLE Medical Ethics 84(Question 9). Kaplan Publishing; 3rd ed. 2012
4)その点は,臓器移植法5条「この法律において『臓器』とは,人の心臓,肺,肝臓,腎臓その他厚生労働省令で定める内臓及び眼球をいう」とあるのを見ても明らかである.
5)The Ethics Committee of the American Society for Reproductive Medicine : Financial Compensation of Oocyte Donors. 2007. ウェブサイト参照.http://www.asrm.org/uploadedFiles/ASRM_Content/News_and_Publications/Ethics_Committee_Reports_and_Statements/financial_incentives.pdfこの規制に対し,反トラスト法違反の不当な取引制限にあたるとして訴訟が提起されている.Krawiec, Kimberly D.:Kamakahi v. ASRM:The Egg Donor Price Fixing Litigation(February 28, 2014). Virtual Mentor. 2014;16:57-62.;USC Law Legal Studies Paper No. 14-3;USC CLASS Research Paper No. CLASS14-1. ウェブサイト参照.http://ssrn.com/abstract=2396027
6)医療イノベーション推進室については,下記参照.http://www.kantei.go.jp/jp/singi/iryou/secchi/
7)有名なカレン事件については,唄孝一:生命維持治療の法理と倫理.p247以下(1990年・有斐閣)に詳しい.
8)Tom L. Beauchamp & James F. Childress:Principles of Biomedical Ethics(1st Ed. 1979, 7th ed. 2012, Oxford U Press).2001年の第5版が,立木教夫・足立智孝(監訳):生命医学倫理(第5版・2009年・麗澤大学出版会)として翻訳出版されている.
9)患者は,弱っている状況で,かつ専門家たる医師に身を委ねるので,悪い医師であればわいせつ行為など故意に危害を加えることもありうる.それは論外として,医療にはリスクが伴うので,診療する医師としても予想外の結果となって,危害を加える場合もある.
10)Rebecca Dresser:Stem cell research as innovation;Expanding the ethical and policy conversation. J of Law, Medicine & Ethics 38:332, 2010. 樋口範雄訳:イノベーションとしての幹細胞研究.同編著:ケース・スタディ 生命倫理と法』355頁(第2版・2012年・有斐閣).
11)前掲書318頁以下参照.
12)本稿に関連した論考として,Norio Higuchi:Three Challenges in Advanced Medicine. JMAJ 56(6):434-447, 2013

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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