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雑誌目次

雑誌文献

病院73巻9号

2014年09月発行

雑誌目次

特集 里山資本主義と地域医療

巻頭言

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.677 - P.677

 地域医療の現場を訪問する中で,地方において医師不足が深刻である一方,素晴らしい医療を行っている医療者も少なくないことから,もっと地方での医療の面白さが伝わらないかとかねがね感じていた.そのような中,同じ問題意識を有する1冊の本と出合った.

 藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』(角川書店).30万部を超えるベストセラーになっている.同書は,お金が一番大事だという「マネー資本主義」を至上とする考え方に疑問を呈し,中国地方のお金に換算できない里山の資源を活かす生活を紹介.お金に依存しないサブシステムを再構築する「里山資本主義」を提案する.

【鼎談】里山資本主義と地域医療の共通項―地域の人のつながりが新しい価値を生む

著者: 藻谷浩介 ,   井階友貴 ,   伊関友伸

ページ範囲:P.678 - P.685

■換金できない価値を見出す「里山資本主義」

伊関 藻谷先生のご著書『里山資本主義─日本経済は「安心の原理」で動く』(角川書店)は,地域医療の観点からも学ぶことがたくさんある本だと思います.まずは藻谷先生,この本を書くに至ったきっかけからお聞かせください.

藻谷 これは,NHKが中国五県で放送したドキュメンタリーシリーズを元にした本です.「里山資本主義」という言葉を考えたのは番組制作に当たった共著者のお二人(NHK広島放送局の井上恭介氏と夜久恭裕氏)であり,番組を新書に生まれ変わらせたのはKADOKAWAの担当編集者の岸山征寛氏でした.私はその番組に60~70分×6回,ナビゲーターとして出て,後日自分の担当する中間総括と最終総括を,脳味噌振り絞って書いただけです.

これからの地域コミュニティと医療・福祉

著者: 広井良典

ページ範囲:P.686 - P.691

 今号の特集テーマは「里山資本主義と地域医療」であるが,藻谷浩介・NHK広島取材班『里山資本主義』(角川書店,2013)の企画にはささやかながら私もその一部に参加させていただき,同書の中の「懐かしい未来」に関する一節でも若干のコメントをしている(同書181ページ).本稿では,里山資本主義的なビジョンを視野に入れながら,これからの地域コミュニティと医療・福祉の関わりについて考えてみたい.

「地域医療」から「コミュニティヘルス」へ―住民が役割を持てる仕掛けを考える

著者: 秋山美紀

ページ範囲:P.692 - P.696

■「高齢患者の急増」というシナリオを変える鍵とは

 後期高齢者が急増し生産人口が激減する2025年には,元気な高齢者は「支える側」にまわらなければ,社会を持ちこたえられないと言われている.これまで「支えられる側」と見なされていた者も,できることをしたり,何らかの役割を担っていくことが望まれている.社会的役割を持つことは,主観的健康感や幸福感,QOL(quality of life:生活の質)と関連していることもさまざまな研究で明らかになりつつある.また,健康行動を実践・継続するためには人のつながりが重要であることも社会疫学的な調査でわかってきた.こうした中,平成25(2013)年に改正された「健康日本21(第二次)」には,ソーシャルキャピタル(人々の絆,信頼,助け合いの規範)の概念も反映されるようになった.特に保健衛生推進員ら地域住民組織が健康づくりに貢献することが一層期待されている.しかしながら,一方で彼らの中には「押しつけられ感」「やらされ感」が大きくなっているという声もある.昔ながらの地縁による組織も大切な一方で,新しいつながりや地域資源の発掘も課題である.

 住民が自らの意思で役割を持って活躍できる機会は,どうしたらつくれるのだろうか.本稿では,「コミュニティヘルス」という概念を基点に,患者や市民が超高齢化社会を支える一員として活躍できる場づくり,役割づくりに関する方策を提案する.筆者が活動をしている山形県南庄内地域の例も交えながら,地域の「人財」を育んでいくヒントを示したい1).2005年に合併によって東北地方で屈指の広さを誇る自治体となった鶴岡市と三川町からなる南庄内地方では,市,町,県(保健所)といった行政,地区医師会や病院などの医療者,介護や福祉に関わる人たち,そしてわれわれ慶應義塾大学や地元大学の関係者が,それぞれ柔軟なかたちで連携をしながら,多層的なコミュニティヘルスの取り組みを進めている.

【事例】

地域医療魚沼学校の試み―住民こそ医療資源である

著者: 布施克也 ,   鈴木孝明 ,   林純一 ,   高野清美 ,   上原喜美子 ,   上村伯人 ,   井口清太郎 ,   大平妙子 ,   佐藤洋子

ページ範囲:P.698 - P.701

■地域医療再編成事業として

 新潟県魚沼圏域(2012年人口21.3万人)は10万人当たりの医師数が124.4(2008年)で,全国平均の6割にも満たない医師不足地域である.また,圏域の高齢化率は30.1%(2012年)で,集落によっては40%を超えるところもある.また,人口減少も著しく,私たちが直接担当している魚沼市(2012年人口39,163人)で人口動態を詳しくみると,20年間で人口は14%減少しており,2015年には高齢化率が33.3%になると予想されている.出生数は10年間で約3割減少し,いっぽう死亡数は高齢化により10年間で約3割増加している.介護保険の認定率は18.2%と全国平均(16%)よりやや高い程度だが,高齢化のため要介護5の割合が19.3%と全国平均(11.2%)に比して著しく高くなっている.医師不足により高度医療機能は十分とは言えず,救急車搬送先の10%は他医療圏に依存しており,また放射線治療施設や循環器救急施設がないため,高度医療も隣接医療圏に依存している.

 これらのことから,新潟県は郡部の医療システム再構築のモデルケースとして,医療圏での医療福祉の完結性の向上を目指した.この再編成事業は,2003年頃に端を発してさまざまな検討を重ね,2009年には地域医療再生計画事業の認定を受け,県の重要保健政策となった.高度専門医療機能整備だけでなく,総合診療医の育成により「地域全体をひとつの医療機能とする」を理念とし,「マグネットホスピタルの新設」「プライマリケア医療機関の強化」「多職種連携教育と協働実践の推進」「住民の主体的参加」「医療情報ネットワークの構築」を目標に計画された.2015年にはマグネットホスピタルとなるべく「新潟大学地域医療教育センター・魚沼基幹病院」が開院し,この理念実現の緒が開かれることになる.

「るもいコホートピア構想」と地域医療

著者: 笹川裕

ページ範囲:P.702 - P.705

 2006年,北海道留萌市は地域医療と市財政が危機に瀕し,地域医療再生と地域再生が同時に必要な状況に陥っていた.医師不足や赤字に苦しむ市立病院,少子高齢化に伴った労働人口・総人口の減少,地元産業の低迷が影響し財政難に陥った地方行政など,負の課題が山積していた.2010年,幸いにも病院は不良債務を解消し,2011年,留萌市も財政難から脱却できた.短期間でよくそこまで回復できたものだと感心されるかもしれないが,何よりも市民や市職員・病院職員の協力,議会・行政などの地域力・総合力が大きな要因であった.本稿ではそれを紹介する.

地域包括ケアを目指す「三方よし研究会」の試み

著者: 小串輝男

ページ範囲:P.706 - P.709

■「患者よし・医療機関よし・地域よし」の連携ネットワーク

 2007(平成19)年4月に医療法が改正施行され,4疾病5事業に係る医療連携体制を構築するための方策を医療計画に定めることとなった(現在は5疾病5事業).これに呼応して滋賀県東近江保健所圏域でも作業を開始すべく,当時の角野文彦所長(現滋賀県健康福祉部次長)がリハビリテーション(以下,リハビリ)関係者,地域連携室,看護師,病院,医師会(メディカルスタッフ)などに,まずは脳卒中を手始めにと呼びかけ,「東近江地域医療連携ネットワーク研究会」がスタートした.私はその時は地区の医師会長を務めていたので,代表として研究会に受動的に参加し始めた.

 連携の特徴として,患者にもよい,施設にもよい,地域にもよいことから,最初は「Win-Winの関係」が唱えられた.しかし,医療に勝った負けたはそぐわないとして,われらの祖先である近江商人の家訓「売り手よし,買い手よし,世間によし」にならい,「三方よし研究会」とやがて名付けられた.月一度の研究会は次第に参加者が増えだし,最近では120人を超えるようになってきている(図1,表1).

高齢化が深刻なUR都市機構幸手団地におけるコミュニティ再生と地域医療の取り組み―郊外地域に対応した住民主体の地域包括ケアシステム

著者: 中野智紀

ページ範囲:P.710 - P.713

■医師不足かつ崩壊した地域コミュニティに急速な高齢化が到来

 埼玉県は首都圏にありながら,人口10万人当たりの医師数や看護師数などが全国で最低レベルであり,医療資源が相対的に不足している県であることが知られている.東埼玉総合病院(以下,当院)が所在する幸手市と所属する二次保健医療圏である利根保健医療圏は,県内でも人口10万人当たりの医師数が最少レベルであり,あらゆる医療介護資源の不足が深刻化している.

 さらに現在,埼玉県は全国で最も速いスピードで高齢化が進んでおり,住民の疾病有病率も急速に上昇している.現在,都内または他地域の医療機関を利用している住民は相当数存在し,地域の高齢化とともに,今後,地元の医療機関を利用するようになる傾向が予想されている.さらに高齢者の急増により,受け皿となる地元の医療や介護機関の需要と供給との間の不均衡(以下,需給ギャップ)は,今後ますます顕著となることが予想される.

グラフ

革新をめざす都市型有床診療所―四谷メディカルキューブ

ページ範囲:P.661 - P.664

■都市型有床診療所の挑戦

 四谷メディカルキューブは,「最高の安心と最新の医療」を経営理念に掲げ,2005年に東京都のオフィス街に開院した有床診療所だ.主要6部門を立方体(キューブ)に例えた.内視鏡外科医である黒川良望院長は,「19床では全科に対応することが難しいのはもちろん,入院が長引く疾患は扱えない.そのため,画像診断を主とする健診事業に力を入れ,内視鏡手術と短日手術に取り組んだ」と説明する.

 「画像診断センター」では開院当初からPET-CTを導入,現在では3台が稼働しており,読影専門医が4~5人常駐している.地下にサイクロトロン室があるのも強みである.

連載 アーキテクチャー 第236回

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター

著者: 室殿一哉 ,   永井豊彦 ,   名和杏子

ページ範囲:P.668 - P.673

■未来を開く2大テーマ

 初めて敷地を訪れた際,都内にこれほどまでに緑豊かな場所が残されているのかと,大変驚いたことを思い出す.「光・緑・水に溢れた環境の創造」を設計コンセプトとして,高齢者医療・研究・人材育成の未来を開く最先端モデルをめざし,大きく2つのテーマを持って進めた.

 1つ目は,地域と共生した「まちづくり」と環境にやさしい施設づくりを促進することである.そのために,既存の緑豊かな環境を活かし,地域に開かれたパークホスピタルを目指すとともに,自然エネルギーの利用を積極的に取り入れた.これは,地球温暖化対策にも結びつくことであり,建物自体の省エネルギーや環境負荷低減にもつながるため,完成建物の病院としてCASBEE(建築環境総合性能評価システム)の最高Sランクの評価を得ることを目標に取り組んだ.

世界病院史探訪・18

ウィーン陸軍病院(ヨセフィーヌム)・陸軍軍医学校と日本の蘭学

著者: 石田純郎

ページ範囲:P.675 - P.676

 皇帝ヨーゼフⅡ世はウィーン大学医学部と附属病院だけでなく,同時にウィーン陸軍軍医学校と陸軍病院の整備も行った.

 AKHがウィーン大学医学部附属病院であったのに対し,1785年に創設されたウィーン陸軍病院(ヨセフィーヌム)は,外科のマギステルと内科のドクトルの称号を授与する外科医・内科医の養成機関である教育水準の高い陸軍軍医学校を併設し,約100年間にわたり,近代的軍医を養成した.

医療計画・地域医療ビジョンとこれからの病院マネジメント・3

National databaseを用いた地域医療の可視化

著者: 藤森研司

ページ範囲:P.715 - P.720

 5年に一度の地域医療計画の策定において,前回の平成25(2013)年度は今まで以上にデータに基づいたPDCAサイクルを意識した計画作りが目標となった.実際には十分な時間的余裕がなく,従前とはそれほど変わらない地域医療計画となったきらいはあるが,厚生労働省医政局内には「PDCAサイクルを通じた医療計画の実効性の向上のための研究会」が組織された.平成25年度末には地域医療計画のためのデータブック(「医療計画作成支援データブック」以下,データブック)が新たに作成され,都道府県担当者向けの研修会も定期的に開催されている.

 地域医療ビジョンの策定も2014年度中に始まり,平成30(2018)年度の地域医療計画は,いままでになくdata orientedなものになると期待されるが,そのデータの一部はNational databaseの集計から得られる.病床機能報告制度,医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会などでもNational databaseの活用が計画されている.では,National databaseとはいかなるものであろうか.

病院のお悩み相談室・9

情報流出と患者のプライバシー

著者: 垂水謙太郎

ページ範囲:P.722 - P.725

 今回は情報流出および患者のプライバシーに関する話題を取り上げます.近年医療機関だけでなく,各業界でも対応に苦慮している問題であり,顧客情報流出についての報道もしばしば目にします.

 医療機関で扱う情報はとりわけ機微性が高いものであり,その対応については病院事務長の関心も高いことが「事務長フォーラム」からも伺えます.

医療者からみた高齢者の「こころとからだ」・3

図形化試案による臨床的ケアへのヒント

著者: 高齢者の生活環境と「こころとからだ」を考える会

ページ範囲:P.727 - P.727

 前回は精神的障害度と身体的障害度をもとに,高齢者施設入居者の「満足度」を図示してみた.精神的障害の程度をY軸に,身体的障害の程度をX軸に取ることで表れる三角形の形,面積で「満足度」を表したものである.今回は図形化の試みを展開させ,精神的障害と身体的障害のそれぞれの程度をY軸上に置き,入居者の今の生活における心境をX軸に置くことで生活の充足の程度,つまり満足度を考えてみた(図1).

 例えば,精神的障害度,身体的障害度がともに最も軽度場合,入居者の心境は比較的良好であると考えられる.するとX軸上のプロットは最大値となりうることが想定され,入居者が心身ともに充足している状態がうかがえる.この状態のときに表示される三角形は正三角形の最大面積を持つ.

リレーエッセイ 医療の現場から

私のジャイアント・キリング

著者: 井村洋

ページ範囲:P.731 - P.731

 この原稿を書いている今,ブラジルではワールドカップ(W杯)が始まりました.日本のW杯初出場の1998年以来,国内外のサッカーに関する注目度は,飛躍的に増加しました.選手についてはもちろん,監督にも関心が寄せられるようになっています.特に,日本代表においては,選手選考,ゲーム戦術,選手交替の采配などについて,皆が総監督状態です.

 それはそれで楽しいのですが,私は次のような監督の役割も,気になります.「どんなチームづくりを目指すのか」「どのようにして実現させるのか」「フロントとの交渉はどのようにするのか」などです.これらについては,メディアを通じて部分的に得られますが,「選手とのコミュニケーション」については,ほとんど明かされることがありません.信用に関わることであり,公表されないのが当然ですが,管理職として最も気になる点です.

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書評 誰でも学べる高齢者ケアの本質―本田 美和子,イヴ・ジネスト,ロゼット・マレスコッティ●著『ユマニチュード入門』

著者: 藤沼康樹

ページ範囲:P.721 - P.721

 フランス発の認知症高齢者ケアメソッド「ユマニチュード」の待望の解説書が登場した.

 日本が人類史上経験し得なかった高齢社会を迎えるに当たって認知能などの機能低下のある高齢者の増加に医療・介護・福祉がどのような姿勢をもって臨むのかということに関しては,主としてヒューマンリソース等のシステムに関する議論が,現時点では多いように思う.そして,ユマニチュードのようなケアメソッドが,今あらためて注目されているのは,医療や看護の領域から具体的なケア現場への発信が,必ずしも十分ではなかったことが背景にあるかもしれない.

書評 全ての医療人にお薦めしたい便利で使いやすいreference book―福井 次矢●監修・小松 康宏,渡邉 裕司●編『Pocket Drugs 2014』

著者: 大内尉義

ページ範囲:P.729 - P.729

 福井次矢先生が監修され,小松康宏先生,渡邉裕司先生お二人の編集と,臨床疫学,臨床内科学,臨床薬理学を専門とされるお三方の手による『Pocket Drugs 2014』は,現在,わが国の臨床現場において使用されているほぼ全ての医薬品の効能,適応,用量・用法,副作用や禁忌等の注意事項など,薬物療法に関する最新の知識をまとめたものである.言うまでもなく,薬物治療は医療の中心であり,全ての医師は現行の薬剤について精通しておく必要がある.本書はその手助けをする目的で編纂されている.

 本書の最大の特徴は,その名の通りポケットに入るサイズの中に,個々の医薬品に関する情報が満載されていることであるが,多忙な外来,入院診療の場で使われる本書のようなreference bookは,必要な情報に素早くアクセスできることが極めて重要であり,本書はそのためにさまざまな工夫がされている.4色刷りのカラフルな紙面は,項目による色使いが統一されていてわかりやすいだけでなく,見ていて楽しい.索引も事項索引,薬剤索引が充実していて目的の薬剤へのアクセスが容易である.また,各章の冒頭に,そのジャンルの薬剤の特徴,作用機序などの総論的事項がわかりやすく記載されているのも本書の有用性を高めている.さらに,その中に,ガイドラインにおけるその薬剤の位置付けとエビデンスが記載されており,また個々の薬剤の最後にも「治療戦略」として〈evidence〉の項があり,エビデンスを重視する編集の特徴がよく表れている.薬剤の写真付きであること,薬価が記載されていることも有用で,さまざまな点で大変よく工夫されている.

information

ページ範囲:P.730 - P.730

HOSPITAL MANAGEMENT JAPAN

日時:9月9日(火)・10日(水)

会場:ホテル椿山荘東京(東京都文京区)

投稿規定

ページ範囲:P.732 - P.733

次号予告

ページ範囲:P.734 - P.734

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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