icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

病院74巻1号

2015年01月発行

雑誌目次

特集 地域包括ケア病棟は医療を変えるか

巻頭言

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.17 - P.17

 今回の特集は地域包括ケア病棟である.背景にある問題意識は本特集の各執筆者が共通して指摘している高度高齢社会への対応である.7対1看護体制の拡大に関する政策的な失敗もあり,我が国の入院医療提供体制は急性期に偏重したものになっている.しかし,医療と介護のニーズが複合化・複雑化する高度高齢社会ではこれに対応できる体制の強化が必要である.これが四病院団体協議会が提唱した「地域一般病棟(2001年)」であり,「地域医療・介護支援病院(2013年)」であった.そして,以上のような問題提起を受ける形で「入院医療等の調査・評価分科会」および中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を経て体系化されたのが今回の地域包括ケア病棟である.この経緯については本特集の丹藤論文・鈴木論文・猪口論文にある通りである.
 地域包括ケア病棟は介護保険側から出された地域包括ケアの概念に医療側から応える重要な要素の一つである.鈴木論文が指摘しているように高度高齢社会では医療の裏付けのない地域の安心はあり得ないからである.しかし,そのあり方は地域によって異なっている.池端論文が示しているように,人的資源に制限のある中山間地域では慢性期の病院が急性期も含めた医療と介護ニーズに総合的に応える必要があるし,また大谷論文にあるようにそうした地域の公的病院の場合はいわゆる急性期の看板を持ち続けることを住民から要望される.他方,療養病床や介護施設が不足している東京のような大都市部では地域包括ケア病棟を持つ中小民間病院が大病院の退院患者の受け皿となり,かつ在宅ケアを支える中核施設として機能せざるを得ない.これは猪口論文で述べられていることである.このように「地域包括ケア病棟」のあり方はそれぞれの地域の条件によって多様なものになる.表現は厳しいが,「実際は『高齢化に基づく医療提供サービスの問題は,あくまでも住民の日常生活圏の問題であって,それゆえ,介護保険の保険者でもある市町村の中で工夫をして考えてほしい』と,いわば国から丸投げをされた」という大谷論文の指摘は正しい.医療関係者そして地方自治体は,それぞれの状況に合った「地域包括ケア体制」を作ることを任されたのであり,それを具体化する場が地域医療構想における「協議の場」である.その成否は「地域品質」を決めるものになるだろう.

地域包括ケア病床創設の目的

著者: 丹藤昌治

ページ範囲:P.18 - P.22

●地域包括ケア病床は,急性期後の受け入れをはじめとする地域包括ケアシステムを支える病床である.
●診療報酬上の評価である「地域包括ケア病棟入院料」や「地域包括ケア入院医療管理料」は,そうした病棟を充実させるために,平成26年度診療報酬改定において,亜急性期入院医療管理料を廃止した上で,新たに導入された評価である.

当院における地域包括ケアシステムへの取り組みと本システムへの思い

著者: 大谷順

ページ範囲:P.23 - P.27

●人口減少と高齢化が進む中山間地域である島根県雲南市を中心とする雲南二次医療圏は,医師・看護師不足にも喘いでいる.地域中核病院である当院は,地域包括ケアシステムを構築すべく機能強化に努めている.
●切り札は地域包括ケア病棟で,これに病診・病病連携強化,総合診療科,チーム医療の充実・強化を加えて高齢者や社会的弱者の多い地域ニーズに応えていく.
●今後は高齢者のみならず総人口減少問題にも直面する当地のような地域では,都市部の高齢者増加対策の切り札という側面がある地域包括ケアシステムが目指す「連携」「機能分担」とは異なる解決策,例えば「選択と集中」による地域完結型の医療提供体制について検討すべきである.

地方の民間病院の立場から地域包括ケア病棟を考える

著者: 神野正博

ページ範囲:P.28 - P.32

●地域包括ケアシステムは病期別の医療と必要に応じた介護,医療サービス履歴と生活習慣や予防対策などの「地域“統合”ケアシステム」こそがその本質である.
●医療と介護に精通し,強いガバナンスを持つ人材育成および情報の共有化が,地域包括ケアシステム構築における重要課題である.
●新設された地域包括ケア病棟では,在宅支援機能の充実が求められる.
●地域包括ケアシステムの確立は「地域の質」に貢献する.

都市部の中小民間病院の立場から地域包括ケア病棟を考える

著者: 猪口雄二

ページ範囲:P.34 - P.38

●「地域包括ケア病床」に先立って全日本病院協会が提唱した「地域一般病棟」および四病院団体協議会が提言した「地域医療・介護支援病院」の考え方があった.
●高齢化が深刻となる都市部における中小民間病院には,急性期後のリハビリテーションを中心とした在宅復帰支援,病状増悪期に対応できる在宅療養支援が可能な“Community Hospital”としての役割が求められる.
●地域包括ケア病棟(病室)は診療報酬上定額方式にしておくと,回復期リハビリテーション病棟の機能と同等になってしまいかねないため,急性期部分の評価により設立趣旨に沿う機能を持たせる必要がある.

慢性期医療の立場から地域包括ケア病棟を考える

著者: 池端幸彦

ページ範囲:P.39 - P.45

●地域包括ケア病棟では,医療と介護を連携・統合して一体的に提供してきていた療養病床に一日の長がある.
●地域包括ケア病棟(病床)取得は病院全体の機構改革と捉えて,病院の生き残りをかけて地域と院内それぞれの循環型連携システムを構築している.
●慢性期中心の地域の中小病院は,地域包括ケア病棟(病床)を核として地域包括ケアシステム推進の一翼を担う使命がある.

地域医療における地域包括ケア病床の役割と課題

著者: 鈴木邦彦

ページ範囲:P.46 - P.53

●地域包括ケア病棟は,中小病院において平成26年度診療報酬改定に先駆けた入院医療についての議論の過程で提出された「日本医師会・四病院団体協議会合同提言」の「病院類型3」に,「四病院団体協議会 追加提言」で示された地域包括ケア支援機能が追加された「地域医療・介護支援病院」へ発展させることが考えられる.
●世界に類を見ない超高齢社会を乗り切るためには,在宅か施設かではなく,既存資源を利用して在宅も施設も活用する日本型の高齢者ケアシステムの構築が必要である.

地域包括ケア病棟は機能するのか

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.54 - P.60

●高度高齢化の進行は医療と介護の複合的サービスを必要とする高齢者を増大させ,入院と在宅の区分をあいまいにしていくことから,介護側のみならず医療側からも地域包括ケア体制構築への働きかけが求められている.
●地域包括ケア病棟が担うべき役割やサービス提供のあり方は地域ごとに異なるものにならざるを得ない.「ご当地医療」実現のためには運用に関しても制度的な柔軟性が必要である.

対談

地域包括ケア病棟への期待

著者: 安藤高朗 ,   松田晋哉

ページ範囲:P.1 - P.4

2025年まであと10年.地域包括ケアシステムの象徴として創設された地域包括ケア病床に求められる役割とは何か,将来的にはどのように発展することが期待されるのかを探る.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・1【新連載】

公益財団法人日本心臓血圧研究振興会附属 榊原記念病院

著者: 中山茂樹

ページ範囲:P.8 - P.13

■病院紹介
 循環器医学の進歩を牽引するために設立された日本心臓血圧研究振興会は1977年,渋谷区代々木に榊原仟博士によって臨床研究施設として,循環器専門の附属病院を設立した.これが榊原記念病院のスタートである.開院以来,循環器の専門病院として広くその名声は響き,大きな成果を挙げて社会から高い信頼と評価を得てきたが,施設の老朽化と狭隘さが目立ち,建替えを検討せざるを得なくなっていた.
 一方,府中市は地域医療の充実を図るため調布基地跡地を利用して病院誘致の計画があった.候補病院のひとつとして榊原記念病院があがり,重なる協議の末,1999年に府中市と公益財団法人日本心臓血圧研究振興会が附属榊原記念病院を調布基地跡地に建設することについて基本協定を締結し,2003年12月,循環器医療と救急医療を主とした地域支援型循環器専門病院として開設することになった1, 2)

Data mania・1【新連載】

患者調査

著者: 小松大介

ページ範囲:P.14 - P.15

厚生労働省をはじめ公的機関が公開しているデータに着目し、病院経営に必要なマーケティング・人事・施設計画などの参考になる使い方、見方をご紹介していきます。

事例から探る地域医療再生のカギ・1【新連載】

沖縄県立6病院の医療再生

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.70 - P.75

連載を始めるにあたって
 2004年の新医師臨床研修制度の導入以降,地方の地理的条件の悪い中小病院を中心に医師不足が深刻化し「医療崩壊」と報道された.社会問題となった医師不足問題は一段落したようにも見えるが,医師の都市への偏在・診療科の偏在の問題は解決されていない.第一次ベビーブーム世代(いわゆる「団塊の世代」)が後期高齢者となる2025年に向けて医療需要が増大することが予想され,医療資源の不足が社会問題となる可能性が高い.
 2014年6月,国会で医療・介護総合推進法が成立した.地域における効率的かつ効果的な医療提供体制の確保を目指すため,同年10月からは医療機関が都道府県知事に病床の医療機能等を報告する制度も稼働し始めた.都道府県は,それをもとに地域医療構想(ビジョン)を策定することを求められている.病院の機能再編が積極的に推進される中で,いかに地域に医療を残していくか,自院が生き残っていくか,医療関係者にとって正念場を迎えている.
 本連載は,全国の地域医療再生や経営変革に成功した病院の事例を紹介することにより,変化の時代に地域や病院にとって何が必要となるのかについて探ることを目的とする.わが国の地域医療再生に少しでも貢献できるような連載を目指したい.

医療の可視化と病院経営・1【新連載】

連載の目的と概要

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.76 - P.81

■1 なぜ医療の可視化が重要なのか
 少子高齢化の進行と低経済成長の持続により,社会保障財政の将来に対する不安が高まっている.他方で,医療技術の進歩は著しく,分子標的薬やハイブリッド手術室など,新しくそして高額な医療技術が日常診療の場に次々と導入され,医療の高額化も進んでいる.医療保険は本来短期保険であり,したがって年度で収支が均衡するように運営するのが原則である.しかしながら,わが国の医療財政の40%は税金であり,しかも,その財源の大部分は実質的に赤字国債に頼っている.国債は国民が国に貸しているお金であり,これは国民の財産であるという議論もあるが1),借金で現在の医療を賄うのはやはりおかしい.
 医療に関しては効率化が必要であるという.多重受診や多すぎる検査や投薬の事例など,現在の医療に効率化する余地があることは否定できないが,多くの急性期医療の現場を見ていると,医療は過少投資であると考えざるを得ない.人が足りないのである.医療に対する世の中の一般的な認識と医療現場が抱く認識の不幸な違いを解消しない限り,医療システムを適正化することは難しい.

病院経営に効く1冊・1【新連載】

『How Google Works』

著者: 神野正博

ページ範囲:P.83 - P.83

2000年のことである.私どもの法人は,基幹である総合病院の増改築と同時に隣接医療圏で新規に療養型病院143床を開設した.総合病院の増改築に当たって機能分化を睨み1病棟48床を急性期一般病床から療養病床に転換した.当然のことながら,両病院ともに療養病床として,看護師配置,看護補助者配置などの診療体制を同じくした.転換した総合病院では,職員の不満は大きく,また業績も振るわない.一方,ほとんどの医師も看護師も新規採用である新設病院では順調な滑り出しとなった.
 そんな折,今や古典的名著となったクレイトン・クリステンセンの『イノベーションのジレンマ—技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(翔泳社)に出会った.イノベーションは成功体験に満ちた既存の組織で行う場合には抵抗が大きく,新たな組織で行う方がうまくいくと教えられた.

座談会

よい病院はどうあるべきか

著者: 井伊雅子 ,   伊関友伸 ,   今村英仁 ,   神野正博 ,   松田晋哉 ,   山田隆司

ページ範囲:P.62 - P.67

本誌『病院』は創刊時の編集方針*1「よい病院はどうあるべきかを研究する雑誌」に立ち返り,2015年1月号より「地域医療計画/地域医療ビジョン」という年間テーマを設定し,誌面をリニューアルした.
現編集委員6名が考える「よい病院」とは何かを語ることを通して,病院の今後の姿を展望する.

BOOK Review

書評『自治体病院の歴史─住民医療の歩みとこれから』

著者: 佐藤元美

ページ範囲:P.69 - P.69

 ご自身が自治体病院に勤務した経験があり,その後,長く自治体病院に関して研究を重ね,発言をしてこられた伊関友伸先生が本をまとめられた.大著である.710頁もある.明治期以来の自治体病院に関するおびただしい文献をもとに,歴史が述べられている.なかなか読破するのは大変だと心配したが,随所に自治体病院のその後を大きく変えるエピソードが活写され,また,著者の現在の視点から,その時々の政策について評価が記されていて読み物としての面白さがあり,最後まで一気に読み通してしまった.
 自治体病院を動かしてきたものは,公的に残された記録からは運営する自治体の財政力と政治力である.それは今でも厳然としてそうだと思う.そのうえで著者の自治体病院への期待と批判が熱く述べられている.

--------------------

Back Number

ページ範囲:P.84 - P.84

Information

ページ範囲:P.85 - P.85

経営者のためのM&Aセミナー
全国8会場で開催
主催■株式会社日本M&Aセンター
プログラム■「友好的M&Aによる企業譲渡の体験発表」吉田潤司,吉田敦子(株式会社セントラルビルサービス)/「中小企業M&A成功のノウハウ」三宅卓(株式会社日本M&Aセンター)
日程・会場■2月12日(木):名古屋マリオットアソシアホテル/2月18日(水):ヒルトン大阪/2月20日(金)横浜ベイシェラトンホテル&タワーズ/2月24日(火)西鉄グランドホテル/2月25日(水)ホテルグランヴィア岡山/3月3日(火)東京国際フォーラム/3月4日(水)ホテルオークラ神戸/3月14日(木)ホテルメトロポリタン仙台

投稿規定

ページ範囲:P.86 - P.87

次号予告

ページ範囲:P.88 - P.88

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?