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文献詳細

雑誌文献

病院74巻10号

2015年10月発行

文献概要

連載 医療の可視化と病院経営・10

地域医療構想の目的の再確認

著者: 松田晋哉1

所属機関: 1産業医科大学医学部公衆衛生学教室

ページ範囲:P.756 - P.760

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■はじめに
 2015年6月に厚生労働省から地域医療構想策定のためのツールが提供され,7月,8月と2回にわたり都道府県および医師会関係者を対象としたツールの使用方法に関する説明会が開催された.これを機に,各都道府県で地域医療構想の策定に向けた具体的な検討会が開始されている.6月15日に公開された病床機能別病床数の推計結果の基礎となったツールを用いた二次医療圏(構想区域)別の病床数推計などの資料がすでに議論の場に提出されており,都道府県側の関係者の間では,そうした数字を出すことで年内には地域医療構想の策定が終わるのではないかという楽観的な見方もあると聞く.しかしながら,地域医療構想の策定に関しては,その前提となる2025年,2040年の傷病構造に関する共通認識が不可欠である.そして,それに対応した医療提供体制をどのように整備していくかを,当該地域の医療機関自らが考え,そして実行に移していくことが今回の構想の特徴である.こうした難しい作業を短期間で行うことは不可能であり,数年のスパンで考えるべきものであるだろう.地域医療介護総合確保基金の活用に関しても,こうした中期的過程に対応したものであることが望ましい.例えば,地域医療計画を医療提供体制改革に活用しているフランスでは地方医療庁と個別の医療機関が複数年契約を結ぶことで後者が中期的に構造転換を行うことを可能にしている.
 地域医療構想は策定することが目的ではない.それは手段であり,行動計画になっていなければ意味がない.行動計画であるためには,地域医療構想に記載された内容が当該地域の個別の医療機関にとって経営方針を考えるための指針になっていることが求められる.構想策定の事務局機能を担う都道府県関係者は,これまでの地域医療計画がなぜ十分に機能しなかったのかを改めて検討する必要がある.
 地域医療構想の本来の目的は病床を削減することではなく,2025年の傷病構造および医療・介護を担う人材の状況を考慮した上で,各地域の住民の安心を保証するための医療介護提供体制を構想することである.低経済成長下の少子高齢化という厳しい現実を踏まえて,各地域の医療をどのように保証していけばよいのかということを,医療関係者が主体となって構想していくというのが今回の事業の大きなポイントである.また,地域医療構想の策定プロセスは,医療の現状を関係者に理解してもらい,医療に対して適切な理解とファイナンスを獲得していくための絶好の機会であると筆者は考えている.その意味でもデータを開示し,そしてオープンな議論が行われなければならない.
 本稿では,地域医療構想の意義と考え方について改めて論考してみたい.

参考文献

1)済生会:ハイリスク在宅高齢者に対するケアマネジメント手法の開発に関する調査研究報告書,2001
2)松田晋哉,片山 壽:地域包括ケアをどのように具体化するのか─イギリスのClinical commission group,フランスの保健ネットワークRéseau de la santé,日本の尾道市医師会モデルとの比較から.社会保険旬報No.2525:10-16, 2013
3)広井良典:コミュニティを問いなおす─つながり・都市・日本社会の未来,筑摩書房,2009
4)Matsuda S, Tanaka M:Why does the Japanese Frail Aged Prefer to Stay inthe Long Term Care Wards? Asian Pac J Dis Manage 4:41-48, 2010
5)Great Britain. Department for Work and Pensions:Improving health and work:changing lives:the Government's response to Dame Carol Black's review of the health of Britain's working age population. The Stationery Office(TSO), Norwich, 2008
6)藤野善久,久保達彦,村松圭司,他:英国における就業支援制度-Statement of Fitness for Work-導入の背景と運用に関する調査報告.J UOEH 35:291-297,2013
7)清家 篤,山田篤裕:高齢者就業の経済学.日本経済新聞社,2004
8)厚生労働省:http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201010/(平成27年6月30日閲覧)
9)福岡県メディカルセンター:福岡県有床医療施設 従業員調査 報告書,2015
10)産業医科大学公衆衛生学教室:https://sites.google.com/site/pmchuoeh/
11)松田晋哉:地域医療構想をどう策定するか.医学書院,2015(印刷中)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1383

印刷版ISSN:0385-2377

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