文献詳細
連載 医療・病院をめぐる文献ガイド・1【新連載】
文献概要
■医療経済学領域の動向
日本の医療分野は,複雑な規制と制度が現場をしばっているというイメージがあり,昨今の医療制度改革の議論では,「市場原理を導入すれば効率化できる」という主張をよく聞く.しかし,日本の医療サービスの提供の場面では,通常,患者と医師の間には知識面でも大きな情報格差があることも相まって,多くの患者はより高価なあるいはより多くの検査や治療ほど質が高い,と評価してしまいがちだ.日本の医療は過度に商業化されつつあり,医学知識のない一般の人々が,新薬や画像検査,手術などの高価な診療や健康食品などを過剰に利用する傾向にある.安易な民間活力の導入だけでは,過度な商業主義による医療費の高騰化など深刻な問題を引き起こしかねない.
このような医療問題を医療経済学の視点で分析している文献として,井伊雅子「医療の在り方を経済学で模索する」1)や井伊雅子・関本美穂「日本のプライマリ・ケア制度の特徴と問題点」2)がある.筆者が責任編集をつとめた『フィナンシャル・レビュー』123号の特集「地域医療・介護の費用対効果分析に向けて」3)は,全文がインターネットからも入手できるので序文だけでもぜひ読んでほしい.
日本の医療分野は,複雑な規制と制度が現場をしばっているというイメージがあり,昨今の医療制度改革の議論では,「市場原理を導入すれば効率化できる」という主張をよく聞く.しかし,日本の医療サービスの提供の場面では,通常,患者と医師の間には知識面でも大きな情報格差があることも相まって,多くの患者はより高価なあるいはより多くの検査や治療ほど質が高い,と評価してしまいがちだ.日本の医療は過度に商業化されつつあり,医学知識のない一般の人々が,新薬や画像検査,手術などの高価な診療や健康食品などを過剰に利用する傾向にある.安易な民間活力の導入だけでは,過度な商業主義による医療費の高騰化など深刻な問題を引き起こしかねない.
このような医療問題を医療経済学の視点で分析している文献として,井伊雅子「医療の在り方を経済学で模索する」1)や井伊雅子・関本美穂「日本のプライマリ・ケア制度の特徴と問題点」2)がある.筆者が責任編集をつとめた『フィナンシャル・レビュー』123号の特集「地域医療・介護の費用対効果分析に向けて」3)は,全文がインターネットからも入手できるので序文だけでもぜひ読んでほしい.
参考文献
1)井伊雅子:医療の在り方を経済学で模索する.日本経済新聞社(編):身近な疑問が解ける経済学.pp117-136,日本経済新聞社,2014
2)井伊雅子・関本美穂:日本のプライマリ・ケア制度の特徴と問題点.フィナンシャル・レビュー 123:6-63,2015
3)井伊雅子(責任編集):特集 地域医療・介護の費用対効果分析に向けて.フィナンシャル・レビュー 123,2015 http://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list7/fr123.htm
4)池上直己:医療・介護問題を読み解く.日本経済新聞社,2014
5)河口洋行:医療の経済学,第2版.日本評論社,2012
6)橋本英樹・泉田信行(編):医療経済学講義.東京大学出版会,2011
7)西沢和彦:「総保健医療支出」推計の問題点.フィナンシャル・レビュー 123:163-187,2015
8)宇井貴志:協力の科学としての経済学─ゲーム理論への誘い.一橋大学経済学部(編):教養としての経済学.有斐閣,pp118-128,2013
9)八田達夫:ミクロ経済学Ⅰ.東洋経済新報社,2008
10)八田達夫:ミクロ経済学Ⅱ.東洋経済新報社,2009
11)神取道宏:ミクロ経済学の力.日本評論社,2014
12)デヴィッド・スタックラー&サンジェイ・バス(著),橘明美・臼井美子(訳):経済政策で人は死ぬのか? 草思社,2014
13)アンガス・ディートン(著),松本裕(訳):大脱出─健康,お金,格差の起源.みすず書房,2014
14)井伊雅子:第1章 医療分野の改革について.NIRA研究報告書:社会保障改革しか道はない─2025年度に向けた7つの目標.9-26,2015 http://www.nira.or.jp/pdf/1501report.pdf
15)森信茂樹:税で日本はよみがえる.日本新聞社出版社,2015
16)田中秀明:日本の財政.中公新書,2013
17)山岸俊男:日本の「安心」はなぜ,消えたのか.集英社インターナショナル,2008
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