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雑誌目次

雑誌文献

病院74巻11号

2015年11月発行

雑誌目次

特集 医療の質指標 新時代の幕開け

巻頭言

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.797 - P.797

 2014年11月に公開されたOECDのレポート(Reviews of Health Care Quality JAPAN-Raising Standards-Assessment and Recommendations)では,わが国の医療制度に関して,医療の質評価に関する取り組みが遅れていることが指摘された.実際にはわが国でもすでに医療の質指標を活用する基盤は整いつつある.そこで本特集では臨床指標が今後どのように広がっていき,その結果としてわが国の医療提供体制にどのような影響を及ぼしうるのかについて有識者に論述していただいた.
 わが国において体系的かつ一定の規模を持って医療の質評価事業を行うことを可能にしたのはDPC事業である.筆者らの研究班での取り組みなどが契機となって,種々の組織によってDPCデータを活用したベンチマーキング事業が2000年代に広がった.そして,この枠組みをさらに一般化したのが厚生労働省医政局の「医療の質の評価・公表等推進事業」である.伏見論文で詳細に説明されているように,国立病院機構がDPCおよびレセプトデータを活用して作成した一連の指標群が,他の組織,例えば済生会(田﨑論文)などでも採用され,わが国の急性期入院医療の質評価におけるde facto standardとなっている.もちろんこうした指標開発の背景には,小林論文で紹介されているような諸外国の動向の詳細な検討が行われている.

医療の質指標と「医療の質の評価・公表等推進事業」について

著者: 松本晴樹

ページ範囲:P.798 - P.801

●近年,患者の最適な医療機関選択に資するよう,医療の質情報を積極的に公表すべきとの意見がある.一方,情報の非対称性や指標の技術的課題等を鑑みた慎重な意見もある.こうした状況を踏まえ,「医療の質の評価・公表等推進事業」を実施している.
●今後,これまでに実施された事業の成果を踏まえながら,引き続き,指標の客観性や公表性の確保,国民・患者にとって分かりやすい公表方法の具体的な検討等を推進していく.

欧米における医療の質指標の動向

著者: 小林美亜 ,   藤田伸輔

ページ範囲:P.802 - P.807

●医療の質保証を図る前提として,医療の質評価を行う仕組みが必要であり,そのための手段として臨床指標が活用されている.
●米国では,近年,臨床指標によって計測された成果が報酬やペナルティと結びつく制度が導入されている.
●欧州では,プライマリ・ケア領域における質評価が進んでおり,病院とプライマリ・ケア領域の診療を統合し,医療の質に係る分析が試み始められている.

わが国における医療の質指標導入の意義について—国立病院機構の取り組みを中心に

著者: 伏見清秀

ページ範囲:P.808 - P.811

●質評価指標の計測は自院の医療を見直すきっかけになる.
●可視化を基にPDCAを動かし,質の継続的改善とマネジメント改革へつなげることができる.
●クオリティマネージャー人材養成のキーは,医療データ分析能力である.

済生会における質指標活用による医療の質向上への取り組み

著者: 田﨑年晃 ,   副島秀久

ページ範囲:P.812 - P.817

●医療情報の標準化の進展により,施設内外での診療の相対評価が容易となった.
●医療の質指標の測定と開示の目的は,質の向上である.医療の質や患者安全を向上するためのPDCAサイクルのツールとして,質指標の活用が期待される.
●各施設にて,医療の質や経営改善のためのデータが活用できる人材の育成が急務である.

回復期リハビリテーション病棟における医療の質向上の取り組み

著者: 園田茂

ページ範囲:P.818 - P.823

●回復期リハビリテーション病棟の診療報酬制度にはアウトカム指標が導入されている.
●回復期リハビリテーション病棟協会では毎年実態調査を行っており,ベンチマークとしての利用価値がある.個々の病棟別の情報公開も開始された.
●質向上のためにはフィードバックが必要であり,FIM効率などが有用と考えられるが,結果の解釈において誤解を招く危険性もある.

慢性期病院における医療の質向上への取り組み

著者: 矢野諭

ページ範囲:P.824 - P.828

●2012年度「医療の質の向上・評価公表等推進事業」調査結果から明らかになった慢性期病院における質評価の問題点を分析した.
●日本慢性期医療協会は,独自に策定した慢性期医療のClinical Indicatorを用いた「慢性期医療認定病院認定審査」に代表される質の向上に向けた数多くの取り組みを実践してきた.
●今後は「地域包括ケア病棟」におけるClinical Indicatorの導入をめざしており,DPCデータをいかに活用するかが課題となる.

DPC制度の活用による医療の質評価

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.829 - P.834

●医療の質への関心が高まっている.
●DPC制度では研究当初から医療の質指標作成の検討を行ってきた.
●厚生労働省医政局による医療の質の評価・公表等推進事業に関連して,多くの病院団体がDPCデータをもとに質指標の作成と公開を行っている.

対談

医療の質指標は何をもたらすか

著者: 桐野髙明 ,   松田晋哉

ページ範囲:P.781 - P.786

わが国の医療の質は国際的に見ても悪くない.
しかし,それを証明するデータがまだまだ少ない.
早くから医療の質指標を開発・測定してきた国立病院機構の事業を中心に,わが国の質評価指標の現状と展望を語る.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・11

医療福祉建築賞2014

著者: 井上由起子

ページ範囲:P.788 - P.793

■はじめに:医療福祉建築賞とは
 医療福祉建築賞は一般社団法人日本医療福祉建築協会が主催する顕彰事業で,1991年に創設され今年で25回目を迎える.近年竣工した医療福祉施設を対象に広くエントリーを募り,厳正な審査のうえ,優秀と認められたもの数点に賞を授与する.これまでに129の施設が受賞している1)
 優れた医療福祉建築とは何か.本賞ではデザインとして質が高いことに加えて,利用者ならびに職員にとって快適で使い勝手がよいことを条件としている.企画・設計・運営いずれにおいても優れ,中身と器が調和していることに重きを置いていると考えていただければよい.書類審査を通過すると,選考委員が現地に赴き,建物整備にどれだけ主体的に関与されたか,医療や福祉の向上につながる運営や実践を実現できているかなどをヒアリングする.このヒアリングを効果的に行うため,選考委員の専門分野は多岐にわたる.2013年度と2014年度は福祉分野を専門とする筆者が委員長を務めたこともあり,経験豊富な病院関係者を委員に迎えた.委員は竹宮健司(都立大学),竹村和晃(戸田建設),寺崎仁(横浜市立大学附属市民総合医療センター),二井清治(二井清治建築研究所),松岡博(横浜南共済病院),横井郁子(東邦大学)と筆者の7名である(肩書はいずれも当時).
 2014年度は32点の応募があり,7点が現地審査に進んだ.審議の結果,神戸市立医療センター中央市民病院,至誠大地の家(児童養護施設),コレクティブハウス アクラスタウン(住宅型有料老人ホーム)が建築賞を,中東遠総合医療センターが準賞を受賞した.以下,病院の2作品を中心に概要を記す.

Data mania・11

病院経営管理指標

著者: 堀越建

ページ範囲:P.794 - P.795

調査概要
 「病院経営管理指標」は,病院の健全な運営に資する経営管理の指標を作成するための基礎資料を得ることを目的として,毎年実施されている調査です.平成15年以前は「病院経営指標(医療法人)」「病院経営収支調査年報(公的医療機関及び社会保険関係団体)」「主要公的医療機関の状況(日赤,済生会等)」と別々に集計されていましたが,平成16年から「病院経営管理指標」としてまとめられました.調査は主に民間事業者に委託されており,その報告書はインターネットで閲覧できます.
 調査内容は,財務票と施設票があり,財務票は貸借対照表および損益計算書の調査,施設票は施設の概況,従事者の状況,患者数の状況,医薬分業の状況,連携の状況などです.調査対象先は,医療法人,公的医療機関及び社会保険関係団体病院の開設する病院(主要公的医療機関である日赤,済生会も含む)です.

医療・病院をめぐる文献ガイド・2

プライマリ・ケア領域を知る文献

著者: 葛西龍樹

ページ範囲:P.842 - P.845

■プライマリ・ケア領域の動向
 日本の病院経営者にプライマリ・ケアについて理解を深めてほしい理由は2つある.第1に,多くの国々における保健医療制度改革の例が示しているように,限られた財源の中で,安心できる暮らしの基本となる国民の健康を安全に守るためには,プライマリ・ケアの整備が必須だからである.第2には,2017年度から国を挙げて取り組まれる新専門医制度である.19ある基本領域専門医の1つとして加えられた「総合診療専門医」という名称の専門医が果たすべき役割,それは「プライマリ・ケアの専門医」なのである.
 プライマリ・ケアの専門医の本格的な養成については,日本では筆者も関わって1996年に設立された北海道家庭医療学センターが翌1997年から開始した家庭医療学専門医コースを起源とするが,それを全国的に広げる努力がなされ,2009年から旧・日本家庭医療学会が,学会として3年間の家庭医療後期研修プログラムの修了者に試験を課して,その合格者を家庭医療専門医として認定する制度を開始した.会員歴や試験のみではなく,専門研修の修了を専門医試験の受験資格にした制度は,日本の医学会の中でも先駆的な取り組みだった.2010年に関連3学会が合併して日本プライマリ・ケア連合学会が設立され,2011年から旧・日本家庭医療学会の制度を引き継ぐ形で,家庭医療後期研修と専門医試験によって家庭医療専門医を認定する制度を運営して現在に至っている.

医療の可視化と病院経営・11

病床機能転換の考え方

著者: 松田晋哉

ページ範囲:P.847 - P.850

■はじめに
 地域医療構想策定のための種々のデータおよび推計ツールの提供,そして国立保健医療科学院における研修や厚生労働省による都道府県の担当者に対する説明会の開催などにより,各都道府県で構想策定のための動きが加速している.すでに東京都や茨城県などでは,構想区域ごとの機能別病床数の参考資料提示なども行われている.
 この過程で,都道府県の実務レベルでは病床機能別病床数の考え方が大きな課題となりつつある.地域医療構想策定ガイドラインには今回の推計ツールの考え方とそれに対応した計算式が提示されており,厚生労働省の説明では,地域医療構想に明記する病床数はこのツールから求められるものであるとされている.平成27(2015)年6月12日(専門調査委員会からの正式発表は6月15日)に公表された資料では,2025年の必要病床数は115〜119万床となっている.各種マスメディアはこれを受けて,「2025年に向けて20万床削減が目標」と報じたが,その直後に厚生労働省からは「目標ではなく推計値」との課長通知が各都道府県に出された.しかしながら,数字としては推計ツールから導き出されるものが地域医療構想には記載されるが,それは目標ではないという説明はわかりにくく,現場でも戸惑いの声が上がっている.
 各省庁間の力学の中で,地域医療構想に記載される各構想区域の機能別病床数は,現在の医療計画における基準病床数のような位置づけになるのかもしれない.病床転換に関して強制力がない以上,このような解釈となるのは仕方ないともいえるが,他方で今回の地域医療構想がこれまでの医療計画のような実効性の薄いものになってしまうことは避けなければならない.なぜならば,人口構造・傷病構造の変化とそれを支える社会経済基盤の変化がそれを許さないからである.
 需要に提供体制が合わなければ,それは医療機関の経営基盤を直撃する.民間医療機関に提供体制の大部分を依拠しているわが国の場合,その経営の健全化を担保することが,適切な医療提供体制を構築していくためには不可欠である.したがって,病床推計ツールのみではなく,今回国から提供されている他のデータについても各地域の関係者に広く周知される必要がある.詭弁を弄するわけではないが,推計値と現状とのギャップを踏まえつつ,その妥当性を検証し,そして必要な修正を加えながら将来のあるべき姿に関する合意を各地域で得た上で,個別の医療機関が将来を見据えて必要な機能転換を行っていく体制づくりが求められているのである.
 適切な構想策定のためには,今回の機能別病床数推計の基となった仮定および推計方法の十分な理解が全ての議論の前提となる.そのような理解なしで都道府県側が一方的に構想区域ごとの機能別病床数を提示するようなことになれば,医療提供側の感情的反発を買うだけで,必要な病床機能の再編成は進まないであろう.その意味でも,本連載の第9回で説明した推計ロジックの内容をその限界も含めて関係者に理解していただく必要がある1).数字が独り歩きしてしまうことは適切ではない.本稿では,上記のような問題意識に基づいて,改めて機能別病床数の再編の考え方について私見を述べてみたい.

事例から探る地域医療再生のカギ・6

公立黒川病院の医療再生

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.852 - P.857

■何が問題だったのか
①新病院建築費を契機とした医療崩壊
 2004(平成16)年6月,大手新聞社の首都圏版に「公立病院譲渡のお知らせ」の見出しとともに1つの広告が掲載された.広告主は,宮城県大和町・大郷町・富谷町・大衡村の4つの自治体により構成する黒川地域行政組合.組合が運営している公立黒川病院(当時110床)の譲渡を広告するものであった.当時は,自治体病院の経営崩壊が相次ぐ前であったので,公立黒川病院の譲渡広告は病院関係者の注目を集めた.
 黒川病院の前身は,1947(昭和22)年に開設された「宮城県農業会黒川病院」で,1956(昭和31)年には黒川郡内4町村による病院組合に移管された.1964(昭和39)年4月には110床の病院に全面改装され,地域の中核病院としてその役割を果たしていた.

地域医療構想と〈くらし〉のゆくえ・8

社会の矛盾は「病院」へと持ち込まれている

著者: 髙山義浩

ページ範囲:P.858 - P.859

 数年前の話ですが,医療刑務所から転院してきたエイズ患者さんを担当したことがありました.なんとか退院できる状態にまで回復しましたが,精神疾患も背景にあって,自立した生活は困難と思われました.そこで,母親のいる実家へとお戻ししたのでした.
 ただ,果たして生活は続けられているのか……,どうも気になって仕方がなかったので,病棟での業務を終えたあと,一緒に担当した研修医と訪問してみることにしました.介護保険を導入できる年齢ならば,ケアマネージャーに確認することもできますが,40代という年齢では,予約した外来日までがブラックボックスになってしまいます.結局,受診してこなかったり,連絡してもつながらなかったり,そうして途絶えてしまう患者さんも少なくありません.

特別記事

地域医療連携を支える病院事務職研修—参加者が設計者となって創り上げるワークショップの試み

著者: 伊藤健一 ,   青野真弓 ,   市川雅人 ,   渡辺明良 ,   佐治浩功 ,   柴田哲宏 ,   中川幹浩 ,   西部暁美 ,   渡辺博之 ,   渡邉幸成

ページ範囲:P.836 - P.840

■なぜいま病院事務職の育成が重要なのか
 日本が未曽有の少子高齢社会に向かう中で,社会保障費の伸びを抑えることはまさに国是となっている.診療報酬からの増収が以前のようには期待できない状況で,前例踏襲の経営の考え方では病院存続さえも危うくなってきていることは明白である.また,将来を見すえた地域医療構想の策定が進められ,病院は自院の位置づけを二次医療圏内でのみ比較評価するだけでなく,現在から未来への時間軸での病院経営を考える時代になったことを理解しなければならない.厚生労働省の医療施策を吟味し,他院と比較しつつ地域全体を意識することと,自院の組織を内外に対して将来の変化に対応できるように強化することが生き残るための必要条件である.
 公立病院は病院事務を専門としない職員が大半を占める体制で,常に本庁を向いて仕事をしており,病院の経営方略を論ずるには程遠いものとなっている.病院の生き残りをかけた再編成が叫ばれているときにこれでよいはずはない.また,大病院には院内研修の余裕はあっても,中小病院にはその余裕がない.JA厚生連や日本赤十字社のような全国組織もグループ内で次世代の事務職員の育成研修を始めたと聞いている.そのような団体を上位に持たない病院の事務職員研修をどうすればよいのか,病院幹部は頭を悩ませていると思う.

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Book Review 地域医療構想をどう策定するか

著者: 伊関友伸

ページ範囲:P.846 - P.846

Back Number

ページ範囲:P.861 - P.861

Information

ページ範囲:P.863 - P.863

次号予告

ページ範囲:P.866 - P.866

基本情報

病院

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1383

印刷版ISSN 0385-2377

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